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地底国の調査3

 足取り重く歩く俺とは違って、仲間達は自信に満ちた軽快な足取りだった。俺には全く理解出来ないが、彼女達は絶対に勝てると確信しているらしい。あの超越者の一人と戦って尚、そう思える彼女達が眩しく感じるくらいだ。

 しかし、やはりと言うべきか、それなりに緊張はしているように見えた。微かに手が震えていたのだ。武者震いの類いなのだと思う。


 俺はその様子を見て、メンバーの本気度を肌で感じた気がした。彼女達は自分達の今の実力を試したくてしょうがないのだろう。これまでの努力によってどれだけ強者に近付けたのかを、命を天秤に乗せ、本気で試すつもりなのだ。

 ならばパーティーリーダーとしてその心意気に応える必要があるだろうと、そう思えた時から俺の足取りも軽くなった。超越者に勝てる自信は未だにサッパリ無いが、その代わりに少なくとも覚悟は出来たからだ。彼女達は一時的な死を受け入れているし、そうである以上は命を懸けて戦う事も受け入れて然るべきという考え方での覚悟。


 そんな覚悟を旨に超越者を見つけ出すべく探し回っていると、洞窟内部の分岐が複雑になってきた。右に行くか左に行くかと言った簡単な分岐ではなく、上や下にも別れ道が現れており、非常に複雑化している。初めて地底国へと来たばかりの者なら途方に暮れるだろう。俺だけだったら絶対に迷ってしまうのがオチだ。

 しかし今は幸運な事に、此方にはアグライアやタレイアが居る。地底国出身の彼女達二人ならば、この複雑化した洞窟も庭のようなものだ。

 その証拠に一切彼女達は迷う素振りも見せず、街で盗み聞きした情報通りの場所へと続く道を選択し歩き続けた。彼女達の背を眺める形で進む俺からしたら、もう帰り道など全く分からない。アキとフユは匂いで判別出来るかもしれないが、俺は出来ないので餓死するまで彷徨うしかないだろう。

 食べ物が底を尽き、飲み物すら無く、人里か出口を求めて彷徨い続ける。訪れる未来は、餓死かモンスターの餌食。ゾッとする未来だ。


 ブルブルっと身震いしつつ、そうなる未来が訪れない事を願いアグライアとタレイアの背中を追う。細くゴツゴツした岩肌の洞窟内は、地下という土地柄固有の寒さと冬の寒さが合わさって肌を突き刺すような冷たさだ。

 内心でその寒さに辟易として愚痴を呟きそうになった瞬間、暗闇の続くその先から甲高い気合いの籠った奇声が響き渡った。誰かが何かと戦っているらしい。声から察するに女性というのは間違いないし、一人で戦っているのも間違いない。


「マスター」


 アグライアが背後に立つ俺へと声を掛けてきた。その表情は少し緊張感が窺える。


「うん。俺も聞こえてたよ」


「まだ氷結とは限らないけど、ここからは少し注意しつつ向かうべきだと思うの。この先には自然に出来た広い空間があって、そこではよく冒険者がモンスターの素材を求めて来るんだけど、そこに行くのには頻繁に使われる道より使用頻度の低い道から行くべきだと思うわ」


「バレないようにって事でしょ?」


「えぇ。氷結なら奇襲を掛けられるように、氷結でない場合は無駄な戦闘をしないで済むようにね」


「分かった。地理に詳しいアグライアとタレイアに任せるよ」


 彼女達も真正面から超越者と戦えるなどと思う程に自惚れてはいない。だからこその奇襲を前提とした提案だった。

 当然ではあるが、俺がその事に異を唱えるなどありはしない。例え俺達が絶対有利な立場であるとしても、真正面から戦うなど愚策でしかないのだから。

 それ故、二人に任せる旨を伝えると、二人は進む先を変更して違う道へと歩を進め始めた。きっとその先が奇襲に丁度いい場所なのだろう。或いは、超越者の一人である氷結と思わしき人物かただの冒険者なのかを判別するのに最適な場所なのだと思える。

