スキルの凄さ
二階層でのハルちゃんと一緒に戦う戦闘では、自分でもビックリするほど鮮やかに勝てる事が分かった。
連携が上手くいくし、ハルちゃんに買い与えたラウンドシールドが功を奏して、俺が手助けしなくても余裕とはいかないまでも充分に戦って勝利を得ているのだ。
それが本当に楽しくて、俺はハルちゃんと共に沢山戦い続けた。
一日、二日、三日、四日、五日、六日、七日、八日、毎日ずっと二人で二階層を探索し続けた結果、ハルちゃんのレベルは10になっていた。
そして今日、俺はハルちゃんと共に三階層へと足を踏み入れる覚悟を決め、その為に使い魔であるハルちゃんを強化する事に決めた。
今回は装備を買い与える訳じゃない。スケルトンのハルちゃんはレベルを上げた事でモンスターとして遭遇する他のスケルトンよりも力が強くなったが、それでもハルちゃんはあくまでもスケルトンなのは変わらないのだ。
それ故に種族としての力の無さを補填する為、剣術スキルを買って与えようと思っている訳だ。そしてあわよくば、出来れば盾術のスキルも買い与えたい。
ただし、盾術のスキルがいくらするのか分からないので、それは値段を見てからになる。
★★★★★★★★
level:21 +1
名前:久遠湊
性別:男
種族:ヒューマン
ギフト:テイム、アイテムボックス
スキル:経験値均等化
武器:銅の剣
盾:無し
頭:無し
胴:布の服
腕:布の服
足:布の服
装飾:無し
level:10 +7
名前:ハル
性別:???
種族:スケルトン
スキル:無し
武器:銅の剣
盾:ラウンドシールド
頭:無し
胴:布の服
腕:布の服
足:布の服
装飾:無し
★★★★★★★★
現在の俺とハルちゃんのステータスを一旦見詰め、改めてハルちゃんには剣術のスキルと盾術のスキルがあれば更に強くなる筈だと確信し、スキル欄から剣術のスキルと盾術のスキルを探して値段をチェックする。
そうしてモニターを見詰めていた俺の肩を、何故かハルちゃんが小刻みに叩く事で値段のチェックは中断された。
「どうしたの?」
「………………」
「ん? 何で拍手?」
「………………」
「へ? 何々?」
何やら嬉しそうに小さく拍手するハルちゃんは、俺とモニターを交互に見比べて再び拍手した。
それを見て漸くハルちゃんの意図を理解した俺は、思わず笑みを浮かべた。
「あぁ、俺のレベルが上がってたから、それでオメデトウって言いたかった訳ね」
「……………」
「ははは、ありがとう」
レベルが上がって他人から誉められたのは初めてなので、ちょっとどういう反応をすればいいのか分からず、俺は頬を掻いて誤魔化した。
でも、嬉しいのは事実だ。ちょっと照れ臭いが、こういうのも悪くない。
ともあれ、妙に照れ臭いので俺はモニターへと視線を移し、剣術と盾術のスキルを見てその驚愕により目を見開く。
「たっか………!?」
剣術100000DP、鎚術100000DP、槍術150000DP、弓術200000DP、盾術150000DP、とその後も沢山のスキルが欄に並んでいて、正直言ってドン引きである。
剣術スキルの値段は予め知ってはいたが、盾術が剣術を越える値段だとは思ってもみなかった。
「おぅふ………ヨソウガイデス」
俺は他の挑戦者達とは違って毎日迷宮に潜って稼いでいるが、それでもこの値段は正直言って高過ぎる。
買えない事はないが、それでも簡単にポチれる値段ではない。少なくとも、俺はかなり躊躇してしまう程だ。
「どうしよう……いや、マジでどうしようかな」
これ程に高い買い物は、他には施設関係でしかした事はない。近代的なキッチンや風呂を始め、トイレなどがそれに当てはまる。
しかしスキルにそれ程のDPを使おうと考えるのは初めてで、マウスを握る手が震えてしまう。
「う〜ん………施設もそうだが、スキルも同じく残り続けるものだし、しかも剣術スキルや盾術スキルはレベルが存在するスキルで成長もする。そう考えれば決して無駄ではない。そう、無駄じゃないんだよなぁ」
買うか買わないか、それをひたすら熟考した俺は、チラリとハルちゃんを見て覚悟を決め、剣術と盾術の両方を思いきって購入。そして早速とばかりに二つのスキルをハルちゃんに付ける。
★★★★★★★★
level:10
名前:ハル
性別:???
