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観光万歳3

 ところ変われば風景が変わり、風景が変われば風土が変わり、風土が変わればそこに住む者達の生活スタイルは当然大きく変わる。言葉、服装、料理、生活習慣で使用する様々な道具、あらゆる全てのものがその姿をその土地に合わせたものに変化する。

 それを見て感じて全ての感覚で実感するというのは、旅の最も大事な部分だ。譲れない部分だと言い換えてもいいだろう。

 俺はその中での言葉に関しては全く楽しめていない。このダンジョン内の言語を理解出来ていないからだ。非常に残念でならない。

 しかし、それ以外の部分では心から満足している。日本で暮らしていた時には決して出来ない感覚を、俺はこの旅で心底感じていて、心底楽しんでいたからだ。

 それは俺だけじゃなく、メンバー全員もそうであった。誰も彼もが満足そうに微笑み、旅する事を決めて良かったと心から思えた。メンバーの笑みがそう思わせてくれるのだ。


 だが、その楽しい旅はまだまだ終わりではない。ヘルとブリュンヒルデの二人が言うには、もっと沢山の楽しめる場所があるのだそうだ。

 その一つがドラゴンの棲み家である。無論、古来からの言い伝えである伝説でしかないが、その場所は見るだけでも価値があるらしい。見なきゃ損なのだと必死に教えられた。

 それならば行こうとなるのは当然で、ブリッツ国の姫と騎士隊長として活躍していた時に聞いた知識を振り絞り、俺達を先導する形で案内してくれている。まぁ少し迷ったりしているが、それはそれで仕方ないし、その迷った際に予期せぬ見事な光景との遭遇もあるので実に楽しい。標高が高いので少し酸素の薄さで辛く感じるものの、旅のワクワクが勝って少々の辛さなどへっちゃらだ。


 そうして和気藹々と過ごしながら歩を進めていると、少しずつ目にする光景が変化していき、軈てその変化が浮き彫りになる。標高が高くても緑が濃いアイリス国内であったが、今では草の一本すら存在しない。

 剥き出しの土と岩、この二種類だけしか見当たらず、それ以外にはこの環境下に適合したモンスターばかりで、実に殺風景だ。とても進む先に感動するような場所が存在するとは思えない。

 しかしヘルとブリュンヒルデの二人だけは満面の笑みで歩を進めており、それはつまり疑う事など先ずあり得ない素晴らしい何かが確かにそこにあるという証左なのだろう。


「この先なの?」


 二人の表情から見るに間違いなくこの先に何かがあるのだろうとは思うが、口に出して尋ねなければ気が済まず、思わず疑問を口にしてしまっていた。

 するとヘルとブリュンヒルデの二人は、ニヤリと笑みを深くして口を開く。


「マスターなら絶対に気に入る筈だ。ワタクシがそれを保証しよう」


「私の前任者であった騎士隊長は、我々が目指している場所に嘗て行った事があると聞きました。その時の興奮は決して死んでも忘れないだろうと満足そうに言っていたのを記憶しております」


「もしかして、この国の観光スポットの話は全部その人からの受け売り?」


「流石に分かるか。ふふふ、実はそうなのだ。それで一度は己の目で見てみたいと願っておったのだ」


「因みに、その前任者が四天の一人でもあります。姫様は御自身の誕生日パーティーでその前任者と初めて出会い、その時にアイリス国の話を聞いたそうです」


「へぇ〜そうなんだ。……ぅん? ブリュンヒルデは四天と会った事は無いって言ってなかった?」


「はい。私の認識ではそうでしたが、この前に姫様と話していて私の上司であった騎士隊長が冒険者の四天になっているのだと初めて知った次第でして、それまでは本当に超越者の一人が知人だとは全く知らなかったんです」


「あ〜、なるほどね。世間は狭いというかなんというか……。

 しっかし、超越者と呼ばれる程の前任者が居たのなら、ブリュンヒルデも騎士隊長として責任重大だったんだろうね。大変だったんじゃない?」


「えぇ、それはもう。……ですが、当時私の上司であったその前任者は、そこまで強くはありませんでした。確かに強かったと言えばそうなんですが、逆立ちしても勝てないとは思いませんでしたね。少なくとも、十回戦ったら二回は勝てるだろうと思えるくらいの強さだったと認識しています」


「それじゃあ、騎士隊長を辞任してから強くなったって事?」


「だと思います。騎士として国に仕えていた時に自身の実力を隠す意味がありませんので、恐らく冒険者となったその時から凄まじい努力をしていたのだと考えられますね」


 俺達にしてみたら、超越者というのは現在考えられる最大最強の敵だ。出来れば遭遇したくないし、戦わずに済むのなら絶対に戦いたくはない。

 そんな超越者達の一人である知人の話をするブリュンヒルデは、確かに誇らしげに見えた。自分の事ではないのに、それでも強くなった前任者を自分の事のように嬉しげに語るという事は、それ程に親しい関係だったからなのだろう。親友のような関係だったのかもしれない。


