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珍獣

 ワッシュ達はケバットを先頭に船内を歩く。

 木造とは思えないようなタイル模様の床に敷かれた、赤いカーペット。

 壁には絵画が飾ってあり、備品を収納してある鍵のかかった棚も所々に設置されていた。

 時折すれ違う他の人形は、何かを運んでいたりしながらもワッシュ達と目が合うと軽く会釈してくれた。


「この船は我々のマスター、ノクゥ様と4人のサブマスター様達がお造りになられたのですヨ!

 外観も内装も凄いでショ!? ワタクシは本当に良い仕事を任されていて幸せなんでス!」

 他の人形達にかまわず、ケバットはワッシュ達を先導しながらトイヴァーの素晴らしさについて語り続けている。

「サブマスターって?」

「マスター様の補助を務める方々のことでス。

 ……と言っても、姿はまだ見たことないんですけれどネ」

 縞の質問に、ちょっとだけ肩をすくめるような仕草で答えるケバット。

「正確にハ、どんな姿なのか知らされていないだけなのでス。

 もしかしたらどこかですれ違っているのかも知れないのですガ……いつかはきっとお会いできるはずなのでス!

 ワタクシはまだまだ新参者ですのデ!」

("新参者"?)

 ワッシュは、それを聞き人形の出自に疑問を持つ。

「とーぅ!

 僕のご到着ー!!」

 後ろから走ってきたセロットは、気付けばケバットの横に現れた。

「ワ!!」

「か~ら~の~」


「メインホールへゴー!!」

「ア!?」

 セロットは、進んでいる廊下の先にある大きな扉を目指し走り出す。

「おいセロット!」

 タノスが呼びかけるも、セロットは走るのを止めない。

 大きな扉を目指しながら走るセロットは、通路の左側を走り――



 扉の手前にある通路から出て来た誰かを視認すると、慌ててブレーキをかける。

「おおぅわっ!!」

 しかしブレーキは間に合わず、セロットの頭がコツンとその何者かに当たった。


「……」

 黒いスーツに、ソフトハットを被った黒い顔の男がセロットを睨みつけながら見下ろす。

「わー!

 ご、ごめんねっ」

「この船には珍獣を乗せてもいいという規定があったのかな……? えぇ?」

 ソフトハットの男の後ろから出て来た、真っ黒の顔に頭部から後ろへ垂れ下がる2本の突起物を生やした男が低い声で呟いた。

「お前に聞いているんだ……案内役。」

「ヘ!?

 あ、いエ……そノ……」

 ケバットとは別の、男の側についていた似た格好をした人形が口ごもる。

 男は、ソフトハットを被った2人のボディーガードを連れ、威圧的な雰囲気を放っていた。

「ちょっと!

 人のこと珍獣だなんて失礼じゃないの!?」

 セロットは頬を膨らませながら怒る。

「ビホン様……どうしますか?」

 セロットがぶつかった方のソフトハットの男は、主に問う。

「いい。

 船の外なら命をもって償わせるところだが……船では船のルールに従え。いいな?」

「承知致しました」

「酷いなー。

 僕と会話もしてくれないってワケかな?」


「"リボン"くん」

 セロットは、ビホンを睨みつけながらわざと間違えた名で呼んだ。


 セロットを睨みつけるビホンから、強烈な殺意が放たれる。


 異様な雰囲気を察知して、狼狽えるケバット。

「ちょ、ちょちょちょ……セロットさン……ッ」

「全くセロットの奴は……」

 ユーラはめんどくさそうにしながらセロットの近くまで歩いていき、ワッシュ達も追いついた。

「おーい何やってんだセロット~」

 縞はいつものようにセロットに声をかけ、それに気付いたビホンが縞の方を見た。

「お前達がこいつの保護者か?」

「何?」

「私の名を聞いても何も反応が無いようだが……

 まさか保護者共々、全員世間知らずということはないだろうな?」

 ワッシュ達はビホンの顔を見た後、お互いの顔を見合わせる。

 すると、ソフトハットの男はセロットの顔を指差しながら言う。

「珍獣にも分かるように一度だけ説明してやる。いいな?」


「ビホン様は崇高なるスヴァ王国の王である。

 この近辺でスヴァ王国の名を言えないのは死体だけだ。意味がわかるか?」


「次にビホン様の名を間違えるようなことがあれば……お前も二度と王国の名を呼べなくなる」

「ふ~ん」

 セロットは全く態度を変えない。


 すると、ワッシュが口を開いた。

「なるほど……道理で名を聞いたことがないわけだ」

「?」

 ビホンは眉をひそめ、ワッシュの方を見る。


「確かに最初にぶつかったセロットは悪いが……

 謝罪の言葉が明らかに聞こえていたのにも関わらず大柄な態度のままこちらを見下してくるような者が、一国の王だと言うわけだ」


「知っているか?

