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第七章「奴苦獣狩り」

 (みん)がひなに尋ねる。

「ひなちゃん、ここは板橋なのよね、大正時代の。でも『(うら)』って何なの? どうしてひなちゃん以外、誰も人間がいないの? ひなちゃんはここで何をしているの?」

「質問がたくさんですね。お答えしたいんですが、その前に『仕事』を片付けなきゃ」

「仕事? あたしにできることがあれば何でも手伝うよ」

「ありがとうございます」と、ひなは頭を下げる。

「裏にも電灯はあるけれど、電気が来てないんです。だから、活動できるのはお日さまが出ている明るいうち。日が暮れる前に仕事を済ませて、表に引き上げなきゃいけません。行きましょう」


 ひなが明と向かった先は、街道からちょっと外れた空き地だった。野球場くらいの、かなりの広さだ。雑草が生えるままになっている。

「明治十七年に大火事があって、板橋宿(いたばししゅく)全体が焼けてしまったんです。今から三十八年前です。その後、街道筋は復興したんですが、火伏(ひぶ)()として、あえて空き地のままにしているところも残っていて、ここもその一つです。元々は加賀藩(かがはん)下屋敷(しもやしき)の一部だったそうです」

 と、ひなが説明する。

 上空に小さな黒い鳥のようなものがいくつも羽ばたいている。その動きは鳥というより、コウモリのようだ。

「あれが奴苦獣(どくじゅう)です」

 ひなが指差す。

「コウモリ型のDQ獣(どきゅじゅう)ってのは初めて見ます。ウェイト的にはラット級? 数は二十、いえ三十匹? ちょっと多いんじゃない」と、明。

「大丈夫です、明さん。わたしも飛べますから。飛ぶには、ここみたいな広い場所が必要なんですが。それでは、始めますよ」

 ひなは合掌して精神を集中する。その身体(からだ)の周囲につむじ風が生じる。ひなは帯に差していた(おうぎ)二本を両手に抜き取ってリンガ・ビブリアを唱える。

「うぇんた!」

 つむじ風がごおっと音を立てる。

 ひなは両手の扇を開き、とん、と両足で地面を踏みつけてジャンプする。次の瞬間、すさまじい風に、ひなの小さな身体が空宙高く吹き飛ばされる。竜巻に巻き込まれたら、かくのごときかと思わせる姿だ。

「ひなちゃん!」

 明は思わず声をかけるが、空高く吹き飛ばされたと見えたひなは、くるりと宙返りして頭を下にしたまま、一瞬、静止した。右手の扇をパチンと閉じて、コウモリの一匹にびしっと突きつける。

「ふれちゃ!」

 ひながリンガ・ビブリアで鋭く叫ぶと、扇の先から目には見えない何かが飛び出して、コウモリに命中する。ぱあんと破裂音がして、コウモリが真っ黒な煙に変わる。金属が焼けるような嫌な匂いが立ち込める。

「空気を圧縮して弾丸みたいに撃ち出してるんだ」

 明はウェンタの技である「フレチャ」を理解する。

 ひなはそのまま落下するが、見えないトランポリンに触れたかのように、空宙で反転、頭を上にして急上昇する。右手の扇を開き、両手の扇を翼のようにして、右へ、左へと弾かれるように飛びつつ、扇を開閉させて「フレチャ」を撃ち出し、コウモリどもを次々に黒い煙へと変えていく。

「ピンボールマシンのボールみたいですね。空き地のあちらこちらに、いろんな方向の突風を仕掛けて、それで自分の身体を飛ばしているのか。すごい…。って、あたしも負けてらんないって」

 明は拳銃をホルスターから抜いて、両手で構える。ひなからは十分に距離をとったところを飛んでいるコウモリに狙いをつけて、引き金を絞る。ぱん!と軽い発射音とともに、銃口から赤い光弾が飛び出して、コウモリに命中する。コウモリの全身がぶわっと巨大な炎に包まれて落下する。地上に到達する前に焼き尽くされて消滅する。

「と、パワー強すぎ。もっと細かくして、ショットガンみたいに」

 ぱん!と明が打ち出した二弾目は、スプレーのような散弾になってコウモリ複数匹に命中する。メラメラと燃え上がって墜落するコウモリたち。

 十分もたたないうちに、三十匹近いコウモリ型奴苦獣は、ひなと明、二人の図書委員によって殲滅(せんめつ)されていた。ひなはふわりと地面に降り立つ。扇を閉じて帯に挟み込む。

「明さんのピストル、すごいですね。援軍ありがとうございます」

「ひなちゃんこそ。人間が空飛べるなんて、初めて見たからびっくりしちゃいましたよ」

「それはウェンタの図書委員ですから。飛べる以外、取り柄はありません」

 ひなはにっこりと笑う。

「わたしにできるのはマナの力で風を起こして飛ぶことだけ。それも、ほとんどは独学なんです。もともと体操が好きだったんで、跳び箱や鉄棒で身体を動かすのは得意でした。それを風が助けてくれる、という感じでしょうか」

(謙虚で健気、そして可愛い。嫁にしたい)と明の脳内は暴走しかけている。


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