薬の素材を求めて
タレイアとアグライアの二人を拠点に残して湖エリアへと到着したのが丁度一週間前になるのだが、この場所でのレベル上げには心底苦労していた。その理由は非常に簡単で、湖の中に潜む魔物達のレベルが予想外に高かったからである。
湖エリアに出没する陸上の魔物の四倍はレベルが高いなど、正直言って予想外過ぎる。とてもカリプソ単独ではまともな戦闘にはならないので、安易にレベル上げなど出来やしないのが現状。ならば陸上でレベル上げをとなると生態系へのダメージが計り知れないし、この問題には頭を抱えて悩むしかない。
そう、つまりはこの一週間を無駄に悩むだけで過ごした訳だ。湖エリアでキャンプしているのと大差ない。
まさか湖の中のモンスターが陸上のモンスターと比べて四倍もレベルが高いなど予想出来る筈もない。故に誰も悪くないのだが、無駄になった一週間という期間がメンバーに重苦しい雰囲気を与えていた。
だが、本来は別にカリプソのレベル上げを急がなきゃならない訳でもないのだ。そう、急いでいるのはカリプソとの模擬戦を願うミオンだけであり、それ以外で急ぐ理由は皆無なのである。
しかし、ただただ無駄に一週間も過ごすというのは流石に許容範囲外だ。特に真面目なメンバー達にとっては安易に受け入れるのが難しく、無駄に流れる時間にイライラしている様子。
その反面、テティスを筆頭にした暢気な者達は、この一週間という期間を非常に楽しんでいたように見える。まぁ、その気持ちも理解出来る。戦闘が殆ど無いキャンプなのだから、終始ノンビリ出来るとなれば楽しまなきゃ損と言える訳で、実際楽しかった。
実のところ、俺もこの一週間を密かに楽しんでいたのだ。真面目な性格のメンバー達やミオンには悪いが、少しくらいはノンビリする時間があってもいいだろうくらいに思って、表では上手くいかないレベル上げに頭を抱えるフリをして、裏ではこのノンビリした時間を満喫していた。
反省はしてる。非常に反省してるし、コブラやプロトポロスにはバレちゃってるっぽいので、これからは俺も真面目に行動しようと思う。
やっぱり同性であるからには、コブラやプロトポロスには密かに楽しんでいたのがバレてしまうようだ。似たような感性をしているからか、単純に彼ら二人もこの一週間を密かに楽しんでいたからか、恐らくは後者なのだろうがそろそろ他のメンバーにもバレそうだったし、そうである以上はもう潮時である。
しかしそうなると困るのがこの事態の打開策をどうするかなのだが、それはこの際、他に上手いレベル上げの手段が思い付かないので、アグライアやタレイアの為に必要な薬を求めて地下王国へと行くのが良いのかもしれない。
薬に必要な薬効成分を持つ諸々を手に入れるまでに、きっとそれなりに経験値を稼げるだろうし、何より地下王国でのレベル上げなど殆どしていないのだから生態系への配慮など一切する必要は無いというのが一番気楽だ。
そう思い至った俺は、当然だが皆にその考えを伝えた。勿論、それぞれから反対意見も出るだろうが、それはそれで構わないと思いながら。
だが意外と誰からも反対意見という感じのものは一つもなく、すんなりとメンバー全員が俺の提案を受け入れてくれた。多分、拠点に二人きりで残るのは寂しいだろうと考えていたのだろう。全員が心根のいい奴ばかりだから、そうなったんだと思う。
という訳で湖エリアにサヨナラを告げ、紅黒の背に乗って颯爽と地下王国への入口に辿り着いた後は、紅黒には狭過ぎるので久しぶりに召喚スキルを駆使して紅黒だけ帰還させると、残りのメンバー全員で数年ぶりの地下王国へと出発した。
地下王国に繋がる洞窟で遭遇するモンスターは相変わらずで、俺の苦手とする昆虫タイプが非常に多い。正直言って半狂乱にならない自分の成長に驚くくらいだ。
