追放された聖女は戦地で隻腕の王子と出会う
「アイリス・フローレンシア! 聖女を騙っていた罪でお前を最前線に追放する!」
王国の大聖堂にて、私は枢機卿から告げられた宣言を、どこか冷めた表情で聞いていた。
なぜなら、私はこうなることを前々から知っていたから。
「オーロラ・モーガンを真の聖女として任命する」
私は視線を彼女の方へ。堂々とした足取りで枢機卿の前に立ち、道中で私に蔑んだ視線を向けた女性。
彼女はオーロラ・モーガン。長年にわたり、私に多くの嫌がらせをしてきた女性でした。
「学友である彼女の罪を告発するのはさぞ心苦しかったであろう。その決断を尊重し、数多の人々の賛同により、聖女の称号を貴女に与えよう」
「謹んで承りますわ」
私はその光景に対して、冷めた目線を送ることしか出来なかった。
私が聖女の名を騙り、学友であるオーロラがそれを告発した。私は偽聖女として最前線に追放され、オーロラは聖女の称号を与えられる。
これらは全てオーロラが、私を貶めるために仕組んだことだ。
私は元々作物も育たないような寒冷地の村にいた。十歳のある日、私に聖属性の魔法の才能があると分かり、親戚の伝手で多くの場所を転々とし、最終的に行き着いたのは王都にある魔法学園。
そこで出会ったのが彼女、オーロラ・モーガンだ。
「共に魔法の知見を深めようと誓ったはずなのに、こうなってしまったこと大変心苦しく思います。
まさか、信じていましたのに、彼女が聖女の名を騙っていた偽物だったなんて」
わざとらしく目を伏せるオーロラとその取り巻き達。
私は魔法学園に入学してすぐ、聖属性の魔法を会得し、その才能から聖女と呼ばれていた。そして王子の婚約者に最も近い人物とも。
そんな私は、公爵家の息女であるオーロラにとって邪魔者だったのだろう。私に嫌がらせをし始め、それに動じないと思えば、こんな風に私を偽聖女と貶めてきたのだから。
オーロラは権力と金の力、そして持ち前の狡猾さで周囲の人を騙し、私から聖女の立場を奪った。
それが今回のこれである。数日前、突然兵士に拘束され、地下牢で本人が語ったことだ。私は今でも彼女の言葉を思い出すことが出来る。
『貴女が悪いのよ。
田舎娘如きが、私よりも目立って、優れているのが全て。だから、私のために罪人になってちょうだい』
オーロラにとって、自分よりも目立つ人間は全て目障り。だから、私はこうして偽聖女としてここに連れてこられた。
「これ以上、痛々しい彼女の姿を見てはいられません。どうか彼女のためにも、速やかな罰の執行を!! もう、彼女を見せしめにする必要なんてないのですから!!」
罪人の気を使う、慈悲深い聖女を気取っているつもりなのだろうが、私にはこう聞こえる。
『こいつをいつまで私の前に置いておくつもり? さっさと最前線に送ってしまいなさい』と。
目を伏せて悲しんでいる様子を見せかけて、本当は私に汚らわしい物を見るような視線を向けているオーロラ。
全身を拘束され、言葉すら発することが出来ない私は奥歯を噛み締めながら、そんな彼女を睨みつけることしか出来なかった。
***
「今日からお前はここで負傷者の治療を担当してもらう」
王都を追放されて翌日。私は戦場の前線基地に来ていた。
王国は今、魔族による侵攻を受けている。私が送られてきた場所は、数多ある戦線で最も戦いが激しい平原地帯だ。
私はこの前線基地で回復魔法を使って、負傷者の手当てをしなくてはならない。
「痛てえ、痛えよお」
「くそッ! くそッ!! ここで終わりなのかよ」
「まだ戦える! 俺はまだ戦えるんだ!!!」
負傷者が詰め込まれた部屋は、阿鼻叫喚の地獄のようだった。
負傷者の数が多く、血と薬品の臭いが充満していた。回復魔法の使い手や、薬師が慌ただしく負傷者の手当てをしているようだ。
私は清潔な布で口元を覆い、早速負傷者の手当てに入ります。
「大丈夫ですか? 安心してください。すぐに傷を治療します」
「お、おう頼む……。昨夜から薬を塗っても痛みが止まらねえんだ」
そういう兵士の傷は私が目にしたことがないくらい酷い物だった。
右肩から左の下腹部にかけて、肉体を抉るかのような大きくそして深い三本の裂傷。応急処置として、内臓が飛び出ないように傷が縫われている程度で、それ以外の治療は本当に簡易的な物しか施されていなかった。
