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地底国の調査2

 始まりの街と呼ばれているのは伊達じゃない。街の中心に行く程に建物の形状が簡素で、簡素であるからこそ此処が始まりなのだと深く理解出来る。まだまだ稚拙な建物、しかし外側に行けば行く程に洗練されていく建築群を見ていると、遥か悠久の時を感じられるような気がした。

 人が長い時を要して工夫し研鑽した確かな歴史を感じながら、俺は目に見える物と鼻腔を擽る香りを堪能しつつ街を散策。仲間は俺の理解出来ない言語を聞き取り、情報の入手に努めている。


 そうやって進んでいれば、街の中心へと辿り着いた。地底国にある街に不釣り合いな物がそこにあり、思わず目が点になる。

 湖があった。大きさは直径一キロ程の物で、恐らくは元々存在した地底湖を拡張したのだろうが、それにしたって地下に巨大な湖というのは俺の知識には先ず無い光景だ。

 地底湖というのは日本にも存在したし、そうである以上は別におかしな話ではない。しかし、直径一キロを越える湖が地下にあるなど凄すぎる光景だとしか言えないだろう。

 その光景に心を鷲掴みにされて呆然としていると、擦れ違う者達の会話に聞き耳を立てていたメンバーから報告が入った。


「モンスターの様子がおかしい? この周辺のモンスターがって事?」


「ですです。ウチは冒険者っぽい人達がそう話していたのを聞きましたよー」


「妾も似たようなものじゃったな。他には特に何も聞けんかった」


「私と姫様も同じです。ただ、一つ付け加えるなら、どうやらモンスターの動きがおかしくなったのは人型の何かが原因らしく、その何かが暴れているからだそうです」


「何それ? 周辺の生態系に変化が起きて、そのせいでモンスターが異常行動をしているとかって話?」


「うむ、簡潔に纏めるとマスターの言う通りなのだろうな。何かしらのモンスターが原因で周辺の生態系に狂いが発生するというのは珍しくない。ワタクシの知る限りでもそこそこの発生例があるしな」


「とあるモンスター一体のせいで、一つの生態系に大きな狂いが生じるというのは珍しい事ではないからのぉ。妾の知る限り、そういう類いの事象は意外と多くあったりするのじゃ。そして、それを放っておくと悲惨な結果になったりする」


「姫様や他の皆さんの言う通りなのですが、私が耳にした情報では少し事情が異なってましたよ」


 皆の話を聞いていて、どうやら少々面倒臭い事が起きているようだと認識していたら、ブリュンヒルデが気になる話をし始め、それによって全員の視線が彼女に集まる。


「何やらとんでもない実力者がモンスター相手に暴れているのを見た冒険者が居たそうです。恐らく、この周辺で暴れている人型の何かとは、その実力者一人なのではないでしょうか?」


「たった一人で? ………そこはかとなく嫌な存在が脳裏に浮かぶんですけど?」


 たった一人で危険生物を相手に暴れまわる事が可能な存在と言ったら、もう一人の男しか思い浮かばない。そう、あの超越者の一人であるベルセルクだ。俺の両腕を斬り落とし、更には喉を切り裂いた死神である。

 頬を盛大に引くつかせながら尋ねた言葉に、メンバーが剣呑な雰囲気を漂わせ始めた。しかし、意外にもブリュンヒルデは冷静な態度で首を横に振るう。


「いえ、外見的特徴が一致しません。何せ、暴れていたのはエルフの女だったそうですし」


 安堵からか一気に額から汗が吹き出すのを感じつつ、思わず腰が抜けそうになったのに逆らってグッと全身に力を入れる。どうやら俺はベルセルクがトラウマになっているらしい。多分、アイリス国で遭遇した謎の美女以上に警戒しているからなのだろうし、シンプルに死にかけたからでもあるのだろう。

 謎の美女とは日本語を用いての会話が出来るが、ベルセルクには問答無用で襲われたので警戒の重きを片方に向けるのは当然の事。しかしそれでも尚、やはり純粋に怖いという恐怖の感情が先んじて顔を出してしまい、その結果として必要以上に警戒してしまうのが本音だ。


