本物の強者
★★★★★★★★
level:1254
名前:エルダエル
性別:男
種族:ヒューマン
スキル:無し
★★★★★★★★
何も記されていないスキル欄を見てホッとするのも束の間の事、個体レベルの数値を見て盛大に身震いしてしまう。正直言って、鑑定スキルを発動させなきゃよかったと思ってしまうくらいには後悔した。心底見なきゃ良かったと思わずにはいられない。
レベル1254て何なんだ、レベルは999以上あったのか、そもそもレベルに上限があるのか、そんな様々な疑問が脳裏を過るが、しかし一番気になる疑問はベルセルクと呼ばれる男がこれまでにした苦労がどれ程のものだったのかという事。ベルセルクはたった独りで行動する冒険者として有名だそうで、そうである以上はこれまでの冒険者活動では苦労の連続だったに違いない。それこそ、俺程度には想像すら出来ない修羅場の数々を潜り抜けてきたのだろう。
だが、それにしたって限度がある筈だ。苦労をするにしても、その苦労を許容出来る心の限界ってものが誰しもある筈なのだ。
ベルセルクのレベルを見れば見る程に、その常人なら耐えられる範疇を楽々と越えているように思えて仕方なかった。気が狂うような生活を常にしていなければ、とてもではないがあんなレベルには到達出来やしないからだ。ましてや単独でなら尚更に。
ベルセルクの外見は、四十代半ばの眼光鋭い男と言った感じで、身長は175センチ程であり、鎧を着ていても鍛えられた肉体であるのは察せられる。
冒険者としては何処にでも居るような感じの男なのだが、そんな男が恵まれたスキルも無しにここまでの強者になれた経緯が気になって仕方がない。勿論、努力したのだろう事は理解しているが、どんな努力をしたのか、はたまたどんな手法を用いてレベルを上げたのか、そういう諸々が知りたくなったのだ。
そう、ベルセルクのステータスを眺めている間に、いつしか俺はベルセルクを尊敬し始めていたのかもしれない。いや、間違いなくそうなのだろう。それ故に、ベルセルクのこれまでの人生が気になって仕方がないのだと思う。
「マスター」
「…………………」
「マスター!」
呆然とベルセルクのステータスを見つめ続けていると、ブリュンヒルデに呼ばれているのに気付きハッと我に返る。そして、視線をブリュンヒルデに向ければ、彼女が至極心配そうに此方を見つめていた。
「あ、あぁ。大丈夫、大丈夫だよ」
「本当に大丈夫ですか?」
「確かに因縁の相手が居て混乱したし困惑したし恐怖もしたけど、もう大丈夫。頭は冷静そのものだよ」
いたく心配そうに俺を見つめるのは、ブリュンヒルデ以外のメンバーも同じで、ミオンだけを除いて全員が俺の精神状態を気にしているようだった。だからこそ俺は、敢えてニッコリと笑ってみせた。
すると本当に大丈夫なのだと理解したらしく、皆がホッと一息を吐き出した。そしてその一連の様子を見ていて、自分だけが理解出来ないこの状況に苛立ったのか、ミオンが俺の肩を揺さぶりながら声を掛けて来た。
「おい、私だけ除け者にされた気分だぞ。いや、確実に私だけ除け者にされてる」
「ぅん? あ〜、それは被害妄想だって」
「じゃあ何なのか説明しろ」
心底納得いかないと言いたげなミオンに、俺はベルセルクとの因縁を説明する。それはもう事細かく正確に。
そうしてベルセルクとの経緯を伝えた後は、つい先程に見たばかりのベルセルクのステータスをも告げる。そしてそれには勿論、皆が絶句していた。とても信じられないと言いたげな様子だ。
しかし、ベルセルクのレベルは紛れもない事実であると説明すれば、誰もが唸るだけで沈黙してしまった。俺がこの状況で嘘を言う意味が無いし、それに何より俺が今まで一度も嘘を言った事が無いので一応信じてはくれたようだが、事実を理解出来ても心が納得する事を拒絶しているようだ。
その気持ちも充分に分かる。個体レベルというものは、ただ戦っていれば上がるというものではないからだ。
