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65.青いサンゴ礁の急病人 前編


「島からのろしが上がっているんです!」


 南洋上空、巡回コース上にある島から煙が上がっているのを災害監視員のマリーが発見した。

「ベル、パレス停止じゃ」

「パレス停止します」


 ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ~~~~!

 異世界救助隊指令、女神ルミテスが非常ベルのスイッチを押す。緊急出動で救助隊隊員を呼び出す合図だ。

「どこじゃ?」

「南オーシャン洋上の名前もついていない無人島ですね」

 妖精のベルが位置の確認をしていると、太助、ハッコツ、ジョンの三人が指令室に駆け込んできた。

「なにかあったか?」

 パレスが緊急停止すると体がぐらっとするのでこれは太助たちにもわかるのだ。停止する前にはもう駆けだしている。


「救助要請かもしれん。南オーシャン洋上の無人島からのろしが上がっているのじゃ」

 ルミテスが指さすメインパネルには拡大されて、洋上の浜辺で組まれた焚火が煙を上げている様子が映っていた。煙が多いのはジャングルの葉などが積まれて(いぶ)されているからだ。

「明らかに人為的な物じゃの」

「災害監視員の猿からでも連絡あったか?」

「無人島に災害監視員を置いてどうする。人がいるはずない島なんじゃが」

「それもそうか。マリーよく見つけたな」

「えっへん」

 ドヤ顔のマリー。ちゃんと仕事してますって顔である。


「のろしとはまた古風で……。原住民の方ですかねえ」

「無人島言うたじゃろ。流れ着いた難破船の船員かもしれん。見て来い」

「了解。ハッコツ、ジョン、訓練続けててくれ。まずは俺一人で見てくるよ」

 本当に救急だったら、ドラちゃんに乗せてパレスに緊急搬送もありうる。こんなふうにまず太助一人で確認に行くというケースは少なくない。


 火とは言っても焚火である。別に火災装備というわけでもなく普通にオレンジの消防制服でシルバーワイバーンのドラちゃんに跨った太助はゆるやかに無人島の浜辺に降り立った。

「ドラちゃん、待機頼む」

 何事も無ければ戻るのだ。災害現場と違って集まってくる野次馬もいない。ドラちゃんには浜辺にそのままいてもらう。こういう場所に放っておくとドラちゃんは一人で魚とか取って遊んでるから別にひどいこともない。

 見渡すと人っ子一人いない静かな浜辺である。ぶすぶすとのろしの焚火がくすぶっている。

「ボート発見」

 浜辺の奥に古いボートが引き上げられていた。

「ルミテス、浜辺に古いボートがある。救命ボートだな。船籍は……セント……メアリ号。セントメアリ号だ。長いこと使われていたみたいだな。修理の跡がある。あと魚とり用の銛も積んであるぞ」

「了解。行方不明船より検索しておくの。引き続き島内の調査じゃ」

「了解」


 浜辺からジャングルに向って歩く。

「誰かいますか――――!」


「だれだ!」

 ジャングルから少年が出てきて、こちらにむけて槍を向けた。

「待ったまった待った。異世界救助隊の者です。のろしが上がってるのを見て救助要請かと思って調査に来ました! 君、ここの住人?」

 手を上げて笑いかける。

 人がいるのは間違いないと思っていたが、少年とは思わなかった。赤銅色に日焼けしているが、頭が金髪なところを見ると白人の西洋人だ。現地人、原住民じゃない。年のころは十三~十五歳といったところか?

