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納得出来ない買い物と納得出来る買い物

 早朝に起きて早々、床で寝た事で全身の痛みを感じながら掲示板を確認した。

 すると攻略スレとやらが出来ていたので、俺はこれ幸いと自分が得た情報を広めつつ有益な情報を得る事に成功した。

 驚くべき事なのだが、既に二階層へと進み探索して来た者が居たのだ。

 そしてその者からの情報によると、二階層では二体から三体で行動するモンスターが普通で、戦闘では複数の敵を相手に白兵戦をしなければならなくなるらしい。

 それを知って、やはり二階層へと進むのは時期尚早なのだと改めて認識出来たし、昨日の判断は間違っていなかったのだと理解した。


「……進んでたと思うとゾッとするな」


 二階層へと何も考えずに進んでいれば、きっと複数のモンスターに対応出来ず、俺はズタズタにされていた事だろう。

 そんなもしもの光景を想像し心底恐怖によって肝を冷やした俺は、これは武者震いなのだと言い訳して硬いパンを水と一緒に無理矢理胃へと流し込む。


「フゥ……よし、今日も頑張るぞ」


 意気込みは充分、気合いも充分。後は結果を出すだけだ。

 昨日も使用した銅の剣を装備し、俺は今日も迷宮探索を開始した。


 ゾンビを発見すれば、背後から全力の一撃を。

 スケルトンを発見すれば、これまた背後から全力の一撃を。


 油断など微塵も存在しない。

 細心の注意を払った行動であり、身の安全を第一に考えた安心安全の策。

 この策によって俺は着実にモンスターを倒し続け、また、沢山のアイテムを入手する。

 それと、昨日は入手出来なかったものの、掲示板に書かれていた新情報の通り、スケルトンから錆びていない銅の剣を入手する事にも成功した。

 確かに極希にだが、錆びていない銅の剣をスケルトンが落とすようだ。

 これは予備武器として残す事に決め、その後も淡々と一階層を彷徨き回る。


 そうして六時間程だろうか、距離にして30キロぐらい歩き続けた俺は拠点へと戻った。

 流石にかなり堪えたと心底思える俺の足は正に棒のようで、レベルがどれだけ上がっているのかしか考える余裕はなく、帰還するなり直ぐにパソコンに向かう。



★★★★★★★★


level:5 +2


名前:久遠湊


性別:男


種族:ヒューマン


ギフト:テイム、アイテムボックス


スキル:無し


武器:銅の剣


盾:無し


頭:無し


胴:布の服


腕:布の服


足:布の服


装飾:無し


★★★★★★★★



 上がってはいるが、昨日より遥かに戦闘回数が多かったのにも関わらずレベルの上昇は低かった。その事実には素直に落胆するしかない。自分の予想では二桁には到達したのではと期待していただけに、この事実は正直言ってガッカリだ。


「……レベルが上がれば上がる程、やっぱり必要経験値数が上がんのかなぁ?」


 ゲームではお約束の設定だが、リアルでもその設定を引っ張ってくる必要はないだろうとしか言えない。これでは10レベルに到達するのに何日かかるか分からないし、もしかすると二週間ぐらいは覚悟しなければならないのかも。