「天上の神よ。この者の傷を癒やしたまえ」
私は兵士に回復魔法を使う。私の魔力が黄金の光となって、兵士を優しく温かく包む。傷はみるみると回復していき、数秒と経たずに傷は完治する。
「す、凄い!! 傷だけじゃない!! 心までも軽くなった!! ありがとう……ありがとうお嬢さん!」
兵士は立ち上がり、自分の身体を軽く動かしながら私に感謝の言葉を告げてきた。私はその言葉に微笑む。
「これが私の役目ですので。いつでも頼ってきてくださいね」
私はそういい、後ろを見る。他にも多くの負傷者がいる。一人、一人治療していては時間がかかってしまう。私はその場で手を合わせて、魔法発動の準備をする。
「天上の神よ。この者達に溢れんばかりの祝福と加護を」
大量の魔力を消費することで発動出来る回復魔法。広域回復の魔法を発動して、この部屋にいる人達をまとめて治療する。
「す、凄い! 傷がみるみるうちに治っていく!!」
「もしかして、これって聖女様だけが使える魔法なんじゃないか!?」
「聖女様って王都の大教会にいるはずじゃ? いや、でもこんなこと出来るの聖女様だけだよな!!」
傷が一瞬で治った兵士達ははしゃぎながら、自分の身体を軽く動かす。そんな時だ。
バン!と乱暴に扉が開かれる。軽装の兵士が息を上げながら叫ぶ。
「誰か、誰でもいい! 治療できる奴はいないか!?」
何が起きたのかはわからないけど、大変なことが起きたことは何となくだけど察知する。私は一歩踏み出して、手を挙げながら名乗り出る。
「私が! 回復魔法が使えます!」
「回復魔法使いか! ちょうどいい。すぐに来てくれ。今すぐにでも治療してほしい方がいる」
私は兵士の後についていく。廊下を歩き始めて少しすると、前線基地でも慌ただしい場所にやってくる。どうやら私達は前線基地の中でも戦場に近いところまで来ていたようだ。
兵士はある部屋の前に止まり、その部屋を何度か叩く。
「治療できる者を連れてきました。入ります!」
兵士が扉を開けて、私が中に入る。そこは小部屋で、人が数人入れる程度の広さだった。部屋の中にものは少なく、寂れている感じがする。
そしてその中にいた人物を見て、私は言葉を失うのであった。
「あ、アルトリウス第一王子……!?」
部屋の奥、椅子に座っていたのはこんな前線にいるべきではない人。
黄金の髪に、鋭い青の瞳、鍛え抜かれた肉体。そこにいたのは、この国の次期国王候補にして、第一王子、アルトリウス・ペンドラゴンであった。
「ど、どうして王子が戦場に? というよりも王子右腕が……!!」
兵士が治療出来る人を探していた理由が一目で分かる。いや、分かってしまうほどに王子は凄惨な姿をしていたのだ。
王子の右腕、肩から先が無くなっている。片腕を欠損するほどの大怪我だというのに、王子は取り乱すことなく、ただじっとこちらを見つめていた。
「王子の傷は治療出来そうか?」
私をここまで連れてきた兵士はそう尋ねてくる。右腕の欠損は確かに重傷だが、回復魔法で直せる範囲だろう。
「可能です。回復魔法を使います。王子はそれでもいいですか?」
先ほどから無言でこちらを見つめている王子に、私はそう聞く。王子は瞬きを一度したあと、言葉を紡ぐ。
「頼む」
たった一言だった。しかしその言葉には再起への強い意志が込められていたのだ。
私を見つめる瞳が、言葉以上に雄弁と語りかけてくる。俺を再び戦場に立たせてくれと。
(一言だけなのに、不思議な人……)
私は内心でそう口にし、回復魔法を発動する。失った右腕が急速に回復し、一瞬にして右腕は元通りになった。
「これが回復魔法……! 王子、どうですか?」
横にいた兵士は驚きながら、王子へそう尋ねる。王子は硬い表情を崩さず、右腕を軽く動かす。そして一通り終えて満足したのか、王子は私を見つめてこう言う。
「感謝する。これでまた、戦場へ向かえる」
私はこの後、王子が取った行動に驚愕してしまう。
事もあろうにこの王子、壁にかけていた鎧を着始めたのだ! 血と錆で汚れた黒い鎧。彼はそれを着て、鎧と同じく壁にかけてあった槍を持つ。もしかしなくてもこれは……!!!
