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地底国の調査

 湖エリアのフィールドボスを討伐してからの一週間を、俺達は休息期間として毎日ダラダラと拠点内で過ごしていた。もう完全なる食っちゃ寝の日々であった。

 それで肉体と精神の疲労を完璧に癒した俺達は、掲示板で沢山の挑戦者達から地底国の調査を頼まれた事で次の目的を決めるに至り、その調査の為に拠点を出発した。勿論、その準備は万端での旅立ちである。

 地底国に向けて進むのは初めてになるが、俺には地底国出身のアグライアやタレイアが居る。そう、その二人が居る限りは道に迷ったりする事など一切無く、地底国に入る為の洞窟にも苦労したりはせずに辿り着くのは容易だ。事実、俺達は地形の厳しさもモンスターの鬱陶しさも苦にする事なく辿り着く事に成功した。

 だが、ここからは二人が居ても流石に注意を配らねばならなくなる。問題はこの地底国に続く洞窟を抜けた先にあるのだ。


 地上と地下では当然環境が大きく変わり、環境が変われば生態系が変わり、生態系が変わるという事はそこを通過する俺達が適応出来なければそこに存在するモンスターどもの胃に収まってしまうという事だ。

 そのモンスターなのだが、やはり地上のモンスターとは隔絶した身体機能を有していた。明かりが無いので目が見えず退化しており、その変わりに聴覚や触覚や嗅覚が異常に発達しているようで、些細な物音でもしようものなら四方八方から様々な容姿をしたモンスターが集まる。海の鮫のように、数キロ離れた先からでもたった血の一滴の匂いを嗅ぎとるかのような、そんな感じだ。


 そのせいで俺達の足取りは、地上と比べて非常に遅い。集まるモンスターを全て倒し、そのモンスターの肉体を無駄にしないよう解体して必要な部位のみを素材として得るなどとしているから当然歩みは更に遅くなってしまう。

 しかし、レベルを400以上まで上げた成果なのか、戦闘では終始余裕だった。モンスターの解体に時間が掛かるだけなのだ。

 一応の処置として松明や錬金術で造られた光石などで明かりを点けているのだが、それでも洞窟内は暗い。されど高級スキルが作用して、うっすらと洞窟内が見えるしモンスターの気配も襲撃を受ける前に気付けている。

 俺達は確実に地底の環境下に適応出来ていた。初めて訪れた場所、初めて訪れた環境下、しかし完全にその環境下に適応出来ているという事実には、これまでの努力の成果が表れているようで感無量であった。

 まだまだ超越者を相手にして余裕を持って対処出来る程に強くなったという実感は無いが、それでも嬉しかった。強くなっている事を確かめられて、本当に嬉しかったのだ。

 だからこそ、真っ暗闇の中であっても誰も彼もが冷静さを失わず、それどころか楽しんで洞窟内を進んでいられた。恐れなど無い。此処では自分達が強者なのだと自信を持って歩めるのだ。


 そうして地底国へと続く洞窟を進む事二週間、俺達は地上で言うところの村に相当する中継地点に辿り着く。地底国では村と呼ばず中継地点と呼ぶそうで、何々の中継地点とかって感じで表現しているらしい。


「マスター、気になるんでしょ? 寄ってく?」


「そんなに顔に出てた?」


「ウフフ、観光したくて堪らないって顔に書いてあるわよ」


 中継地点を少し離れた場所から隠れながら眺めている限り、その外観に興味を抱かざるを得ない。少なくとも日本には皆無であった光景なだけに、正直言って興味津々だ。

 しかし、今回は観光がメインではない。他の挑戦者達の為に、地底国を目指すのに注意しなければならない点を調べに来たのだから。


「いや、今回は我慢するよ。調査がメインだからね」


「マスターって真面目だよねぇ。僕なら少しでも気になったら調べなくちゃ気がすまないのに」


「そうね。ワタシは流石に時と場合を選ぶけど、タレイアの気持ちも分かるわね」


「ねぇ、なんか貶された気がするんだけど?」


「そんな事ないわよ。そこがタレイアの良いところでもあるんだから」


「そう? エヘヘヘ、それなら許してしんぜよう」


 どう考えても手のひらの上で転がされているとしか思えないが、タレイアは照れた様子でニヤニヤしているのでメンバーの誰もが何も言わない。指摘しないことがここでは重要だ。でないとタレイアが拗ねるからね。それをメンバーの全員が知っているので、何も言わない訳だ。