 全裸に毛皮の腰巻だけ。足も毛皮を巻いて靴代わりにしている。


「きゅうじょたい?」

「そ。ケガして死にそうな人や、危ない目にあって死にそうな人を助けるのが俺の仕事でね。のろしを上げたのは君かい? 何か困ったことになってるの?」

「エメリアが苦しんでるんだ! 病気なんだ!」

 少年はいきなり泣きそうな顔になった。

「そりゃ大変だ! すぐ案内して!」

 少年は槍を降ろし、「ついてきて!」と叫んでジャングルを駆けだした。

「ルミテス、少年が一人いた。西洋人で十三から十五歳ぐらい。もう一人いて急病らしい。場合によっては搬送するから待機頼む」

「了解じゃ」

 パレスに無線連絡した太助もジャングルをかき分けて少年を追うと、熱帯植物の木組みと葉っぱで屋根を作った粗末なツリーハウスが見えてきた。

 ツタを編んだ縄梯子を上る。


 ツリーハウスの中では、乾草のベッドに寝かされて少女が苦しんでいた。

「いたい、いたいいい――――!」

「エメリア! しっかりして!」

 太助も少女を見る。なかなかの美少女だ。少年と同じく赤銅色に日焼けしているが、この子も白人系で現地人じゃない。髪は長くウエーブでばさばさの茶髪である。

 太助はさっと額に手を当てて熱を見たり、体に手を当ててみたり、服をまくったりして症状を見る。


「……ルミテス、少女発見。十三から十五ぐらい。妊娠していて産気づいてる。ジャングルのツリーハウスにいるんだが、なんとかなるか?」

 驚くことに少女は妊婦であった。


「妊婦じゃと?」

「そう」

「わかった。動かすな。こっちで向かう。バイタルストーンでそちらの位置もわかるから作動させておけ」

「了解」


「エメリア、死んじゃうの!? エメリア大丈夫!? ねえおじさん!」

「お兄さんな。大丈夫。子供が生まれるんだよ。病気じゃない」

「病気じゃない??」

 言うことがなんか子供っぽいなと思う。見た目ミドルスクール(中学校)ぐらいなのに、小学生みたいだ。


 数十分して、ルミテスと荷物をいろいろ背負ったグリンさんが来た。

「太助~~~~! そこにおるのか!」

 ツリーハウスの下から声がした。

 太助も顔を出して下を見る。

「こっちだ」

「なんじゃここ」

「なんでもいいだろ。()てやってくれよ」

「上るのかの……めんどくさい」


「わっちょに任せるのじゃ」

「うわわっ」

 グリンさんの重力操作で、二人、ふわりと浮いてツリーハウスに入ってきた。ルミテスは転びそうだが。


「いたい、いたいいいい……」

 女の子は汗びっしょりで苦しんでいる。

「ふーん……。陣痛が始まっておるのお。坊主、痛がり出してどれぐらいじゃ」

「は、半日……」

「よしっ。出産準備じゃ。グリン、かかるぞ」

「了解だの」

「太助、この小僧連れて下に降りておれ。お湯を沸かしておくのじゃ」

「了解」

「エメリア~~~~!」

「いいから坊主、さ、下に降りるぞ。こういうのは男がウロウロしても邪魔なだけだ!」

 太助は少年を捕まえて一緒にツリーハウスの下に降りて行った。



 二人で火を起こす。驚くことに少年は火魔法でさっさと焚火を焚いた。グリンさんが持ってきた大きなタライに、いつも持ち歩いている放水くんポータブルの「真水」ダイヤルに合わせて水を満たす。

 下にあった石を組んで積まれたかまどは、少年が作ったらしい。


「なあお前、なんでこんなところに住んでんの?」

 一緒に作業しながら、少年に話しかける。

「小さいとき、船がなんぱして、ボートで流れついたの」

「そりゃ大変だったな……。あのエメリアって子と二人だけで?」

「お父さんとお母さんは知らない。エメリアのお父さんとお母さんもわかんない。ボートにはパンチョスっていう船員のおじさんが乗ってくれて、避難してたんだけど、この島を見つけて逃げてきたの」

