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44.時限爆弾を止めろ! 後編


 ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ~~~~~!


「爆弾予告、来ましたわ!」

 マリーが監視パネルを指さす。

 救助隊に連絡が来るわけではない。だが、見ればわかるということもある。

 ロスナ国首都、衛兵団兵舎から武装した衛兵たちがわらわらとクモの子を散らすように逃げ出している。

「衛兵団を次の標的にしましたか……。この前首尾よく火事を消し止めたことで、逆恨みしたって言うことかもしれませんなあ」

 ハッコツの読みはなかなか鋭い。

 衛兵団はテロリストと対峙、捜査逮捕もするのだからテロリストたちの宿敵であろう。どうせいつかはテロ対象になるに決まっていた。


「逃げ出すとはヘタレな衛兵団もいたのもので」

「爆弾がどこに仕掛けられているか、いつ爆発するか、全くわからないのだから仕方がないじゃろ。出動せよ!」

 太助の皮肉に無慈悲な命令を出す女神様。時間が無いに決まってる。大急ぎで装備し、庭園へ向かう。

「ヘレスちゃん!」

 見送りに来ているヘレスに一瞬、太助は向き直る。

「ちょっとパンツ見せて!」

 いきなり太助はヘレスのメイド服のスカートをまくり上げた!

「なにをやっておるんですかな太助殿!」

「なにやってんだお前!」

 スカートを抑えて恥ずかしがるヘレスの前で、ハッコツとジョンに殴られる!


「いってえ! いや、あのな、爆弾処理ってのはな、今日のラッキーカラーってやつが重要で」

「わけわからんですな!」

「早くしてくれ!」

 フル装備のジョン、無重力風呂敷に身を包んでカナベラフックのロープをドラちゃんの鞍に引っかけている。太助とハッコツはドラちゃんに跨って、「出動!」と叫んだ。間髪入れず、ドラちゃんは舞い上がる。


「太助殿、ラッキーカラーってなんですかな?」

 ドラちゃんの時速300キロにも達する猛烈な急降下に鞍にしがみつく。

「いや、爆弾ってのは絶対に、『赤か、青か』で悩むんだよ」

「何色でした?」

「白だった」

「参考になりませんな」



 衛兵団兵舎の屋上に着地する。さっそくドアを斧でぶち壊して兵舎に侵入する太助たち。

「頼むぜ『火元くん』!」

 この火元くんというのは、ルミテスが開発したエネルギーセンサーである。爆発物のような強力なエネルギー源を探知し、それを知らせてくれる魔法石だ。今回の爆弾騒ぎのために作ってくれた。これから予想される他の火事現場でもきっと役立ってくれるに違いなかった。

「下の階だ!」

 ピポッピポッと点滅する光を追って、三人、階段を駆け下りる。

 逃げ遅れているやつもいる。

「爆弾だ! 早く外へ!」

 そう声を駆けながら、下へ、下へ。


「下にあるんだったら、正面入り口から入ったほうがよかったんじゃないですかな!」とハッコツが叫ぶ。

「衛兵団だぞ!? 俺らみたいな怪しい奴、素直に入れてくれると思うか?!」

「それもそうですな」


 一階までたどり着く。

 ピポッピポピポピポピ――――――――――――――!

「こいつだあ――――!」

 衛兵団の厨房に積まれていた「タマネギ」と書かれた木箱!

「タマネギかよ! 面体装着!」

 ジョンとハッコツに指示して、ホースレス空気呼吸器の面体を装着させる。


 放水くんのリングを回して、N7番にセットする。

「放水!」

 どばばばばばばばばばばと、周りを濡らすような液が撒かれ、周りは白い湯気に包まれる。周囲は急速に凍りだした。

 ルミテスが、放水くんからも「液体窒素」を放液できるように改造してくれたのである。

「消火現場で液体窒素がなんの役に立つんじゃ」というルミテスの質問に、「爆発物が爆発しないように科学的に反応を抑えることができる。仕掛けられた時限爆弾なんかも止めることができるんだよ。マイナス190度の液体窒素をかけるとね」という、太助の知識を取り入れてくれた。

 供給源はもちろん、パレス液体窒素ラインからの空間転移である。なんでそんなものがパレスにあるのかは謎だが、探査機回収の時に『超電導磁場発生装置』の冷却に役立ってくれていた。そんなものがあるのなら、なんとか救助、火災の役に立てたいに決まっていた。


