馬鹿三人組の二人目
もう少しで季節が冬に移り変わる現在、我輩は家臣の者達を率いて南の大陸を目指している。もう三度目の挑戦だ。そう、船での旅は思っていた以上に過酷で、とても困難なものであったのだ。
ルートはベネン国から沿岸沿いに南へと進み、だいたい各階層へと続く階段の真南に辿り着いたところで、沿岸から離れて遠洋を目指すのが掲示板で龍剣と話し合って決めたルートになる。
だが、その一度目の挑戦では、大時化に遭遇して我輩の船は海の藻屑となり果てた。無論、我輩と家臣諸ともに。
二度目の挑戦では、最初こそ順調そのものだったが全長三十メートルを越える謎のモンスターに遭遇し、呆気なく襲われ蹂躙され、最終的には謎のモンスターの胃袋へと飲まれる結果だった。
一度目の挑戦で一番性能のいい船を失い、二度目の挑戦で二番目に性能のいい船を失い、現在三度目の挑戦で乗る船は三番目に性能のいい船となっている。挑戦する度に略奪した船の良い物から失っているのが現状だと言えるだろう。
しかし、それも今回で終わりにさせるつもりだ。折角略奪した大事な船をこれ以上無駄に失うつもりは無いのだ。つまり、今回の挑戦で南の大陸へと絶対に辿り着くつもりなのだ。
流石に今回も失敗したとなったら、南大陸への挑戦は暫く見送るしかない。何故なら、冬が到来するからだ。単純明快な理由である。
ただでさえ辛く厳しい船の旅となるのに、真冬の航海とあっては更に辛いものとなるのは素人でも察せられる。我輩とか言って自分をそう呼んでいる我輩の事を少し馬鹿かと思う者も居るだろうが、本当の馬鹿ではないのだからそれぐらいは理解している。
我輩が我輩と自身を呼んでいるのは、これはひたすらにロールプレイの為。死神ならこんな感じだろうという想像の元、自身の事を我輩と呼んでいるに過ぎないのだ。つまり、決して馬鹿ではないと言いたい訳である。
まぁ何はともあれ、そんな我輩の三度目の挑戦になるのだが、今回は不思議な程に海が穏やかで、不思議な程にモンスターとも遭遇しない。まるで海神様が南大陸へと招いてくれているのかと錯覚してしまいそうな程だ。
家臣の元海賊達は忙しなく船の操舵で働いているが、スケルトン達に至っては暇を持て余しているらしく、武術の稽古や魔法の稽古に励んでいる始末。実に長閑で快適な船旅である。
この調子なら辿り着くのも奇跡ではないのかもな。そう楽観的に考えてしまうくらいには、本当に不思議になる程に危険とは遭遇していない。龍剣は今どうしているのかと、ふと心配してしまう余裕があったりするくらいだ。
そんな船旅であるが、実は遠洋に出てから既に二週間が経過していたりする。アイテムボックスに詰め込んだ食料や飲料はまだ余裕があるものの、南大陸までの距離が全く分からない事で日々不安が大きくなっているのは否めない。
このまま進んでいて、食料や飲料が底をついたらどうしようか、はたまた我輩はちゃんと南に進んでいるのか、そんな疑問や不安が募っているのは否定しない。
「……ぅん? 何をしておるのだ?」
我輩と同じく大きな鎌を武器として持つスケルトンの一体が、その鎌に紐を結んで海にその紐を垂らしている。何がしたいのかサッパリ分からんが、何かをしているという事だけは理解出来た。
それで何をしているのかを推測していると、スケルトンが垂らしていた紐が突然ピンッと張った事で察した。どうやら釣りをしているようだ。
以前に湖エリアのフィールドボスを釣り上げる為に、我輩は釣竿を用意せずにロープと針のみを使用してフィールドボスを釣り上げた事があったのだが、それを真似て海で実践したくなったのだろう。
我輩は知らかったが、どうやら釣りがお気に召したようだ。実に微笑ましい光景である。
「フッフッフッ、何が釣れたのだ?」
必死に鎌を持ちながら腰を低くするスケルトンに問えば、何やら他のスケルトン達も一緒になって鎌から続く紐を引っ張り始めた。
そこまでして何体も必要な程に大きい魚を引っ掛けたのだろかと、そう思い首を傾げた瞬間、ウネウネと動く巨大過ぎる生物が姿を現した。
「ちょ、ちょっとちょっと! 全然微笑ましくないじゃん! デカ過ぎるって! 何を釣ってんだよお前達!」
思わずロールプレイをしていた事を忘れてしまう程に巨大な生物は、食腕を巧みに使って攻撃してくる。クラーケンと呼ばれるに相応しい攻撃だった。
と言うか、折角平穏無事な船旅だったのに、自ら危険生物を呼び寄せるとか何を考えとるんじゃアイツ!
「ちょ、マジでヤバいって!! そ、総員攻撃用意! 用意出来たら各自の判断でヤっちゃって!!」
もうロールプレイとか気にしてられない。俺は賢者に売って貰った自慢の鎌を両手に、叫びながら食碗を斬り裂いた。
嘗てレベル100くらいだった勇者がアッサリと敗北を喫した。その時の相手がクラーケンという化物であるのは誰もが知るところ。
現在の俺のレベルは300を越える。メンバー達も似たり寄ったりだ。
これで勝てるのかと問われれば、分かりませんと言うしかない。だってそれ程に勝てるイメージが湧かないのだからしょうがないじゃん。デカ過ぎるのだ、クラーケンが。
「何でよりによってクラーケンを釣っちゃうの?! テヘペロじゃねぇんだよ! お、お前、後でぶっ飛ばすかんな!」
悲鳴混じりに文句を告げれば、この現状の元凶となるスケルトンが実に腹立たしいポーズを見せた。どこでそんなポーズ覚えたのか不思議だが、絶対に後でぶっ飛ばしてやる。
「こ、こうなったら苦肉の策だ! 誰でもいいからクラーケンの口の中に突入して、無防備な体内から魔法で攻撃するしかないぞ! いいか?!
どうぞどうぞじゃねぇんだよ! 誰かヤれっつってんの!!」
家臣のスケルトン達だけじゃなく、元海賊の家臣までもが一斉にどうぞどうぞとススメてくるが、テヘペロポーズといい今のといい、何処でそんなやり取りを学んだのか不思議でならない。テレビを拠点に設置したのが不味かったのかもしれない。
「チクショォオオ! いいぜ、ヤってやるよ! 男の生きざまを見せてやるぜぇえええええ!!」
肩に鎌を掛けながら特攻した俺は、クラーケンの生臭い口から体内に突入した。そして、全力の火魔法を発動。クラーケンの体内が焼け爛れるその匂いは実に酷い悪臭で、しかしそれを無視して更に火魔法を放ち続ける。
俺って助かるのかな、とそんな疑問も過る中、俺はひたすら火魔法を放ち続けた。それはもう魔力が枯渇して気絶するまで。




