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79.隕石を爆破せよ! 第三話「訓練開始」


「次は気密室の確保じゃ! 宇宙は真空じゃ。空気が漏れないようにこの管制室を目張りするのじゃ!」

 太助が一週間以上寝泊まりする部屋である。一人で十分過ごせるように、管制室をシールする。接着剤で継ぎ目を塗り固めていくのだ。見落としが無いようにしないと空気が漏れ出して窒息する。

 二酸化炭素が溜まる心配は必要ない。ばかでかい風力エネルギータンクを持っているのだから空調はいくらでも循環できた。酸素の心配をする必要もないのはありがたかった。だからと言って空気が漏れていいわけじゃない。


 それでも万一のためにホースレス空気呼吸器の面体に、宇宙服代わりの四号こと潜水服が部屋に置いてあるのだが。

「あの面体、いざというときちゃんと使える? 宇宙からじゃ距離ありすぎない?」

「あの面体も風力エネルギー貯蔵庫から転送しておる。では気密試験! 空気注入」

「空気注入!」

 密閉が終わったところで、加圧して空気漏れをチェック。

 二気圧で放置して、気圧が下がらなければOK。

「……まだ漏れがあるな」

「どこからじゃ?」

「バルサン焚くか」


 バルサンは無かったので、ハッコツの線香を焚く。

 煙が吸い込まれるところをモニターカメラでチェックしては、見逃して空気漏れしているところをシール材でふさぐことになった。


「ヒューストン、こちらパレス。聞こえるか?」

「ばっちりじゃ」

 帆船、ヒューストン号の操舵室には無線が積まれた。

 海上での通信は問題なし。宇宙まで届くかどうかはまた後でテストする。


「パレスを航行する風力スラスターは十六か所。今まで水平飛行にしか使っておらんかったから180度しか回らん。これを全部360度回るようにするのじゃ」

 パレスの姿勢制御用のスラスターも全部セットし直しだ。風がジェット噴射みたいに噴き出すようになっている。ロープでパレスからぶら下がった太助がこれも全部モーターギヤの噛み合わせを変更し、回転角を大きくしてやる。

「12番スラスター回してみて!」

 無線で指示すると、管制室のベルが操作してブローノズルがぐるっぐるっと回転した。

「90度! 180度! 270度! 0度! よーしOKだ!」


 太助の訓練も始まった。

「よし全員乗ったな。今日は無重力訓練を行う。宇宙には重力が無い。誰もが宙に浮かぶのじゃ。それを全員に体験してもらって、問題点を洗い出す。体験後、改善点を言ってくれ」

 みんなでパレスの管制室に入り、一緒に無重力を体験してもらうことになった

「35秒じゃ。忘れるでないぞ」

「現在高度1万2千メートル。35秒の自由落下です!」


 ベルが操舵パネルを教えてくれる。ベルは20センチと小さいので自分用の操舵パネルがあったが、ハンドスティックを備えた太助用の操縦桿も備えられた。

「太助さん、こちらがグラビ鉱石の重力カットスイッチ。これをオフにすると浮力がなくなって自由落下が始まります。もちろんそのままだとパレスは海面に激突してしまいますから、35秒でオンにしてください。そのあと風力スラスターで噴射。進行方向に対して逆方向だから逆噴射です。スラスター出力はこのレバーですから、これで落下速度を減速してください。わかりましたね!」