「これじゃあ迷宮クリアまでに何ヵ月かかるか分からんな。……そもそも迷宮の階層が何階層まであるのか分からんし、迷宮の階層次第では年をまたぐ覚悟も必要かもしれん。

 ……そう思うと引くわぁ」


 迷宮をクリアする為に、年をまたぐどころか数年を必死に貧相な拠点を基に探索を続ける俺。

 そんな自分の未来を想像して、頬が盛大に引き攣った。


「絶対嫌だ。こんな何一つ楽しみの無い空間で、数年も戦い続けていたら精神が狂うわ」


 迷宮探索を続けていれば、何れは使い魔を得る事もあるのだろう。

 しかし、多分その使い魔は人語を操れない類いだとしか思えないし、きっと動物系の使い魔が殆どになるんじゃないかと睨んでいる。


 そんな使い魔とのコミュニケーションを想像するに、犬を世話するようなものなのだろうと思う。

 そう考えると確かに朗らかな光景が見えるものの、やはり言葉を交わしたコミュニケーションが恋しくなる筈だ。

 独り孤独なのが好きな人間以外、数年も言葉を交わしたコミュニケーションが出来なければ相当ツラいだろう。


「……狂うのが先か、クリアするのが先かって感じになりそうで怖いな」


 いや、もう未来を想像するのはやめよう。少なくとも、悪い未来を想像するのはやめるべきだ。

 精神衛生上、決していいとは思えない。


「気持ちを切り替えて、本日の稼ぎを確かめるか」


 アイテムボックスを念じて今日の収穫を全て取り出すと、テーブルの上には収まりきらず大理石の床へと落ちる。

 それを見て、こんなにアイテムを入手していたのかと驚くが、その事実によって先程まで抱いていた暗い気持ちが吹っ飛んだのは実に有り難かった。


「スッゲーな!」


 昨日の倍以上にはなるだろうテーブル上の光景に、俺はテンションを上げつつ物品売買を選択した。



★★★★★★★★


錆びた銅の剣×128

毒消し薬(下級)×39


★★★★★★★★



 錆びた銅の剣128本で1280DPになり、毒消し薬(下級)が一つで50DPになるので、毒消し薬(下級)が全部で1950DP、錆びた銅の剣と毒消し薬(下級)を合わせて3230DPの稼ぎとなる。

 この結果には、ニンマリだ。


「昨日の稼ぎと合わせて4000DPを越えてるぞ!」


 この分なら、使い魔の施設を増設するのも遠くないだろう。

 しかし、先ずは現状で必要な品々を購入しなければならない。

 その筆頭がベッドであり、次に硬いパンではなく柔らかいパンを始めとした食材だ。

 それ以外で言うと、歯ブラシだったり歯磨き粉であるとか、細々とした日用品である。


「4000DPもあるんだから、色々と買えるな!」


 勿論、4000DPもあるとは言え贅沢をするつもりはないが、それにしたって迷宮探索で稼いだDPで何かを買うという事実が妙に嬉しかったりする。

 俺はそのワクワクに従って様々な品をクリックして買うと、それを洗面所やトイレなどに置いて行く。

 そして欲しくて堪らなかったベッドを、拠点の図面へと切り替えたモニターを睨み付けつつ最適な位置を考え設置した。


 まぁそうは言っても、現状の拠点はトイレと洗面所とパソコンがある大きな部屋しかないので、ベッドを設置する場所は必然的にこのパソコンがある部屋になる。

 寝室専用の部屋を増設してもいいのだが、まだ一人寂しく生活している状態では問題などない。

 それ故、俺はベッドをパソコンの直ぐ横に設置する事を決め、マウスを操作してクリックする。


「おぉ、相変わらずの不思議配達仕様だ! それはまぁ………うん、その不思議仕様には興奮するけど、このベッドには興奮しないかな」


 クリックと同時に出現したベッドに興奮するものの、その出現したベッドには一言申したい。

 何故に藁束の山なのだろうか。もう少し何かそれらしい物があったのではなかろうか。


「中世時代の人間じゃあるまいし、藁のベッドはないでしょうよ」


 少しどころか、かなり精神的に凹むフォルムだ。

 これが2500DPかと思うと、流石に酷いのではなかろうかと言わざるを得ない。

 これで怪我や毒を癒す効果が無かったのなら、俺はマジで抗議も辞さないぞ。


 コメカミをピクピクさせながらそう思う俺は、気分を変えようと買ったばかりの燻製肉を手に取る。

 値段は一番安い150DPの肉だが、生き返ってから初めての肉になる訳で、ともすれば少々テンションも上がる。


「成る程。この匂いから察するに、桜チップを使った燻製だな」


 匂いは上々だが、まだ油断大敵だ。2500DPのベッドが藁束だったのだから、実際に食べるまでは気を緩めるべきではない。

 匂いからの少々の期待と、今までの現実からの結果を天秤に掛けつつ、俺は燻製肉を恐る恐る口に運ぶ。

 そして肉を噛み、それから噛みちぎって理解した。

 確かに一番安いので肉の質には納得する。しかし、その香りは充分に素晴らしい。

 これは初めてガッカリしなかった商品である。それ以外は全てガッカリしたが、この燻製肉は及第点だ。

 肉の質を必死に燻製という手法を仕様して旨く仕上げしており、これには俺も大いに満足である。


「おぉ………やれば出来るじゃん」


 商品の値段設定や商品の選別をしている存在が、果たして神様なのか掲示板に書かれていたように神様の部下によるところなのかどうかは判然としないが、それでもこの燻製肉には称賛を送りたい。

 これは素晴らしい。生前であっても、きっと俺なら気にせず買うレベルの肉だと言える。

 少々固すぎる気もするが、決して噛みきれない訳でもないし、昨日の夜や今日の朝に食べた硬いパンよりは柔いので問題無し。


「うんうん、暫くはこの肉を買い続けよう」


 保存のきく調味料も細々とだが購入出来たし、それを使って味変も可能なので暫く飽きる事はないと思える。

 これはいい買い物をしたと、そう断言出来るだろう。

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