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悲劇のヒロイン?

 ミオンの生まれ育った村は、本当に長閑な農村型の村でしかなかった。心底牧歌的で争いとは無縁そうな村である。

 だが勿論、そんな村であってもモンスター対策を講じてあるのは流石で、決して防衛力が無いという訳でもなかった。剣呑過ぎず、しかし戦いを忘れてはいないというバランスのとれた外見の村。こんな村でどうしてミオンのような戦闘狂が生まれたのか疑問に思うくらいには素晴らしい村だ。


「いい村だね」


「そうか? ただのド田舎の村にしか見えねぇけどな」


 嫌味でも何でもなく、本当に素晴らしい村だと思えたからこその感想だったのだが、ミオンからしたらそうは感じないようで、彼女は事も無げに言い放った。

 しかし、それは言葉だけの事。耳が少し赤くなっているところを見るに、本心では村を誉められて嬉しかったのだろうと思う。


「それより、本当に此処で待つだけなのか? 暇で暇で仕方ないんだが?」


 現在俺達が居るのは、長老達が集合する手筈になっているミオンの生まれ故郷の村が見える少し離れた場所。隠れるには丁度いい森があったので、そこに身を隠して潜んでいる訳だ。

 しかし、いつまでも隠れ続けているつもりはない。理由はミオンの言う暇だからというものではなく、別の思惑があるからだ。


「長老が全員集合するのを待つ気は無いよ。長老制が始まった当初と違って、代を重ねた今の長老達は怠けて弱体化しているとは言っても、マトモな長老だったらそこそこ強い奴も居るって言ってたでしょ? そんなマトモな長老さえも集まってしまったところを襲撃するのは面倒そのものだと思うんだよね。だから、この村に移動している最中を各個撃破した方が無難だと考えるのが合理的じゃん?」


「それじゃあ、この村に続く道を辿って行って、襲撃し易い場所で待つって事か?」


「そう、その通り! 欲に堕ちた馬鹿のみをピンポイントに狙う訳だね」


「シンプルでいいな!」


「でしょ? この作戦なら、ミオンの親族とか知人とかを敵に回す事も無いし、馬鹿のみを相手に戦えるから手加減する必要も無いし、その他諸々の面倒も一切無いよ」


「だな! 私も流石にお袋や兄貴とは戦いたくねぇしな」


 ミオンが俺の立てた単純明快な作戦に手放しで同意してくれた事もあり、他のメンバーも何一つ反論する事なく了承してくれた。やはり今回の出来事の中心となるのはミオンだからで、その話の中心となるミオンが作戦に同意したとあったら他の者が口を挟むところではない。そう思っているからこそ、他のメンバーは何も言わなかったのだろうと察せられる。


 そんな訳で、俺達は村へと来ていたが早速移動を開始。村に続く道は一本のみなので、村から歩いて二時間程度の場所に雑木林があったのを予め見て知っていたのでそこを潜伏場所とし、ただひたすら長老達が通るのを待つ。

 それから暫くして、太陽の位置が頂点を過ぎた頃だった。蛇の家紋が印象的なそれを馬車にデカデカと記してある豪勢そのものの代物が、五人という少ない護衛の者を伴って現れたのだ。


「あれは襲っちゃ駄目だぞ」


「無関係の人間?」


「いや、関係あるっちゃあるけど、ありゃあマトモな長老だからな。武力という面ではまだまだ弱いんだが、今代の当主は未だ二十のガキだからその辺はこれからに期待って感じで、性格そのものは先代の当主と同じで清廉潔白なんだ。統治している領土に暮らす住民も不満の無い統治者として認識してるぐらいだしよ」


「へぇ〜、素晴らしい人なんだね」


「まぁな。強いて言うなら、経験不足のところが心配されてるらしいんだが、まぁそれはまだ二十歳だから仕方ねぇ事だ」


 二十歳の身空で当主にならざるを得なかったのにはそれなりの理由があるのだろうが、俺達には関係無いのでそこは尋ねず、ただ黙って馬車が通過していくのを見守った。

 そしてそれからまた暫くして、今度は馬の家紋を馬車に記した物が視界に入り、それ故にミオンへと視線を移せば、それはもう獲物を発見した肉食獣のように目をギラギラとさせているので、あれが標的の一人なのだなと察し、俺は他のメンバーへと目配せする。


「漸く妾達の出番じゃな?」


「そうみたいだね。皆準備はいい?」


「勿論じゃ。そうじゃろう?」


 ナっちゃんの問い掛けに無言で頷くメンバー達を見て、俺はニッコリ微笑むと再び視線を馬車に移す。まだまだ俺達の潜伏している場所からは遠い位置に、ノロノロとした速度で護衛二十人を引き連れ此方に向かっているのが見てとれる。


