新たなメンバー
銀髪で褐色の肌、八頭身で大きな胸と見事な腰の括れ、そして重力に逆らうキュッと締まった少し大きめなお尻を左右に振りながら歩くダークエルフの女性の顔には、右頬に紫色の蝶の刺青があり、それと整った目鼻立ちのせいで色気が凄まじい。
その隣を歩くダークドワーフの女性は、身長140センチ程にしか見えないが此方も大きな胸をしていて、その下に視線を移せば細い腰の括れが覗き見え、そして此方も少し大きめなお尻が重力に逆らって存在しており、ボーイッシュな短めの髪とは正反対に実に妖艶な表情を周囲に振り撒いていた。
ヘルやブリュンヒルデも絶世の美女としか思えない程に美しいが、隠れた状態から覗き見える目の前の二人の女性は、仲間となったヘルやブリュンヒルデとは違う意味での絶世の美女であった。
目の前の二人を例えるならば、沢山の男達を虜にする小悪魔と言った感じだ。いや、小悪魔などと可愛らしい存在ではなく、悪魔のように美しい女性達だと言った方が正しいだろう。
そんな二人に思わず見惚れて呆然としてしまっていると、ヘルやブリュンヒルデが会話を盗み聞きしていたようで、何やら興奮しながら俺へと話し掛けて来た。
「マスター、あの二人の会話から察するにダークエルフの方が薬師であり錬金術師のようです。薬術の為の素材と錬金術の為の素材を探してくれと、それぞれの素材の名称をダークドワーフに伝えて頼んでいたのを耳にしました」
「それに、愚痴も呟いておった。周囲が五月蝿くて集中して錬金術や薬術に手を掛けていられないと。
どうやら二人に近付き何かしらの情報を得ようとしている者達がいるらしいな。まぁそれは当然であり、そういう存在が居なければその方が不自然なのだが」
かなり重要な情報であり、それを伝えてくれる二人には本当に感謝すべき場面であるが、俺はまだダークエルフとダークドワーフの容姿を見て現実感が無くなっていて、酩酊状態のようにフワフワとした思考で考えが纏まらず、まるで夢うつつの気分だった。
するとそんな俺に気付いたからなのか、ハルちゃんから突っ込み、もといそこそこ強烈な肘打ちを食らわされた事で漸く思考がマトモになり、俺はハッと我にかえる事が出来た。少々痛い思いをしたが、有り難いと思わねばならないだろう。
「あ、えぇと……と、取り敢えずテイムしなきゃね」
ハルちゃんからの視線が妙に迫力があって怖いので、俺はヘルとブリュンヒルデのみを意識して視界に入れながら吃りつつ呟く。
それでほんの少しハルちゃんからの圧が弱まった事を感じて、ホッと胸を撫で下ろすと同時に明確な指示をメンバー全員に伝え始める。
「ハルちゃんとナっちゃんは俺と三人で、標的二人の背後から急襲する。それでダークドワーフを行動不能にしよう。
その間に他の面々がダークエルフを頼む。最悪の場合でもこっちの戦闘に関与出来ないようにしてほしいんだ」
流石に戦闘関係の話題になればアキとフユも真剣な様子で俺の言葉に耳を傾けており、指示を全て伝え終わると全員が大きく無言で頷いた。
実に頼りになるその仕草に微笑みながら、早速急襲するに都合のいい位置まで移動を開始。そして標的二人を挟む絶好の位置を確保すると、急襲する為の合図を送ろうとして草むらから手を伸ばす。
が、しかし、その瞬間に予期せぬ第三の訪問者を察知して身を強張らせるしかなかった。
予期せぬ訪問者はヒューマンの八人組で、冒険者とは違って剣や槍を武器として装備している。この森に十日間滞在していて初めて見る剣と槍を装備した者達だ。
予期せぬ訪問者は全員男性で、中々に屈強そうに見えるその男達は、俺には理解出来ぬ言語で捲し立てるかの如く早い口調で標的二人へと何かを叫び始めた。
それで何事かと背後を振り向いた標的二人の女性は、男達を見るなり揃って大きく溜め息を吐く。余程に嫌な人物達なのか、標的二人の表情は実に渋い。
それを男達も感じ取ったらしく、怒声としか思えぬ声音で再び何やら捲し立てるように叫んだ。そしてその叫び声の次の瞬間には、男達全員が武器を掲げながら俺達の標的であった二人の女性に向かって駆け出す。
「は? ちょ、ちょっと何が起きてるのか分かる?!」
「……………」
「……………」
「え? ジェスチャーが複雑でよく分かんないんだけど??」
何やらアタフタするハルちゃんとナっちゃんのジェスチャーからは何も読み取る事が出来ず、それで直ぐに諦めて視線を標的であった女性二人に移せば、既に派手な戦闘が始まっていた。
ダークエルフの女性は両手に炎を灯し、その両手から火球であったりとか火炎放射であったりとか、他にも尖った槍の如く炎を変化させて射出しており、更には炎が灯った両手で直接男の胸ぐらを掴んで男を燃やしながら鋭い投げ技まで披露していた。派手も派手なその戦闘は、見ていて素直に格好いいと思える程だ。