 電池で作動する電子機器も、雷管も、この温度では起爆しようがない。もちろん硫酸を使う化学式時限機構だろうと、硫酸はマイナス10度で簡単に凍るはず。

「ふうー……」

 真っ白に凍り付いたタマネギの木箱。部屋は揮発した窒素ガスで充満していた。

 面体を装着したのはこのためである。タマネギが爆発して目に沁みないように、というわけではない。



「団長呼んでくるわ。ジョン、それ持って」

「イヤだ」

「だよねえ……」

 何でも持ってくれる力持ちのジョンにいつも通り頼んでしまったが、しっぽを巻いて嫌がる。

 仕方がない。太助はもう一度、慎重に木箱のふたを開けて、液体窒素で中を満たしてから、断熱手袋をはめておっかなびっくり持ち上げた。


 あけ放たれた衛兵団の兵舎正面扉から白煙と共に現れた太助の姿に、遠巻きに兵舎を取り囲んでいた衛兵団は驚いたものである。

 太助たちの防火服には全員、あの火事現場で見覚えがあったから、捕縛しようと襲い掛かってくる奴らはいない。なにより爆弾がおっかない。

 そんな兵舎から出てきた太助たちだから、近寄ろうともするやつもいなかった。


「爆弾です! もう安全ですから大丈夫です!」

 太助はそう大声を上げてから、中庭中央にこぽこぽと白煙を上げ続けるその木箱を置いた。

 先日知り合いになったばかりの衛兵団長がいたので、ちょいちょいと手招きする。

 恐る恐ると言った感じで、衛兵団長が近づいてきた。勇気ある団員たちも何人か。


「ルミテス、これどうすりゃいいんだ?」

 ほほに張られた無線パッチを通して、パレスに聞いてみる。

 どこからか飛んできたハトがひらひらと舞い降りて、太助の肩に留まった。本日のカメラ係だ。

「まずタマネギを全部出すのじゃ」と無線で返事が来る。

「タマネギねえ……。残念だけどこれ、もう食えないな」

 断熱手袋をはめた太助。箱からひょいひょいと凍り付いたタマネギを放り出す。釘が打てそうなくらい堅かった。


「た、タマネギが爆発するのですか?」

「いや、いくらなんでもそれはないですよ団長……。たぶんこの下に入ってるのがそう」

 上のタマネギを全部避けると、銅の密閉容器が現れた。もちろん凍り付いている。

「前回と同じじゃの。芸のない連中じゃ。凍らせてあるから心配いらん。ニッパーで固定している金具を切れ」とルミテスから指示が来る。

「こんなこともあろうと」なーんて言いながら太助はニッパーを取り出し、固定金具を切断。

「あとはゆっくり持ち上げて見ろ」

 銅のタンクに手を添えてゆっくりと持ち上げる。

 カチカチに凍り付いた銅タンクの底を見ると、変色していた。危ないところだった。タンクがあったところを見ると、粘土状の灰色の何かが箱の半分ぐらいまで詰めてあり、中央がくぼんでいて何か白い粉薬がそのくぼみに入れてあった。これが硫酸と触れると大爆発……という仕組みだろうか。


「もう安全じゃ。タンクを横に避けておくのじゃ」

「もう安全です。この銅のタンクに硫酸が入っていて、それでタンクが溶けて穴が空き、下の爆薬に硫酸がたれて起爆する構造だそうで。このタンク一緒にしないで必ず別にしておいてください。今は凍らせてありますが、溶けたらまた穴が空きますのでガラスかなにかの瓶に入れておいて」

「ふ――――、は――――……。凍らせたんですか。すごい氷魔法ですな」

「いや、魔法じゃないんだけど……」

 液体窒素と言うのは、どう説明してもわかってもらえる自信が無い。


 団長、緊張していたらしく大きく息を吐く。

「これ、なんなんですかな?」

「これ、なんだっけ」

 無線でルミテスに聞いてみる。

「銅タンクに濃硫酸。ハロゲン化合物と粘土パラフラムベンゼンじゃ」

「……ハゲろ……? いやいや、また悪用されたら困りますので、教えません。こんな知識広がってはマズいですよきっと」

「あー、ウー……、あう、そうですな……」

 適当にごまかしたが団長はまだびくびくしてる。


「これ、厨房に積んである食料の箱の一つでした」

「厨房!」

「つまり犯人は、出入りの食品業者に紛れ込んでこれを置いて行ったということになります」

「なるほど……」

「あと錬金術師が関与している可能性が高いです。その線で捜査して犯人を逮捕してください。では俺たちはこれで」

「いやっ! あのっ! これっ! 持って行ってくださいよお!」

 団長のヘタレっぷりに太助はあきれた。


「お断りします。もう爆発しませんて。ゴミと一緒に焼却炉に放り込んだりしないでくださいね。貴重な犯人が残した証拠です。箱からでもタマネギからでも何でもいいですからそこから犯人を洗い出してそっちで逮捕してください。異世界救助隊が手助けできるのはここまでです」


