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力を求めて

 とうとう待ちに待った雪解けだ。十メートルを越える程に積もった雪も春の訪れと同時に解け始め、優しい日差しに包まれて直ぐにその姿を消し去った。

 その代わりに地面がビショビショになってしまった事で探索は出来なかったのだが、それも数日経過すれば問題なくなり、漸く十一階層の探索を開始出来るようになった。

 それで探索の準備を万全に済ませた俺達は、先ずは沼地周辺へと足を運んだ。もう少しトカゲ相手に戦ってレベル上げしようという魂胆である。


 だが、それは不可能となってしまう。何故なら、トカゲの生息数が明らかに少なくなっていたからだ。その理由は勿論、冬の間に俺達が沢山倒したからに他ならない。十を越える巣穴に襲撃を仕掛け、その巣穴に居たトカゲは軒並み討伐したのだから、倒したトカゲの数は三百体近くになる。或いは、三百を越えているだろう。

 そんな訳でトカゲをこれ以上に倒してしまえば、この沼地周辺の生態系が激変してしまう事になるので、これ以上にトカゲを倒す訳にはいかないのだ。もう若干手遅れな感じがしないでもないが、沼地を見渡す限りではまだ少なくない数のトカゲが居るのだし、また以前のような沼地に直ぐ戻るだろう。

 トカゲの全長は12メートルを越えるのが基本となるので、それだけ巨大なトカゲに対抗出来るモンスターもそうそう居やしない。沼地の歴とした覇者がトカゲなのだから、俺達が沼地で活動しなければ直ぐにその数を増やす筈だと考えられる。


 それ故、俺達は沼地エリアを抜けてその先へと足を踏み入れた。エメラルド色に輝く見事な湖が広がるエリアであり、安易に足を踏み入れるべきではないエリアとして掲示板で有名になった場所。一見すると綺麗な光景に気を抜いて寛ぎたくなるような場所だが、此処には水を求めて様々なモンスターが集まって来るので、自然と超危険なエリアとなっている。


「さぁ、早速予定の行動に移ろうか」


「うむ。防衛拠点の構築だったか?」


「土壁と堀で囲んだだけの簡易的な物だけどね。でも、集まって来たモンスターが俺達に気付いて襲って来たとしても、その堀と土壁があれば安全に戦える筈だよ」


「最長で十日間の滞在予定と仰ってましたが、それには何か根拠が?」


「無い。初めての場所だから取り敢えず期間を設けただけで、そこに深い意味は無いよ。余裕があったら滞在を延長してもいいし、余裕が無かったら帰還の杖で帰るつもりさ」


「なるほどねぇ。ま、兎にも角にも拠点造りから始めよっかぁ。

 あ、拠点は僕とアグライアに任せてよ。得意だから」


「そうね。地底で活動してた頃は、拠点を造ってそこを防衛しながらモンスターを倒して素材を得るのが基本だったものね」


「へぇ〜、初耳だな。地底の狩りってそれが普通なの?」


「そうね。そうじゃないと危険過ぎて出来ないわね。地上とはモンスターの行動が全くの別物だから、特定のモンスターを探して歩き回るって事はしないのよ」


「興味深い話じゃ。妾でも知らん情報じゃぞ」


「アタシも初めて聞いたわ」


 俺を含めた皆がアグライアの話す内容に耳を傾けていると、テティスが鎚とカイトシールドを構えた。その警戒行動を見せたのはアキとフユも同じで、それらの反応を見せた三者の視線の先に目を向ければ、緑色の毛並みをしている狼の群れが居た。


「数は十五! 俺とハルちゃんが前に出て注意を惹くから、他は各自の判断で攻撃!」


 テティスもいずれは前に出て貰うつもりだが、今はまだ遊撃を任せている。個体レベルがまだ50近く離れてるし、経験も浅いので敵の真っ只中というのは不味いのだ。

 それ故に俺とハルちゃんがいつも通りに先陣切って突入した後は、敵の注意を俺達二人に集中させる事に努め、その間を他の面々に有効な攻撃を任せた。これで不測の事態に陥る事は無い筈。


 その目論見は外れる事なく、難なく狼の群れを蹴散らす事に成功。全ての狼を倒すには至らなかったが、それは仕方ない。逃げに徹したモンスターを追うのは非常に難しく危険となるので、絶対に逃げる敵は追わない事を狩りの基本としてメンバー間で意識の共有をしているから仕方ないという意味だ。

