力を求めて
春の到来とともに雪が完全に解けた。漸く本格的なレベル上げが出来る訳だ。
それで俺達はレベル上げなら湖エリアだろうという事で、久し振りに懐かしい湖へとやって来た。相も変わらず湖は幻想的な程に美しいが、水を求めてひっきりなしに訪れるモンスターの数はやはり凄まじい。
嘗てのように軽く拠点を築いて、それから頻繁に襲って来る肉食系モンスターを討伐し続けた。戦闘狂のミオンにとっては最高の場所で、彼女はこの場所を手放しで褒め称えながら至極満足そうに戦っていた。
ただし、問題が一つあった。個体レベルとスキルレベルが初期化されている事を認識したミオンだったが、やはり時々自分が弱体化している事を忘れて無鉄砲な戦いをしてしまう事があり、その度に死の淵に立つというリスクを冒すのだ。勿論、その都度説教はするし全力のサポートで危機を乗り越えるのだが、ヒヤッとする事がそこそこあって実に気が抜けない。
そうやって一週間、二週間、三週間、四週間、雪解けと同時に湖エリアへと来てから一ヶ月が過ぎ、それなりに経験値を稼いでいるので一旦拠点に帰る。蓄積した経験値は拠点に帰らないと肉体に吸収されずレベルが上がらないので、こればっかりは仕方ない。しかし、その面倒臭く思える事がレベル上げの結果を待つ身であれば楽しく感じるのだから、何とも言い難いものがある。
ともあれ、それで一旦帰還した時のミオンのレベルはと言えば、一気に150も上昇していた。スキルレベルもガンガン上がっていて、それを本人に伝えると喜色満面の様子で絶叫していた。
まぁテイムする前と比べればまだまだ弱く、全盛期の三分の一以下ではあるが、それでもこの調子なら全盛期の実力に届くまでそう時間を要するとは思えない。スキルも沢山増やしているので、個体レベルが嘗ての半分程になったら俺達の中では最強になっている事だろう。
そしてそのスキルと言えば、ミオンのスキルが幾つか統合されていた。なので、折角だからと新たに高級スキルを沢山購入して付与し、それで俺達と遜色無いスキルの数々となったミオンには、拠点の鍛練場で確認してもらった。その結果は無論の事、実に満足していたと言っても過言ではなかろう。
それから一週間を休息期間としてしっかり休んだ後は、再びレベル上げの為に拠点を発つ。目的地は、湖エリアのそのまた更に先だ。
沼エリア、湖エリア、荒地エリア、先に進めば進む程に遭遇するモンスターの強さが上昇していく傾向がある。そうとなれば当然、得られる経験値も飛躍的に上昇するのだ。レベル上げには実に嬉しい事実だと言えるだろう。
ただしその反面、環境そのものが厳しいのが玉に瑕。環境に適応出来なければ、その時は悲惨だ。
まぁ現状の俺達はそこそこ強くなっているので、そうそう簡単には生命の危機に直面する事は無い。そう自負出来るだけの努力をしてきたし、何があっても問題無いように準備万端の状態で荒地エリアに足を踏み入れるつもりでいるから、大きな問題に直面する事は無いだろうと思う。
そうして拠点を出発した俺達は、再び湖エリアへと来たが早々に湖エリアを抜けて荒地エリアへと足を踏み入れる。ゴツゴツとした岩ばかりが目立つ、殺風景な印象を受けるエリア。俺はそのエリアで遭遇する強い種をターゲットにして、その種が多く出没すると掲示板で噂の谷間に拠点を築いた。
拠点は湖エリアで築いた物とは違って頑丈そのもの。これは個体レベルが400の半ばにある俺達であっても気が抜けないエリアだからで、そうである以上は手を抜かず様々なトラップすらも用意して拠点を築かなければならないから湖エリアよりも頑丈にした結果だ。
そうやって万全の対策を施した拠点を築いてから二日後、標的としていたモンスターが拠点付近にチラホラ目につくようになった。今は目新しい存在に警戒しているのだろうが、その内にガンガン襲って来る筈。
その予想通り、拠点を築いてから三日も経過すると、標的だったモンスターが多数襲って来るようになった。標的のモンスターの名は、サイクロプス。一つ目の巨人で、平均的なレベルは200後半。非常にタフで狡猾な種族であるらしく、石を拾ってそれを武器にして襲って来るし、時には投擲してきたりもする。