「マスター、話が弾んでいるところ申し訳ないのだが、どうやら着いたようだぞ」


 ヘルに言われて視線を前方へと向けて見れば、そこには驚く程に大きな洞窟があった。まるで全てを飲み込もうとする蛇の口のように見えて、唖然とするしかない。


「デカ過ぎない?」


「ふふふ、ワタクシも事前に聞いて知っていたとは言え、こうして目にするのは初めてだからな、素直に驚いておるよ」


 高さ二十メートル、横幅二十メートル程の巨大な洞窟だ。これが自然に出来た洞窟とはとても思えない。あまりに巨大過ぎる。


「ちょっと怖いですぅ」


「フフン。テティスは怖がりすぎなんだよ。僕は全然怖くないけどねぇ」


「ウフフ、子供の頃はいつも暗闇を怖がってたクセに」


「ちょ?! な、何を言うかと思えば、子供の頃は関係無いだろぉ!」


「あら御免なさいね。テティスにお姉さんぶるタレイアが可愛くって、つい苛めたくなっちゃったのよ」


「タレイアさんもまだまだ子供ですねー。アグライアさんを見習わなきゃ駄目ですよー」


「ほらぁ! アグライアのせいでテティスが生意気になっちゃったじゃんか!」


 洞窟の巨大さに面食らっていたのは俺だけのようで、他の面々はそれほど気にしていないらしい。と言うより、いつも通りの雰囲気で会話が弾んでいるくらいだ。

 しかし、ハルちゃんだけは何やら小難しい表情で悩む素振りを見せていた。その隣に立つナっちゃんもそれに気付いた様子で、悩む理由を問いだしている。


「匂いがするの」


「匂いとは? 妾でも気付ける次元の話か?」


「ううん。これはアタシやアキとフユくらいしか気づけないと思うよ」


「なるほど。で、その匂いの何が気になるのじゃ?」


「アイリス国内に初めて足を踏み入れた日を覚えてる?」


「アイリスに足を踏み入れた初日? 確か村に入った筈じゃな」


「そう、その時に追跡されてたのは覚えてる?」


「その時の追跡者が再び妾達を追跡していると?」


「そうじゃないの。あの洞窟の中から匂いがしてるのよ。つまり、たまたまアタシ達が追跡者だった何者かが居る場所に来てしまったって訳」


 何やらキナ臭くなった事を皆が察知して、少しメンバー間の空気がピリついた。匂いの主が本当にハルちゃんの言う者と同一人物なら、気を抜けない。洞窟の奥に進むべきではないかもしれない。

 超越者という存在が最大最強の敵だと言うのは間違いないが、他に俺達にとって危険な存在が居ない訳でもない。名が売れてないだけの超越者に近しい実力を持つ冒険者だって沢山居るだろうし、ひたすら強くなる事だけを求めて修行に励む求道者も居るだろうし、まだまだ油断は出来ないのだ。

 もしかしたら、そんな強者の一人が追跡者だったという可能性もあり、なればこそ洞窟の奥に進むのはやめるべきかもしれない。何せ、少し怪しい格好をして村内を歩いていただけで尾行するぐらいなのだから、余程に注意深い者なのだろうと察せられるし、得てしてそういう者ほど強かったりする。


「一旦退く?」


「アタシ的には大丈夫だと思うんだけど……」


「何で大丈夫だと思うの?」


「匂いは一人だけだから。村には沢山潜入してたけど、アイリス国内に入ってから一度も超越者の噂は耳にしてないし、冒険者の一人くらいなら大丈夫なんじゃないかと」


「……まぁ確かに」


 実に悩ましい。この国や周辺の土地では、強力なモンスターが跳梁跋扈している。それなのにも関わらず、たった独りで行動する冒険者というのは不思議な存在で、そして不気味な存在でもあると言えるだろう。

 そんな不気味な奴が居る洞窟に進むのは気が引けるが、楽しみにしていたヘル達の気持ちを思うと中断するのはそれも充分に気が引ける。悲しむ顔は見たくないというのが本音だ。


「俺達はレベル上げをして強くなってるのも確かだし、ここは予定通り進んでみよう。冒険者の一人ぐらいなら、俺達で充分対処出来るだろうしね」


 俺が少し楽観的な意見を告げると、皆が微笑んでその提案を受け入れてくれた。どうやら、懸念事項もあるにはあるが洞窟の先に存在する物を見たくて仕方ないようだ。

 それを理解して本当に今回の旅を満喫してくれているのだなと思い、俺は苦笑しつつ洞窟内部へと足を踏み入れた。

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