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地上という名のダンジョン十一階層

 太陽の下に出る事や自然溢れる光景など、これから扉を潜れば沢山の久し振りを経験するだろうと思い、期待が高まり心臓の鼓動が若干早くなっているのを感じた。

 迷宮へと来てからもうすぐ四ヶ月が経過する事になり、無機質な迷宮内しか目にしていない最近となっては自然の中で深呼吸をする事さえ全く出来ておらず、地上に出るのは本当に久し振りとなる。

 それ故の期待が高まるのは必然。外に出るという単純な事がこれ程に興奮するのかと驚愕するくらいには気持ちが昂っていた。


「皆、これから十一階層に行く訳だけど、くれぐれも燥ぎ過ぎないようにね。油断していてモンスターに襲われたりするかもしれないし、気を引き締めて行こう」


 俺がいつもとは少し違うというのを雰囲気で感じているからか、ハルちゃん達は不思議そうに俺を見つつ一応は頷いた。

 彼女達からしたら外に出る事など別にどうという事ではないのかもしれない。このメンバーの中にあっては、俺がマイノリティなのだろう。


 そう思い少し苦笑しつつ、俺は十一階層に繋がれと念じてドアノブを捻る。そして少しずつ扉を開いていけば、緑豊かな匂いが鼻腔を擽った。

 それを実感して扉を開く速度が若干早くなり、完全に扉を開けば期待通りの光景が目の前に広がっており、俺はその光景に思わず目を細めた。

 一面に広がる太い木々や雑木林、他にも久し振りに目にする物だらけで、豊かな土壌にさえも感慨深い気持ちになる。

 そして何よりも存在感を放つ太陽には、心の底から癒されるのを感じた。


「スゥゥゥ………ハァァァ。スゥゥゥ………ハァァァ」


 土の香りや緑の香りが混じり合った自然その物の匂いを感じながら、俺は同時に自然豊かな酸素を肺一杯に取り込んでは吐き出す。

 久し振りの感覚にえもいわれぬ心地好さを感じて、それが至福の時と言える程には素晴らしく思えた。


 そんな俺とは違って、ハルちゃん達は外の光景を目にしても特に何も感じないのか周囲へと忙しくなく視線を向けて警戒していた。

 やはりハルちゃん達にとってはどうという事もないらしい。


「敵は居そう?」


「……………」


 俺の質問に対して首を横に振る事で否と答えるハルちゃんは、新装備である鎧や剣などの様子が気になるらしく、頻りに身体を動かして新装備の調子を確認している。

 そう、実は十一階層探索にあたり事前に装備を買い替えていたのだ。俺の胴鎧とナっちゃんの胴鎧がミノタウロスに破壊された事も相まって、丁度いいので三人分の装備を新調しようという事になったのだ。


 それで購入したのが、潜水艦などでも使用されるチタンを用いた装備の数々である。

 他にも新入荷されていたタングステン製の装備を買える蓄えもあったのだが、チタンとは違ってタングステンは比重があまりにも重いので、軽くて丈夫なチタン製の装備にしている。

