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観光万歳

 雪解けを迎えてからというもの、それはもうほんの少しでもレベルを高くする事に血道を上げていたが、それも暫くはお預けだ。何せ精神的にも肉体的にも凄まじく疲れていたからであり、そうなると当然休息期間が必要になるからだ。

 それで俺達は娯楽中心の日々を二週間近く過ごした。オセロをしたりチェスをしたり、気分によっては釣りをしたりなど、のんびり自由気儘な生活である。

 レベルがそれなりに上がった事で精神的な余裕が出来た事もあるのだろうが、本当に力と気を抜いて休息期間を満喫出来た気がする。新加入したテティスも完全に馴染んでいるし、不満など一つもない日々だった。


 しかし、いつまでも休んでいる訳にはいかない。と言うか、娯楽の少ない状態でのんびりするのも流石に限界というものがあり、休み始めた当初は良くても今度は動きたくなってしまうのだ。生物としての本能というものなのだろう。

 それで次は何を目的として行動するかをメンバー内で相談してみた結果、そこで出た結論がアイリスという国に行ってみたいというメンバーからの懇願だった。全員が遥か北に存在する雪国に行ってみたいと願ったのだ。

 ヘルとブリュンヒルデは、以前から噂として聞いていたアイリスという国に一度は行ってみたかったらしい。ハルちゃんとナっちゃんもヘル達から色々と話を聞いて行ってみたくなったらしく、アグライアとタレイアに至っては雪国でしか得られない素材が欲しいのだそうだ。


 そういう訳で、獣人が支配する土地とやらを目指して出発する事一ヶ月、俺達はブリッツ国を抜けて少々厳しい環境下の土地を無事に踏破し、漸くドワーフやエルフが数多く居る土地に足を踏み入れた。目的のアイリス国までは、此処から更に北へと進まねばならないので、恐らくはアイリス国内に入るのは更に二ヶ月後という感じだろう。

 因みに、現在辿り着けた国はヒューマン国家と変わらない様相で、特段目を奪われるような光景など無い。ただエルフやドワーフが多いという印象しかない土地だった。

 それ故、俺としては少し残念な思いもあった。少し幼稚かもしれないが、エルフの住む家は木の上にあるのだろうとか考えていただけに、ヒューマンと変わらぬ生活には残念感が否めないのだ。

 ただし、変装して村の中を探索した時に見たドワーフなどはまさに想像通りで、酒場で心底楽しそうに酒を飲んでいた姿には心踊ったと言える。しかも、そのドワーフ達の持つ武器がフレイルやメイスとかばかりなのだから、尚更想像通り過ぎて実に見ていて楽しかった。


 だがその反面、先程も説明した通り、エルフはヒューマンと変わらな過ぎてガッカリ感が強い。冒険者と思わしきエルフも特に弓使いが多いという訳でもないし、ヒューマンと殆ど変わったところなどない。

 それをメンバー全員に伝えたところ、寧ろ俺のその考えが分からないと言いたげな視線を向けられ、否応なしに俺が想像していたエルフの生活は存在しないのだと痛感させられた。事実、エルフは樹上生活などしないし、別に森の中を好んで生活する事も無いそうで、俺の想像するエルフは地球人だけが思い描くものでしかないのだと教えられた。


 そんな少し残念な新事実もあったが、しかし村の中の探索は楽しかった。自分が中世時代の登場人物になれた気がして、心底楽しかったのだ。

 それではしゃぎ過ぎた事が原因で、俺の発する言葉を耳にした村人に襲われるというアクシデントもあったのだが、それは素直に反省してメンバーにも謝罪しつつ再び北へと進み始める。勿論、もう二度と潜入中にはしゃがないと強く誓って。


 そうして進んでいると、いつしか本格的な夏が訪れる季節となっていた。そう、もう既に春は遠い昔となっており、今や強い日差しが降り注ぐ季節が到来した訳だ。

 それによって進む速度が若干遅くなってしまうが、そればかりは致し方ない。レベルが上がって全ての身体機能が上昇していてさえも、スタミナというのは無限にはならないのだから当然疲れてしまう訳で、疲労が蓄積して足取りがスローペースになるのは必然なのだ。

 爛々と照りつける太陽に文句を言ってもしょうがない。日陰を見付ける度に逐一休息し、適度に休んだら再び足を進めるという少し辛い時間を皆で頑張った。


 そんな日々の合間合間に、目についた村や町に潜入するのは実に楽しかった。まるで心のオアシスである。

 国やその土地の気候が変われば当然、そこに住む人達の生活スタイルも変わる。服装、仕草、生活の中で使用する道具、匂い、武器の形状、様々な違いを発見する事が何より楽しい。言葉は相変わらず分からないが、それでも見ているだけで充分楽しかった。

 観光気分丸出しだと言われればその通りだ。特に目的という目的も無いのだから、今回の旅は正しく観光なのだ。腹の底から楽しんで何が悪い。

 一度の失敗の後はバレないように心掛けていたので、決して襲われるという事はなかった。そのお陰で心から楽しめた潜入だったと言える。少し楽しみ過ぎたかもしれないが、後悔はない。


 ヘルやブリュンヒルデやテティスも目を輝かせていたし、アグライアとタレイアは珍しい素材に一喜一憂しているし、ハルちゃんとナっちゃんもスケルトンとして過ごしていた時間を取り戻すかのように心から楽しんでいた。そしてアキとフユはと言えば潜入するのは無理なので、二頭だけは町への潜入中は外での待機となるのだが、風呂に毎日入らなくていいという日常を満喫していた。ま、そうは言っても一週間に一度は絶対に風呂に入れているので、匂いの方は問題無い。

 野営というのが唯一大変なのだが、それ以外は実に楽しく過ごしながら旅を続けること更に二ヶ月、俺達は漸くアイリス国へと辿り着いた。まだ辛うじて夏と言えるのにも関わらず、未だに雪が残っているのが印象深い土地で、それは標高が高い位置に獣人の国があるからでもあった。


 此処に辿り着くまでに要した移動距離は、恐らく鹿児島から北海道へ徒歩で移動したのより少し長いくらいで、それはつまりそこそこ遠くまで歩いたという事。僅か三ヶ月でその距離を歩けたのは、偏にレベルが上がって尋常ならざるスタミナを得られていたからだとしか言い様が無い。

 改めて考えると凄まじい事実だが、それだけ頑張った結果なのだと思えば誇らしい。仲間も同じ気分でアイリス国の領土を眺めているのだろうと思う。


 標高が高くなればなるだけ緑が少なくなる。その代わりに多くなるのが岩。ゴツゴツとした大きな岩だったり、その逆に砕けて小さくなった岩だ。

 そう、それが地球上の標高が高い山の特徴になるのだが、こちらはそれと比べると全く違う光景だった。どれだけ標高が高くなろうとも、決して緑が薄くなる事はないのだ。

 酸素の薄い環境下に適応した植物が沢山存在し、それが今は夏なのだという事をこれでもかと主張していた。それによって雪と緑が互いに共存するという不思議な状況をつくっており、それが要因となって否応なしに俺の期待感が増すのを感じる。

 仲間もそれは同様らしく、近くに見える村に潜入したくて仕方ないようだ。目の前の光景に感動しつつも、滅多に見ない程にソワソワしているのが手に取るように分かる。

 だからこそ、俺は早速村への潜入を提案してみた。絶対にその提案に食い付くだろうと確信して。

 するとやはり全員が提案に興味を示し、人口三百人程に見える小さな村へと進み始めた。アイリス国内での初めての村に、俺や仲間達の期待は鰻登りであった。

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