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疑問を疑問として認識した瞬間

 掲示板に目新しい情報が幾つも投稿されている今日この頃、まだ俺は武術と魔法の鍛練に忙しい日々を送っている。勿論それはパーティーメンバーも同じなのだが、流石に投稿され続けている新情報には全員で釘付けになっていた。

 龍剣と死神の二人があの勇者よりも早く南大陸へと辿り着いて、日夜沢山の情報を教えてくれているのだ。興味が無い訳が無い。

 新たな人種、新たなモンスター、気候の全く異なる大地、それらの情報は価千金の素晴らしい新事実に満ち溢れており、細々とした新情報とは全く違う次元のものばかり。その中でも俺が一番興味深いと思ったのが、南大陸に存在するダンジョンの事だった。


 そう、このダンジョン世界に更なるダンジョンが存在するというのだ。このチュートリアル迷宮に、南大陸に住む者なら誰もが知っていて当然だという更なるダンジョンがあるのである。

 南大陸の冒険者や傭兵などは、そのダンジョンで得られる代物で生計を立てているダンジョン専門家の者も居るらしく、南大陸では心底生活に根ざした物となるそうだ。もしかしたら、その沢山存在するダンジョンの一つに、俺達挑戦者が望んで止まない次への階層へと続く階段があるのかもしれない。

 龍剣と死神も同様の結論に至ったそうで、今は南大陸の冒険者などを中心にテイムして情報を集めているらしく、その情報を精査して一番重要そうなダンジョンを探しているそうだ。


 そんな状況だと言うのに、俺や他の挑戦者達は全く動けていない。何故なら、季節が真冬だからである。凄まじい積雪によって、全く身動き出来ないのだから仕方がないのだ。

 ただし、俺は他の挑戦者と違って己に課した今後の為の課題があるので、それを日々こなし続けなければならないのだから、自由に動けたとしても結果は同じだっただろう。勿論、それは修練の事。個体レベルやスキルの数々にばかり頼るのではなく、本物の技術を得て素人から脱却せねばならないのだ。

 しかし、そうは言っても気になるのは気になるので、一日の修練の後には、俺を含めたパーティーメンバー全員でパソコンに釘付けになっているのが現状。


「蜥蜴人という人種は聞いた事が無いぞ。生前の世界にも存在しなかった人種だ。

 ブリュンヒルデはどうだ?」


「私も姫様と同じですね。初めて耳にした人種です」


 掲示板に記された人種に興味を示すのは、ヘルとブリュンヒルデの二人。どうやらその二人の会話から察するに、生前の世界でも知らない人種になるそうだ。

 それに相反して、ナっちゃんが確信に満ちた表情で口を開く。


「妾の世界には存在しておったぞ。奴らは寒い地域に住めぬ人種でな、温暖な場所でないと常に眠りっぱなしになってしまうのじゃ」


「何で寒いと眠り続けちゃうの? アタシの生きていた世界にも居なかったから、眠り続けちゃう理由が想像すら出来ないんだけど」


「ハハハ、小難しい理由じゃなく至極単純な理由じゃ。蜥蜴人の話によるとじゃな、体温調節がたいそう苦手な種族だそうで、気温が低いと動く気になれなくなるというだけなのじゃ。それ故に動こうと思えば動けるのじゃが、例えて言えば妾達が二度寝してしまうような事と一緒じゃな」


 ハルちゃんの疑問に微笑みながら答えるナっちゃんの説明を聞いて、俺を含めた全員が納得して小さく頷くと、その次に訝しげな様子でテティスが疑問を口にする。


「あのぅ、此処ってダンジョン世界ですよねー? 何でダンジョンの中にダンジョンがあるんですぅ?

