終章「愛の嵐」
明は目を覚ました。何か、玄関の方で音がしたような。
と、自分が革ツナギのまんまで、ベッドに転がって眠りこけていたのに気がついた。身体も髪も洗っていない。「裏」から戻ってきた、そのまんまで寝てしまったのだ。
「最悪」
と、ぼやきつつ、起き出して自室を出る。玄関に向かう。
そこに立っていたのは、天沢一郎だった。
「一郎さん! 一郎さんじゃないですか。今、アメリカからお帰りになったんですか?」
感激のあまり、声が裏返って悲鳴に近くなる。
でも…と明は気がつく。一郎の様子が何か違う。何て言うか、全体に埃っぽく、汚れている。スーツはよれよれ。何週間も着続けていたようだ。髪も伸びている。それに無精ひげまでも。常日頃、身だしなみに一分の隙もなく、「完璧」の一郎しか見たことのない明にとっては、驚きの姿だ。
(でも、ちょっといいかも。こういうワイルドな一郎さんも)
明は頬を赤らめる。
「あの。ここは、どこですか?」
一郎がつぶやく。
「あなたは、どなたですか?」
「はあ?」
酔っ払ってるのかな、と明は思う。別に酒臭くないけど。だったら、お芝居? 新妻のあたしを一か月近く放置プレイしやがった言い訳とか詫びとかをごまかそうとしての?
どうでもいいや。お芝居なら、あたしもしっかりおつきあいしてあげなきゃ。妻として。
えへん、と明はせきばらいする。
「一郎殿。ここは一郎殿のご自宅でござる。そして拙者は一郎殿の妻、天沢明でござるよ。あらためて、よろしくお願いするでござる」
深々と頭を下げる。
「妻…妻ですか?」と、一郎。
「そう、妻。それも新妻。に・い・づ・ま、ですのよん」
「妻…妻…妻…!」
一郎の両目に何かが宿る。明に駆け寄り、その身体を抱きしめる。
「とと!」
明がたじろぐのを意に介せず、ぶちゅーっとキスする。いつもの軽い「ちゅ」じゃなく、超濃厚なディープキスだ。舌を突っ込んで絡めてくる。
(わわっ! わわわわっ!)
唇をふさがれ、声も出せずに、明の脳裏が沸騰する。
一郎は明の唇を離す。「ぽん」と音がする。次の瞬間、明の身体を横抱きに高々と抱き上げる。「お姫様だっこ」だ。
「あーれー!」
明は悲鳴を上げて一郎の首にしがみつくが、まだ「お芝居」が半分以上残ってる。
一郎はそのままずんずん歩いて、明の部屋に入る。ベッドに明の身体をふわりと横たえる。
「え? え? これって、その」
明がつぶやく間もなく、一郎は明に襲いかかる。明が着ている革ツナギを脱がす。一人で脱ぐにはけっこうめんどくさいのだが、一郎の助けで、たちまちに脱がせられてしまう。その下のTシャツも。さらにブラとショーツも靴下も。明はあっという間に全部剥かれて、一糸まとわぬ、すっぽんぽんのマッパだ。
「うわ、うわわ!」
明が動転している間に、一郎も全裸になる。明の感覚からすると、ほんの数秒。
(「じゅわっ!」とウルトラマンみたいに変身したんか!)と思うくらいの、あっという間。
一郎の股間に隆々とそそり立つ業物に
「うひゃああっ!」
と、明はマジで絶叫する。あの爽やかナイスガイの一郎さんに、こんな凶悪なウェポンが装備されてるなんて。
一郎はベッドの明に抱きついてくる。
「えと、あたし、汗まみれだし、臭いですし、お風呂、いえ、せめてシャワー浴びてから」
明の抗議は無視され、唇から首筋から乳首から脇の下からお股から足の指まで、全身くまなくキスされまくる。汗も匂いも全部舐め取られてしまう。
もう、明には言葉も何もない。
そこからは怒涛。明は一郎の指と舌とで全身の性感帯をくまなく刺激される。処女の緊張も、どこで習ってきたんだかー、の一郎の匠の指技で強制解除。「ああん」と切なく息を吐かされて、お股から力が抜けたところに、つるんと挿入されてしまう。処女喪失なんざ、まんがで言えば、ほんの一コマ。童貞卒業直後とは思えない一郎の、妙にテクニカルで、ねちっこい攻めで、明はアンアンひぃひぃいかされまくる。ポルノ小説だとしても「説得力不足」を担当編集者に指摘されるほど、圧倒的に急速に「開発」され「発展」してしまう。
一郎と明はそのまま三日三晩やりまくった。力尽きるまでまぐわい、泥のように眠り、目覚めてはまたまぐわう。食事は? ほとんど記憶が飛んでいたが、後で明が確認したところによれば、冷蔵庫のキャベツやタマネギやニンジンが生のままかじられていたり、ハムやらソーセージやらチーズやらの保存食が食い散らかされていたり。けだもの二頭が本能のまま、発情期をまっとうしていた様子。
三日目の朝、ようやく正気に戻った一郎に、明が
「すばらしかったですよ」
と言うと、一郎は無言のまま耳まで真っ赤になってシーツに潜ってしまった。
(あの一郎さんが、ですかぁ?)
感動した明もシーツに潜っていって、一郎をサルベージ。
二人で浴室で熱いシャワーを浴びて、互いに洗いっこして全身キレイキレイにする。
新婚の朝食を準備して、二人仲良く召し上がる。
その後、和室に布団を敷き、両者正座で相対してお辞儀した後、あらためて「初夜の儀」をとり行う。朝でも「初夜」。でも「炎の三日間」とはうってかわってガチガチ不器用な一郎だ。
「やはり、明が成人してからにすべきでは」
さんざん考えた挙げ句の、世間一般の常識的「結論」として提案する。
「もう、しちゃいました。というか、やっちまいました。やらかしちまいましたんですよ、あたしたちは」
と、明は一蹴する。
「あれは何かの間違いで、強いて言うなら『犬に噛まれた』とか」
「あたしは『赤毛のドーベルマン』。天下御免の犬キャラです。がうがう。その犬を噛んだのは、どなたですか?」
「いえ、その、それは誤解というか何というか」
「がううう!」と明が一郎に襲いかかる。布団に押し倒してマウントを取る。
「もう何もおっしゃらなくてよろしい。一郎さんはそのまんまおねんねしててください。ここから先は、ずーっとずーっと、あたしのターンですからね、一郎さん(はあと)」
<劇終>




