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63.UFOを救助せよ! 前編


 うぉおおおおおおおおおおおんんんん~~~~~うぉおおおおおおおおおおおんんんん~~~~~うぉおおおおおおおおおおおんんんん~~~~~うぉおおおおおおおおおおおんんんん~~~~~!!


「なっなっなんだ!」

 ただならぬサイレン音に太助はベッドから飛び起きた。

 ベルならわかる。いつも非常ベルで出動している。しかしこれはサイレンだ。

 いつもと違う!

 とにかく慌ててパンツをはく。そう、今、太助は全裸で、隣には愛しい愛しいヘレスちゃんが寝ているのだ。そのヘレスも飛び起きて、全裸のまま部屋の棚から太助のオレンジをすぐ出して広げてくれる。


 うぉおおおおおおおおおおおんんんん~~~~~うぉおおおおおおおおおおおんんんん~~~~~……。

「空襲警報! 空襲警報! 未確認飛行物体がパレス上空に接近中! 空襲警報、空襲警報。未確認飛行物体がパレス上空に接近中!」

「未確認飛行物体ってなんだよ!」

 今まで聞いたことないベルの館内放送だ。Tシャツも着た太助はその体を、ヘレスが広げて持っているオレンジのツナギに突っ込み、チャックを引き上げた。


 うぉおおおおおおおおおおおんんんん~~~~~うぉおおおおおおおおおおおんんんん~~~~~……。


「ありがとヘレスちゃん」

すぐに右足の靴下と靴も履き、左足の靴下と靴はヘレスが履かせてくれる。

「じゃいってくる!」

 ダッシュで指令室に向う。

「ついにパレスも見つかったか。いったいどこのどいつだ!」

 指令室は大騒ぎだ。既にハッコツが到着している。

 ハッコツはオレンジを着たまま寝ているらしい。いや、寝ているかどうかも怪しいが。


「7時後方角度72度、速度秒速827メートル! 回避行動します。接触まであと20秒!」

「スラスター全開じゃあああああ!」

 これも既に指令室に到着していた……最初からいたかもしれないベルと、ネグリジェの寝起きルミテスが叫ぶ。

「全員、対ショック用意! 噴射!」

 パレス全体がびりびりと震え、轟音が指令室を包む。

 太助も、ルミテスもハッコツも床を転んで強烈な加速度が来た。

「うおおおおおおおお!」

 床にはいつくばって頭の上に手を乗せて衝撃に備える。

「4、3、2、1、来ます!」


 加速を続けるパレス。だが衝撃は来なかった。

「…………行ったかの?」

「はい、危なかったです」

「警報止めよ。スラスター出力1パーセント。回避終了」

 うぉおおんんんん~~~……。


「なんだったんだ? 今の?」

「知らんがな。見に行け。ベル、警戒レベル2のまま現状維持。スラスター逆噴射。パレスはこの場で待機じゃ。スラスターのアイドリングは止めるな」

「了解」


 今頃になってジョンとマリーが指令室に転がり込んできたのでルミテスが命令する。

「マリー、落下物の追跡確認じゃ」

「はい」

 二人とも、さっきまでヤッてたかのような服装の乱れ様。あわてて着付けたにしても淫猥すぎる。

「いったいなにがあったんですの?」

「領空侵犯しちゃったせいでパレスにミサイルが飛んできた」

「?????」


 誰も意味が分からなかったが、太助の気分としてはまさにそれだった。

 さっさと庭園に駆けだして、柵から下を見下ろす。

