表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/252

旅に慣れた今日この頃

 ベネン国を目指して進む道中では、数々のモンスターに襲われるのは当然の事で、その倒したモンスターを全て解体して必要な素材を確保するという日常が普通に感じられるくらいには沢山解体し続けた。

 そうしていると解体時間が少しずつ短くなり、目的地に到着する頃には旅を始めた当初とは比べるのが烏滸がましい次元で素早く解体出来るようになっていた。


 そう、漸く俺達はベネン国の領土内へと侵入を果たしたのだ。一ヶ月を要したこの旅も、やっと終わりが見えて来たと言えるだろう。

 ただし、まだベネン国内へと入っただけであり、造船が盛んな王都には未だに辿り着けた訳ではない。恐らく、後二週間は時間を要する筈だ。


 俺達が通っていた場所は、どの国にも属していない空白地帯。未開拓地と言えばそれで伝わるだろうが、全く人の手が入っていない場所だった。

 それ故、ベネン国を目指しての道中は道無き道をひたすら進む辛いものであり、しかしそれが幸いしてベネン国の関所も無かったので騒動も一切無くベネン国内へと入れたが、それだけに非常に時間が掛かったし本当に疲れた日々であった。

 だからだろうか、まだ二週間は歩き続けなければならないと理解していても、何故か物凄い達成感があったのだ。まるで登山していて無事に登頂を果たしたかのような達成感である。


「此処まで長かったねぇ〜」


 大きく深呼吸して告げた俺の言葉に反応して、ハルちゃんやナっちゃんが大きく頷いた。そしてアキとフユは、特に何も感じなかったのか大きく欠伸している。

 そんな俺達とは正反対に、旅の当初はまだ余裕のあったヘルとブリュンヒルデの二人だけは心底疲れた様子で、その疲労感を隠す事が出来ない次元で疲弊していた。


「まだヘルとブリュンヒルデの二人とはレベルの格差が大きいし、感じる疲労感が全く違うと思うんだ。だからさ、今日から三日間は此処で休息しようと思うんだけど、どう?」


 俺の提案を耳にして新加入したヘルとブリュンヒルデは申し訳なさそうにしているが、ハルちゃんやナっちゃん、それにアキとフユも否定する気は一切無いようで、古参メンバーは爽やかに全員同意してくれた。

 それで少し安堵した様子のヘルとブリュンヒルデだったが、寧ろアキとフユは遊びたかったらしく、疲れた二人より嬉しさを爆発させて飛び回っている。

 それを見て今度は心底ホッとしたらしく、ヘルとブリュンヒルデはその場に腰を下ろして大きく息を吐いた。もう限界に近かったようだ。


 これまでの道中でも二人を気遣って何度か休息の日を儲けてはいたが、それでも足りなかったのだと現状の二人を見て察し、俺はパーティーリーダーとして少し反省せざるを得ず、疲れた様子の二人をそのままに野営の準備に取り掛かる。

 先ずはアイテムボックスからテントを取り出し手早く組み立て、その次には薪を用意して火を点ける。その後は滋養強壮に良い料理を作り終了だ。

 もう一ヶ月以上も同様の生活なのだから、最早慣れてしまった一連の行動には拙い部分など微塵も無いと言えるだろう。


「さぁ、皆は先に食べてていいよ。俺は旅の疲れを取る為の秘密兵器を用意してるから」


 心底疲れたヘルとブリュンヒルデは、その他の面々と同じく俺の言葉に疑問を持ったようで全員が同時に小首を傾げた。アキやフユも同じ仕草を見せるものだから、絶世の美女や可愛い二頭だけでなく骸骨の二人も合わせて見せる仕草にはそのカオスっぷりが実に凄まじい。

 しかし妙に全員が可愛らしく思えて、俺はそれに耐えられず笑いながらテントから少し離れた場所に移動すると、土魔法で簡易的な壁を自身の周囲に創る。

 実は属性魔法のスキルを旅の前に全部購入しており、それは俺だけじゃなくパーティーメンバー全員にも買って付与させていて、それでこうやって土魔法を行使出来るのだが、まぁ今はそこが重要な話ではない。自身の周囲を囲うように創った土壁の中央に、今まさにアイテムボックスから取り出して設置する品が重要なのだ。


