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59.ピラミッド調査隊を救出せよ! 後編


 太助たちはピラミッドの中の回廊を、ランプを掲げてさらに進む。

「『この先王の玄室』」

「『注意! 落とし戸あり』」

 そして通路に、石碑が建っていた。

「……これ、どう見る?」

「三か国語で注意が書いてありますな」

「『ロゼッタストーン』かよ……えーと、ヒエログリフとあと二か国語……。ひとつはギリスァ語だ。『偉大なるグフ王の眠りを妨げる者、死の翼に触れるべし』、か」

「最後の脅しですな」

「今まで親切だったのに、いきなり怖いな。まあカーターが今までの案内読めてたわけないし、これ見てカーターはこの先に王が埋葬されていると確信して、作業員を追い返し、自分たちだけで進んだってことなんだろ」


「で、罠にかかって出られなくなったんですな?」

「たぶんな。ジョン。どう? 匂う?」

「匂う。現地人とは違う匂い。足跡もある。革靴の足跡だし、この先に四人いる。生きてるか死んでるかはわからない」

 地面の匂いをクンクンと嗅いで確認するジョン。

 一応バイタルストーンを取り出して生死確認する太助。だが、分厚い岩に阻まれてその先の反応はなかった。

「これちょっと持ち上げるのも砕くのも無理だぞ……。何かやるにしても道具を持ってこないとな。ま、どうせ今回は最初から状況確認が目的だったし」

 その落とし扉はどうやって作動したのかはわからないが、強固な花崗岩で、20トン以上は軽くありそうだった。


「いちかばちか、爆破でもしてみますかな?」

「ハッコツ、運を天に任せるってのはな、消防士が一番やっちゃダメなことだよ」

「ですなあ……」

「考えても見ろって、この世界の『天』って誰だ?」

 ハッコツとジョンはハッと思い出した。

「……ルミテス様でしたな」

「オレもやめといたほうがいいと思う」

「な?」

 太助たちにしてみれば、もうタタリ神かもしれない。

 思っても、誰も口にはしなかったが。


 とりあえず予定通りにルミテスに通信する。途中途中でスカラベくんを放しておいたのは、この無線通信の中継をしてもらうためである。さすがの魔法通信でも、このピラミッドの厚い岩を貫通するのは無理であった。


「あー、ルミテス! ルミテス聞こえるか!」

「ザッザザザ……こち…パレス……んとか聞こえるの」

「ちょっと無線遠いな。とても持ち上げられそうにない岩扉で塞がれてる。今すぐ救助は難しいな」

「……調査……置け…置いたら連……」

「んー了解」

 太助はほほに張った無線パッチをぺちぺち叩き、「下の王妃の間に行く。受信器で調べてみよう」と二人に指示をした。

 逃げようとするスカラベくんたちを捕まえながら、先ほどの分岐点まで戻り、下に下って王妃の間に到着。ジョンがバックパックに背負っていた「受信機」を取り出し、部屋の中央に設置する。


「ひでえな……。空っぽだよ。財宝も棺もなんにもない。前の盗掘者、根こそぎ略奪していきやがった」

「んー、どうですかな。この部屋には最初から何もなかったかもしれませんぞ?」

 ハッコツが指さす壁には『ごくろうさん』とヒエログリフで落書きが刻んであった。

 これを最初に見たやつは腹立っただろう。読めればだが。当時の作業員も人が悪い……。


 中央に受信機を設置して起動。ルミテスに連絡する。

「パレス、設置完了。あとは頼む」

「ザッザザッ……了解」


 三人、受信機から離れて、銀色のシートをかぶって壁際に座る。

 受信機はピポピポとランプが点滅し、受信を開始した。



 ドーン! ガラガラガラ。ドンガラガッシャーン! ゴロゴロゴロゴロ……。

 その時、ピラミッドでは異常事態が発生していた。

 上空からひっきりなしに雷が落ちてくるのだ!

「ひゃああああああ!」

「ふぁ、ファラオの呪いじゃ! ファラオの呪いじゃあああああ!」

「救助に向かう」、と太助たちが入った入り口を遠巻きに眺めていた作業員たちは、たまらず一目散に逃げだした。

 なにしろみんな砂漠の民である。大雨が全く降らない地方で、「雷」というやつを実際に見たことがある者がほとんどいなかった。

 その雷は上空四千メートルからひっきりなしに、ピラミッドのあらゆる方向に落ちてくる。現場にいた人間にとっては生きた心地がしなかった。


 二時間も経ってから、雷が収まり、太助たちが入り口に戻ってくると、「ど、ど、ど、どうでしたか!」と作業員たちが口々に聞いてくる。

「んー、ちょっと無理だった。調査は終了したから、救助方法を考えてまた来ますよ。それまでできるだけ何もしないで、現場はそのままにお願いします」

「あ……わかりました。俺たちどうせこれで失業ですし……。給料未払いですけど。仕方ないっす」


 太助はポケットから五匹のスカラベを手のひらに乗せて出してやった。

 スカラベたちは羽を広げ、ぶーんと砂漠の空を飛んで行く。

「中継お疲れ様」

 その伝説では太陽をも転がして運ぶというスカラベ(フンコロガシ)たちを、三人は敬礼して見送った。




「無理じゃな」

 指令室で分析が済んだルミテスは、どさっと椅子に座り込んだ。

「やっぱりなー……」

 太助もがっくりである。

「数千年の英知の結晶。さすがはグフ王のピラミッドと言うところかの。完璧な盗掘対策じゃ。わちらにもどうにもならん」

「一応説明してくれよ」


「よいかの、まずパレスから陽電子加速器で磁場を発生させ、ミューロン粒子を照射する。まああのピラミッドに落とした雷がそうじゃ。それをおぬしらが設置したピラミッド中央下部の『王妃の間』に設置した受信機でラジオグラフィックの3Dスキャンを行う。これでピラミッドの内部構造を明らかにした」