「そうか。パンチョスさんはまだこの島にいるのか?」

「死んじゃった」

「そっか……」

 二人で焚火を燃やす。


「エメリア、どうなるの?」

「今お医者さんが見てる。心配ないよ」

「本当に大丈夫?」

「大丈夫だ」

 ぐすっ。少年が涙を拭く。


「それって何年ぐらい前の話だ?」

「船が沈没したのが六年前。パンチョスさんが死んだのが四年前……」

「それまでどうやって生きてたんだ!」

「パンチョスさんがいろいろ教えてくれたの。魚の取り方、木に()ってる食べられるものや食べられないものとか、小屋の作り方とか、ロープの編み方とか」

「そうか……あの女の子と二人でか」

「そう。あ、ぼくは火魔法が使えるし、エメリアは水魔法が使えるから、なんとかなった」

「そりゃ心強いや。よかったな今まで無事で」

「無事じゃないよ! エメリアのおなかがだんだん腫れてきて、きっと大きななんか悪い病気だって! 二人で困って困って、ぼく、いっしょうけんめい食べ物を運んでめんどうみて、でもどうしようもなくって」

「あ、ああ、うん」

「もう二人で一緒に死んじゃおうかとかまで思って、ずっと泣いてて」

「病気じゃないんだって。大丈夫!」

 少年の肩を抱いてやる。


「女の子守ってよく今まで頑張った。よくやった。もう大丈夫だ。なにも心配するなって」

「ホントそれ!」

「ああ」

 少年は嬉しそうに泣き笑いになった。


 さて重要な問題がある。これは聞いておかなきゃならない。

「で、お前、エメリアちゃんのこと大好きなわけ?」

「うん」

「エメリアちゃんもお前のこと大好きなの?」

「うん、毎日キスしてる」

 そりゃあよかったねえ……と思う。


「で、やっちゃったわけだ」

「やっちゃったって?」

「その、XXXを」

「XXXってなに?」

「え、知らないのか?」

 これはマズイ。エメリアちゃん二股疑惑である。


「その、交尾、まぐわい、XXX、子作り、おしべとめしべが、あの、コウノトリじゃなくて」

「なんのこと?」

「あー、その、要するにだ、お前のその……を……に……って」

 少年の耳元に口を寄せてささやく。


「え、それだったら毎日やってたけど」

「毎日かいっ!」

「ぼくのおしっこ棒をエメリアのおしっこ穴に」

「言わんでいい! なんでそんなこと知ってるの!」

 少年が頭をポリポリ掻く。


「あの、エメリアのはだかを見ると、ぼくのおしっこ棒が硬くなってたっちゃっうようになっちゃって」

「なるよなあ……」

「いじるとXXXXXXXなふうになるの」

「なるなあ」

「エメリアもいじるとXXXXXXXXになるらしくて」

「おませさんだなあ……」

「だったらふたりでいっしょにやればいいやって」

「いかんなあ……」

「だってほら、島のサルとかも木の上でやってるし」

「おさるさん状態になっちゃったわけですな……」

「そしたら気持ちよくって、楽しくて」

「わかる」

「エメリアのこと大好きって感じがして、すっごくうれしくて、いっぱいしちゃって」

「すごーくわかる」

「でもそれがエメリアの病気と関係あるの?」

 うーん……。どう説明したらいいものか。


「あのな、それやると子供ができるの」

「子供?」

「男と女がそれやると、女の子のおなかに子供ができてね」

「子供が?」

「おなかが大きくなってきて、その中に子供が育ってきて、赤ちゃんが生まれるの。エメリアちゃんはね、今赤ちゃんを産んでるの」

「赤ちゃん?」

「そう、お前と、エメリアちゃんの子供だよ」

「……」

「わかった?」

「冗談やめてよ、おじさん」

「お兄さんな」


 おぎゃあおぎゃあおぎゃあ。

 上のツリーハウスから泣き声が聞こえてきた。


「さ、赤ちゃんの顔見に行ってやろうぜ、パパ!」

「ぱぱってなにさ。僕はジョジだよ」

 太助は半信半疑の少年と立ち上がって、ツリーハウスを見上げた。




次回「66.青いサンゴ礁の急病人 後編」

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― 新着の感想 ―
[一言] ブルック・シールズ可愛かったですねぇ……。
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