掲示板に書かれていた情報によると、サイクロプスに捕まったら悲惨な結末を迎えるそうだ。どんなモンスターが相手でも敗北したその時は悲惨だろと思うだろうが、その比ではないらしい。奴らサイクロプスは、捕らえた獲物を直ぐには始末せず、徹底的に弄んだ後に食べるのだそうで、それが何よりも恐怖を煽るらしい。そしてサイクロプスに殺られた者は、それ故に例外無くトラウマになると。
だからこそ俺は拠点を強固に築いた訳なのだが、少し警戒し過ぎだったのかもしれない。何せ、襲って来るサイクロプスが悉く俺のメンバーから容赦の無い攻撃をされ、それはもう見事に悲惨な末路を辿っているからだ。
両手足を斬り落とされ、達磨にされた挙げ句に一つしかない大きな目を潰されたり、魔法によって早々に目を潰され、右往左往するサイクロプスの心臓を容易く武器の一撃にて貫いたり、メンバー達のサイクロプスに対する戦闘は苛烈を極め、そして至極アッサリと屠り続けるものだった。
俺としてはもう少し手こずると思っていただけに、この結果は少々驚きである。まぁ確かに俺も戦った限りの感想を言わせてもらえば、どこか物足りないと感じるものだったが、それにしては圧倒的過ぎた。
しかし、これまでの事を考えると頷ける結果なのかもしれない。もうどれだけのモンスターを倒したのか自分でも分からないし、それだけ危険を潜ってきたのだ。まだまだ俺達より強い存在が無数に存在するのは理解しているが、俺達だってその強者の仲間入りをしているのだと考えれば納得出来る話なのだ。少なくとも、沼エリア、湖エリア、荒地エリアまでで限定するのなら、俺達はその頂点に君臨すると言ってもいいのではと思える。
この荒地エリアに来て、初めて気付かされた。超越者だとかアイリス国のフィールドボスだとか、そんな圧倒的強者ばかりを念頭にレベル上げをしていたので分からなかったが、どうやら俺達も普通から逸脱した存在になり始めているらしい。
そう思うと腹の底から言い知れないウズウズとした感覚が足先から頭へと登って来るのを感じた。それに伴って、サイクロプスとの戦闘を繰り返す自分の顔に笑みが自然と浮かぶ。
「ジャンジャン掛かって来いや! ハハッアハハハハハ!!」
メンバー達の気持ちが初めて分かった気がした。この妙な昂りを感じ自覚していたからこそ、ミオンが超越者だと知って尚も戦う決断をしたのだろう。
俺の意欲に触発されたのか、メンバー達全員も己の力を試すかのように様々な戦法で戦い続ける。ミオンはいつも通りで、相も変わらず楽しそうだ。
そうやって荒地エリアでの戦闘の日々は、実に満足出来る最高の期間だった。約一ヶ月半、延々と荒地エリアに生息するサイクロプスを筆頭とした色々なモンスターを倒す日々を過ごして帰還した時には、俺達のレベルは500後半になっていた。ミオンなど既に400後半である。
個体レベルだけに限って言えば、超越者と名乗れる次元に足を踏み入れていると言えるだろう。勿論、スキルレベルはまだまだ超越者と比べれば低いだろうし、純粋な戦闘技術でも相手に分があるのは充分に理解しているが、それでも大きな自信となった。
それで拠点に帰還した際、折角ここまで強くなったのだからこの力を試す為にミオンの用事を一旦後回しにして、未開拓地の奥のまた更に奥まで行ってみないかという話になった。それで更にレベル上げにもなるし、誰も足を踏み入れていない土地の貴重な情報を得られるしという一石二鳥であるからとの考えがあってのメンバーからの提案である。
それに誰よりも食い付いたのがミオン。レベルが400後半に達したばかりだが、沢山のスキルのお陰で既に嘗ての力を殆ど取り戻しつつあるミオンからしたら、更に強くなれるかもしれない提案をみすみす手放すのは嫌だったらしく、誰よりも強く未開拓地に足を踏み入れる提案に食い付いた。
俺も自身の言い知れぬ感覚を自覚してから、この実力を試したいと思うようになっていた事もあってメンバーの提案を了承。いつかは南の大陸に行かなきゃならないのだし、そう考えれば未開拓地に行ってみるのも悪くはない。
そう判断した結果、帰還して直ぐに長期遠征の準備を整え、俺達は魔の領域と言われる場所に進み始めた。




