宴
階層主であるミノタウロスは強かった。パワー、タフネス、スタミナ、そして死の間際のバーサクモード、その全てが驚異的で脅威的だった。
そんな階層主であるミノタウロスを、俺達は倒す事に成功したのだ。
ならばやる事は決まっている。
「今日は宴だぞぉおおお! 食べて飲んで心底楽しむぞぉおおお!!」
堅苦しい挨拶は抜きにして、俺は俺なりの乾杯の音頭で皆の苦労を労う。
するとハルちゃんやナっちゃんが小躍りしながら乾杯し、ガブガブと一本3000DPのビールを躊躇なく飲み干した。普段の食事からそうであるが、口の中に入った瞬間に液体のビールが見えなくなるのは不思議な光景である。
それを見ながら改めて奇妙な光景だと思いつつ、俺も負けてはいられないと彼女達と同様にビールを呷った。
「プハァ! 最っ高の気分だぁ〜」
「ミャ〜ン」
「ワフッ」
「お前達も沢山食べろよ〜」
「ミャ」
「ゥワフッ」
アキとフユにはA5ランクの牛肉を与えており、しかも生肉と焼いた肉の二種類を用意していて、それを交互に食べながら満足そうな表情を浮かべているのを見て此方も嬉しくなった。
アキとフユの遊撃は非常に効果的で、いつもタイミングさえもバッチリで助かりっぱなしだ。
それをこの肉で埋め合わせ出来るのなら安い物である。
「牛肉も美味いけど、こっちの鶏肉も美味いから食べ比べしてみるのもいいぞぉ」
「ミャミャ?!」
「フッワフッ?!」
「嘘でも冗談でもないぞ! ビックリするぐらい美味いんだから!」
俺の言葉に興味をもったらしく、アキとフユは大きな口で高級地鶏をバクッと食べる。
その食いっぷりは凄まじく、見ていて気持ちいいほどだ。
「ははは、美味いだろ?」
「ミャン!」
「ワフッ!」
「どんどん食いねぇ。腹一杯食いねぇ」
バクバク食べ続けるアキとフユを見ていると、俺の腹も空腹を訴えてきて、堪らずテーブル上に並ぶ沢山の皿から食べたい物を手に取った。
白い切り身が美しいその真鯛の刺身を、瑞々しい大葉で包むとワサビ醤油に付けて食べる。
「んんんん実に美味い………トドメにビールを」
キンキンに冷えたビールで刺身を胃へと流し込みつつ、二つの味が合わさって別次元の味へと昇華する様を舌と喉が実感して幸せを満喫する。間違いなく最高の瞬間だ。
堪らない、と一言呟き、再び同じ要領で刺身を口にして、ハルちゃんとナっちゃんに視線を移した。
彼女達は俺とは違って、海の幸ではなく陸の幸を満喫していた。
日本の和牛を中心に馬肉なども珍しそうにして食べており、その味に大層驚いて拍手している。どうやらその味に満足出来たようだ。
「馬肉も美味いもんでしょ?」
「……………」
「……………」
「その肉を食べる時は、ビールも勿論合うんだけど日本酒もいいんだ。馬肉に合わせて飲んでみるといいよ。あ、あとね、タレにおろしニンニクを混ぜてみるのもお薦めだね」
慣れない食材や慣れない調味料ばかりなので、戸惑う二人の代わりに俺が用意してそれを二人がビクビクしながら食べるのを見守る。
すると俺の眺める前で口にした瞬間、ビクッとしたかと思えば彼女達二人が両手を大きく上げた。全力で美味いを表現しているらしい。
その反応が妙に可愛らしくて、俺は次々に自身が旨いと思う料理を紹介しつつ実際に食べて貰い宴を楽しんだ。
そうやって腹一杯飲んで食べた後、皆がリビングで食休みしてるのとは違って俺はパソコンを操作しながらミノタウロス討伐者に与えられる恩恵の一つの新入荷された品々を確かめていた。
先ず確認するのは、十一階層で長い期間を探索する気晴らしになるのではと期待している娯楽施設だ。
プール場、スキー場、スケート場、ボーリング場、野球場、サッカー場、アメフト場、その他にも沢山の娯楽施設が並ぶが、この施設の数々を商品として物品売買の欄に入れた何者かは一体全体何を考えているのだろうかと首を傾げざるを得ない。
確かに長期間の探索で疲弊した精神のリフレッシュとしては素晴らしいのだろうが、野球やサッカーを始めとした団体競技のスポーツでは敵チームと自分チームの二つが存在しなければならず、そうなるとどれだけテイムしなくてはならないのか気が遠くなる。
何故リフレッシュする為に苦労してテイムしなければならないのか、それでは本末転倒で意味が分からない。
まぁもしかしたら十一階層の探索が数十年にも及んだなら、確かに野球チームの一つくらいは出来るだけの使い魔が増えているのかもしれないが、しかしだとしても二チームは無理だろう。
そう思い心底必要な施設なのか疑問に思ったのだが、野球が趣味だったりサッカーが趣味だったりする人にとっては必要な施設だと思えば一応頷けた。