 アグライアの言う通り、使用頻度が低いのだろうその道は、モンスターの糞などが非常に多く臭い道で、誰も使用していないのが明らかだ。モンスターは見掛けないのでそれだけが救いと言った感じだった。


 そうして暫く遠回りをしてから辿り着いたその場所は、野球場二つ分はあるだろう巨大な地下空間だった。そしてその地下空間のど真ん中で、巨大なキャンプ式の松明を灯し、それを唯一の光源として群がるモンスターとたった一人孤独に戦う女性が居た。

 蟻型、蠍型、百足型、様々な昆虫タイプのモンスターを相手に、全く怯む事無くモンスターを凍らせる美女。勿論、凍らせるだけではない。一目見て性能が凄まじいと分かるレベルの豪勢な長い槍を、片手で簡単に扱って沢山のモンスターを串刺しにしていた。

 間違いない。初対面であるが、絶対にそうだと確信出来た。彼女は間違いなく超越者だ。

 それを理解した途端、肌寒いのに関わらず汗がどっと出た。そして、鑑定スキルを使用する気が起きない。鑑定スキルを使用して目の前で壮絶な戦闘をしている超越者のレベルを確認してしまったら、その圧倒的な差に完全に心折れてしまうのではと思えて仕方なかったのだ。


「うっわぁ〜……辛うじて一撃一撃の攻撃が目に見える程度なんだけど。それは僕だけ? それとも、皆もそうなの?」


 タレイアが氷結の凄まじさに冷や汗を流しながら呟いた一言に、何一つ誰も答えない。答える精神的余裕が無かったのだ。

 俺はパーティーリーダーとして、この雰囲気が不味い事は理解していた。ここで尻込みしてしまったなら、俺のようにベルセルクに対してトラウマを感じるようになってしまうだろう。そう思えるからこそ、俺は意を決して鑑定のスキルを発動させた。



★★★★★★★★


level:681


名前:ミオン


性別:女


種族:エルフ


スキル:聖級槍術490、聖級氷属性魔法461、暗視、刹那の瞳


★★★★★★★★



 とんでもない個体レベルとスキルレベルの高さに、絶句すると同時に生まれ持ったスキルの多さに驚かされた。流石は超越者、流石は天才。

 優れた者でも一つか二つあったら万々歳というスキルが、四つもある。しかも、どれもこれも戦闘で活躍するスキルばかりだ。

 まさしく恵まれた天才である。誰が何を言おうとも、それは覆る事のない歴とした事実。

 更に驚くのは、その恵まれたスキルの多さに胡座をかく訳でもなく、努力し続ける飽くなき探求心だ。力を求める飽くなき向上心とも言い換えていいだろう。

 個体レベル681、スキルレベルに至っては聖級とかいう知らない等級が記されているし、正に超越者の呼び名に相応しいとしか言えない。恐るべき相手だ。


「マスターの表情から察するに氷結を鑑定したのだと思うのですが、その結果はどうだったんですか?」


 俺の表情を見て何をしていたのかを察したらしいブリュンヒルデの言葉によって、メンバー全員の視線が集中した。正直に言ってしまっていいものかと逡巡し、俺は思わず真一文字にグッと力を込めて口を閉じてしまった。

 しかし、何一つ情報が無いままに戦うのと、事前に何か一つの情報でもあった状態で戦うのと比べれば、当然何か一つの情報でもあった方がいいに決まっており、それ故に俺は論理的な思考を旨に閉じていた口を開く。


「個体レベル681。……スキルは槍術、氷属性魔法、暗視、刹那の瞳を持っており、槍術と氷属性魔法の二つに至っては聖級とかって見た事も無い等級だ。とんでもない化物だよ」


 地下空間の真ん中で戦う女性の奇声やモンスターの断末魔だけが響き渡り、俺の発言には誰もうんともすんとも言わない。本当に誰も口を開かないのだ。

 だがしかし、決して臆した訳ではないらしい。目は口ほどに物を言うとはよく聞くが、メンバーの目はギラギラとしており、それはまるで肉食獣のようで、さぁ早く食わせろとでも言っているかのように見える。

 やっぱり俺の仲間は、いつの間にか狂戦士になっていたらしいと改めて認識した瞬間だった。

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