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愉快な敵地

「こちらが船内の見取り図でス」

 ホールを出た廊下で、ケバットから一枚の船内見取り図を貰ったワッシュ。

「助かる。

 悪いが、あとは部屋に戻るだけだ。

 案内はもう外れて貰っても構わない」

「そうですカ?

 見取り図にもありますガ、他にも娯楽施設や湖を見渡せる展望コーナー等も……」

「セロットが戻ってから行くつもりだ」

「わかりましタ。

 では、ワタクシはこれで案内を終了しますのデ、ゆっくりとおくつろぎくださイ!」

「おう! ありがとなケバット!」

「いえいエ!

 ほんの少しでもお役に立てたのならこのケバット! 嬉しい限りでございまスッ!」

 ケバットは大きく一礼し、背筋をピンと伸ばして言う。

「それでは皆様、またの機会ニッ!」

 ケバットは嬉しそうにしながらワッシュ達の元を離れていく。




 ケバットが離れ、他の人形が周りに居ないことを確認しながらワッシュは呟く。

「予定通り、ではあるが……」

「なんでもやるよなぁ、あいつ」

 縞は肩をすくめる。


「ビホン、つったかあの黒い奴。

 あいつの情報少しでも探ろうとしてわざと喧嘩吹っ掛けてたよなセロット」

「隙を見つけたらあいつは躊躇わない」

 タノスが続ける。

「それよりも、問題はきさらぎだ。」


「ブラックリスト入り……

 しかも"討伐対象"」


 異世界の遥か遠くに位置する、大規模な異世界防衛組織……通称『六館』。

 あらゆる異世界に存在する国、団体、個人と同盟、契約を結び人々の平和を守ることを最優先に動く組織である。

 名目上、ワッシュと縞は"罪人"として六館から贖罪の旅に出ることを言い渡され、その監視役としてセロットがついている。

 ユーラとタノスは六館に与しているわけではないが、セロット達と共に旅をする仲間として同行。


 ワッシュ達は人々を守り、救うため異世界を転々とし続けていた。


 そして全員、六館で密かに追っている危険人物・危険生物のリストを全て記憶している。

 その中に載っていたうちの一人が、鬼真號。

「どうせ他の乗客のついでに敵の情報を引き出そうとしてるんだろ。

 ビホンと俺達の間に割って入ってきたのだって、絶対わざとだぜ?」

「ビホンはここら辺では名が知れているときさらぎが言っていた。

 つまり、きさらぎにとって大して調べる必要も無い人物なのだろう」


「私達が警戒されるのは当然だろうな……知られていたとしても情報量が足りないはずだ」




 客室まで戻ってきたワッシュ達。

「じゃ、俺達は船内を見回ってくる」

「おう、いってらっしゃい」

 ワッシュとユーラは船内の見取り図を持ちながら、部屋に入らず廊下を再び歩き出した。

 縞とタノスは、あらかじめ決めていた通り部屋でワッシュとユーラを待つ。


 部屋の中で武器の手入れをする2人。

「タノス」

「何だ」

「他に知ってそうな顔居たか?」

きさらぎ以外にブラックリスト入りは見てない」

「いや、お前自身の記憶でさ。」

「……」

 タノスは銃を手入れする手を止め、少し考える。

「記憶には無い。

 ただ、チェック柄の2人組が読唇術で会話してたな」

「んー、やっぱ殺し屋の類か?」

「かもな。

 船内にターゲットが紛れてるかも知れない」


「それかもしくは……

 人形側が雇ってる可能性だな」

「まぁありそうだよなぁ」

 ため息をつく縞。

「個々に目的を聞き出すのは厳しそうだけど、少しでも傾向とか性格がわかりゃあな……」

「そこはセロットの仕事だろ。

 今夜あいつが帰ってきた時にはきさらぎの情報がある程度わかるはずだ」

「んで、ワッシュは人形の方だな」



 縞はめんどくさそうな顔をしながら言う。

「正直よ、下からまぁまぁ足音してたからざっと100体以上は居るんじゃねぇか? 人形」

「だろうな」

「全部相手することになるのかと思うとちょっとうんざりしちまうなー」


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 1か月前。


「俺の友人が戻って来なくなって一週間以上経ってる。

 1度目の乗船じゃなんとも無かったんだ。2度目の乗船だったんだよあいつは……」


 ワッシュ達が訪れたとある街で出会った男、タサ。

 街で起こった殺人事件に偶然出くわし、解決したワッシュ達を見た彼は、泣きそうな表情で縋りついてきた。



 人形達が乗る豪華客船、トイヴァー。

 タサの友人、ドーグルは2度目の乗船から姿を現していなかった。

「そこそこ腕の立つ奴なんだよあいつは。

 どんなに遠くに行こうが、約束通り必ず俺との合流地点までいつも戻ってきてたのに……」


「なぁあんたら!!

