馬鹿三人組の一人
このダンジョン生活が始まってから、もうかなりの年月が経過したんじゃないかと思う。多分、四年くらいは経っているんじゃねぇかな。
しかし、それでもダンジョン生活は飽きない。毎日が楽しくて楽しくて堪らないのだ。特にそう感じるようになったのは、俺達挑戦者の間で賢者と呼ばれる奴から魔法武器を売って貰ってからだろう。
俺の名前は、佐藤洋介。挑戦者達からは龍剣と呼ばれている。
そんな俺が現在何をしているのかと言えば、ヒューマンやエルフやドワーフ達の国々から略奪した船で一番性能がいいのを選択し、南の大陸を目指し出発していた。恐竜が出現するエリアを通り抜けるのは俺のレベルでは到底不可能なので、ベネン国の海岸から大回りで南の大陸を目指し出発した事になる。このルートならレベル300に到達したばかりの俺でも、確実に進めると考えた上での進行ルートだ。
まだ海岸沿いという比較的浅い場所を船が進んでいるせいか、遭遇する海モンスターは弱い奴ばかりだった。たまに遭遇したとしても、恐らくレベル100前後のモンスターだと考えられるので、無視しても何の問題も無い。船にダメージを与えられるようなモンスターではないのだから、完全に無視している。
船の操舵を任せている使い魔の元海賊達は、忙しなく船上をバタバタと動き回っているが、その他のメンバーは俺を含めてノンビリしたもんだ。因みに、その他のメンバーというのは、全部がスケルトンである。
しかし、そのスケルトンはただのスケルトンではない。種族進化を果たしたスケルトンであり、スケルトンアーチャーが三体、スケルトンメイジが二体、スケルトンウォーリアーが二体という実に頼もしいスケルトン達であり、決して雑魚と有名なただのスケルトンとは一線を画す存在である。
まぁただのスケルトンだとしても、俺はいっこうに構わんがね。何せ、スケルトンという存在が素晴らしいからだ。あのフォルム、邪悪そのものの恐ろしい外見、見た者を一瞬でも恐怖させるあの外見には、俺の何かが呼び起こされそうで実に俺に相応しい使い魔だと心底思ってる。
そのスケルトンが進化した時は、もう死ぬ程に嬉しかった。俺の、そう、俺様の配下としてこれより素晴らしい使い魔が存在する筈は無いと思えるくらいには嬉しかった。
俺の持つ龍剣と魔王の配下を彷彿とさせるスケルトン達で行動する日常は、何よりも楽しい最高の日常だ。襲って来る沢山のモンスターに、龍剣を振るう事で炎の龍を放ち攻撃するのもいいし、配下のスケルトン達にモンスターを一掃させるのも実に面白い。そうやって暴れまわっていたら、人間達から驚異的な存在として指名手配されるとは思わなかったが、それもこれも実に面白い出来事だと言えるだろう。
だがしかし、何故人類から指名手配されたのか不思議でならない。船を略奪する時も実に紳士的に接していたし、俺様は誰一人として殺していないと言うのに、どうして俺様を危険人物として指名手配したのか納得いかない。
……いや、まぁ略奪はしているのだから指名手配されるのも当然なのかもしれないが、それにしたって指名手配の手配書に描かれた俺様の顔は邪悪過ぎるとしか思えない。悪意に満ち過ぎているだろう。
今にして思えば、あの出来事が不味かったのかもしれない。それと言うのも、一時期沢山の冒険者が一堂に集まっていて、それを不思議に思ってその冒険者達の後を追って行った時の事だ。
朝には雲一つ無かった空の機嫌が悪くなり、少しずつ天気が崩れ始めたその時、冒険者達一行の先頭で雄叫びが響き渡った。当然、冒険者達の背を追う形で追従していた俺様には何が起きたのか分からず、ただひたすら最後尾で冒険者達にバレぬようひっそりと付いて行くだけだ。
それから暫くして、俺様が先頭集団に追い付いた時に漸く何が起きていたのかが明確に理解出来た。巨大な人型のモンスターだった。一つだけしかない巨大な目、三メートルから四メートル程はあろうかと思える巨大な体躯。そう、凶悪なサイクロプスだ。
本来サイクロプスというのは、人類の生存圏からかなり離れた場所に生息している。それは俺様も充分に理解していた。何せ、掲示板でサイクロプスの生息地が有名だったからである。
そんなサイクロプスが何故人類の生存圏まで来てしまったのかは分からないが、来てしまったからこそ沢山の冒険者が一同に集ってこうなっているのだろうと、冒険者達が必死に戦っているのを尻目にそう納得した。