種族:スケルトン
スキル:盾術0New、剣術0New
武器:銅の剣
盾:ラウンドシールド
頭:無し
胴:布の服
腕:布の服
足:布の服
装飾:無し
★★★★★★★★
ハルちゃんのステータスを確認して、ちゃんとスキルが付与されているのを理解すると、俺はハルちゃんへと視線を向けた。
「たった今、ハルちゃんに新しいスキルを二つ付けたんだ。スキル名は剣術と盾術の二つで、きっと戦闘で役に立つ筈だと思う」
「……………」
「うん、本当だよ。それでね、もしかしたら最初は違和感を感じるかもしれないから、三階層に行くまでにそれを確認しながら向かおうと思ってるんだけど大丈夫?」
「……………」
「よかった。それじゃあ、今日は焦らずゆっくり進もうね」
「……………」
小刻みに何度も頷きながらガッツポーズするハルちゃんは、どうやら俺の意見に賛同してくれたらしい。
面倒だとか言われなくて良かったと思いつつ、早速俺は椅子から立ち上がると玄関へと向かう。ハルちゃんはスキルを与えられたからか、いつもよりも意気込んでいるようだ。
そうして始まった探索では、あまりハルちゃんの様子に変化は見受けられなかった。まだスキルレベルが0であるから変化が見られないのか、或いは俺の目が節穴だからか、それは判然としないが明らかな変化がなかったのは間違いない。
その事に悩みつつ一階層の階段を潜って更に進んでいると、二階層の終盤付近で漸くハルちゃんの動きにその兆しが見えた気がした。
はっきりとは言えないが、敵であるスケルトンの攻撃をハルちゃんが盾で受けた際、いつもよりもスムーズな動作で剣を弾いていた。
剣術においては俺が素人と変わらないのでまだ分からないが、盾を用いた動きについては少しの変化があった事に気付けた。
「これはもしかするともしかするか?」
偶然そういう風に見えただけの可能性もあるが、スキルの効果が表れた可能性もあると言えるだろう。
そう考え始めると最早そうとしか思えず、俺は少し興奮混じりに次の標的となるモンスターを探して歩を進める。
自分の勘違いか、それとも本当にスキルの兆しなのか、それを確かめたくて仕方ない俺はワクワクが抑えきれず、共に歩くハルちゃんへとチラチラ視線を向けながら進んだ。
そして三階層へと続く階段を目前にして、ハルちゃんの変化がスキル故なのかどうかを確かめる為の標的を発見し、わざと音を出して此方へと注意を向けた。
するとスケルトン三体がノロマな動きで此方へと接近し始め、間合いに入るなり戦闘が始まった。
俺はハルちゃんの変化を確かめるべく、あえて敵を倒さずに対処しながら、敵の攻撃の合間に横目でハルちゃんの戦闘を眺める。
それで確信に至った。確かにハルちゃんの動きには変化があったのだ。
剣術に関してはまだ分からないものの、敵の攻撃を盾を用いて防御する際には以前よりもスムーズに動けていた。
技と言えるのかは分からない、ちゃんとした流派の盾術なのかも分からない。しかし、下手くそな動きの中で唯一盾を用いた動きだけは綺麗だった。
こんなにスキルが効果を見せるとは思いもしなかった故に、俺はその凄さに素直に感心した。これなら自分用にもと欲しくなる程だ。
道理で値段が高い訳だと、そう考える間にハルちゃんは敵を殲滅していた。そしてハルちゃん自身も自分の変化に気付いたようで、頻りに盾を振り回しては小さく頷いている。
「調子いいみたいだね」
「…………」
コクコクと頷くハルちゃんに微笑み、俺とハルちゃんは三階層へと進む。此処からは俺にとって未知の領域だ。