「隠し通路や隠し部屋、いっぱいあった?」

 ルミテスはちょっとニヤッとした。ピラミッドの内部構造、誰だって興味があるだろう。考古学的知識としても貴重な発見に違いなかった。

 デスクの上に3Dのホログラフが浮かび、グフ王の大ピラミッド内部のスケルトン構造が映し出される。


「あったぞ。まあそれは良い。何回目かで『王の玄室』を掘り当てたカーターたちは、運がよかったと言えるだろうのう」

「『この先王の玄室』って、回廊の標識に刻んであったよ。警告文も石碑にあった」

「たぶんそれはフェイクじゃ。その王の玄室からさらに三分岐してその下に本物の部屋がある。カーターたちはそこにはたどり着けんかったじゃろう。おそらくな」

 カーター、ごくろうさまである。


「『王の玄室』は封印がされた普通の扉じゃ。封印を切って普通に扉を開けるとな、ラッチが次々に外れて落とし岩戸が落ちる仕掛けじゃ。二十五トンの」

「退路を断たれるわけか」

「その通り。四千五百年前、ずっとその時を待っておった大仕掛けじゃの」

 わかりやすい罠である。


「それ、その落とし戸の岩に削岩機で穴をあけるか? それともジャッキで持ち上げるか?」

 太助にも思いつく救助方法はそんなところ。

「この落とし戸が『王の玄室』の先にさらに三か所ある。二枚同時に落ち、これが一つ落ちるたびに、ピラミッド三角頂点の中に溜められた砂が、落ちた岩戸の上に降り注ぎ、砂が隙間を全てふさぐ」

「うわあそれもう完全に閉じ込めじゃないか」

 太助はその巧妙な構造に舌を巻く。第一の扉からしてもう開けられないということになる。砕いたり穴をあけたりすれば砂がダダ洩れになる構造だった。


「この合計四つの扉が全部落ちるとな、上の砂を貯めた空間が完全に空になる。そうするとどうなると思う?」

「……砂の支えを失った三角部分が崩れるんじゃないの?」

「そうじゃ。ピラミッドは崩壊する。落下した岩石が次々に下の玄室を押しつぶす。そういう設計になっておった」

「……そんなの救助しようがないじゃないか」

 太助絶望。


「あるいは上の積まれた石を一つ一つ取り除いていくとかは?」

「グリンが過労死するの」

「横穴を開けるか」

「何年かかるかの?」

「『ピザの斜塔』の時みたいに、接着剤を噴霧して固着させちゃう」

「扉も固着してしまうのう」

 打つ手なし。


「何より問題は酸素じゃ。こんな狭い空間に四人もいたんじゃ、十二時間持つかのう」

「やばっもう半日経っちゃったよ!」

 太助は時計を見て肩を落とした。ピラミッドのところどころには作業者用の長い長い空気穴らしきものもあったが、ピラミッドの外観からは穴が空いていることがわからないところから、完成後閉鎖されているに決まっていた。


「玄室の間には何と書いてあったかの?」

「『王の眠りを妨げる者、死の翼触れるべし』って……」

「触れた者の(むく)いじゃ。ピラミッドの謎は、謎のまま、このままずっと放っておくのが一番じゃと言うことかの……。カーターはファラオに完敗したのじゃ」


 メンバー全員、落胆を隠せなかった。

 パレスに来て救助隊になってから、初めての救助失敗ということになる。


「わちはの、このファラオの『墓泥棒は許さぬ』という四千五百年の怨念。これこそがファラオの呪いと思うのじゃ。ならばその魂、静かに眠らせてやるのもいいじゃろう。この件はこれで終了じゃ。さ、持ち場に戻れ」

 無念だったのはルミテスだって同じことだろう。要するに、「気にするな」と言っているのだ。


「四千五百年の怨念、すげえな……」

 顔を見合わせて苦笑いした太助たち、とぼとぼと指令室を出て行った。


 あと何千年経った後だろうか、後の人間がカーターたちを発見するのは。

 それまでピラミッドは、果たして存在しているだろうか。

 いや、それは心配ないと太助は思う。

 四千五百年前に建てられたグフ王のピラミッド。

 それはきっと、たとえ人類が滅びようとも、四千五百年後もこの世界に平然と存在しているに違いなかった。




次回「60.勉強会『救助できなかった事故』」

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― 新着の感想 ―
[一言] 緻密に計算され、四千五百年たっても仕掛けが動く超弩級のカラクリ箱 こういうのがあるから、ファンタジーとしか思えない超古代文明があったのかもとワクワクする
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