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プロローグ

取り敢えず、150話までは一日五話のペースで投稿する予定です。

読んで頂けると有り難い。

 永遠に眠り続けていたいと思わざるを得ない程の心地好い微睡みの中、けたたましいアラームによって強制的に意識の覚醒へと導かれた俺は、その不愉快な音を発し続けている機械を探すべく重い瞼を開く。


「クソッ……目覚まし時計のクソヤロウは何処だ」


 常日頃は予定の時間を告げてくれる優秀な時計だが、心地好い睡眠を邪魔されたとあっては実に腹立たしい存在だ。

 少しの苛立ちを込めて、そのアラーム音を鳴り響かせている目覚まし時計のスイッチをちょっと強めに押してやるぜと、そう意気込んで瞼を開いて気付いた。


 自身が眠っていたのは大理石のような床の上で、周囲には同じく大理石のような石壁があり、勿論天井も床や壁と変わらず、全く見に覚えの無い部屋。それでいて俺の睡眠を妨害していた筈の先程までアラーム音を響かせていたであろう目覚まし時計の存在も見当たらなかった。


「は? 目覚まし時計……って言うか、此処は何処?」


 全く記憶に無い部屋にただ困惑し、忙しなく周囲へと視線を巡らしてみるものの、本当に何も存在しない。扉すら存在しないのだ。

 その事実に困惑するが、それよりも気になるのは『何故自分がこんな意味不明な場所に居るのか』という至極当たり前の疑問で、しかし思い出そうとしても一切合切何も思い出せない。


 昨日の自分が何をしていたのかも、二日前の自分が何をしていたのかも、それどころか幼少期の思い出すら何も思い出せないのに気付き、俺は思わずパニックになった。


「ちょっ、ちょっ……?! な、何がなんだか意味が分からない?!」


 パニックによって過呼吸気味になり、苦しくて苦しくて堪らない俺は、ただひたすらに呼吸のリズムを思い出すかのように集中した。

 そうやって日常の呼吸をイメージしながら必死に実際の呼吸を繰り返し続けていると、自分の掠れた呼吸音が室内に響いているのを自覚出来る位には冷静さを取り戻す。


 それから暫くして、完全に普段通りのリズムで呼吸が出来るようになった頃、ホッと胸を撫で下ろして『死ぬかと思った』そう内心で考えた瞬間、全てを思い出した。


「あっ……俺って死んだんだったわ」


 そう、俺は三十三歳の若さで病死した筈だ。病の原因は、肺炎である。

 それなのに何故、俺は今此処で平気な顔して生きていられるのか。それが不思議で不思議で、しかもこの意味不明の場所と相まって、この不可思議すぎる事態に大きく首を傾げざるを得ない。


 はっきりと俺は覚えている。自分の葬式が執り行われている様子も、棺桶の中で眠る俺を見て泣く両親の姿も。

 幽霊とでも言うのか、そんな存在が不確かなモノになってしまった俺は、確かに自分の葬儀を見ていた。

 泣き続ける両親に俺は、聞こえないのを承知で先立つ不孝を必死に謝罪し、その後の四十九日を迎え、抗えない程の強烈な眠気によって瞼を閉じ『あぁ、これが人生の終わりなのか』と、そんな風に悟った感じで深い眠りについたのだ。


「それなのに、この状況は一体全体何なんだ?」


 自分が死んだ事、そして今の現状、もしかしたらその全てが夢なのかもしれない。

 余りにも理解の範疇を越えた状況にそう思い始めた頃、下に向けていた視線をふと上へと向けると、何も無かった大理石の天井に文字が刻まれているのに気付きギョッとする。

 突然の状況の変化に急上昇する心拍数を感じつつ、俺はいつの間にか天井に刻まれていた文字を追って視線を動かす。


「チュートリアル? 新たな人生?」


 天井に刻まれた文章は、まるでゲームの取り扱い説明書のようだった。



★★★★★★★★


 病気や事故など、この数ヵ月間で生きていたくても死亡された皆様方に新たな人生のチャンスを与えます。

 とは言え、チャンスを与えられたのは異世界に行っても順応出来るだけの精神力を持つ者だけですけどね。順応出来ないだろうと思われる方は、新たな人生を与えても苦悩するだけでしょうから選択から除外させて頂きました。

