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有意義な情報

 モンスターが意外にも旨いという事実に驚いたが、それはそれとしてキングリッチというモンスターがあくまでも魚の形状をしていたので食べる事が出来たのであって、二足歩行のモンスターを食べる気になるかと言われれば否であるとしか言えない。実際、この世界の住人である使い魔達も二足歩行のモンスターは口にしないようだし、それが常識でもあるようだ。


 そんな訳で、倒したオークやゴブリンを俺は口にしていないし、これからも決して食べる事はないと断言出来る。何せ、見た目がキモいのだから当然だろう。

 そのような結論に達した挑戦者は他にも居るが、しかし変わった者達も居て、そんな奴らはオークとかを食べてみたりしてるらしい。正直言って昆虫を食べるぐらいには俺にとって最悪の選択だとしか思えないが、興味本位で口にする猛者も居るようだ。


 で、その肝心の味の感想はと言えば、かなり不味いそうだ。匂いも食感も何もかもが本当に最低最悪なのだそうで、決して口にしないほうがいいと注意喚起されてあったと記憶している。

 よくもまぁ食べてみようと思えたな、としか俺からは言えない。他の多くの挑戦者が俺と同様のコメントをしていたくらいにはドン引きした出来事だった。

 しかし、食べて美味であると言えるモンスターも確かに存在していて、それは挑戦者達の間で貴重な情報として相互に教え合う事となり、グルメ掲示板が立てられる結果となった。


「まぁ息抜きも必要だし、グルメスレとかが立つのはいいんだけど………」


 やはり納得出来ないのがゲテモノを食する事であり、一部では巨大ムカデを食べたりする奴が存在する事が俺には理解出来ないし決して理解したくない。

 それは兎も角、俺はキングリッチの情報をグルメスレに投稿した後、何か目ぼしい情報はないものかと様々なスレに目を通した。

 その結果は、予想していた事だが残念なもので、有益なものは一つとしてなかった。


「マスター、どうかしたぁ?」


 俺がパソコンのモニターと睨めっこしていると、気落ちしていたのを察したのかタレイアが声を掛けて来た。

 先程まで工房に閉じ籠っていたのだが、恐らく休憩にでも入ったのだろう。


「何か面白い情報でもないかなぁと調べてたんだけど、何も無くってね」


「面白い情報? う〜ん……それなら、造船技師を前に欲しがってたからテイムしに行く?」


「いやいや、確かに造船技師をテイム出来るならテイムしたいけど、そうそう見付からないじゃん? 前に挑戦したけど、その時はアグライアとタレイアをテイムするだけで精一杯だったし」


「ふっふっふっ。でも、僕達をテイム出来て良かったでしょ?」


「まぁね。知的で有能技術者で、何より現実離れした美人の二人をテイム出来たんだから、俺は誰よりも幸せ者だよ」


「ま、まぁそれほどでもあるかなぁ」


 俺が本心からの素直な感想を告げると、頬を真っ赤にしてモジモジするタレイア。普段は小悪魔も見惚れる程に妖艶な彼女だが、時折このような仕草を見せる時があり、それが何よりも愛おしいと思える。


「素直なマスターに免じて、情報を一つ上げようじゃないか」


「情報って?」


「ふふん。造船技師の情報さ」


「えっ?! 知り合いでも居るの?!」


 たわわに実った胸を強調するように背を反るタレイアは、いつの間にかリビングに来ていたアグライアに視線を向けた。

 するとその視線に気付いたらしいアグライアが妖艶な微笑みを浮かべ、俺とタレイアの話に加わって来た。


「ワタシ達がベネン国に滞在していた期間は短いけど、何一つ情報収集していなかった訳じゃないの。ダークエルフとダークドワーフのワタシ達はどうしても目立っちゃうから、その風避けに使えるものを探してたって訳ね」


「うんうん。それで?」


「ウフフ。マスターって夜の方は紳士的だけど、こういう場面では心底積極的よね?」


 そう思うでしょ、とウィンクするアグライアに、タレイアは妖艶に微笑みながら頷く。


「僕としてはその紳士的な振る舞いが嬉しくもあるけど、二回戦からは野獣のようになるマスターも好きだけどねぇ」


「……………」


 俺としてはグッと言葉に詰まる言い分に何も言えないのだが、それに気付いてわざとらしく胸を押し付けて来るタレイアにはますますもって何も言えなくなってしまい、更に言葉に詰まってしまう。


「ウフフ。マスターをここでイジメ過ぎちゃうと、夜に仕返しされちゃうわね」


「そうだね。それはそれで楽しみではあるけど、造船技師についてそろそろ教えちゃう?」


「フフフ。そうしましょうか」


 口で彼女達の上に立つのは無理だと思えるので、夜に仕返ししてやると心に決めつつ、俺は咳払い一つして話の先を促す。

 すると、アグライアとタレイアが二人揃って口を開いた。


「「ベネン国には、変わり者のドワーフが居るの」」


「変わり者のドワーフ?」


「そう、変わり者のドワーフよ。通常のドワーフは、地上から離れるのを忌避するものなの。でも、そのドワーフは海が大好きらしくて、海に自分の造った船で出るのが夢らしくて造船技師にまでなっちゃった変わり者のドワーフと知り合ったのよ」


「本当に変わってるよねぇ。それぐらいならまだいいんだけど、満足する船を造る為にそりゃもうあり得ない程に借金しちゃってるくらいだったから、あそこまでいくと見てるこっちも変になりそうだったもん。何かに取り憑かれてるのかって感じで船に固執する様は異常だったしね。

