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マリオネットの行進

 3階で待機するブンダオの仲間。

 立ち入り禁止エリアとなっているフロアに通じる両開きの、人形だけが使うドアが開いたのに気付く。

(来たか)



 ドアから出てきた何体もの赤い人形。

 それぞれが走り出し、無機質な表情のままブンダオの仲間達へ襲い掛かる。

「っ!?」

 一番先頭に居た人形は、男が銃の引き金を引く前にその長い腕を伸ばして銃を掴み――


 その握力で、銃口を握り潰した。


 --------------------


 ブンダオは、ズボンのポケットの内側に取り付けてある小型の機械が2回振動したことに気付いた。

(!)


 振動2回は、仲間からの緊急事態を表すサイン。

(交渉は決裂……か)


(なら仕方が無いな)



 ブンダオは、迷わず右手に持っている小型リモコンのスイッチを押した。





 爆発は、トイヴァーのあらゆる場所で起こらなかった。

 ブンダオの目線の先にある舞台と音楽団も、何も起こらず静まり返っている。


 ブンダオとメインホールに居る一部の者達だけが、船体の僅かな揺れに気付いた。

(これは――)

 直後、メインホールの入口ドアが勢いよく開けられ赤い人形が4体入ってきた。



 予想外の事態が立て続けに起こりかけても尚、ブンダオは冷静さを欠かなかった。

(爆弾は完全に解除されたわけではない)


(水の中か)

 空いていた左手を即座に動かし――


 腰につけた、もうひとつの銃を握り一瞬で照準を合わせた。

("キルシカ"という人形は長いことトイヴァーの顔となっている。

 そんな特別な人形が破壊されたらどうなる?)


(少しでも混乱を呼ぶ。

 想定外の事態は貴様らにも味わって貰わなければならない)


 メインホールに入って来た赤い人形が、次の1歩を踏み出した瞬間。


 ブンダオは、キルシカの頭部を狙って迷わず引き金を引いた。





「ぐおぉっ!!」

 空中で両腕を交差させ、魔力によって弾丸を止めようとしたダビット。

 弾丸は魔力とダビットの身体を突き抜け、軌道を変えながら舞台のやや真上へ飛んでいった。

(何!?)

 床へと落ちて行くダビットの後方。

 キルシカを弾丸から守ろうと、キルシカの身体全てを覆い隠したボイの大きな両手が見えた。


 ダビットがさっきまで居たはずの床には、思い切り床を踏みつけたような亀裂が入っている。

(速いな)

 ユーラは、一瞬にして弾丸を防ぐべく跳んだダビットの動きを眼で捉えていた。

(しかもこの一瞬で的確に弾丸の軌道を読んでそこへ辿り着きやがった)

「チッ!」

 ユーラ達に銃を向けていた男達は、迫ってくる赤い人形達の方を向く。


 セロットが縞の方を振り向き何かを言おうとするよりも早く、ケバットが小声で言った。

「今のうちに避難してくださイ、お客様……!」


 --------------------


 甲板後部で赤い人形と交戦するブンダオの仲間達。

「関節のつなぎ目に当てろ!

 魔力のこもった弾丸でさえ胴体じゃ弾かれるだけだ!!」

 迫り来る赤い人形達の攻撃をかわしながら銃で応戦するも、手ごたえが無い。

(もう2人やられた。

 関節のつなぎ目に当てろったって、普通だったら一発で片足吹っ飛ばせてるはずだろ!?)

 赤い人形の伸びるように長い腕が、銃の射線を邪魔する。

(爆弾が起動していない!

 想定にない種類の人形!

 でも俺達がここでこいつらの足止めをしていれば――)



 思考し続けながら戦う男の目の前に居た赤い人形の真上に、誰かが落ちて来た。


 スキンヘッドの顎が角ばった、身長2mはある巨体の彼は赤い人形の肩に両足で勢いよく着地した。

 両肩に受けた衝撃で膝をつく赤い人形。

 彼は赤い人形の首元に左手で持ったナイフで切りこみを入れると、右の貫手を切りこみの中へ突っ込んだ。

 木材がへし折れ砕ける音がし、突っ込んだ手に力を込めて人形の身体を内側から引き裂いた。


「パツァさん!」

「こいつら普通の人形じゃ考えられないような部品の密度だ。

 だが刃物が効かないわけじゃない! 足を切り落として機動力を削げ!」

 他の仲間へ指示を出したパツァと、内側から引き裂かれ動かなくなった赤い人形。

 近くに居た別の赤い人形が、突如軌道を変えパツァへと襲い掛かる。



 人形が伸ばした右手をパツァの左手が流れるような動作で掴み――

 それを、動かなくなった人形の引き裂かれた部分へ勢いよく押し込んだ。

 右手を引っ張られ、更に固定されたせいで赤い人形は前のめりに転びそうになる。

 しかし、人形は倒れ込みながらも左手でパツァの頭を掴もうとした。


 既にナイフを仕舞っていたパツァは、人形の懐に入るように前に出る。

 パツァの揃えた両手は貫手となり、赤い人形の首を両側から突き刺す。

(俺なら素手で対処可能ってところか)