「護衛の人達はどうする? 善人の人達も居るだろうから捕縛━━」


「いや、善人など居やしねぇよ。糞のおこぼれ欲しさに頭を垂れる連中ばっかりさ」


「あ〜………それなら遠慮無しって事で」


「おうさ! パパッと済まそうぜ!」


 魔法の間合いに入るのをジッと待ちながら、俺達は無言で魔力を高める。そして標的の乗っているであろう馬車が目前を通り過ぎる瞬間、俺達はそれぞれに特大の魔法を放った。

 俺は雷、ミオンは氷、ハルちゃんとナっちゃんは火、それらの目立つ属性魔法とは相反して視認しづらい風の魔法を残りメンバーが選択して放った魔法の数々は、護衛の二十人を至極アッサリと全滅させてしまう。はっきり言ってオーバーキルというやつだった。

 御者や護衛達の悉くが無残な姿を晒す光景は、まるで爆心地のようで、俺には戦争映画で見た空爆後のように見えた。空恐ろしい光景であり、筆舌に尽くし難い。自分達がやった事なのに、そう客観的に思う俺はかなり生前とは変わったなと思うしかないだろう。


 しかしそんな中であっても、まだ馬車だけは辛うじて形を維持し残っており、俺達はその中に乗っている者を引き摺り出そうと接近する。そして、接近するなり馬車の扉を無造作に開いたのはミオンで、扉が完全に開かれると剣を持った女性がミオン目掛けて奇声混じりに突きを放って来た。

 だがその動きは酷く緩慢で、とても攻撃だとは思えない刺突。となれば当然、ミオンがその突きを避けられぬ訳もなく、半身になる事でサラリと回避する事に成功した。


「無様に地面へと顔を付けてどうかしたか? ハッハッハッ、贅を凝らした服が台無しじゃねぇか!」


 ミオンが俺に理解出来ぬ言語でもって、地面に這いつくばる四十代程に見える外見のエルフ女性に声を掛けた。その表情はまさしく悪魔のようで、あまりの人相の悪さに自分達がとんでもない悪人になったかのような居心地の悪さを感じてしまい、俺は堪らず確認の意味を込めてミオン以外のメンバーへと視線を向ければ、メンバー全員がミオンの表情にドン引きしていた。

 それを見て俺だけじゃなかったんだと、俺だけが変な居心地の悪さを感じていたんじゃないんだと、そう認識してホッと胸を撫で下ろしていると、長老の一人と思わしき人物が必死の形相で何やら叫んだ。


「き、貴様はミオンか?! 何をとち狂った事をしておる?!」


「ヒャハハハハハ! そう、その顔が見たかったんだ! 実に楽しませてくれるじゃねぇか!」


「長老という立場の私に逆らうつもりか!」


「この状況でそんな馬鹿な発言しか出来ねぇのかよ! ヒャハ、ヒャハハハハハ! こりゃますます面白いじゃねえか!」


「み、ミオン……か、金なら幾らでもくれてやる! だから━━」


「じゃあな、ババァ!」


 何か必死にミオンへと叫び続けていた長老だったが、その発言の途中でミオンが別れの言葉と共に槍で突きを放つ。その突きによって槍の先端が、発言途中だった長老の口に突き込まれ、後頭部まで貫いた。

 そして何も言わぬ骸と化した長老に向かって、再びミオンが嘲笑するかのように爆笑した。悪魔だ。まさしく悪魔です。悪魔が俺の目の前に居ます。


 ドン引きで頬を引き攣らせる俺とミオン以外のメンバー達が傍観する中、ミオンは槍を引き抜くと血振りし、俺達へと爽やかな満面の笑みを浮かべつつ言葉を発する。


「あ〜マジでスッキリしたぜぇ。他の長老が通り掛かる前に、手早く死体とかを隠そうぜ」


「「「「「「「「「…………………………」」」」」」」」」


「ぅん? どうかしたか?」


「な、何でもないよ。は、ははは」


「そうか? それにしては━━」


「ほ、ほら早くやらないと次が来ちゃうぞ」


 俺達を見てキョトンとするミオンの言葉を遮り、俺がそう告げると首を傾げながらも死体処理を始めるミオン。今や個体レベルが俺達とほぼ変わらないので、現在のミオンは間違いなくメンバー間の中で最強となっている。であるからして、もうミオンを怒らせない方が無難だなと染々感じた瞬間だった。

 メンバーもそう悟ったのか、ミオンに聞こえない小さな声でそれぞれに注意喚起していた。うん、メンバーの連携は今日も絶好調のようだ。

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