 停止したパレスのはるか四千メートル下で、炎を上げながら燃えているものがある。下は手つかずの草原地帯らしい。近くに人家の明かりはなかった。

「人の密集地帯でなくてよかった。大災害になるとこだよ……」

 ピイ――――。

 竜笛を吹く。

 笛に呼ばれてすぐドラちゃんが飛んできた。ドラちゃんはどこに居るのか知らないが、夜はパレスのどこかで羽を休めているらしい。

「ドラちゃん、悪い。出動があるかもしれない。待機頼む」

 太助はドラちゃんにそう声をかけて中央通路から指令室に駆け戻る。


「わっちょも待機しておいたほうが良いのかの?」

 グリンさんも指令室に来ていた。この騒ぎなのだから無理もない。眠そうだが。

「頼む。顔を洗ってくるのじゃ」

「了解~~」

「ルミテス、下でなにか燃えてる。落下物だろう。近くに人家はなさそうだ」

「レーダーに無線電波混信しています。信号です」

「無線じゃと?」

 ベルの報告にルミテスが驚いた。この世界まだ無線技術は確立されていないはずである。


「ケンタウルス座デルタ星系で使われている非常救難信号と一致してます」

「それって要するにSOSか?」

 ちなみにSOSはモールス信号で「トトト・ツーツーツー・トトト」。無線マイクの音声での救助要請は国内は「非常、非常、非常」。海外では「メーデー・メーデー・メーデー」である。マイクで「SOSです!」と叫ぶのは実は正しくない……のだが、それを無視するほど救助関係者は空気が読めないわけじゃないから、事実上どちらでも通用している。


「決まりじゃ。宇宙人じゃのう」

独立記念日(インデペンデンスデイ)キタ――――!」

 当然全員意味が分からない。

 太助にしてみればどうすんだこれ、という感じである。

 リウルスの人類にはまだ核弾頭ミサイルもなければF/A18戦闘機も無い。戦争になったら勝てるわけない相手が来たことに脅威を感じる。


「ベル、ジャミングじゃ」

「ジャミング発動」

 ぶうんっ。

「ジャミング……? SOS発信邪魔するの?」

「情報遮断じゃ。悪意ある宇宙人だったら面倒だからの」

「非情すぎる」

「だったら助けてこい。落下飛行物体の消火と生存者の救出。はよいけや!」

「り、了解っす!」

 ドラちゃんが待機する庭園に出た太助たち。パレスの周りにものすごいオーロラが発生しているのを見て驚いた。どうやっているのか知らないが、一時的にでも無線通信ができなくなっているわけである……。



 太助、ハッコツ、ジョンの三人は火災装備でドラちゃんに乗り込み、炎上する乾燥した草原地帯に降り立った。

「うわあ……マジもんのUFOだよこれ……。アダムスキー型ってホントにあるんだ」

「宇宙人って、こんなものに乗っておるんですかな?」

 直径20メートルぐらいの古臭いUFO、地面に叩きつけられるような衝撃は何とか回避したらしく、枯れた草原に深い引きずり跡があり、草地がめくれあがっている。

「とにかく消火だ。まず外側から。ジョンは枯れ草の消火頼む。延焼したら山火事になる」

「了解」

「わけわからんけどまず火を噴いている部分に放水しよう、ハッコツ、反対側に回ってくれ」

「了解」

 とにかく二手に分かれて、草原に半分埋まっている、まだ原形をとどめたUFOに放水する。

 がぱっ!

 UFOの上部ハッチが開いた!