そしてその戦いと呼んでいいのか分からない程の戦闘は、一方的な程にサイクロプス有利に進んだ。それも当然の事で、レベル300を越えた賢者が個体レベルを上げる為に丁度いい相手だと評していたモンスターなのだから、その辺の冒険者で太刀打ち出来る次元の話ではないのだ。
だが、何とかサイクロプスに食らい付いている者達も冒険者の中には居て、それが要因となって総崩れは避けられていた。恐らく、レベル200近くはあるのだろう。戦闘の際の動きを見ていると、薄々だがそう思えた。
しかし、個体レベルがなかなかに高かったとしても、スキルに恵まれていないのはその動きから明らかで、とてもサイクロプスを殺せるとは思えない。事実、少しずつだが動ける冒険者の数が減っている。
客観的な分析をしつつ眺めていると、何とか食らい付いていた冒険者達がサイクロプスの蹴りを一斉に食らって沈黙してしまう。死んではいないが、骨折などの重症を負ったのは間違いないだろう。
そこまで場が進んだところで、俺様は動いた。エルフ、ドワーフ、ヒューマン、人種は様々だが同じ人間だ。このまま見過ごすのは夢見が悪い。そう思ったからこそ、俺様は冒険者達を助ける為に動いたのだ。
先ずは配下のスケルトン達を先行させた。この時は今と違って、ただのスケルトン達である。
そして突如現れたスケルトン達に冒険者達だけでなくサイクロプスすらも動揺するその僅かな隙を狙って、俺様はサイクロプスの背後から奇襲を仕掛ける。俺様の切り札であるスキルの倍加という五秒だけステータスを倍にする変わりに、五秒が過ぎるとあらゆるステータスが通常状態の半分以下になってしまうというメリットとデメリットが双方ともに大き過ぎるスキルを使用しての奇襲だ。
そのスキルを使用しての奇襲だけに、俺様の剣はサイクロプスを袈裟斬りにする事に成功。鳩尾の少し上まで斬り裂いた事を察しながら、俺様は剣を引き抜くと直ぐ様大きく後退し、剣を大きく振って炎の龍を放つ。
放たれた龍はその身をサイクロプスの背中に打ち付け、瞬く間に炎上。激しく燃えるサイクロプスには、その苦しみにのたうち回る暇はなく、配下のスケルトン達が一斉にトドメを刺すかの如く遠慮会釈の無い執拗な攻撃が繰り返し加えられた。
それで終わりだ。サイクロプスとの初戦闘だったが、それで呆気なく終わったのだ。
元々冒険者達によって少々のダメージを受けていたし、俺様の切り札を使用しての攻撃も受けていたし、当然の結果だろう。その対価として、一定時間を大きなバッドステータスとなったがね。
まぁそれは兎も角として、ここまでは謎の存在が戦闘に参加してサイクロプス討伐に成功って感じで問題無く終わったのだろう。そう、俺様がフードを目深に被るとか声を発しないとかちゃんと対策をしていたら、少なくとも何の問題も生じなかった筈だ。
だが、スケルトン達を冒険者達一行に見せた事、そして初めてサイクロプスを仕留めた事で有頂天になっていたのが災いして、俺様は姿を晒し言葉すら発してしまったのだ。これが何よりも悪手であったのだろうと今にしては思わざるを得ない。
「弱者は弱者らしく、身の丈に合ったモンスターとだけ戦うんだな。でなければ死ぬだけだ」
ちょっと格好つけてそう言った後、サイクロプスとの戦闘で動けなくなっている冒険者達一行を少しそれっぽい強者感を振り撒く為に嘲笑しつつ俺様はその場を後にした。勿論、俺様の話す言語は日本語なので、彼ら冒険者に通じてはいない。あくまでも格好良く去る為、謎の強者というロールプレイの為に言った事だ。つまり、自分が満足する為だけの発言だった訳だ。
しかし、言語は通じずとも仕草の意味は正確に伝わったようで、それから暫くして俺様の手配書が出回り始めたのだ。そしてその結果、手配書に描かれた俺様の顔はと言えば、物凄い意地悪そうな侮蔑の笑みを浮かべる物となってしまったのである。
これは予想外過ぎた。もっと強者感溢れる手配書ならまだいいが、この手配書の俺様はまるで子悪党だ。勘弁してほしいの一言である。
「日常には満足してるが、これじゃない感が半端無い」
俺様と同じく指名手配された死神は今どうしてるだろうかと、そう思いつつ忙しなく元海賊の配下が仕事をこなす船上で小さく呟く。今頃は俺様と同じルートで南の大陸を目指している筈だが、上手くいっているのだろうかと、そう少しだけ心配しながら。