「お、王子……ま、まさか今から戦場に?」
「そうだが何か問題はあるか?」
この時、私の脳内でチュドーンという爆発魔法が発動したみたいな音が鳴り響く。これは流石に見過ごせない!!
「待ってください王子! 右腕の治療は終わりましたが、体力や魔力までは回復しておりません!!
今、戦場に向かうのは治療を施した者として許せません! せめて一日は休んでいただかないと……!!」
王子の進行方向を塞ぐように立って、私は王子へそう言う。この時、私は興奮状態にありながらも、長身で筋骨隆々、鋭い目つきをした王子に対して威圧感や恐怖といった感情を抱く。
しかし、ここで引き下がるのは聖女としてのプライドが許さない。
「……俺には戦地に向かう理由がある」
「私にはつい先程まで怪我人だった人を戦地に向かわせない理由があります」
そもそも私には王子という高貴な身分が、前線にいる理由がわからない。次期国王候補ならなおさら。
「それはお前が聖女だったからか?」
絶対に譲らないと決めたはずなのに。王子のたった一言で、私は一歩後ずさりしてしまう。王子はそれを見逃さなかったのか、一歩分前に出て。
「回復魔法による治療を受けて、一瞬で理解した。これほどの回復魔法を使えるのは、王都にいる聖女だけだと。
しかし同時に理解出来ない点がある。聖女であるお前がなぜ、ここにいる?」
「何故……って、それこそ、王子、も……」
淡々とした口調でそう言う王子に対して、私は歯切れの悪い言葉を返すことしか出来なかった。
王子はそんな私から目を逸らすことなく、言葉を畳み掛けてくる。
「ここにいるのは王族としての務めだ。
王が動かなくては、民はついてこない。民を導くのが俺の役目だ。だからこそ、俺は一刻も早く戦場に戻らなくてはならない」
そう言った王子はこれ以上語ることはないと言わんばかりの足取りで、部屋を出て行く。私はその背中を見届けることしか出来なかった。
***
前線基地に来てから数日が経過した。負傷者の数は私が来た時よりもかなり減り、兵士達にも顔を覚えられるようになった。
「流石聖女様だ! まさか毒まで一瞬でやってしまうなんて!」
「私は聖女ではありませんって何度も言っているじゃないですか。少なくとも二時間以上は安静にしておいてくださいね」
顔を覚えてもらうのは嬉しいけれど、聖女って呼ばれるようになった。兵士達は私が偽聖女として王都を追放されたことを知らず、ただ前線基地に配備された修道女と思っているみたいだ。
だけど、ずば抜けた回復魔法を何度も目の当たりにして、兵士達は私のことを王都にいる聖女だと信じている。
「聞いたか!? どうやら王都にいる聖女が、鼓舞のためにこの基地に来てくれるらしいぞ!」
私が治療していると、兵士が扉を開けながらそう言う。王都にいる聖女がやってくる。その言葉に対して、兵士達の反応は様々だった。
「聖女様って二人もいるのか? そんな話聞いたことねえけど……」
「けれど、俺達にはアイリス様っていう聖女が既にいるんだぜ!」
「わざわざ王都から来るんだ。楽しみじゃねえか!」
聖女を歓迎する声、聖女が二人もいることに困惑する声など兵士の反応は様々。その反面、私の心境は穏やかではなかった。
「聖女……オーロラ様が?」
自分には関係のないことだと頭から振り払おうとして、私は手遅れだったことを知らされる。
「あら、そこにいるのはアイリス様ではなくて?」
声がした方を見ると、そこに豪奢なドレスを身に纏ったオーロラがいた。煌びやかな扇で口元を隠しているように見えて、私だけに見えるように僅かに私を嘲笑うような表情を見せながら。
「おい、聖女様とアイリスって知り合いなのか?」
「わ、わからねえ。アイリス様は自分の話しねえから……」
「おい、聖女様がアイリス様に近付いていくぞ」
兵士達がひそひそと話を始めるのを気にせず、オーロラは私に近付く。私は何かを言うことなく、ゆったりと歩くオーロラを見つめていた。
「この基地に来てから耳にしたのだけど」
オーロラは私だけに聞こえるよう、扇で口元を隠しながら会話を始める。