「了解」


「じゃ、テスト開始! 10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、スタート!」

 太助が浮力のスイッチをオフにする。

 急に立っていられなくなり、落下するエレベーターの中にいるみたいにふわっとした。

 初めての経験にほぼ全員から絶叫が上がる。まず高いところから落ちる感覚は誰にしたって恐怖である。

「うわ――――!」

「きゃあああああ――――!」

「ひいいい――――!」


 自由落下での無重力状態だ。

 全員、部屋の中にふわっと浮いてしまった。そういう訓練なのだが。

「ヘレスちゃん、今日も白だね!」


 太助は、操作パネルにしがみつこうと思ったが、離れてしまう。

「やべっ!」

「残り30秒!」

 ベルのカウントダウン。ベルは無重力でも羽でなんとか飛ぼうとしている。必死である。

「25秒!」

「太助! パネルにちゃんとしがみつかんか!」

「やってる! やってるけど手すりが欲しいよ!」

「20秒!」

「ケタケタケタケタ!」

「ハッコツ! 遊ぶな!」

「残り15秒! パネルに戻って!」

「戻れって言っても!!」

 宙に浮いてしまった太助、なかなか操作パネルにたどり着けない。


「残り10秒! 早くして下さい!」

「ジョン、悪い!」

 たまたま近くにいた大柄のジョンを蹴り飛ばす。

 蹴とばされたジョンは天井に激突したが、そのおかげで太助は操作パネルに取りつけた。

「残り5秒!」

「重力カットOFF!」

 太助が『グラビ鉱石浮力』の重力カットをOFFにすると、浮力が復活し、全員、ふわりと床に着地する。


「減速! スラスター減速やって太助さん!」

 ベルが叫ぶ。

「スラスター噴射! 角度180度、減速加速度0.5(ジー)、0.8G、1.2G、1.6G……2G」

「ぐがががががががががが~~~!」

 今度は逆に全員が減速加速度を受けて床に押し付けられる。息もできない。

 二倍以上に感じる体重を支えながら太助は必死にコントロールパネルにしがみつく。


「海面まで1500メートル……、1100メートル……、900メートル……」

 間に合わない。太助はスラスター出力をさらに上げて、加速度を2.5Gにまで上げた。

「500メートル……。対地速度2、3、1、ゼロ。スラスターオフ。訓練終了。ふうー……」

 太助が振り返ると、みんな床に転がって息を荒くしていた。ヘレスのスカートがめくれ上がって白が眩しい。


「ジョン、大丈夫か? 悪かったな」

「大丈夫大丈夫」

 蹴とばされたジョンも例の東京ヤンキーの怖い顔で立ち上がったが、あの顔は怒ってないと今の太助にはわかるので、ほっとする。


「自由落下と言うのは……言うほど自由じゃないのだの……」

 ルミテスが四つん這いでどっかの少佐みたいなことを言う。

「うーん、そうだな。アポロとかスペースシャトルみたいに狭い船内だと、壁でも天井でも蹴り飛ばして移動できるんだけど、こう広い部屋だと一度宙に浮かんでしまうとなにかつかまる物が無いとなんにもできない。手も足も出ないね」

「どうするのじゃ?」

「移動できるように手すり、体を固定するベルト、つかまっていられるグリップが欲しい。あとロープでいいからつかまって移動できるような渡しがほしいね」

「そこも改善点じゃな!」


 初めての宇宙だ。やってみないとわからないこともある。

 みんなでアイデアも出し合って、少しずつ、準備は整っていった。



「これが脱出ポッドじゃ」

 太助はルミテスに、パレス最下層に案内された。

「なんかサイヤ人がこんなのに乗ってたような……」

「おぬしそのなんだかわからん元ネタ不明ギャグはいいかげんやめてくれんかの」

「R2D2とC3POもこれで帝国軍から逃げ出してたよ」

「知らんがな。さ、乗ってみよ」


 一人乗り用の脱出ポッド。スラスター操作である程度操縦できるようになっている。


「よいか、帰還時、大気圏再突入がある。背中を向けて落ちるのじゃぞ? 大きな減速加速度がかかるからの。加速度は絶対に8(ジー)を越えないように。注意するのは突入角度じゃ。深すぎると大気が濃すぎてまる焼けになる。浅すぎると大気圏にはじかれて宇宙の迷子になる。5.5度から7.3度。忘れるなよ?」

「書いて張っといてくれよ」

「あとでシミュレーションを吐きたくなるまでやらせるわの」

「そりゃ楽しみだ」

「大気圏突入時は高温のイオンに包まれて火だるまになったような気がするかもしれんが、突入角度さえ正確なら燃え尽きることはない。ただ、電波障害で三分ほど無線が通じなくなるから知っておくのじゃ」

「知ってるよ。通信途絶時間ってやつな?」

「よう知っとるの」

「映画では必ずやるお約束だから。みんな、その間ハラハラしながら無事を祈るんだ」

「心配いらん、安全高度になったら自動的にパラシュートが開くし、着水すればビーコンも発信される。あとは海の上で波に揺られてヒューストンの回収を待つのじゃ」


「ルミテス様はいざって時にこれで逃げ出すつもりだったんだろ? だったら安全に決まってるさ。信頼してるって」

 ばこんっ!

 回収時、目立つように赤くカラーリングされたその脱出ポッドのハッチを閉じ、太助はペンキの缶をあけて刷毛でぺたぺたと赤いハッチに白いペンキを塗りだした。


 3。


「……なんじゃそれ」

「三号。なに、ちょっとした縁起担ぎ」


 一号のドラちゃん、二号のグリンさん、四号の潜水服、五号のパレス。

 今まで足りなかった三号が脱出ポッドだ。

 一号から五号まで、全機体がそろった。

 異世界救助隊、最後の作戦にふさわしいと、太助は一人、笑顔になった。




次回80.隕石を爆破せよ! 第四話「作戦開始」

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