 なので逃亡したモンスターはそのままに、タレイアとアグライアには防衛拠点の構築を開始してもらい、俺を含めたメンバーが狼の解体を始める。とは言え、勿論解体しながらも警戒はしている訳で、何も解体に全集中している訳じゃない。


 そうして解体を手早く済ませた後、一ヶ所に集められた素材をアイテムボックスに収納していると、ふと気付けば小ぢんまりした拠点が出来ていた。ただし、俺が考えていた拠点とは大きく違っていて、その出来映えはとても素晴らしいと思える事間違いなしであった。

 四角く作られた土の平屋を中心に囲う土壁、そしてその土壁の外側には十メートル程の深い堀。俺が想定していた物より遥かに上等な拠点だ。


「テントを張るつもりだったけど、これもいいね」


 簡素な造りだが、雨風凌げるのはそれだけで充分に素晴らしい。雨で濡れた状態というのは精神的にも肉体的にも辛いし、屋根があって壁があるというのは視覚的にも心のゆとりに繋がる部分がある。

 この拠点を造ったタレイアとアグライアの二人がそこまで計算していたのかは分からないが、これなら充分に拠点だと胸を張って言えるレベルだ。俺の予定ではテントを張ってそれを中心に土壁で囲うというもので、それとは段違いである。

 これなら大きな疲れを感じても直ぐに休めるし、意外と長く滞在しながらレベル上げを続けられるかもしれない。そう思いながら平屋の中を眺めていると、湖の方で何か動きがあったらしくテティスに呼ばれて見に行ってみた。


 するとそこには、エメラルドグリーンに煌めく湖面を塗り潰すかのような大群で蠢く魚の群れが飛び回り泳ぎ回り自由自在に行動していた。そして勿論それだけではなく、その魚を狙って来たと思われる熊のようなモンスターが二頭居たのだ。

 どうやらテティスが呼び出した理由は、その二頭の熊を警戒しての事だったらしい。


「デカ過ぎじゃね? ……六メートルくらいはありそうな熊だ」


「初めて見たモンスターになるな。ブリュンヒルデはどうだ?」


「私も初めてですが、知識としては聞いた事があります。確か、魚類を主食とする二角ですね」


「二角って、何をもってして二角なの? 角も何も無いけど?」


「怒ると耳の後ろからそれぞれ一本ずつ角が生えるそうですよ」


「へぇ〜。……でも、主食が魚なら俺達を狙って襲っては来ないだろうね」


 俺の言葉通り、二角と呼ばれるモンスターは一心不乱に魚を取っては食べ、取っては食べを繰り返している。俺達の存在など眼中には無いようだ。

 しかし、そう思ったのも束の間の事で、森から二角を狙って出て来たと思われるゴリラのように屈強そうな人型のモンスターが、その狙っていた二角から俺達へと標的を変更したらしく襲って来た。

 六メートル近い二角を狙うモンスターなのだから、当然その体格は二角と同等か少し大きいくらいはある。浅黒い肌はトラックのタイヤのように頑丈そうで、腕も足も巨木のように太い。


「あ〜………俺達の方が弱そうに見えたのかな?」


「恐らく、そう見えたのでしょうね。因みに、あれはオーガの亜種です。本物のオーガと違って魔法を使わないので若干ですが弱いと言われています」


「まぁ本当に若干の違いでしかないがな。パワーはオーガと変わらんし、スタミナも異常だ。ワタクシの国なら、倒すのに数百人規模でないと勝てん」


「そんなに強いの?!」


「うむ。しかし今のワタクシ達なら余裕だろう」


「はい、姫様の仰る通りです。マスター、ご心配されずとも大丈夫ですよ」


「そ、そう? それじゃあオーガが魔法の間合いに入ったら各自の魔法で攻撃してね」


 数百人規模で倒すと言われて戸惑ったのだが、ヘルもブリュンヒルデも特に焦った素振りも見せずに大丈夫だと宣言するので、土壁の中という安全圏からの魔法攻撃を開始した。

 すると確かに、オーガは土壁どころか堀まで到達出来ずにまる焦げになって沈黙してしまった。ぶっちゃけ圧勝である。


 まぁ防衛陣地を構築しての戦闘なのだから、これが当たり前でないと困る訳で、それはつまり予定通りという訳だ。これが当たり前でなかった時は、帰還の杖を使用する時になるだろう。

 何はともあれ、この戦闘の後は特に何も無く、平穏無事に一日を終える事となった。しかし、その次の日からは次々にモンスターが止めどなく現れ、それを倒し続けるという過酷な日々が始まるのだった。

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