しかしそう思い少しのドヤ顔を浮かべていても、他の面子は一切心を揺さぶられた様子もなく、あのキモくて邪悪そうな見た目の昆虫モンスター達を容易く蹂躙している。新参者のカリプソですら余裕そうに対処しているのだから、ちょっとした自分の成長と比較して悲しい気分になったのは秘密だ。
そうやって心の成長に一喜一憂しながら進む先々で、タレイアとアグライアに必要な薬の素材を一つ一つ確保しつつ、俺達はダークドワーフの地下王国へと辿り着いた。以前と同じくダークドワーフ王国を一望出来る場所の通路から来たのだが、やはりその眺めは非常に素晴らしかった。
カリプソやプロトポロスだけでなく、コブラやレディもこの地下王国に来たのは初めてなので、この四人はそれはもう大層喜んでいたくらいにはこの眺めが気に入ってくれたようだ。こういうのが旅の醍醐味なので、やはり喜んで貰えると嬉しい気持ちになる。
実際、四人が感動する様を見て皆が笑顔になっていた。それを見ると益々喜びが倍増するというものだ。
「美しい光景だ。あの地底湖の存在がより一層の美しさを感じさているのだろう。人魚の里に近い印象を受ける」
「ポロスちゃんの言う通りだねぇ~。でも人魚の里とは違って、あの地底湖は人工物っぽいけど。あ、でもでも、それでもすっごく綺麗なのは一緒だねぇ〜」
「北大陸のもんは地下に国を創るなんてビックリさせてくれまんなぁ。南大陸のもんが見たら腰抜かすでぇ」
「いやぁこりゃ参った。何百年、或いはそれ以上に多くの年月を掛けてここまでの代物を創り上げたんでしょうや。多くの犠牲と気の遠くなる作業だったんだろう事は想像に難くないですぜ。旦那が道中で頻りに感動するって言ってたのも理解出来るってもんですな」
一頻り感動する四人の言葉を耳にして、別に自分の手柄でもないのに少しドヤ顔になってしまったが、それぐらい素直に気持ちを表してくれるので仕方ないだろう。ここまで案内した手前、ここに来た先達者としての立場もあるのだし、少しのドヤ顔くらい許される筈。
と、そんな事は兎も角、今回はダークドワーフ王国に密入国などしない。ここから先へと更に進んだ場所にあるダークエルフ王国の近くに生息するモンスターが目的なのだ。
「さぁさぁ、感動してるところ悪いけど先に進むとしよう。目的地はまだまだ先だからね」
タレイアとアグライアに必要な薬の素材で、最も入手困難な代物が一角と呼ばれるモンスターの肝臓である。非常に臆病な性格の為、直ぐに逃げてしまうらしく討伐するのが難しいのだそうだ。
しかし、俺達に限ってはそれを気にしなくてもいい。何故ならば、この世界の呪いとでも言っても間違いじゃない神の定めたルールにより、声を聞かれたり姿を見られたら強制的に親の仇のように襲撃してくるからだ。
正直言って最悪のルールだが、こういう時だけはそのルールがあって良かったと思う例外中の例外と言えるだろう。他には大して得になった事はないので、強いてこのルールに感謝するとしたらこういう特殊な状況のみである。
数少ない例外的な事例に感謝しつつ、そのままどんどん移動していると昔にミオンと遭遇した場所に辿り着く。そしてふと思い出す、嘗てのミオンの姿を。
脳裏に浮かぶのは今よりも大人の姿をしたミオンで、群がる昆虫モンスターを独りで駆逐している光景だ。そう、それがミオンを初めて目にした瞬間であり、その光景に絶句していたのを密かに思い出した。
そのミオンが今や高校生の年代だ。しかし、その強さは以前とは比べるのが烏滸がましいレベルで強過ぎる。俺達のパーティでは恐らく上から三番目の強者だろう。
プロトポロス、力を取り戻したら二番目はカリプソ、そしてミオンの順になる。俺はと言えば、下から二番目だな。テティスにはまだまだ負けるつもりはない。
ともあれ、懐かしい場所を見て密かに過去を思い出しつつ未知の領域へと足を踏み込んでから五日後、俺達は最後の薬の素材である一角の肝臓を見事に入手した。そこからは勿論、寄り道などせずに帰還の杖を使用して直帰である。




