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因縁の相手

 悪魔のようなミオンの嘲笑を、俺達は頬を引き攣らせながら何度も目にした。そう、もう既に欲に堕ちた長老を四人も始末しており、その都度証拠隠滅の為に死体処理をしたり馬車の処理をしたり、その果てには道を何も無かったかのように誤魔化している訳だ。

 土属性魔法というのは、心底役立つと思わざるを得ない。死体や馬車の処理をする際、土魔法で大きな穴を作り、そこに隠したい諸々を放り込むだけで済む。襲撃で凸凹になってしまった道も、同じく土魔法で元通りになるのだから土魔法様々である。


「標的は後三人だったよね?」


「おう。残ってるのは面倒な家ばかりになるな」


「面倒? 何が面倒なの?」


「レベル300とか400くらいの家臣を持つ奴らばっかが残ってんだよ。まぁ、そのウザい奴らが護衛として一緒に来てるかどうかは分かんねぇけどな」


「それってかなり強いじゃん。念の為に詳しく教えてよ」


 レベル300から400ともなれば、俺達だって油断は出来ない相手となる。レベルが上がったからと言って、刃物で斬られたら当然皮膚は裂け肉も裂け骨も断たれるのは同じなのだ。人間なのだから当たり前の事。

 例外がアイリス国のフィールドボスになるが、あれは掲示板の情報によるとそもそも人間ではなくドラゴンらしいので除外させてもらう。

 それで何が言いたいのかと言えば、つまりレベルが上がったから皮膚も頑丈になるという訳ではないと言いたい訳だ。確かにレベルが上がれば身体能力が向上するが、だからと言って多少は頑丈になってもそれは打撃に対してのみであり、刃物類で攻撃されれば当然通用するのである。


 例えば、レベル0の者が居たとしよう。その者と街中で擦れ違うその瞬間に、油断していたらナイフで首を切り裂かれ死んでしまうという事があり得るのだ。レベル700を越える俺達ですら、そんな可能性があるのだ。

 であるからして、レベル300から400の相手となったら身体能力的にも近しいので、全く油断など出来ない。モンスターと違って武術も習得しているだろうから、いつもより慎重にならないと駄目なのだ。


 それ故に相手の詳しい情報を尋ねたのだが、ミオンは顰めっ面で無言になったかと思えば、そこから石になったかのように身動ぎ一つしなくなった。それを見て当然、俺は溜め息を吐かざるを得なかった。


「ちょっとちょっと、そりゃないよミオン」


「い、いやいや、少し待ってくれ。絶対に思い出すから」


「頼むよマジで」


 そう言いきるや否や、俺は再び溜め息を吐くと視線をミオン以外のメンバーへと移す。

 すると、メンバー全員が苦笑していた。


「超越者の力を取り戻した………いや、嘗てより強くなったミオンだが、それでもそういうところは変わらんな」


「確かにそうですね。ですが、姫様も時々ミオンと変わらない程度にはポカしておりますけど、それは自覚なさってますか?」


「何を言っておるのかサッパリ分からんな」


「ウフフ。自分の事は意外な程に見えていないものなのだから、ヘル自身が気付いてないのも無理からぬ事ね」


「まさにアグライアの言う通りだよ。ヘルは意外とやらかしてたりするからねぇ」


 アグライアとタレイアの言葉に反応して、ヘルは納得していない様子で唇を尖らせるが、そこにハルちゃんとナっちゃんがトドメを刺す。


「マスターを独り占めしようと画策した結果、いつもその罰として夜の日を取られちゃったりしてるじゃない。アタシはもう二度もヘルとマスターの夜の日を貰っちゃってるし」


「確かにそうじゃな。妾など三度も貰っておるのじゃ」


「なっ………ぐぐっ。あ、あれはワタクシが油断したからであって、別にワタクシが抜けている部分があるという訳ではないぞ」


 トドメを刺されても尚、必死に弁明するヘルだったが、ここで思わぬ伏兵が現れる。欠伸混じりに話を聞いていたテティスだ。


「ヘルさんって残念姫様ですー。いつもはそうじゃないけど、マスターの事が絡むと残念姫様に変貌しますよねー」


 残念姫様という不名誉な呼ばれ方をしたヘルは、ガクッと項垂れた。ブツブツと「違うもん」と何度も小さく反論しているが、その姿が尚更哀愁を漂わせている。

 それを見てミオン以外の全員がプッと吹き出した瞬間、今まで必死に思い出そうとしていたミオンが手を叩いて明るい声を響かせた。


「思い出したぞ! 私が子供の頃に活躍してた有名な冒険者グループが居るんだが、そいつらを家臣として雇ってるのがシューベルっていう糞長老で、その雇われてる元冒険者の人数は三人だ! そんで残りのモーツルとヘントっていうこれまたクソッタレ長老なんだけど、コイツらは代々の家臣がそこそこ強いんだ。で、その強い家臣が、それぞれに三人ずつって感じだな!