 俺は間近で見たからわかる……異世界をあちこち巡ったけどあんたら程強い奴らを見たことが無いんだ!

 俺の頼みを聞いてくれないか……っ」


「……タサ、と言ったか」

 ワッシュはようやく口を開いた。

「その船に関すること、お前の友人のこと、全て教えてくれ」


「私達はお前が思ってる以上に……強い」




 街を出たワッシュ達。

 苦い顔をしながら、ワッシュは呟いた。

「トイヴァーに関する行方不明者の情報は……これでもう3人目だ」

「チケットの入手方法もわかってるし、そろそろ行くか?」

 縞がワッシュに聞くと、後ろに居たセロットが声を上げた。


「チケットは今すぐ取りに行こう」

「!」

「んで、最速で乗船して……目的はドーグルや他の行方不明者の安否確認」


「ついでに、トイヴァーと人形全部壊しちゃおう」

 表情を変えず言い放ったセロット。

「トイヴァーが現れたのはここ3年以内の話みたいだ。

 んで、乗船タイミングは1年に3回。

 僕の予想通りなら……そろそろ豪華客船トイヴァーは見納めになる」

「丁度いい具合に人を攫ったら雲隠れ、か」

「前から繰り返してるのかもね。

 攫ってるのか、都合の悪い人間を殺してるのか……」


「はたまた、あっち側にとって都合の良い人間を……"人形"にしてるのか」


「ま、どれだろうと僕らは人間にとって害ある組織を叩くだけさ。

 今回も適当に行ってパパッと終わらせよう!」

 ガッツポーズをして笑うセロット。



 その後、ワッシュ達は各地に点在している人形に接触。

 何の問題もなく、高額なチケットを購入し……それから約1ヶ月後の乗船が決まった。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「結構な額払ったよな……チケット」

「ああ」

 ユーラはチケットの値段を思い出す。

「俺達は5人も居たから人数分増したんだとは思うが」

「信用イコール金、そんな話をセロットがしていたな。

 高額にすることで乗客の質をふるいにかけて、かつ信用を得るということなのだろう」

「どっちみちこんな船を維持するのには結構金が要りそうな気もするけどな……」

 2人は廊下を歩きながら、誰かとすれ違わない時だけ会話する。


(見取り図には乗客の立ち入り禁止エリアも書いてある。

 その奥に何があるかは何も記載が無い)

 ワッシュは見取り図を見ながら思案する。

(原則、今居る1Fよりも下は立ち入り禁止。

 1Fでさえ立ち入り禁止エリアが少しある……下への階段がどこにも無いということは1Fの立ち入り禁止エリアが下と繋がっているのか?)



「お客様~!

 お食事ならこちらのレストランになっておりますヨ!」

「いや、今はいい」

 通りかかったレストランの前に居る人形から招かれるも、一言で断り廊下を進むワッシュ。



「ドリンクサービスでございまス!」

「さっき飲んだからまた後でな」

「わかりましタ……」

 断りながら歩くユーラに、ほんの少し寂しそうな雰囲気を出す人形。



「移動廃棄箱でース!

 ゴミがありましたら! ここニ!」

 ワッシュの半分程の背丈の人形が、ゴミ箱を持ちながらワッシュとユーラを見上げる。

「今は大丈夫だ」

「そうですカ!

 フフ……捨てたい気持チ、思い出等もありましたラ……それも受け取りますヨ?」

 右目だけを閉じてウィンクする人形。

「いや……いい」

「あラー! 残念ッ!」

 高らかに叫ぶと、小さい人形は別の乗客を探して廊下を去っていった。




(ここは確か……非常用通路だったか)

 廊下で通りかかったドアを開けた時だった。


 ドアの先には、少し奥に更にドア。

 狭い通路の右側には、衣装ダンスのようなものが取り付けられており――


 開いた衣装ダンスは中段だけ仕切りがあり、そこに腰かけている一人の人形が居た。

「!?」

「ん?」

 人形は、扉の開いた音に気付いてワッシュの方を見た。


 丸いクリーム色の、しかしあちこちが角ばっている帽子。

 逆三角形を横に2つ並べたような形の目は黒い木材で出来ている。

 三角形の小さな鼻、下部分だけ凹凸になっているやや笑っているような口。

 丸い輪郭で顎部分が少しだけ細くなっているが、着ている茶色の服は首元にヒモが通っており、少しだけすぼませられているせいか顎の先は隠れていた。


「おい……ドアは開けたら閉めるもんだろ」

 その人形は、だるそうにしながらワッシュとユーラに文句を言った。

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