「団長! こいつら怪しいですよ! こいつらが犯人なんじゃないですか!」

 後ろにいた若い奴がなんかとんでもないこと言いだした。

「自作自演で衛兵団を信用させてなんかやろうとしてるんじゃ?」

「……みなさん、一応事情聴取します。すみませんが確かな身元が割れるまでは拘束しますので」

「お断りだね!」

 太助はピイイイイイイイイイイイ――――ッと竜笛を吹いた。

 ぶわっさぶわっさぶわっさ。白銀のドラちゃんが「きゅわわわわ――――!」と雄たけびを上げながら降りてきた!

「うわあああああああ――――――――!」

 ヘタレぞろいの衛兵団が逃げ出したところで、太助とハッコツはドラちゃんに乗り込み、無重力風呂敷で身を包んだジョンをドラちゃんの足で鷲掴みにしてもらって舞い上がった。

「団長――――! そこの若い奴、一応調べたほうがいいですよ――――!」

 見下ろすと、いきなり太助たちを犯人扱いしてきたあの若い団員が、他の団員に取り押さえられていた……。


 このことは、当然パレスでも大問題になった。



「これより太助の査問委員会を開催する!」

 太助、ルミテスの前でメンバー全員ににらまれてうなだれる。


「……太助。なぜ出動前にヘレスのスカートをめくった?」

「いや、あの……そこですか」

「職員によるこのようなセクハラ行為が日常的に行われていては、組織にとって大問題じゃ。おぬしの罪は重いぞ。場合によっては懲戒解雇もありうる!」

「いや、その、いいえ、そういうセクハラ目的では決して」

「庭園のカメラにちゃんと写っておったわ! おぬしがヘレスのスカートを巻き上げるところがの! そのような行為、断じて許さぬ!」

 もうルミテス、マリー、ベルの女性陣の目が冷たい冷たい。

 当のヘレスは事の成り行きにはらはらおろおろしている。


 その中でグリンさんだけがニコニコしているのが不気味である。

「のうルミテス、わっちょが若いとき、よくパーティーの勇者がの、よくわっちょのスカートをめくりあげてはスリスリしてきおったわの。そんなにスリスリしたいならと思うてビキニアーマーにしたら、それっきりやってこんくなった。男というものはそういうもんなのじゃ」

「まったく意味がわからんし関係ないわ! その話!」

 ルミテス、キレた!


 改めて考えてみると女性メンバー五人に対して男性メンバーは三人しかいないのである。この委員会で太助に勝ち目は全くなかった。スラちゃんはオスかメスかはわからないので味方にできない。


「あの、時限爆弾の解体では、その、爆弾のタイマーを止めるために、赤のコードを切るか、青のコードを切るか、選択を迫られるというケースが必ずございまして」

 太助は言葉を選んで必至に弁解する。

「それとヘレスのパンツがなんの関係があるのじゃ!」

「いや、だから、あのボイラー爆発事故を生き残ったヘレスさんですから、きっとご利益があると思いまして、わたくしにとっては幸運の女神様みたいなものでして、そのお方が履いているパンツの色が、わたくしにとってはラッキーカラーに思えて仕方が無くて」

「何色だった?」

「白でした……」

「参考にならんではないか」

「はい……」


「赤だの青だの、ヘレスがそんなパンツを普段も履いているとでも?」

「いえ、その、たまに、いや、あの、お願いすると、意外と。でも黒もなかなか」

 太助あわあわ。もう何言ってんのかわかんない。


「おぬしは半か月の減給処分じゃ!」

「そんな――――!」


「ヘレス!」

 びくっとするヘレス。

「おぬしは今後白以外着用禁止――――!」


 ヘレスに抱きしめられて共に泣く太助であった。



 ちなみに太助の言う通り、タマネギの線から犯人は簡単に捕まった。

 箱から八百屋が割り出され、タマネギを箱で買っていった怪しい男ということであっという間に犯人が判明した。

 そこから芋づる式に組織の重要人物が次々に捕まり、錬金術師も逮捕され、テロリストグループ「ロスアの春」は壊滅したとのことである。

 あの場で太助たちを犯人扱いしてきたあの若い団員は、全く関係なくどうでもよいこととして忘れていただいて構わない。




次回「45.油田火災を消火せよ!」

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