そしてダークドワーフの女性はと言うと、蝶のように舞いながら男達から武器を軽々に奪ったかと思えば、一瞬で土のドームを形成して男達四人を閉じ込める。そこからはドン引きなのだが、少しずつドームが地面へと沈み込み始め、それを見て何だ何だと疑問に思って見ていれば軈て完全に地面へと沈んでしまったのだ。つまり、生き埋めである。
華麗に立ち振舞うダークエルフと、華麗ではあるが残酷なダークドワーフのコンビ。これには流石に頬が痙攣したと言っても過言ではない。
そして全ての男達が死亡した後、標的の女性二人が何やら話し合い始めるのを眺めながら、俺は内心でテイムしても素直に従ってくれるのだろうかと疑問に感じざるを得ず、はっきり言ってしまえばビビっていた。
しかし、そんな俺の脇腹をハルちゃんとナっちゃんの両者から小突かれる事で逃げ場はないのだと理解させられ、渋々テイムするべく草むらから手を伸ばしてその手をクルクルと大きく回す。
その次の瞬間、先ずは俺とハルちゃんとナっちゃんが先行して草むら飛び出し、標的二人の視線を集める。そして視線を集めつつダークエルフに向かって駆け出し、間合いに入るなり戦闘が開始された。
標的二人は、俺は兎も角としてスケルトンであるハルちゃんとナっちゃんの姿を見て大きく驚いており、その理由はよく分からなかったが隙をつける絶好のチャンスだったのは間違いない。それに戦闘を終えたばかりで気を抜いていたのもあるのだろうが、先程に見せていた華麗な魔法を発動させていなかった。
それを見てこれ幸いと、俺とハルちゃんの仕掛けた攻撃は見事にダークエルフの両足を負傷させる事に成功。次いで両足を負傷して地面へと倒れたその隙をつくように、ナっちゃんから放たれた矢がダークエルフの両肩に吸い込まれるように命中した。
苦痛に表情を歪ませる標的は、ここまで追い込まれて尚立ち上がる素振りを見せるが、俺は背後へと回り込みながらテイムスキルを発動させ接近し、半ば立ち上がりかけていたダークエルフの土の付いた背中へ手の平を押し当てた。
すると女性は例に漏れず、全身が光に包まれると直ぐに消え去る。イレギュラーが起きていない限りは、十中八九拠点に転移した筈だ。
「よし! 次はダークドワーフ………だったんだけど、もう終わってるね。前にもこんな事があったような気がするなぁ」
ヘルとブリュンヒルデをテイムした時と実に似た展開に少々苦笑するものの、あの時より今回の方が更に見事な結果を示している。標的二人の内の一人であるダークドワーフは、既に意識を失っていたのだ。
意識が無いのであれば当然抵抗は出来ない訳で、俺は完全に無防備な姿を晒すダークドワーフに近付くと、お腹に優しく手を当ててテイムスキルを発動させた。
「皆お疲れ様! 少し予定とは違ったけど、一旦拠点に帰ろう。時期的に寒くなってきたし、そろそろ野営も辛いしね」
「あの拠点に帰れるのは実に喜ばしいが、しかしいいのか? まだ第一の目標であった造船技師をテイムしておらんが?」
「そうですね。もう少し粘ってみるのもいいと思いますが?」
「いや、流石に限界だよ。もう旅に出て二ヶ月も経つんだから、そろそろ快適な空間で休息しないと精神的におかしくなっちゃいそうだし」
「それはワタクシとブリュンヒルデを見るマスターの表情が関係しておるのか?」
「な、ななな何の事かな? はははは、さっぱり分からないなぁ」
本当の事を言うと、自身の箍が外れそうになっている事を充分に認識しており、ヘルの言う意味も理解していた。
そう、長い過酷な生活に理性が悲鳴を上げた結果、精力増強スキルのデメリットに抗えなくなり始めており、絶世の美女であるヘルとブリュンヒルデに手を出しそうになっていたのだ。
だからこそダークエルフとダークドワーフの二人を見て、その現実離れした美しさに思考を掻き乱されたのである。本当にギリギリの状態だったと言ってもいいだろう。
「マスターがワタクシ達の事を気遣ってくれているのは充分に察しておる。この旅でマスターの人格なども深く知れたしな。
その上で言うが、ワタクシとブリュンヒルデはマスターに抱かれたいと素直に思っておるぞ。使い魔になったから仕方ないと言う訳ではなく、マスターを雄として認め、マスターに惚れておるからこそ言うておるのだ」
「へ? あ、あの、え………?」
「私達は本気ですよ、マスター。嫌々ではなく、本当にマスターに抱かれたいと思っております。
その、マスターはスキルのせいで限界のようですし、我慢なされなくとも宜しいのですよ?」
「……おぅふ」
限界だった事がバレて恥ずかしいやら絶世の美女二人に告白されて嬉しいやら、自分自身でも自分の感情が訳分からなくなった俺は、無言で帰還の杖を使用した。