 ま、地底から出た僕達も故郷の奴らからしてみれば相当の変わり者と言えばそうなんだけど」


「それもそうね。ワタシ達も相当の変わり者には違いないわね。

 それはそうと、マスターがそのドワーフをテイムする気なら、今がチャンスだと思うわ。と言うより、今を逃すと次は無いでしょうね」


「何で? ベネン国に居るのは分かってるんだから、じっくり探りながらチャンスを待てばいいじゃん」


「それがそうとも言えないのよ。ね、タレイア?」


「その通りだね。何故なら、そのドワーフの娘って借金しちゃってるって言ったでしょ? だから、奴隷落ちしちゃったんだぁ」


 それは不味い。と言うか、それだと壁の外に出る事は絶対無い訳で、既にテイムするのは無理なのではと思わざるを得ない。

 一言に奴隷と言っても種類があるらしく、場合によっては冒険者の真似事をさせられて素材を採って来るように命じられて外に出る事もあるようだが、女の奴隷の場合は大概が室内向けの労働をさせられるのが常識だ。例えば家屋の掃除、洗濯、調理、夜伽などである。


 そう考えると、その奴隷落ちしたドワーフは女性らしいので、十中八九室内向けの労働を強いられる事になる筈だ。つまり、壁の外には出て来ない訳で、俺がテイムするチャンスは皆無という事になる。

 しかし、アグライアは今がチャンスだと言ったのだし、何かしらテイムするチャンスがある筈なのだが、どう考えても奴隷落ちした女性って時点で終わってるとしか思えない。


「ウフフ。マスターのその物思いに耽る顔が好きよ、ワタシ」


「真剣な表情にはグッとくるよねぇ。僕もマスターが時折見せるその表情が好きで、思わずキスしたくなっちゃうなぁ」


 絶対にからかわれてるとしか思えず、夜には覚悟しとけと内心叫びながらジト目で二人を見詰めると、二人は揃って肩を竦めた。

 俺からしたら、それは俺がする反応だろうと反論したくなるが、敢えて黙ったまま話の先を促す。


「こりゃ夜の方は覚悟した方が良さそうだねぇ」


「ウフフ、そうね。また気絶するまでせめられそうだから、そうならないように話の先を説明するわ。

 その奴隷落ちしたドワーフの娘は、外見が非常に整っていた事と造船技師って事が重なって、相場の数十倍の価値が付いたのよ。でも、そんな価値の付いた奴隷を買える者はそうそう居ないのが普通」


「んふふ。それでマスターにとっては都合のいい話になるんだ」


「何が言いたいのか、俺にはさっぱり分からないんだけど?」


「その娘を買ったのがブリッツ国の貴族だと言ったら? それでもマスターは分からないのかしら?」


 なるほど。つまり、ベネン国の奴隷商からその奴隷落ちしたドワーフの娘を買ったのがブリッツ国の貴族なら、当然ベネン国からブリッツ国へと身柄を移送する訳で、その移送している途中を襲ってしまえばいいという訳だ。

 確かにそれだと俺にとっては非常に都合がいいと言える。何故なら、危険を冒して壁の中に侵入しなくていいし、そもそも遠いベネン国まで移動しなくていいのだ。これ程に都合がいい事はない。


 ただ問題となるのは、いつ移送されるのかが分からない事だろう。アグライアとタレイアが奴隷落ちしたドワーフの事を知ったのは、俺が二人をテイムする前の話になる訳で、そうすると三ヶ月以上も前の事になる。既に移送されていてもおかしくないし、もしかしたら手遅れの可能性もある。


「ベネン国からブリッツ国に入る関所で待ち構えるしかないのか? いや、それだと既に関所を通過した後なら遅いよな。……でもやらないよりはマシか?」


 考えに耽ってブツブツと呟いていると、二人が揃って吹き出した。

 それに気付いて視線を二人に向けて見れば、二人は妖艶な微笑みで揃って口を開く。


「「心配しないで大丈夫」」


「ウフフ、マスターって可愛いわね?」


「うんうん、ギュッとしたくなるよねぇ」


「大丈夫って………何が?」


 彼女達のペースに嵌まると泥沼なので、気にしない振りで尋ねると、少し拗ねた様子でアグライアが説明を続ける。


「ベネン国からブリッツ国に入るには、関所を通過しなきゃならないわ。その他には未開拓地に入ってブリッツ国内へと進むしかないの。

 何故なら、山脈がベネン国とブリッツ国の間に存在するからよ」


「その通り。それでその関所っていうのがその山脈の山と山の間に存在する道の先にあって、高い山を登った場所に関所が設けてあるんだ。

 でも、そんな高所に存在する関所だけあって、当然不都合があるんだよ」


「冬はまだまだ先でも、関所がある町は夏の終わりには雪に閉ざされてしまうの。そして冬を目前の今の季節となったら、尚更の事ね」


「それはつまり、その関所がある町に奴隷の娘が足止めされてて雪解けまで居るって事?」


「「正解」」


「その町に潜入するのは、王都に侵入するより簡単?」


「そうだねぇ、自然の要塞って事で気を抜いてるんだろうけど、かなり杜撰な警備だったのを記憶してるのは間違いないね。僕としてはチョロいと思うけど、アグライアはどう?」


「ワタシも同意見ね。簡単に侵入出来るから、ドワーフの娘をチャチャッと弱らせてテイムしたら即行で逃げれば問題ないと思うわ。ドワーフの娘も戦うタイプじゃなさそうだったし、テイムするのは容易いでしょうしね」


 もう直ぐ本格的な冬が到来する。そうなったら深く積もる雪で満足に移動もままならないそうなので、となれば今動くしかないだろう。

 ならば考える必要など一切無い。


「よし、そんじゃあその関所を目指して出発の準備だ!」 

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