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第三話 軍師驚愕

曹操そうそう大暴れの第三話。

果たして会社と生田いくたじゅんの運命は!?


どうぞお楽しみください。

生田いくた! 先日指示した工場接収策の資料はまとまったか?」

「はい社長! ここに!」

「……ふむ。前年度からの業績の落ち込み、お主はどう見る。まだ接収の価値ありと見るか?」

「……はい。想定より悪化はしていますが、それを理由に価格を引き下げれば、設備投資を加えても十分に利益は出るかと」

「そうであるな」

「……ただ」

「ただ、何だ?」

「……この業績悪化の原因は、現経営陣の無策にあると感じられました。なのであえて提示額を引き上げ、代わりに彼らの退陣を要求するのはどうかと……」

「ほう、首のすげ替えか。その後に配置するべき人材に心当たりはあるのか?」

「えっと、製造に詳しくて人をまとめる力もある、人事部の角田かくた課長なら、二人ほど補佐をつければ任せても大丈夫、かと……」

「善し生田! その策で進めよ!」

「あ、ありがとう、ございます……」


 曹操そうそう新社長の軍師、という名の秘書になって一年弱の時間が経っていた。

 あの面接の後社長は、約束通り社全体の増員をしてくれた。

 それによって、『休めない』『帰れない』『それでも仕事が終わらない』という地獄に似た職場環境は劇的に改善した。

 俺が社長名義で出した、『部署ごとのToDoリスト作成』と、それを実行するための『業務別マニュアル作成』が功を奏し、新人への引き継ぎも大きな問題なく完了した。

 ……あんなの、普段出したら殺されるレベルの指示だったけど、社長のオーラの力は凄かった。


「忙しいのにこんな事させるな!」


 って開発係に凄い剣幕で怒鳴られた俺の後ろから、


「ほう。我の決定が不服であるか?」


 と言いながらにゅっと顔を出した社長。

 一瞬でみんな黙ったもんなぁ。

 その後に俺が、『これさえ作ればお休み取れますよー』と言ったら、皆締め切りまでにきっちり仕上げてきてくれた。飴と鞭飴と鞭。

 その後うちの職場が落ち着いたのを見て、新設された軍師課に異動。

 最初はどうなる事かと思ったけど、同じ軍師課の仲間や、情報を定期的に上げてくれる皆のお陰で、何とか社長の期待には応えられている。

 ……策って言うか、方針の提案だけどね……。

 それでも一生懸命調べた資料と、そこから導いた案が認められるのは嬉しい。

 業績もずっと上向きだし、このまま上手くいけば……。


「生田」

「はい!」

「だいぶ金が貯まったようだな」

「そうですね! 社長のお陰です!」

「しばらく戦もないな?」

「接収や買収ですか? そうですね。これで新事業に必要な企業や工場は揃いましたから」

「そこでだ。使わぬ軍資金は、一度社員達に振る舞おうと思う」

「……振る舞う、とは?」

「うむ、玄橋くろはし殿に相談したところ、この国では賞与という制度があるそうだな」

「!」


 ボーナスかぁ!

 夢だったなぁ……!

 ……二つの意味で……。


「良いお考えだと思います。いくら程振る舞いますか?」


 今ざっと社員が千人ちょっと。

 一人五万でも五千万超え、か。

 今の業績なら何とかそれくらいまでは出せるな。


「一人につき百万ほどで考えておる」

「ひゃっ……!?」


 いやいやいや!

 全員に一律で配ったら、十億超……!

 うちの全部ひっくるめた資産の二割近くじゃないか!

 そんなに急激に資産を減らしたら、株価がどうなるか……!

 うちの会社は業績が急上昇したから、投機家にもかなりの株を買われている。

 投機家は昔からの株主の方々と違って、株価が上がりそうなら買い、下がりそうなら売る人達。

 資産が減ったのをきっかけに、一気に売りに走られたら……!


「お、恐れながら、申し上げます」

「何だ」

「大変素晴らしいお考えと思いますが、いささか金額が多い気がいたします。もう少し額を減らしては如何かと……」

「ならぬ」


 うえ!? 何で!?

 いつもは理由くらい聞いてくれるのに!


「な、何故でございましょう?」

「何故だと? 善く働き、善く戦った者に褒美を取らす。その当たり前を守らずして人は付いて来ぬ。子どもにでも分かる道理ではないか」

「は、はい。で、ですがそれ程の褒美を与えるとなると、我が社の総資産のおよそ二割を失う事となります。株主、特に投機家の動きによっては会社が窮地に……」

「所詮強い方に付きたがる綿毛のような連中を忖度する必要などない。弱兵など足手まといにしかならぬ」


 その綿毛の弱兵が我々の命運を握ってるんですよ!

 関ヶ原の小早川みたいなものなんですよ!

 って言ってもわからないよなぁ……。

 あぁ、どう言ったら思い止まってくれるかなぁ……。


「戦が終わった。戦利品も得た。なれば次は疲弊した国を富ませねばならぬ」

「国を、富ます……?」

「お主達だ」

「!」


 俺達が、曹操社長の、国……?


「お主達が力を蓄え、投機家などといった顔も知らぬ輩を跳ね除けられるようになるには、生半なまなかな褒美では足りぬ」

「……!」


 そうか……!

 社長は株の力で会社の威を示すのではなく、会社そのものの地力を高めて株価に左右されない強い会社を目指していたのか……!

 ……やはり俺は軍師なんて柄じゃない。

 社長の先見を、ろくに理解できていなかったんだから……。


「……それにな」

「……そ、それに?」


 まだ何かあるのか……!?


「魏の重臣達にも負けず劣らぬ忠義と献身を捧げてくれたお主達への礼、そしてお主達が驚き喜ぶ顔が見たいという悪戯心だ。故にこの金額は変えられぬ」

「……社長……!」


 そんな事ないです……!

 社長は命の恩人なんです……!

 毎日家に帰れるようになって、給料表から謎の万引きが消えて、むしろ残業したら残業代がちゃんとついて、休日出勤がなくなった上に申請すれば休暇も取れて、入社初めての健康診断で「後半年その状態だったら死んでましたよ」と言われて……!


「……では! その方向で会社に利をもたらす策を練ります!」

「うむ! それでこそ生田よ!」


 そうして俺は、この理性的で利益と効率を追求し、かつ凄まじい先見の明と決断力を持ちながら、妙に熱くて情が深い上司のために、頭をフル回転させるのだった……!

読了ありがとうございます。


やはり漢の丞相は格が違った……!


たまにブチ切れると容赦なく厳しい事する曹操そうそうですが、根は人を大事にするリーダーだと思ってます。

というか私の中の曹操のイメージは人材マニア。

レアな人材を見つけては、その有効な活用法をにやにやしながら考えてる感じです。

異論は認めます。


次回最終話!

よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 破格の人、曹操孟徳。 比較出来る人物はなかなか居ない。 秦の始皇帝とか日本なら織田信長か。 王欣太の「蒼天航路」が好き( ̄ー ̄)bグッ!
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