 ただし、武器だけは硬さに重きをおいてタングステン製の武器にしていた。


 これはやはり、軽い武器だと切れ味が良くても適度な重さがなければ一撃の威力が減少するので、その点はタングステン製の方がいいのではと考えた結果だ。

 俺もハルちゃんと同様、まだ新調したばかりで馴染んでいないのが原因なのか少し違和感を感じるが、それは追い追い慣れていくと思われる。

 そんな俺達二人とは違って、ナっちゃんの方は特に気にならないらしく周囲への警戒に集中していた。


「よし、そんじゃあ適当に………そうだな、取り敢えず真正面の山に向かってみようか」


 何処に進んでも初めての土地となるのだから、先ずは周辺の土地を把握するべきだと思い、俺は真正面にある千メートルから千五百メートル程の山を登る事を提案した。

 きっと山から下を眺めれば何かしら見えるだろうという予測の元にした提案だったが、特にメンバーからの反論はなくそのまま進み始める。

 別に急勾配のキツい山という訳でもなし、ハイキングでもしてるような軽い足取りで登れる斜面なので、恐らくは二時間から三時間程で登れるだろう。


 と、そう思って登っていたのだが、以外にそこそこキツい山道だった。登頂までに要した時間は確かに予想通りだったのだけれども、体力面に関しては予想外に消費していた。

 何事も上手くはいかないのが当然であるが、こういうちょっとした計算違いが身を滅ぼす事になるかもしれないのだから今後注意が必要だろう。

 山登りなど正にそのちょっとした計算違いで死ぬ事もあるのだし、俺はそもそもパーティーリーダーなのだから常日頃から意識して注意しておかないと不味い。


 登頂したら普通景色に感動するところだが、俺はそんな風に自分の軽率さを少しだけ戒めていた。

 そうやって小さくうんうん頷きながら内心で考えていれば、ハルちゃんとナっちゃんの二人に頻りに肩をチョンチョンと指先でつつかれていた事に気付き意識を二人へと向ける。

 すると二人が必死に、遠くに見える何かを指差していた。


「は? 何々?」


 ハルちゃんとナっちゃんが指差す場所は遥か遠く、ここからでは何かの動物の群れが居る事しか判別出来ない。

 新入荷していた遠視という遠くを見る事に優れたスキルを買っておけば良かったと思いながら、俺は目を細めつつ更に二人が指差す場所を眺め続けた。


 そうしていると山の頂上から直線距離にして五キロはあるだろうそこに、何かの動物と思わしき二つの群れが睨み合っている事に気付く。縄張り争いなのか、或いは移動の最中に鉢合わせしてしまったとかなのかもしれない。

 しかしその二つの群れは不自然に規則正しく並び立っており、とてもただ睨み合っているのではないと察せられる。その規則正しく並ぶ様は、まるでこれから合戦でも始めると言わんばかりの人の軍勢にも見えたのだ。


「あれって戦争でもしてんのかな?」


「……………」


「……………」


「ぅん? あ〜、人かどうかまでは見えないって事ね?」


「……………」


「……………」


「そうだよね。流石に遠すぎてはっきりとは見えないもんね」


 ハルちゃんもナっちゃんも遠すぎて判断出来ないらしく、俺と同様に何かの群れが二つ存在していて、その二つの群れが睨み合っている事しか分からないようだ。

 しかし、こうやって見ていてどちらの群れも規則正しく並んでいるのは間違いなく分かるので、知的生命体の群れ同士が威嚇し合っているのだろうとは推測出来た。


 それはつまり、上手くすれば知的生命体をテイム出来る可能性があり、それでテイムした後には周辺の状況などを教えて貰えるチャンスがあると言えた。

 だが、知的生命体とは言っても人類とは限らないので、言葉を発しないタイプの知的生命体の場合もあるのだが、その時はその時でハルちゃん達とのコミュニケーションと同じでジェスチャーを使用すれば問題ないだろう。


「……いや、そもそも人類だったとしても言葉が通じるとは限らないのか? 日本語とは違う別言語の可能性もあるし」


 テイムというスキルには、主人の言語を理解させる特殊な機能があるらしいので此方の言語が伝わるのは間違いない。

 しかし、その逆はと言えば否なのだそうで、俺がアキやフユの動物言語とでも言っていい言葉を理解出来ないのがその証左だ。


 それ故、もしかしたらヒューマンやエルフとかドワーフとかをテイムしても、彼らの言葉を理解出来ない可能性が高いのかもしれない。いや、ほぼ理解出来る可能性は無いと断言してもいい筈だ。

 言語というのは、長い時を要して出来るある種の生命体だと言えるだろう。様々な自然環境の下に生きる知的生命体が、その土地独自の食文化や風習など、その他の色々な要素でもって偶然か必然なのか、または奇跡なのかは判然としないが、その土地その土地の状況によって多種多様な言葉を形成する。同じ国内でも方言などと呼ばれ、独自の言葉が存在するくらいには言語というのが状況や色々な歴史によって予想も出来ない進化をするのは間違いない。


 そう考えると、大陸間の違い云々どころか、別世界ともなれば言語が全くの別物なのは必然であるとしか言えない。そしてともすれば、十中八九俺の日本語とは違う言語形態なのは容易に想像出来るし、俺の推測を正しいと断言出来る根拠とも言えるだろう。


「……まぁジェスチャーを用いれば問題ないんだけど、チュートリアル迷宮なんだからサービスで日本語にしてるとかってのはないのかな?」


 無い物ねだりをしたくなるが、ブツブツと独り言を呟いている俺を不思議に思ったのかナっちゃんに肩を優しくつつかれて、強制的に現実へと引き戻された。


「あ、ごめん。ちょっと色々考えてたんだよ。

 それは兎も角、情報を入手する為に行ってみる?」


 周囲三百六十度に視線を向けても、二つの規則正しく並ぶ群れ以外には豊かな自然しか存在しないので、ハルちゃんやナっちゃんだけでなくアキやフユも俺の提案に賛成してくれた。

 なのでここは少し危険を冒し、巨大な群れを形成する二つの軍勢と思わしき何かが居る場所に進み始めた。

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