 俺は喜ぶだろう皆の笑顔を想像して………いや、アキとフユだけは嫌がるかもしれないが、それでも他の面々は嬉しさを爆発させるだろうと想像しながら、アイテムボックスから一度に五人は入れる大きさの大理石で出来た風呂を取り出し設置し、その横にシャンプーや石鹸と共にタオルなどを置いておく。

 そして風呂に水属性魔法を行使して温水を入れ、その温度を実際に手で確認した後は俺も食事を摂る為にテント前へと戻る。


「アキとフユ以外は、お風呂を用意したから入ってくるといいよ」


「真か?!」


「お風呂ですか?!」


 驚きを露にするヘルとブリュンヒルデの二人、拍手するハルちゃんとナっちゃんの二人と言った感じで、それぞれに嬉しさを爆発させるのを見て思わず自分も嬉しくなり、俺は満面の笑みを浮かべて頷く。

 すると早々に食事を済ませた彼女達は、四人揃って風呂へと駆け出した。旅の道中は水魔法での温めの水浴びばかりだったので、余程に風呂が恋しかったのだろう。


 ヘルやブリュンヒルデから聞いたのだが、風呂に入るのは王公貴族だけのようで、しかも毎日は入らないのが普通なのだそうだ。それなのに、拠点に風呂があって毎日入っている俺達を見て最初は大いに驚いていたのを記憶している。そして二人も毎日入るようになって、それで風呂の虜になってしまったらしい。

 だからこそ、風呂の無い旅生活は余計に辛かったのだろうと思う。人間というのは、贅沢に慣れてしまうとそれが当然となり、その当然の生活が無くなると精神的に大きな負担となるのだから、二人の反応も頷けるというものだ。


「ま、喜んでくれてるみたいだから良かった。それは兎も角、女性陣が上がったらアキとフユは俺と一緒に入るからね?」


「ミャ?!」


「ッフ?!」


「絶対に入るからね?」


「ミャン!!」


「ッワフ!!」


「イヤイヤじゃないの。君達は、俺達が旅の道中で水魔法で温めのシャワーを浴びて過ごしていたけど、それすら拒否し続けてたでしょ。流石に臭くなってるよ」


「ミャ〜」


「ッフッフ」


「互いに匂い合って臭くないアピールしても、それは本当に無駄だから。久し振りに隅々まで洗うからね?」


 この世の終わりかのように項垂れるアキとフユには悪いが、全身洗うので覚悟していてほしい。拠点で過ごしていた時は毎日風呂に入っていたが、その時は諦めていたのか素直に風呂に入っていた。しかし、旅が始まるとアキとフユは野生に戻ったかのように体を洗うのを嫌がり始めたのだ。

 慣れない旅という事もあって嫌がる二頭を仕方ないと思い甘やかしていたが、旅に慣れてきたので今日からは毎日洗うつもりである。それは容赦するつもりがない。

 何せ、アキとフユは本当に臭いのだ。獣臭が凄いし、雨が降った時などその匂いは更に増して臭かったりする。まるで雑巾だ、とまでは流石に言わないが、それに近い匂いがするのだから流石に放っておけない。


「犬用と猫用のシャンプーで隅々まで綺麗にした後は、ゆっくり風呂に浸かって最低でも十分は入るつもりでいてね?」


「ミャ〜」


「クゥ〜」


「甘えても駄目」


「ミャン!」


「ッワフ!」


「逆ギレしても無駄」


 俺が一切引かない事を悟った二頭は、流石に諦めたのか伏せの状態で身を低くすると両前足で顔を覆っていた。妙に人間臭い仕草にプッと吹き出すものの、俺は女性陣がホクホク顔で風呂から上がった後に問答無用で嫌がる二頭を引き摺って風呂に入った。

 その時の二頭が入った風呂のお湯は直ぐに汚くなり、何度もお湯を入れ替える羽目になったのだが、それでよく理解出来た筈だと言えるだろう。やはり頻繁に体を洗っていないと、これ程に汚くなるのだと。

 そして、身綺麗になった二頭を見て改めて匂いを嗅ぐと、やはり雑巾のような匂いがしていたのは間違いでは無かったのだと気付かされた。どうやら、俺の鼻も多少感覚が麻痺していたのか、二頭の匂いを若干甘く考えていたらしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