 それは兎も角、洞窟の壁をくり貫いて造っている家々を名残惜しい気持ちで横目にしつつ、俺達はその中継地点を通り過ぎて行く。目指すは此処から三十キロ離れた場所にあるという大きな街だ。その街はダークドワーフの領土でも一番端になるそうで、少しはヒューマンも居るらしい。

 そう、実は地底国にも様々な人種が居るのだ。地底国出身の者が地上に出る事は殆ど無いと言われているが、それは地底国の大多数を占めるダークドワーフとかダークエルフが地上に出ないという事であって、地上の物資を求めて地底国で暮らすヒューマンだったりエルフだったりドワーフだったりが一定期間で地上に出たりしているらしい。そうであるからこそ、地底国に住む人種を地上の者は見ないのだ。有名なダークドワーフとかダークエルフじゃない地上でも普通の人種なので、見てもそれが地底国の人間だとは誰も思わないのである。


 そんなからくりをアグライアとタレイアから聞きながら旅は続き、いつしか超が付く程にだだっ広い空間に辿り着いた。東京ドームが幾つも入るだろう巨大な地下空間に、小さな明かりが沢山灯っている光景は実に美しい。感動的な程に美しすぎた。

 メンバーも全員が感嘆の声を漏らす程に美しく、暫くの間をただ呆けたように眺めていた。それも仕方ないと思える光景なので、周囲への警戒を疎かにしてしまったがこればっかりは誰も悪くない。


「皆気に入った? 凄いでしょ、僕達の国」


「あなたが創った国かのように言うのはやめなさい」


「アグライアは細かい事を気にしすぎだよ。それに、別にそういう意味で言った訳じゃないのは分かるじゃん」


「それはそうだけど、言葉には正確性が大事でしょ?」


「ぐっ………ああ言えばこう言う!」


「ウフフフ、その短気も治さなきゃ駄目よ」


 アグライアにからかわれたタレイアは、それは見事な地団駄を踏む。彼女達二人をテイムした時とは全く違う姿を見ていると、どれだけ最初の方は猫を被っていたのかと疑問に思ってしまう程だ。

 まぁそれも心から仲間として馴染んだからこそ見せてくれる本当の姿なのだろうし、そう思うと素直に笑えてくるから不思議だ。


「まぁまぁ、二人の仲がいいってのは分かったから。それで、この街は何て呼ばれてるの?」


「始まりの街と呼ばれてるわ。地底に住む事を決めた先祖が初めて創った街だからその名で呼ばれてるのよ」


「へぇ〜、ロマン溢れる感じだね。此処が拠点となって地底国が広がったのかぁ」


「そう、此処から地底国の歴史が始まったのよ。そして数千年、或いは万を要して今に至るのが地底国。先祖代々少しずつ拡張して広がったの」


「凄い話だ。この見える空間だけでも凄いのに、更に沢山の同じような空間が地中のあちこちにあるんでしょ? 想像を絶する苦労があったんだろうね」


「数々の逸話が残ってるわよ。生き埋めになってしまった者達の伝説や、拡張している時に巨大な地底竜と遭遇した伝説など、それこそ溢れるくらいに多種多様な伝説があるの。

 タレイアはその中でも聖剣の伝説が一番のお気に入りで━━」


「わ、ワァーワァー! それはダメ! 秘密だってば!」


「あら、いいじゃない。ワタシも好きよ、あの伝説」


「ダメダメ! 恥ずかしいから!」


 何やら真っ赤になったタレイアがアグライアの口を抑えてしまった。余程に話して欲しくない伝説らしい。

 その様子を見て、メンバー全員が後でアグライアから聞き出そうと決めたようで、実に怪しい笑みを浮かべている。しかし俺は何もしない。何故なら俺も気になっているのだから、邪魔などする訳がない。

 ともあれ、暫しの間和やかに会話を続けた後、少しは地底国の暮らしを知ってその内容を掲示板に記した方がいいだろうと考えた俺は、仲間と共に始まりの街へと密かに潜入した。

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