「貴女、ここで聖女って呼ばれているらしいわね。よほど、その立場が恋しかったのかしら?」
私は反射的に握りこぶしを作る。そう言うオーロラの表情は悪魔のように歪んでいた。だけど、私は何かを言い返すことは出来なかった。
オーロラは国の聖女で、私は聖女を騙っていた罪人。私が何かを言い返そうものなら、不敬罪で更に罪を重ねることになってしまう。
「それにね、貴女の素性がここの兵士に知られていない理由分かるかしら?」
「それは……どう、いう」
私はオーロラの顔を見る。言われてみれば、私は罪人としてここに送られてきた。だと言うのに、ここの人達は私が聖女を騙っていた偽物ということを知らない。この基地で一番偉いであろう王子でさえ、聖女がなぜここにいるのかと聞いたくらいだ。
「それはね、私が口止めをお願いしたのよ。
貴女の回復魔法はとても優秀だわ。傷ついた兵士達を一瞬で治療出来るほどに。
貴女はきっと、傷ついた兵士達から聖女って呼ばれると私は確信していたのよ」
「オーロラ様はそれで何を?」
オーロラがこんなことをする目的が分からない。私が困惑していると、オーロラは話を続ける。
「決まっているでしょう? 貴女を貶めるためよ。
貴女は聖女としての素質がありすぎる。放置しておけばきっと私の前に再び姿を現す。そう思っているからこそ、再起不能になるまで貴女を貶めるのよ」
オーロラはただ私のことが気に入らないのだ。田舎娘で、才能があったから聖女の立場まで成り上がった私が。
だから彼女は徹底的に私を貶めるのだ。私にはない力を使って。私から聖女の立場を奪って、最前線に追放したと思ったら、次はその場所さえも私から奪って、私をどん底に落とそうとしている。
私には何も出来ない。貴族でもなんでもない私には抵抗すら。
「よく見ておくことね、兵士達が真実を知るこの瞬間を」
「ま……まって」
私の言葉なんて何の意味もなく、オーロラは勢いよく立ち上がると、扇をたたみながら言葉を発する。
「みなさま、先ずはご無礼があったこと失礼いたしました。彼女とはご友人でして、少し挨拶させていただきましたの」
オーロラは一礼しながら周囲にそう言う。聖女の言葉に兵士は耳を傾けた後、ひそひそと会話を始める。
「おい聖女様とアイリス様が友人同士だって?」
「だが、二人にどこで関りが? アイリスは貴族だったのか?」
「貴族だったらそれこそなんで最前線になんか来るんだ? アイリス様の魔法なら王都の修道女にもなれるだろうに」
今まで兵士達が気にしていなかった私の素性について、兵士達が気にしだし始めた。私は下を向いて、唇を嚙みしめる。
「皆様気にしていられるでしょう。彼女が何者なのかを。
彼女はわたくしの元学友で、そして王都にて聖女を騙っていた偽物の聖女なのです。彼女はその罪で、この最前線に追放された罪人。それがこの女の素性ですのよ」
私は俯いて、何も言うことが出来なかった。オーロラの言葉に真実は一つもないけど、それでもそれが嘘であると証明してくれる人なんてどこにも……。
「アイリス様が偽物なんてそんな……」
「で、でもアイリス様は優しくていつも俺達に向き合ってくれた……」
「聖女様が言うんだぜ? 本当のことかも知れねえぞ」
兵士達は疑心暗鬼になり、色んな話を始める。視線が私に集まる。私は何かを言おうとして、何も言えないことに気が付く。どう弁明すればいいと言うのだろうか。と思っていた時、扉が静かに開かれた。
「そうか? 俺にはそう思わなかったが」
「アルトリウス王子……!?」
この部屋に入ってきたのは数日前に出会った男性、アルトリウス王子であった。王子がやってくるのをオーロラは知らなかったのか、笑顔を一瞬だけ崩して、すぐにそれを作り直して王子へ話しかける。
「アルトリウス様、お初にお目にかかります。わたくしの名前はオーロラ・モーガン。王都にて聖女の役割を賜った者ですわ」
「聖女? お前が?」
笑顔に語りかけたオーロラに対して、王子は真顔でそう応える。冷めた目線にオーロラは萎縮し、言葉を詰まらせた。
「お前が聖女だと言うのなら、この傷を治療して証明してみせろ」