 自分の力が広く及んでいると勘違いする奴は"田舎者"……と呼ばれるとかなんとか……」

「貴様……」

 ビホンの拳に力が入る。

 ボディーガード2人の殺意が高まり、ワッシュの方を見て動き出しそうになる。

 一番後ろに居る縞はやや微笑みながら、緩やかに両手の筋肉に力を入れる。

 ワッシュは殺意を放つこともなく、ボディーガードではなくビホンの顔をじっと見つめたままで居た。

 一触即発。

 そう思われた時だった。


「ちょ~っと待った!!

 待った待った待った……何をしようとなさるんですかお二方!!」

 ビホンが現れた通路側から走ってきた、和装の男が両者の間に割って入った。

 やや魚のような顔立ちで、丸い目と小さい口。

 少し太り気味の体系に、上は灰色の和服に緑色の羽織。

 下はこげ茶色の袴を履いていた。

(ん?

 こいつ……)

 両手に入れた力を抜いた縞が、和装の男をじっと見る。

「ほ、ほら!

 船の中で争いごとはご法度ですから! ね!?

 何卒、お二人とも怒りを鎮めて下さいっ! お願いですからっ!」

 懇願する和装の男に、ため息をつき殺意を引っ込めたビホン。

「お前……名前は?」

 セロットを見下しながら言うビホン。

「僕はセロット」

「そうか。」

 ビホンは憎悪を込めた笑みを浮かべながら言う。

「お前の見た目と名前はよく覚えた。今日のところは見逃すとしよう。

 ……行くぞ。フォーゲ、ヴァンス」

 ビホンはワッシュ達には目もくれず歩き出す。

 それについていくボディーガード2人の後を慌てて追う案内役の人形。




 ビホン達が扉の奥へ消えたあと、和装の男は冷や汗を垂らしながらもため息をついた。

「はぁー……

 吃驚しましたよ全くもう……」

「気を遣わせたようだな」

 ワッシュがそう言うと、男はやや怒りながら言う。

「本当ですよ!

 ……いいですか!? あの男は怒らせちゃダメなんです。 何があってもあの男とは問題を起こしちゃいけません」

「国王怒らせたぐらいでどうだってのさ?」

 呑気に言うセロットに、男は顔を近づけながら言う。

「いいですか?

 ディスキラップ・スヴァ・ビホンと言えば、この辺りで有名なスヴァ王国の王なんです。

 軍事力はかなりのものがあり、彼を敵に回した国は生き残ってません」


「しかもですよ?

 裏では禁薬の研究をしててあちこちに売りさばいてるとかなんとか……

 黒い噂も絶えないですし……彼を怒らせた者の町が暗殺集団によって一夜で皆殺しにされた、なんて話も……」

 おどおどしながら喋る男は、恐怖で眉間にしわを寄せていた。

「そっかぁ。

 そりゃ大変だね~」

「ほ、本当にわかってますか!? 事の重大さ!」

「ん~、わかってるよ」


「あいつを相手にしたって、どうせ僕最強だから大丈夫ってことぐらい……ね!」

 胸を張って答えるセロット。

 後ろで小さく舌打ちするタノス。

 男は、セロットに何も伝わっていないことに激しく落ち込んだ。

「そ、そういう問題じゃ……」

「でも、ありがとね。止めてくれて!

 船で快適に過ごしたいのは僕らもだし、もうちょっと大人しくするよ。」

「そ、そうですか!

 是非そうして貰えると助かりますよぉ」

「うん!

 僕はセロット! 君は?」

「あ……先に名乗られてしまいましたね、とほほ……

 私、きさらぎ真號まごうと申します。」

「キサラ、ギ?」

「えぇ、えぇ、そうですとも。

 お互い、平和に豪華客船を楽しみましょう」

「うん!」

 セロットが手を出すと、きさらぎは嬉しそうにセロットの手を握り、握手した。

 その光景をじっと見ているワッシュ。

(……)

「で、では!

 私達もメインホールへ行きましょう!」

 そう言い、メインホールへと歩き出すきさらぎ

「よかっタ……よかっタ……」

 ケバットは、消え入りそうな声で呟きながらもなんとか歩き出した。

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