 いやぁ〜、私の記憶も大したもんだなこりゃ。思い出そうとしたら結構出てくるんでビックリしたぜ」


「なるほど、悪徳長老にそれぞれ三人ずつの強者って認識でいい訳だね?」


「あぁ、間違いねぇぞ。ただ、この残りのクソッタレ長老三人は、少し鬱陶しいくらいには強かったりするから気を付けとけよ」


「へぇ〜、意外だな。権力にふんぞり返ってるだけじゃないんだ?」


「まぁな。先に始末した糞とかと違って、小悪党ってタイプじゃなくて諸悪の根元って感じだから」


「分かった。まぁそうは言っても、長老の始末はミオンがしたいだろうから、俺達はあくまでもサポートに徹するよ」


「おう!」


 物騒な類いの話をしているのに、満面の笑みを浮かべて頷くミオンにはやはり少し引いてしまう部分があるものの、そんなミオンに慣れ始めている自分にふと気付いた。まぁミオンを仲間にしてから十ヶ月以上も経過するのだから、慣れるのもある意味では当然なのかもしれない。

 そう思いながら相も変わらず叢に潜伏し続けていると、標的以外の長老が幾人か通り過ぎて行った。豪勢というよりは質素な馬車であったのが印象的で、お金儲けとは縁が無さそうな感じだった。


 それから暫くして、太陽がその姿を静かに消し始めた頃、標的の長老が乗った馬車が視界の遠くに見えた。夕暮れ時に現れたその馬車は三台で、家紋もそれぞれ違う。馬車を護衛している人数など全部で六十人を越えるだろう大所帯。

 その光景を見て、俺は思わず舌打ちしてしまった。何故なら、標的の長老三人が揃っていて、ミオンの言う強者の護衛も含めた沢山の騎士だか兵士だかが一緒だからだ。これではとても襲撃するのに都合がいいとは言えない。


「ウゲッ………何で親父も居るんだよ?!」


「親父ってミオンのお父さん?」


「あぁ。……何でか知らねぇけど、親父が居るのは間違いない。あの集団の先頭に立ってるのがそうだ」


 俺が想像する細い体躯のエルフとは違って、そこそこに鍛え上げられた肉体を持つミオンの父親は、眉目秀麗で爽やかそうな外見をしている。しかしその反面、肩に掛けるようにして持っている斧の存在感が凄まじく、その外見と手にしている武器の相反する印象には現実味が無い。

 俺はそのミオンの父親を見ながら、最悪の組み合わせに再び舌打ちしてしまう。ただでさえ襲撃に黄色信号だったのにも関わらず、この状況でミオンの父親が関与してくるとなれば明らかに赤信号だ。


 これは駄目だなと、そう内心で結論付けたその瞬間、首筋がチリチリするのを感じて嫌な記憶が甦る。両腕を斬り落とされたり喉を斬り裂かれたのは一度だけだ。その一度だけの記憶が、何故か今この時にふと脳裏を過った。

 ゾッとした。まさかと思った。そしてその思いを払拭するべく、また視線を此方へと進む一向に移し、その結果絶句してしまった。


「奴が居る………!」


 俺の言葉に反応して、メンバー全員がゾロゾロと歩く集団の一人一人を詳しく見渡し理解する。そして勿論、全員が俺と同じく絶句した。

 そう、奴が居るのだ。俺を瀕死に追い込んだあの死神が、集団の最後尾を悠然と歩いて居るのだ。あの、超越者の一人であるベルセルクがだ。


「何だ? どうかしたのか? 私は親父が居ても大丈夫だぞ?」


 ミオン一人が理解していない状況の中、俺を含めた他のメンバーは生唾を飲み込むばかりで何も言葉に出来ず、ただただ最後尾を悠然と歩くベルセルクの姿を見つめる事しか出来ない。いや、目を離せないと言った方が正しいだろう。

 目を離したその瞬間に、以前のように斬られてしまうかもしれないと考えてしまい、その結果目が離せない。恐怖によって目が離せないのだ。

 俺はそんな自分が情けなく思えるが、それでもこの感じている恐怖には抗えない。身体全身に悪寒が走り、第六感が警鐘を奏でる。

 逃げろ、逃げろ、今すぐ逃げろ。何もかも手放して全力で駆けろ、駆け続けろ。そう第六感が叫んでいる。


「マスター? おいおい、他の奴らも一体全体どうしたってんだ?」


 ミオンに肩を叩かれ、俺はそこでハッと我に返る。そして、ミオンを見つめてふと気付く。

 そう、此方にも超越者が居たのだ。テイムする以前より遥かに強くなったミオンが仲間の一人として居るのだ。

 その事実を理解した瞬間、俺は少しだけ恐怖が和らいだ気がした。気のせいではなく、本当に少しだけだが気分が落ち着いたのは間違いない。


 それで俺は、悠然と歩くベルセルクを見つめながら鑑定スキルを発動させた。そして、見て知ってしまった事に盛大に後悔した。

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