 選ばれた皆様は、是非頑張って迷宮というチュートリアルをクリアして下さい。


 と言う訳で、早速ですが諸々の説明を始めます。

 先ずは新たな人生を得る為にクリアしなければならない課題ですが、それは単純に迷宮を踏破する事。その際に数々の困難と対面する事になるでしょうが、そこは御安心下さい。困難に対する策は、既に皆様へと授けられています。


 一つ、迷宮に存在する敵を使い魔として使役する力。

 一つ、自分や使い魔とした存在にスキルを覚えさせる力。

 一つ、迷宮内で死んでもこの部屋で目覚める力。(使い魔も同じだが、迷宮挑戦者が死ぬと使い魔も強制的にこの部屋へと戻る)

 一つ、迷宮内の敵を倒すと経験値が貰え、レベルが上がる度にあらゆる身体能力が向上する力。


 これらの力により、きっと困難な状況でさえも打破出来るでしょう。

 そしてこれだけに限らず、他にも皆様の為に御用意した物があり、それがパソコンになります。

 今回の新たな人生のチャンスに選ばれた皆様1000名だけの間で、情報の交換や入手した物品を交換する機能を搭載したパソコンを上手く利用し、チュートリアル迷宮を踏破する事を祈っております。


★★★★★★★★



 この不可思議な状況にあって、天井に刻まれた文章には少し場違い感を覚える。言葉にすれば『陳腐』とでも言えば良いのか、妙にサラリーマンのセールストークのような文章に実感が得られないからだ。

 死んだ人間を生き返らせる事が出来ると言う事は、それはつまり神様のような存在なのだろう。

 しかしこの文章からは、そんな超常の存在からの文章だとは到底思えず、俺は知らず知らず苦笑してしまった。


「まぁ、取り敢えずはパソコンを見てみるか……って言うか、パソコンって何処にあんの?」


 疑問に思い室内へと視線を巡らすと、天井の文章と同様にいつの間にかテーブルと椅子があり、そのテーブルの上にはパソコンがポツンとあった。

 何も存在しなかった部屋に突然現れた物に躊躇するものの、俺は椅子に腰を下ろしてパソコンの電源を入れる。コードが繋がっていないように見えるパソコンの動力源がどうなっているのか分からないが、パソコンは無事に起動した。

 そうして俺は、そのパソコンのモニターに映った文章に再び苦笑する。



★★★★★★★★


 ようこそ、チュートリアル迷宮の挑戦者よ!

 挑戦者達の間で情報交換し、チュートリアル迷宮を見事踏破するのだ!


★★★★★★★★



 先程のようなサラリーマンっぽさは無くなっているが、今度は少し暑苦しさを感じるその文章に、突如出現したパソコンに対する戸惑いは消え去った。

 その代わりに、やはりこれは夢なのではと、そういう疑問が脳内を占める。

 相変わらずの神様っぽさが感じられないからだが、しかし死んだ筈の自分がこうして息をしているのだからと思い直し、キーボードのエンターを押す。

 するとモニターは、パソコンの使い方や迷宮内での行動に関する説明画面に切り替わった。



★★★★★★★★


 迷宮を一人孤独にクリアするのは不可能に近いので、使い魔を獲得するのをオススメ致します。

 迷宮内で行動中に敵と遭遇しますが、その敵と交戦し弱らせた後、仲間にするぞという強い思いを込めながら『捕縛』と言葉にすれば(或いは念じれば)無事に使い魔にする事が出来ます。


 ただし、迷宮内で使い魔にする事が成功したとしても、拠点に使い魔を強制転移させる専用の部屋を用意していないと駄目ですのでご注意下さい。

 因みに、その専用の部屋は10000DP(ダンジョンポイント)を消費する事で拠点内に設置可能です。DPは迷宮内で取得した物品をテーブルの上に置き、それをDPに変換するかどうかをパソコンで選択すれば問題なくDPへと変換出来ますので、頑張ってDPを稼いで下さい。


 迷宮内では他の挑戦者と遭遇する事は絶対にありません。他の挑戦者との交流は、あくまでもパソコンを使用しての交流のみとなります。

 ですので、迷宮内で他の挑戦者の姿を探しても無駄になりますのでご注意下さい。

 パソコンを用いての情報交換には、専用の掲示板を御用意しておりますので、そこをご利用下さい。挑戦者間のアイテムの売買では、掲示板の他に専用のツールがあるのでそれを使用して満足の出来る売買をオススメ致します。


