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過酷な訓練の日々

 正式な武術を修めているミオン、ヘル、ブリュンヒルデ、アグライア、タレイアの五人から指導を受ける日々が始まった。生傷の絶えない過酷な毎日である。

 ミオン、ヘル、ブリュンヒルデの三人からは全ての武器術を習い、アグライアとタレイアの二人からは格闘術を学んでいる。前者の方では基本を繰り返し修練しているので、現状では怪我を負う事はないのだが、後者の方では打撃技や投げ技によって沢山の大小様々な怪我を負うのが普通となっていた。


 本来ならば痛い思いなど絶対にしたくない俺からしたら、この訓練は心底辛いものであり、出来る事なら武術の修練などしたくはなかった。そう、忌避していた部分なのだ。

 だからこそ戦闘面では、出来る限り怪我をしないで済むよう考慮して作戦を立てて安全に勝利を掴み続けていたし、俺は本気で痛い思いをしなくていいようにあらゆる努力をしていた訳だ。

 しかし、それだけではこの先に進むのは不可能なのだと思い知らされた。俺以外の挑戦者達だって、何度も何度もそれはもう何度も死を繰り返し経験しているのは、モンスターと真正面で戦っているからであり、そうであるからこそ実戦での戦う技量は俺以上に優れているのだ。勇者などがその筆頭と言えるだろう。

 あくまでも俺はレベルが高いだけなのだ。地道にコツコツと毎日レベル上げしていただけで、実戦の技量は挑戦者達の中でも圧倒的に劣るのが俺。取り繕う事が不可能な現実である。

 それ故に、痛い思いも許容して訓練せざるを得なくなった。頭でっかちな戦い方だけじゃなく、本物の戦い方を学ぶ時がきたのだ。


 そう覚悟して始まった訓練の日々だが、勿論その訓練を数ヶ月受けただけで劇的に変わるとは思っていない。ましてや、超越者達と面と向かって戦える程に高い技量を修められるなどと楽観的に考えている訳でもない。武術とはそんな生易しいものではないのだと素人なりに理解しているつもりだ。

 だが、少しでも自分達の実力が底上げされるのならいいと判断した訳で、この訓練の日々をずっと続けていればいつかは俺達もそこそこの武芸者と言える程にはなっているだろう。かなり長期的な意味での事だが、決してこの努力は裏切らない筈だ。


「うぅ………傷に沁みるぅ」


 一日の疲れを風呂嫌いのアキとフユと過ごしつつ、体中の怪我を労るように優しく撫でる。そうやって撫でる度に痛みを主張してくるが、それで止せばいいものを何故か再び撫でたくなって怪我した部分を撫でてしまう。

 だが、こうしていると少しずつ痛みが和らぐような気がする。もしかしたら何度も怪我を負った部分を撫でる事で、その痛みが鈍くなっているのかもしれないが、しかし痛みが和らいでいるのは間違いない。


「アキとフユはどう? 魔法の修行は捗ってる?」


 俺の疑問に答える気は無いのか、二頭は風呂から上がりたくて仕方ないらしく、ソワソワとしつつ何度も視線が扉へと向かっている。

 それを敢えて無視して、俺は二頭へと更に言葉を投げ掛ける。


「別に文系って訳でもないんだけどさ、それでもあの体育会系のノリにはついていけないよ。運動系の人って凄まじいよね?」


 心此処に在らずって感じの二頭に、俺はその心中を知っていて尚も無視して愚痴を続ける。


「もうこの訓練の日々も二ヶ月半が経って、外は真冬になっちゃってるんだよ? 季節の変わる速度が早いこと早いこと」


 最早愚痴を独り言のように呟きながら、早く風呂から上がりたくてしょうがない二頭を意味も無く風呂に浸からせ続ける俺。これはもう嫌がらせだ。それは充分に理解している。

 しかし、痛みの無い魔法の訓練だけを毎日している二頭には、どうしても嫌がらせの一つもしたくなる訳で、だからこそ逃がすつもりなど俺にはない。


「いやぁ、それなりの歳になると季節の移り変わりが早く感じるって言うけど、それって本当なんだね。もう光陰矢のごとしって感じだもん。昔の偉い人も良く言ったもんだよ。常々それを感じる今日この頃って感じさ。

 あ、それはそうと━━━」


「フシャアアアア!!」


「グルルルルル!!」


「え、何? 晩ご飯は何かって?」


 勿論、二頭は晩ご飯が何かを聞いている訳じゃない。もう風呂を上がってもいいだろうと言いたい訳だ。それ故に抗議の唸り声を上げているのだが、俺は気付かぬ振りをした。

 すると、二頭が実力行使に出た。いい加減にしろと言いたげに、二頭が俺の頭に手を乗せて小刻みに揺すり始めたのだ。

 しかし俺は、「マッサージしてくれるの? 有り難うねぇ」と素知らぬ振りで礼を言って惚ける。まだまだ長風呂に付き合って貰うつもりだ。

 訓練で積もったストレスを発散させるのに、アキとフユは好都合な相手なのだから、少しぐらいは長風呂に付き合って貰ってもいい筈だ。


「俺のマッサージをしてくれるのもいいけど、ホラホラ、アキとフユも首までちゃんと浸かんな。それじゃあ一日の疲れが取れないよ」


「ニ゛ャァアアア!」


「フシッグフッグルル!!」


 違う、そうじゃない、本当は分かってるだろ、と言いたげな二頭を抑えつけて首まで湯に浸からせる俺は、二頭からしたら正に鬼畜の所業だろう。

 だが、俺はそれを気にしない。分かってやっているのだから尚更だ。


「あと十分は浸かってようね。その後は、風呂上がりにフルーツジュースを飲もうよ。今日は特別にフルーツのシャーベット付きさ」


「ニャニャ?!」


「ワフッ?!」


 フルーツジュースと聞いた瞬間、二頭は大きく目を見開く。アキとフユは風呂上がりのフルーツジュースが大好きで、それがあるから風呂にも嫌々入っている感じだ。今回はシャーベット付きだから特別さに磨きがかかってると言えるだろう。

 だからなのか、驚きも一瞬で、その後は随分静かに俺の愚痴を聞いてくれた。しかも、相槌付きで。


 そうして約束通りの時間を風呂で過ごした後、俺は勿論約束を実行して二頭に苺のシャーベット付きのフルーツジュースをプレゼントした。その時の二頭は折角風呂上がりだと言うのに、口の回りをベタベタにしながら夢中になっていた。

 俺はそれを眺めながら、バナナジュースを一気に飲み干す。この瞬間が堪らない。風呂上がりの最高の瞬間だと断言出来る。

 そしてその後は、メンバー全員で映画を見る。今日の映画は俺のオススメであるジブリ作品。フユと同じく狼が活躍する映画だ。最後には首だけになって死んじゃうんだけどね。


 ともあれ、それを皆で楽しく見たら、その感想を言い合い談笑する。やはり映画を見た後にする感想の合唱は実に素晴らしい。映画の醍醐味だと言えるだろう。

 その後は就寝。一日の疲れを残さぬように、本当に眠る。夜の運動会は暫く禁止なのだ。何せ、夜の運動会はかなりの体力を消耗するので、次の日の訓練に差し障るからである。

 それ故に皆それぞれに自分の部屋へと行き、素直に眠りにつく。明日の訓練も頑張ろうと自分自身に誓いながら。

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