「そ、そっか。まぁ超越者じゃなければ何でもいいよ」


「勘違いさせて申し訳ありません。確かに超越者のベルセルクではないと断言しましたが、超越者ではないとは言ってません」


「嘘だろう……! 本気で言って……いやマジで?!」


「外見的特徴が一致する超越者が一人居ます」


「うぅう〜ん………何でこの広い土地で少ない超越者の一人と遭遇するのかなぁ?! どう考えてもおかしくねぇ?!」


「いえ、その………私に言われても困るのですが」


 確かにそうだ。ブリュンヒルデに言っても返答に困るだけだろう。

 だがしかし、この不可思議な遭遇率の事を疑問に思う気持ちを誰かと共有したかったのだから仕方ない。つまり、確かに変ですよねぇ、とかって感じで頷いて貰えればそれで良かったのだ。


「いや、もう………そうだね、ごめんねブリュンヒルデ。思わず変な事を言っちゃった。

 それでどうする? もう撤退する? 超越者に遭遇したら絶対ヤバいじゃん?」


 情けないと思うかもしれないが、俺としては絶対に戦いたくない相手だ。ベルセルクがトラウマになっているというのも認めるが、戦わずに済むのならそうすべき相手であるのは間違いない。それに俺達も強くなったとは言え、相手は俺達以上に長い研鑽を積んだ者達である。細心の注意を払わなければならない相手だと言えるだろう。

 しかし、そう思い撤退する事を提案した俺を蚊帳の外に、仲間達は何やら真剣な表情で話し合い始めた。


「そのエルフの女は、超越者だと仮定すると誰になるのじゃ?」


「恐らくは、レギオンの一角を担う氷結の覇者ではないかと」


「えぇと、確かレギオンってのが無数の冒険者の集まりで、その冒険者達を束ねているのが六人の超越者だったんだよね? それでその超越者の一人が氷結の覇者って事で間違ってない?

 アタシまだ超越者の名前を全部覚えてなくて……エヘヘヘ」


「ハルは冒険者でもなかったんだから、そこまで覚えてるのなら及第点だ。恥じる事はないだろう」


「そうそう、ヘルの言う通りだと思うよ。僕とアグライアは地底国出身で地上の事は無知だから、それに比べたら大したもんさ」


「うん、ありがと」


「それにしても、レギオンの一角を担う氷結の覇者とやらは、どうして一人で地底国に来ているのかしら? いえ、それは気にする事じゃないわね。それより、どうしてこの周辺で暴れているのがその超越者だと分かるの? そんなに特徴のある外見をしてるのかしら?」


「逆にお尋ねしますが、アグライアはエルフの外見的特徴を言えますか?」


「金髪と耳の先が尖っている事ね」


「仰る通り。エルフの女性の場合は?」


「女性? ……金髪と耳と胸、かしら?」


「その通りです。エルフの女性に共通するのは胸が小さいという事。ですが、氷結の覇者はエルフの女性にしては珍しく豊満な胸をしているそうです。そして今回この周辺で暴れる者の外見的特徴は、エルフの女性であり豊満な胸を持つ者。馬鹿馬鹿しい根拠ですが、それだけエルフの女性が巨乳に育つ事が珍しいので断言出来るとも言えます。それに、たった独りでモンスター相手に暴れまわる事が出来るというのも加味すれば━━━」


「なるほどな。確かに根拠としては馬鹿馬鹿しいが、ブリュンヒルデの言う通りじゃ。妾としては、その推測に疑う余地は無いと思うぞ。皆はどうじゃ?」


「皆も同意見のようね。それなら、どうやって急襲するかが問題になるわ。ベルセルクとは違って本来は単独行動をしない氷結の覇者なら勝てるチャンスがあると思うし、これを逃すのは勿体ないしね」


 待て待て待て。どうして超越者と分かっていて襲うのだ。気が狂ったのかウチのメンバーは。

 そう思い話し合いを中断させようとするが、余りにもビックリし過ぎて声が出ず、そんな俺を置き去りに話し合いは進む。


「ですです。折角強くなった自分達の実力を試すのに最適な相手だし、本来は集団行動が基本の超越者を単独行動中に襲える好機なんて他にないですからねー」


「うむ。テティスも最早立派なワタクシ達のメンバーだな」


「当たり前です。マスターの夜伽の相手も出来るようになったし、大人の女になった実力を示す時なんですぅ」


「ふふん。僕ほどにちゃんと出来てるか心配になるけど、大人の女の実力を示す時ってのはその通りだね。こりゃ負けられない戦いってヤツじゃないか」


 俺を置き去りに勝手に盛り上がるメンバーを見て、戦々恐々としつつ呆然とするしかなかった。いつの間にかメンバー全員が、俺の知らない内に狂戦士へと変貌していたらしい。

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