 鮮やかな動作で人形の首を引き裂いたパツァ。

 赤い人形の首が落ち、他の仲間がパツァに声をかける。

「パツァさん!

 何故爆弾が起動しない!?」

「爆弾は起動した」

「えっ」


「ブンダオの持ってる起動スイッチで動作しなかった時のための俺が持ってるボタンも押した。

 さっき船体が僅かに揺れた……水の中に全部ばら撒かれてる」

「!?

 でもあれは取り外そうとすれば――」

「それを何者かが解除した上で全部回収し、誰にも気付かれずに捨ててる。

 多分トイヴァー側の――」



「解除したのは"私達"だ」



 声の主は、船内へ続く扉の前に立っていた。

(こいつは……)

 身長約140センチ程の小柄な人形。

 黒い帽子の内側から出ているツヤのある黒い髪がたなびく。

(チケット受付役だった人形!)

「ノクゥ様、このデカブツは私がやります」

 シュラーヤはそう言いながら、どこからともなく小さなナイフを4本取り出す。

 片手に2本ずつナイフを持ちながら、悠然とパツァの方へと歩き出した。

(ブンダオの情報じゃキルシカって人形だけが特別だと聞いてたが……)


 パツァは、近付いてくるシュラーヤから静かな殺意を感じ取る。

(特別なのが1体とは限らない、か)

 揃えていた手を開き、両腕の力を抜いて脱力する。



 シュラーヤが突如走り出した瞬間、パツァも同時に前へ踏み込み射程範囲を広げた。

 腰を落としながらしなるように繰り出したパツァの左手は貫手となり、シュラーヤの首元を斜め下から狙う。



 パツァの右目の目前には投げられたナイフ。

 首を曲げてギリギリのところでナイフをかわしたパツァは、貫手が空気だけを捉えていることに気付いた。


 "パシッ"


 パツァの背後で、自らが投げたナイフをキャッチしたシュラーヤが口を開く。

「確かに磨かれた技だが、それを当てられなければ意味が無い」


「やはりお前の相手は"私で十分"だ」

 パツァの両腕に力が入り、こめかみ付近の血管が浮き出た。


 --------------------


 時はやや少し遡り、赤い人形達が動き出す10秒前。

 銃を向けられ、微動だにしないワッシュ。

(……ダフニ、だったかあの男。

 だるそうに壁に寄り掛かっているが――)


(一度も瞬きせず……私を見ている)

 ダフニの半開きの目が見つめる対象を変えることはない。

 殺意も無く、何かを訴えることもなく。


 ただ静かにワッシュを観察していた。



 最初に僅かな音に気付いたのはワッシュとダフニ。

 その2秒後、銃を構えた男と見張りの男が物音に気付く。

「なんだこいつはっ!」

 見張りの男が銃を構え、ワッシュとダフニの視界の外で赤い人形と交戦を始めようとした。

 銃を構えた男が、ダフニの居る方向へ首を曲げて一瞬振り向き何が起きているのか確認しようとする。


 銃を構えた男から、ワッシュとダフニまでの距離はおよそ5m。

 ずっとワッシュを観察していたダフニの眉がほんのわずかに動いた。





 銃を構えていた男の左のこめかみに、ワッシュが杭を突き刺した。

(第1の杭)

「あがっ」

 第1の杭はこめかみから身体の中に皮膚をすり抜けるようにして入っていく。

 こめかみに紋章のようなものが浮かび上がった。

「ぐ……!?」

 男は苦悶の表情を浮かべた後、ピクリとも動けなくなる。

 それと同時に、赤い人形に突き飛ばされた見張りの男がワッシュの横をかすめて壁に激突した。



 ダフニが相変わらず気だるそうな声で言った。

「ま、そうなるだろうよ。

 にしても結構速いねアンタ」


 常人なら見えない程の速さで動いたワッシュ。

 それを平然と目で捉えていたダフニを、ワッシュは静かに観察し始めた。

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