 別にただの洞窟があるってのなら変な話じゃないと思うんですけどー、倒したモンスターがアイテムになるって正しくダンジョンそのものじゃないですかー」


 テティスの疑問には誰も答えない。と言うより、誰も答えられないと言った方が正しい。

 このダンジョン世界を構築したのは、恐らく神様なのだろうと俺は考えている。死者を復活させてこのダンジョン世界で過ごさせているのもそうだし、モンスターを復活させているのも神様なのだろうから、ダンジョン世界を構築したのも神様である筈だ。

 それ故に、ダンジョン世界に無数のダンジョンを創ったのもやはり神様なのだろう。それはつまり、テティスの疑問に答えられるとしたら神様しか居ない訳で、そんな事を俺やパーティーメンバーが推し量れる事柄ではない。

 ただし、それなりの予想は出来る。勿論、その予想が正しいのかは不明だが。


「ダンジョンの中にダンジョンを創った理由は、神様に聞くしかないんじゃない? まぁ、俺の予想としては予行練習の為だと思うけどね」


「予行練習?」


「そ、予行練習。このダンジョン世界ってのはさ、俺のような挑戦者達に課された課題をこなす為に創られた世界でしょ?」


「ですです! 重要な使命ですぅ!」


「うん、そうだね。その課題をこなさなきゃ真実の意味での新たな生は得られない訳で、そうである以上は真面目に取り組まなきゃいけない。

 で、その課題を無事に果たした時は? 俺は、俺を含めた皆はどうなっちゃうと思う?」


「それは………生き返る?」


「そう、その通り。でも生き返るその世界は、俺が生前過ごしていた世界じゃない。全く物事の法則が違う異世界になる訳だ。

 だからこそ、その世界に馴染めるようにこのダンジョン世界が創られていると考えられる訳だね。勿論、このまま全く同じ世界って訳じゃないんだろうけど、このダンジョン世界を基礎とした世界観になるんじゃないかな?」


 俺の予想を聞いたメンバーは、揃って小さく何度も頷いた。自分で言うのも何だが、中々に説得力があったようだ。

 俺としては、強ち間違った説ではないと思っている。何故俺や俺のような地球のそれも死んだ日本の一般人だけを選択したのかは分からないし、そして何故強くなる為に用意されたとしか思えないダンジョンの踏破を生き返る条件にしたのかも分からないが、次なる生を受けるにあたっての予行練習と考えればダンジョン踏破が条件となっているのは一応の辻褄が合うだろう。


 勿論、特別な力も無いし特殊な経験も無い俺達が選ばれたのには、神様にとって何か理由があるからなのは間違いない。でなければ、わざわざ俺達のような死んだ者を生き返らせる理由が無いからだ。

 恐らくは、勇者のダンジョンで勇者が遭遇した人型ドラゴンが口を滑らせていたのが理由なのだと察しているが、監視者として何を監視させたいのかは明確に神様から教えて貰ってない現在において、それは考えるだけで無駄な話。情報が足りなさ過ぎる。


 まぁ何はともあれ、南大陸の情報が入り始めたのは実に喜ばしい事だ。当初は数十年、或いは数百年規模で時間を要すると思われていた十一階層攻略が、予想とは違って早い段階で可能となるかもしれない。

 もう既に四年を経過しているし、出来ればそろそろ次の階層を目指したいのが本音。確かに十一階層を探索していても楽しいんだけど、モチベーションを維持し続ける為には次の階層を発見しておきたい。その上で十一階層の探索を興味本位でやるのは精神的に余裕があればしてもいいし、その為にもいつでも先に進もうと思えば進める状態にしておきたいのだ。

 これは俺だけの考えではなく、挑戦者全員の総意でもある。誰も口にしたりはしないが、そうでなければ心のゆとりが無くなってしまうのだから。


 テティスの疑問に答えた後、そんな風に一人内心でこれからの事を考えていると、ミオンが小難しい表情で問うて来た。


「なぁなぁ、マスターの使命ってのは結局何なんだ?」


 何を今更、そう誰もが思い呆れた視線をミオンへと集中させるが、そう言われると確かに使命とやらが何かは誰もが知らない。俺もそうだし、俺を助ける事を条件に生き返っているメンバー全員が神様から知らされていない事柄になる。

 神様に言われたのは、生き返る為にダンジョンを踏破する事。それ以外何も言われてやしない。


「それは………あれ? 俺達挑戦者の使命ってそもそも何だ? あ、もしかしてそれが何かを監視する事なのか?」


 ボンヤリ見え始めた何かを明確に意識したのは、この時が初めてだったのかもしれない。彼女達は俺達挑戦者の使命を補助する事を条件に生き返っているのだし、俺達は説明されてなくとも俺達に課せられた使命とはつまりそういう事なのだろう。

 何を監視しなければならないのか、監視するだけでいいのか、それはいつ説明されるのか、何もかもが分からないが、少しだけ当初からモヤモヤしていた何かが分かった気がした。

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