例えば、個体レベル10のゴブリンが居たとする。そしてそのゴブリンを延々と倒し続けていれば、それに従って延々と自分の個体レベルが上がるのかと言えば勿論その答えは否である。確かに個体レベルが低い内は自身の個体レベルも上がるだろうが、レベル差が開き過ぎると経験値が入らなくなるのだ。
それ故に、個体レベルを上げたかったら程好い相手を倒さねばならないし、そうである以上は苦労する事を絶対に忌避してはいけない。寧ろ、苦労する事が当たり前なのだと考えた上で、全てを許容して努力しなければならないのだ。
そう考えると、ベルセルクがどれだけ異常なのかは理解し易いだろう。まだ仲間が居るのなら納得するのも容易であるが、ベルセルクは単独で行動し続けているのだ。そしてその上で現状の強さを獲得したのだから、それがどれだけ異常なのか、それがどれだけ困難なのか、それがどれだけ狂気の沙汰なのかが馬鹿でも分かる話だ。
「ミオン、アレはマジでヤバいと思う。はっきり言うけど、このまま襲撃するのは馬鹿のやる事だとしか言えないよ」
「同じ超越者でもここまで違うもんなのかよ。私は自惚れてたのかもな。……ムカッ腹が立つぜ」
同じ超越者でもその強さの次元が違う存在に、ミオンは渋面で感想を口にした。強くなる事に必死な彼女だからこそ、決して許せない現実なのだろうと思える。
だがしかし、客観的な事実を無視する程に馬鹿ではない彼女は、標的を前にしても襲撃を中断する事を了承してくれた。本当は家族に対して圧力を掛ける馬鹿な長老を始末したくて仕方ないのだろうが、今はベルセルクが護衛の一人としているのだから中断するべきだと苦渋の決断をしてくれたのだ。
ミオンの主として情けないと思いつつ、それと同時に冷静な判断をしてくれた彼女には素直に感謝するしかない。
「念の為にフードを目深に被ってて。ベルセルクはスキルを一切持ってないけど、あれ程の強者なんだから油断出来ないからね」
俺の指示でメンバーの全員がマントのフードを目深に被ると、ただひたすら黙して標的の一行が過ぎ去るのをジッと待つ。その間の筆舌に尽くし難い悪寒が凄まじい事この上なかったが、一言も発する事なくただ黙って過ぎ去るのを眺めていた。
そして一行の姿が遠くになった頃、漸く俺達は目深に被っていたフードを取った。全員の額には尋常じゃない量の汗が浮かんでおり、その中でもミオンは滝のように汗を滴らせていた。
俺はそれに気付きギョッとして声を掛けたのだが、ミオンは震える手を自身で必死に抑えつけるだけで何も言葉にしない。しかしそれでも俺が声を掛け続けていると、ミオンがポツポツと語り始める。
「護衛する者達、護衛される者達、その両者以外にだけ向けられたあの殺気………殺気をあんな風に自由自在に扱える話など聞いた事もねぇ。ベルセルクって奴はとんでもねぇな」
「あれって殺気だったの? って事は、俺達の事はバレてた?」
「いや、バレてた訳じゃねぇと思う。多分、襲撃されたとして対処するのが面倒だから常に殺気を放ってたんだろうよ。純粋な殺意を受けさせる事で、襲撃する事を躊躇させるつもりなんだろうな。……横着な奴だぜ」
ベルセルクが近くを通る時に感じていたプレッシャーから、その意味を感じ取ったミオンは流石だ。俺や他のメンバーはただベルセルクの放つプレッシャーに耐えていただけだったのに、やはり同じく超越者と呼ばれるだけはある。
「ワタクシ達はレベルが上がって少し自惚れていたのかもしれんな。それでなくとも、超越者のミオンを仲間にしてから超越者という存在を近しい者になったのだと考えておった事も自惚れておったのやもしれん」
ヘルが言った事は至極正しいのかもしれない。いや、自惚れていたというのは言い過ぎだが、認識が甘かったというのは間違いないだろう。
超越者がどんな強者なのか、超越者には何が出来て何が出来ないのか、そういう諸々を詳しく調査するべきだ。そしてその調査で知った事を念頭に、自分達の腕を今以上に磨く時が来たのかもしれない。武術、魔法、戦術、全てを正しく磨く。ただ個体レベルやスキルレベルの高さに一喜一憂する時は既に越えており、その次のステージに進む時が来たのだ。




