人生ゲーム
ミオンが新加入してからレベル上げに邁進していたが、本格的な冬の到来によってレベル上げを中断せざるを得なくなった。積雪が凄まじいのが原因で、十一階層には出られないのだ。それ故、拠点内で過ごさなきゃならない俺達は、各々で出来る仕事を淡々とこなしている。
アグライアは錬金術や薬術、タレイアは鍛冶術、テティスは造船術と言った感じで、俺、ハルちゃん、ナっちゃん、ヘル、ブリュンヒルデ達は前半組のサポート、アキとフユは完全にダラダラと過ごしている。
そんな中で唯一ミオンだけは武術の鍛練に時間の全てを費やし精を出しているが、これは彼女がテイムされた事で弱体化しているので仕方ない。この冬の期間、少しでもスキルレベルを上げる為に時間を要すのはメンバー全員が承諾している事だ。
そうして過ぎる毎日だが、それでも全員揃ってリビングに集結する時もある。食事の時だったり休憩の時だったり、他には何か思い付いた事を話し合う時だったり、そんな風に様々だが、集まった時は実に和やかな雰囲気で談笑していたりする。今の現状がまさにその一幕である。
「この拠点は実に過ごしやすいな。外が本当に冬なのかと疑問に思ってしまう程だから相当だぞ」
ミオンが染々とそう呟いたのを皮切りに、拠点内の娯楽施設へと話が移っていく。やれプールは凄い、やれ鍛練場が凄い、やれテレビが凄い、やれテレビゲームが凄い、などとそんな感じにそれぞれ自分の好みに合う娯楽をミオンに楽しそうに話すメンバー達。
俺はそれを聞いていて、ふと中世時代に合わせて作られた人生ゲームを新たに購入していた事を思い出し、テーブルの上にそれを取り出した。子供の頃にやっていたゲームの中世版だ。
すると当然、突然テーブルの上に広げられたそれを見て、メンバー全員が首を傾げる。
「これは人生ゲームって言って、仮初めの人生を楽しむゲームなんだよ。面白いからやってみない?」
「仮初めの人生じゃと?」
「そう、仮初めの人生。自分の駒をサイコロの目の数だけマスを進め、止まったマスに書かれた様々な指示に従い色々な事を経験し、時には騎士になったり冒険者になったり、或いは国の王様になったりして楽しむんだ。それでゴールに辿り着いた時に、一番お金を稼いだ人が勝ちっていうルールだね」
「ほう、中々に面白そうじゃな」
ナっちゃんは発言通り興味津々って具合で、意外にも他のメンバーも同様のリアクションを見せていた。それでこれならメンバー全員で楽しめると確信した俺は、勿論アキとフユの分も駒を用意して早速全員で始める。
先ずは言い出しっぺの俺がサイコロを転がし、出た目に従って駒を進めると、止まったマスには一回休みという文字が記されてあるだけだった。
なので次の番のハルちゃんがサイコロを転がす。出た目は二。止まったマスには冒険者に就職と書かれており、全員から就職祝いに金貨一枚と記されていた。
「待て待て。何でハルの就職祝いに金貨一枚を出さねばならんのだ?」
疑問を呈したのはヘル。この世界基準では、就職祝いにプレゼントを送るという文化が無いそうなので、それでこの金貨一枚というのが不思議に思ったようだ。
「確かにそうかもしれないけど、それでも家族なら何かしら送るでしょ?」
「いや、送らんだろ。寧ろ親に何かを送るのが普通だぞ」
「マジで!?」
「うむ、それが普通じゃな」
ナっちゃんがヘルの意見に同意しているし、全員が頷いているのでそうなのだろう。どうやら日本の価値観とは全く違うらしい。
「ま、まぁこの世界だとそれが普通なのかもしれないけど、止まったマスの指示には絶対従わなきゃならないから、素直にハルちゃんに金貨一枚を出してね。じゃないとゲームになんないから」
俺がそう言うと、納得は出来ないようだが渋々全員が金貨一枚をハルちゃんに差し出す。皆と違ってハルちゃんだけはニッコニコだ。
それで次にサイコロを転がすのは、ナっちゃん。出た目は四。止まったマスには男爵となり領地持ちになると記されてあった。
「なんと!? 功績も無しに貴族になってしまったのじゃ!」
「いや、そこまで真面目に考察しないでもいいじゃん」
「う、うむ、そうじゃな。しかし、貴族になれたのにプレゼントは無いのか?」