趣味嗜好が挑戦者達であっても千差万別なのだから、それを考慮すると確かに必要になるのかもしれない。
「……いつかは数チーム作れるだけの使い魔を得るのもいいかもね。そんでリーグ戦とかしてみよっかな?」
そんな日が来るのか分からないが、それはそれで楽しめるのかもしれないと思えるくらいには未来を想像して頭が柔軟になった気がした。
「ま、それは兎も角、装備や補助アイテムはどうなってるんだろうかね?」
沢山の施設を全て確認するだけでも時間がかかりそうなので、俺は違う欄を確認し始める。
次に目を移したのは、武器や防具、そして回復薬を始めとした補助アイテムであった。
ミスリル製の装備、ダマスカス製の装備、玉鋼製の装備、タングステン製の装備、チタン製の装備、と多種多様な金属製装備が増えている。以前は鋼鉄製が最高品質であったが、新入荷された品々を加えると今では下から数えた方が早い。
そして補助アイテムはと言えば、怪我の治療に使用する回復薬を始めとした基本のアイテム以外では少々奇妙なアイテムがあった。
その商品の名は、帰還の杖。その効果はズバリ、拠点へと一瞬で帰還出来るアイテムのようだ。
これは恐らく、十一階層という広大なフィールドダンジョンを探索する場合では、拠点から数百キロ離れた場所まで歩いて移動したりするので、その帰還を手早く済ませる為の物なのだろう。
そう考えるとこれは素晴らしい品物だと思える。称賛されるべき最も必要なアイテムだと言っても過言ではないだろう。
だが、その値段が異常だった。一度使用しただけで崩壊する帰還の杖の値段は、7000000DPだったのだ。
この値段では、軽々と買うのは無理。今の貯蓄額で買えない事はないが、それでもかなり悩むのは間違いない。
しかし、十一階層を手広く探索するようになったら絶対に必要な必需品となるだろう。半年間を移動に費やすとか普通にあるだろうし、その帰還の為に再び半年間も時間を掛けるなど辛すぎる。
「十一階層の為に用意された品物なんだろうね。これを気軽に買えるようになったら一人前って感じかな?」
十一階層の探索がどれだけ困難なのかを予測するにはいい指標となった気がする。他の挑戦者達も、探索前の覚悟に物品売買をチェックするのは最良だろう。
「次は……スキルだね。スキルが存在しなかったらミノタウロスには絶対に勝てなかったと断言出来るし、これは隅から隅まで要チェックしないと」
最後に目を通すのは、最重要のスキル欄。迷宮探索にはなくてはならない存在であり、スキルが無かったら迷宮踏破など不可能だと断言出来るものだ。
そのスキル欄を目にするや否や、早速見覚えのないスキルの数々が視界に映った。
金剛体力、金剛体制術、金柔軽業等々を始めとした恐らくは俺が所持しているスキルの強化版だと判断出来るスキルもあれば、古代魔法やら精霊魔法などの変わった魔法スキルもあって、その数の多さには素直に驚いた。
その中でも更に目を惹くのが、精力増強の強化版と思わしき精力無尽蔵だ。遠く離れた場所まで移動しなければならない十一階層探索においては、スタミナを回復させる速度やそもそもスタミナの量が多い事が何よりも大切になる。それを考えると、精力無尽蔵は是非とも欲しい。
だがしかし、精力増強にもそうだが精力無尽蔵にも勿論デメリットがあった。このデメリットは俺達挑戦者にしか存在しない希有なデメリットであり、それは性的に旺盛になってしまうというもの。
現状俺の性欲は、精力増強のせいですこぶる旺盛になっている。その性欲を抑える為に、俺以外の挑戦者達も苦労していたりするのだ。
その状況で更に効果の高いだろう精力無尽蔵を手に入れてしまえば、俺の性欲がどうなるか分かったもんじゃない。もしかすると暴走する可能性もあるだろう。
それ故に、このスキルだけは使い魔専用とするべきだと言える。勿論、いつかは必要となる時が来るのだろうが、それまでは自分用に買うのは控えるべきだ。
まぁそれ以前に、金剛体力とか8000000DPもするし、その他のスキルも同様に似たり寄ったりの値段なので、暫くは買える気がしないのでそこまでビクビクする必要は無かったりする。
「高いっ……! これじゃあスキル枠が増えていてもお手軽には買えないよな。先ずは安いのから必要なものを買って、それを成長させながら様子見って感じか」
現実は厳しいものだと改めて認識せざるを得ず、俺は渋面で大きく息を吐くと天井へと視線を移した。
そして、さぁ明日から十一階層だぞ、とそんな呟きを最後に、俺は畳の上で微睡むハルちゃん達に混じり大きく背伸びして瞼を閉じた。