 拠点内はDPを消費する事で自由に拡張可能であり、巨大な街のようにする事も可能ですし、住み心地の良い家のようにする事も可能。ご自由にお楽しみ下さい。

 ですが、DPのご利用は計画的になさる事をオススメ致します。困った時にDPが無いという状況にならない事をお祈り致します。


★★★★★★★★



 こんな風に長々と説明は続き、その他にも様々な情報が記されていた。

 俺はそれを読み進めながら、ますますゲームのようだなと思い、知らず知らず笑みを浮かべていた。

 病気で若くして死んだ筈の自分に、こうして新たな人生のチャンスを与えられたばかりか、不思議なアドベンチャーを体験する機会が得られる事に胸が高鳴ったのが正直な感想だ。

 面白そうだとしか思えない。内容がゲームのように感じられるのが原因なのかもしれないが、ゲーム好きなら誰でも喜ぶ筈である。


 ともあれ、パソコンのモニターに記された説明を要約すると、他には次の事が記してあった。

 迷宮内で死亡した際には、迷宮内の探索時に得た品を失ってしまう事。迷宮の階層主を倒せば、次から迷宮内をショートカット出来る事。パソコン内のツールを使用し、DPと引き換えに様々な家具を購入出来る事。迷宮内の敵を倒す事で取得出来る経験値と同様に、10分の1の確率だがDPも取得出来る事。怪我をした際には、拠点内では通常よりも早いスピードで癒えるので、無理せず拠点内で怪我を癒す事。ベッドを購入して使用すれば、更に怪我の治りが早い事。等々と、迷宮を攻略する上で必要な情報が沢山記してあった。


 そしてそんな説明後の画面は、掲示板やアイテムを売買する為の選択画面であり、それを見てとうとうここから実際に俺が動き始める事になるのだと実感した。

 選択出来るのは、掲示板、物品売買、拠点拡張、自分のステータスや使い魔のステータスチェック。俺はその中の拠点拡張を、説明書通りに先ずは選択する。

 すると画面は拠点を上から見た図へと移り変わり、その図の横には現状所有しているDPが表示された。


「500DPってのが多いのか少ないのか、そもそもそれが分からないからなぁ……。拠点を1マス拡張するだけで10DP使うみたいだし、風呂は我慢して先ずは必要なトイレだけ拡張するか? ……あっ、トイレ用に拠点を拡張しても、便器がなきゃ意味が無いよな」


 拠点の拡張は一先ずトイレだけにして、物品売買で便器を探す。目的の代物は直ぐに見つかった。

 だが、その値段は100DPである。一番安い便器で100DPなのだから、これには正直言って頬が引き攣り、現在所有している500DPというのがどれだけ少ないのかを実感せざるを得なかった。


「か、かなりシビアだな」


 非情な事実に躊躇しつつ、ついでにベッドの値段を見てみれば更に頬が大きく引き攣った。


「一番安いので2500DP……!」


 現在所有する五倍のDPが必要だ。とても軽々とは買えない値段に感じられる。


「……こりゃ買うのは無理だな」


 便器は絶対に必要なので100DPを消費して買うしかないが、値段が値段だけにベッドは当分無理そうだと諦めるしかなかった。

 それ故に、俺は便器だけを実際に購入し、拡張画面にモニターを切り替えて便器を早速設置する。そして拡張した部分を確認しに歩を進め、トイレを視認してその様子に絶句する。


「汚っ……!?」


 買ったばかりの便器は何故か茶色い汚れが目立つし、咄嗟に鼻を押さえてしまう程には臭い。


「何で未使用なのに汚いんだよ。……一番安い日用品は、中古品って事なのか?」


 最悪な事実に落ち込むものの、掃除用具はサービスらしく付属されていたので、俺は渋々ながら掃除を開始し、ピカピカになるまで便器を磨いた。

 それから暫くして、俺は一仕事終えたとピカピカになった便器を見ながら満足しつつ、そこでふと気付く。手を洗う場所が無いという事実に。


 手洗い場が無いと気付けば、その途端に早く手を洗いたくてしょうがなくなり、急ぎ足でパソコンの前に戻ると、早速とばかりに手洗い場を拡張して一番安い器材を購入し設置。そして直ぐに手を洗った後は、パソコンのマウスとキーボードを綺麗に拭く。

 そこまでして漸く一息ついた俺は、椅子に腰をドカッと下ろして掲示板を選択してクリックする。

 因みに現在の残存DPは260DPであり、もう既にかなり危険な水準ではなかろうかと思わざるを得ない状況であった。

改行とステータス表記の修正を順次してまいります。

それが終了次第、150話からの続きを書く予定です。

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