「そうみたいだね」
「何故じゃ?! ハルは冒険者になれただけで金貨一枚貰えたのに、妾は貴族に出世したというに何故貰えんのじゃ?!」
「それは、ほら………止まったマスに書かれてないから」
「うぬぬぬ」
悔しそうに唸るナっちゃんを尻目に、次にサイコロを転がしたのがアキ。とは言ってもサイコロを掴んで転がすのはアキには難しいので、代わりに俺が転がす。出た目は六。止まったマスには貴族が金貨二枚を差し出すと記してあった。
「おかしいじゃろ! 何故妾だけが金貨二枚もアキに支払う義務があるのじゃ?!」
「………止まったマスがそうだからね。俺に言われても困るよ」
「ぐぬぬぬぬぬ」
どんどん目減りしていく金貨に涙目になるナっちゃんを他所に、アキは挑発するように嬉しそうなゴロゴロという鳴き声を響かせつつ金貨を口で受け取った。それで更にナっちゃんが涙目になるが、それを無視してフユがサイコロを爪の先に引っ掛けるようにして転がす。
コロコロと転がるサイコロを眺めつつ、器用なもんだと内心で呟く。出た目は五。止まったマスには、魔物のスタンピードが発生、貴族は金貨三枚を失うと記してあった。
「ま、待ってくれ! さっきからおかしくないか?! 妾ばかりが不利益を被っておるぞ!」
「まぁまぁ、これは時の運だから。ここから挽回していくといいんだよ」
「そ、そうか? うむ、そうじゃな。妾は男爵になっておるのだし、領地もあるのじゃ。きっと沢山の収入がある筈じゃからな」
まだまだゲームが始まったばかりという事もあって、ナっちゃんは素直に俺の言葉を受け入れてくれて、一応の納得はしたようだが、一連の出来事を見ていた面々は必死に笑いを押し殺している。きっとその悲惨さを笑いたくて仕方がないのだろう。
ともあれ、次にサイコロを転がしたのはヘル。出た目は一。落とし穴に嵌まって骨折、治療費に金貨五枚と記されてある。
「落とし穴!? 何故落とし穴などが存在する?!」
ナっちゃんを笑っていた時には予想もしなかっただろう結果に、愕然とした表情で文句を叫ぶヘル。これにはナっちゃんが御満悦だ。
「治療費が金貨五枚………! ぼったくりではなかろうか」
ガックリと項垂れるヘルの次にサイコロを転がすのは、ブリュンヒルデ。手の中からサッとテーブルに転がした結果の出目は、俺と同じ出目で一回休み。ブリュンヒルデは、至極疲れた様子でホッと胸を撫で下ろしている。そこまで気を入れてやるゲームではないのだが、まぁ楽しんでいるからこその反応なのだろうと思い何も言わず、次にサイコロを転がすアグライアに視線を移す。
「ワタシはブザマな姿を見せないわよ」
何やら確信した様子で出た目は、一。勿論一が出たという事は、マスに記されてあるのはヘルと同様の結果。
「何で?! ワタシがブザマな姿を晒すなんて?!」
「ブザマで悪かったな」
「ヘルと同じ結果だなんて悔しいわ」
「ぐぐっ………言ってくれるじゃないか」
ブザマかどうかは置いておいて、この結果に再び御満悦なのがナっちゃんである。お腹を抑えながら必死に笑いを噛み殺しているが、その様子が見て明らかなので隠せてないとしか言えない。
「アグライアはいつも澄ました顔で何でもそつなくこなすけど、化けの皮が剥がれちゃったんじゃない? 僕が手本を見せて上げるよ」
「中々言うじゃないの。でも、タレイアの事だからきっとワタシ達を楽しませてくれると信じてるわ」
「にゃに〜」
「ほら、早くサイコロを転がしなさいな」
「ふんっ。見てろよぉ」
念入りに両手の中でコロコロとサイコロを激しく振った後、タレイアはテーブルの上にサイコロを転がした。出た目は、一。結果はお察しの通り。
「にゃんでだぁ〜!」
「ウフフ。流石はタレイアね。楽しませてくれるわ」
「う〜………この僕がブザマを晒してしまうなんて」
「………お前達、後で覚えておけよ。この侮辱をワタクシは決して忘れんからな」
再び御満悦な結果に、今度は耐えきれなかったらしく盛大に爆笑するナっちゃん。その反対にヘルの額には青筋が浮かんでいる。
何か俺が予想したのとは違って殺伐とした雰囲気が広がり始める中、そのままゲームは進んでいく。