 なんかヘルメットかぶった、いかにも宇宙服という感じの何かが出てきて、手を振っていた。

 たとえ相手が宇宙人であっても、その言いたいことはなんとなくわかるもので、要するに「やめろ! やめろ!」というゼスチャーだった。


「ぱぴぴゅぺっぽ」

 宇宙服のなにかからスピーカー音がする。

「ぴゃらぺぱぺっぽぷにゃはらへーぺら」

 何言ってんだかわからない。とりあえず消火の手は止めない。

 わめきつづける宇宙人。

「やめろっていってんだよ! エンジンがいかれる!」

「……ルミテス、異世界言語能力、宇宙人にも通用するのかよ」

「最初に通信してくることがそれかの」

 とにかく話ができるんだったらそれに越したことはない。宇宙服の宇宙人に呼びかける。

「生きてるんだったら脱出しろって! 乗員は何人だ?」

「いいから水をかけるのをやめろ!」

「おい、ハッコツ、やめてやろうぜ」


 太助、ハッコツは放水をやめた。

 炎上するUFO。

 宇宙服を着た乗組員が下に向って怒鳴っている。

「自動消火装置はどうした!」

「自動消火装置が効きません!」

「手動だ! 手動に切り替えろ!」

「ダメです!」

「あ――――! 避難だ! 避難しろ!」

「了解!」

 宇宙服の連中、次々とハッチから転がり落ちる。

「うおっと」

 とっさに駆け寄った太助、それを受け止めた。ジョンも駆けてきて三人、受け止めることができた。

 ちっせえ。

 1メートル無いぐらいか。ずいぶんと小柄な宇宙人のようである。


「ちっさいおっさんの宇宙人本当にいたのか……。おい、全員脱出できたか?」

「……ああ」

「じゃ、水かけていいか?」

「水はダメだ! 宇宙船が壊れる!」

「じゃ、全部燃やしちゃうか?」

「……クソったれ。水をかけて消火するなんて、なんたる原始的な野蛮人だ!」

「じゃ、液体窒素でいいか? それだったらかけられるが」

「液体窒素? そんなことできるのか?」

「ジョン、草の消火に戻ってくれ。ハッコツ、液体窒素だ」

「了解」


 太助は空気呼吸器の面体を装着し、放水くんの放水モードをN7に切り替えて、液体窒素を噴霧し始めた。

 UFOに登って、ハッチの外から炎上する機内に向って液体窒素を放液する。ハッコツも外周の消火に努めた。

 ものすごい白煙が上がるが、それでもUFOの内部火災はだんだん収まってきた。


 宇宙人、ポカーンである。

 ホースもつながっていない「放水くん」が、液体窒素を放液できるということがまったく説明つかないという感じである。太助にも説明できないが……。

「空気を遮断、不活性ガスの窒素で消火。温度も下げられるしUFOにもちゃんと効くか」

 熱により二酸化窒素は発生するかもしれないが、大気圧開放されているので大した有害物質にはならないだろう。マイナス190度の低温度と酸素遮断で消火はできるはずだ。液体窒素は後で完全に揮発するから内部の機器も最小限の被害で抑えられるはず。生物が乗っていたら凍死か窒息死なので、要救助者がいるときはやらないが。


 数十分でなんやかんや、UFOは完全に消火できた。一部真っ白に凍結している。

 頭上にはものすごい大きさのグリーンホエールが飛んできて、ワイヤーが降ろされた。

 これにも宇宙人はびっくり。ガタガタ震えだしている。

「悪いけど宇宙船にワイヤーかけさせてもらうぞ。救助隊本部へ連行する」

「我々は宇宙条約第27条に従って……」

「知らんがな。惑星リウルスへの領空侵犯。お前ら捕虜な」

「ぐっ」

「お前ら、ここに来るまでに、他の星でなんかおかしな生物とか、採取してたりしてないよな?」

 エイリアンとか物体Xとか……。どうもそんなことを考えてしまう太助。

 液体窒素のノズルの筒先を宇宙人に向ける。

 ぶんぶんぶん。首を横に振る宇宙人たちだが、それがこいつらにとって「NO」という意味かどうかは、わからない。


「さ、乗った乗った。ジョン、持ち上げてやれ」


 ジョンは次々に三人の宇宙飛行士をUFOの上に持ち上げてやった。

 連中はしぶしぶといった感じで、消火の終わった船内に戻っていく。

 巨大なグリーンホエールに吊り下げられ、UFOの残骸は、静かに、パレスの庭園に着地した。




次回「64.UFOを救助せよ! 後編」

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[良い点] いつのまにやら63話。 早いですな。
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