王子はそう言うと、腰に掛けていた剣を引き抜く。その刃を自分の腕に向けたところで、私は王子の意図が分かり、反射的に言葉を紡いでいた。
「いけません王子!! 自分の身体を自分で傷つけるなんて!!」
私が立ち上がって駆け出すよりも早く。王子は自分の左腕に刃を当てて、一思いにそれを斬り飛ばしていた。
「……え?」
「アイリス・フローレンシアはこの傷を治してみせたぞ。聖女と名乗るお前なら、当然これを治せるんだろうな?」
王子は静かにオーロラへ歩み寄る。オーロラは一歩、また一歩と後退りをする。それも当然だ。オーロラに肉体の欠損を治すほどの魔法は使えない。
ここでオーロラが退けば、自分は聖女ではないと、自ら口にしてしまうような物だ。しかし、この状況では退くことは許されない。だが、オーロラに王子の傷を治す魔法は使えない。
「彼女を偽物と口にしたんだ。その彼女はこの傷、一瞬で治してみせたぞ」
「い、いいわよ。やってさしあげますわ」
オーロラが怯えた様子で魔法を発動する。しかし、結果は分かりきっていたことにしかならない。精神的に不安定な状態で発動する魔法なんて、大した効果を生まないからだ。
オーロラが発する魔力は微弱で、傷の治療どころか止血すらままならない。オーロラの顔から余裕が消えていき、焦りと冷や汗だけが増していく。
「こ、これは違いますの! わたくしの力はこんなものでは……!?」
いつまで経っても治療が進まない。こんな状況を黙ってみているわけにはいかない。このままでは王子の身体が危ない……!
そう思ったら、私はいても立ってもいられなかった。私は王子の元に駆け出す。
「変わってくださいオーロラ様。私が王子の治療をします」
オーロラへ一言、その一言で自分の立場を理解したのか、オーロラは奥歯を噛みしめながらその場を退く。
「やはり、お前が王都の聖女なんじゃないか」
「ここまで来たら否定はしませんけど、どうしてこんな無茶を? 貴方は王子なんですよ」
王子の腕を治療しながら私はそういう。自分の腕を躊躇いもなく斬り落とすなんて正気の沙汰じゃない。
「何、恩人を悪く言われるのは余りいい気分ではなくてな。
だが、もう少し温厚な手段を取るべきだったと、こうなってから気が付いた」
こんなことを真顔で言われてしまって、私は治療しながら思わず噴き出してしまった。
「本当ですよ反省してくださいね。王子がこんな無茶をして、心配しない人なんていないんですから」
周囲を見渡してみると、兵士達がざわざわと話を始めていた。私はそれに耳を傾ける。
「おいみろよ! 無くなった腕を治すなんて芸当、やっぱりアイリス様が聖女なんだ!」
「アイリス様は俺達の聖女なんだ! その事実は変わらねえよ!」
とはしゃぎだす兵士達。その空気に耐え切れなかったのか、オーロラは奥歯を噛みしめながら立ち上がり、すたすたと部屋を出ていこうとした。その時だ。
「おい、お前がどんな意図で聖女を騙っているのか知らないが、覚悟しておけ。自らの行いの報いは必ず受けると」
「な、何のことか分かりませんわね。わたくしはこれで失礼いたしますわ」
王子はオーロラへそう告げる。オーロラは冷や汗を流しながらすたすたと逃げるように、その部屋から逃げていった。
「その……一応とはいえ、聖女ですよ彼女。あんな扱いをしてもいいのですか?」
「何、あの様子ならすぐにボロが出るだろう。それに、本物の聖女にもう一度王都の土を踏ませる。俺がこの戦争を終わらせて踏ませてみせよう」
王子の視線が射貫くように、私の瞳を真っすぐと見つめる。私は王子の言葉、それを理解するのに数秒かかって、言われていることを何とか飲み込むことが出来た。
「……え? それはどういう」
「言葉以上の意味はない。だが、もう少し分かりやすく言ってやろう。
俺の隣にいてくれ聖女よ。俺はもっとお前のことを知りたい」
——わたしのことを知りたい。そう告げてくる王子に、私も興味が湧いた。だから私は彼へこう返すのだ。
「はい、どこまでも貴方の隣に。私も貴方のことをもっと知りたいので」
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