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38.勉強会「タイタニック」


「さて、いつもこう訓練ばかりじゃなくて、たまにはこんな勉強会もやっているわけだけど、こういう知識ってのはちゃーんと、現場で役に立つ。事故や災害の『原因』ってやつを知ることは、素早い消火、危険の排除、救助の迅速化が期待できるし、消防の本来の目的である『事故、火災を未然に防ぐ』ってのがいかに大切かを知ることでもある。面白くもない話かもしれんけど、つきあってもらうぞ」

「了解です!」


「今日の話は『タイタニック号』だ。これは豪華客船が氷山にぶつかって、沈没し、千五百人が犠牲になったという、俺がいた世界でもトップクラスに犠牲者が多かった海難事故なんだけど……」

「千五百人も乗れる船があったのですかな!」

 この世界にはまだ木造帆船しかなかった。大きさも70メートルあれば大型船、というレベルである。ハッコツが驚くのも無理はなかった。


「まあ驚くだろうな。助かったのはそれでも七百人はいたから、実際には二千二百人がこの船に乗っていた。それでも満員じゃなかったし、最大乗船数は三千人を超えていたぞ」

「なんと……」


「この世界じゃまだ木造の帆船ぐらいしかないもんな。でも、石炭が採掘されるようになると、それを使って製鉄技術が向上する。鉄がじゃんじゃん作れるようになるんだ。そうするとその鉄を使って大型の船が作れる。石炭を燃料にして蒸気機関も作られ、人が漕いだり、帆を張ったりしなくても機械が水車を回して進める動力船が作られるようになるんだ。この世界も、今ちょうど石炭を採掘するようになって製鉄が盛んだ。あと百年も経たずに、そんな船が作られるようになるよ」


「鉄の船が浮くなんて信じられませんわ?」

「大浴場の洗面器は真鍮(しんちゅう)だけど、ちゃんと水にぷかぷか浮くだろマリー。あれと同じ。船の形をしていれば木だろうと鉄だろうと、ちゃんと浮く。壊れず漏れず頑丈で大きな船が作れる。この世界の軍艦だって、木造帆船だけど、外壁に鉄板を張り付けて防御にしているだろう? 人間が石炭というエネルギーを手に入れて、大都市が作られ、なんでも大型、なんでも巨大化、なんでもスピードアップ、なんでも大量輸送するようになるのはもう避けられない。それに伴って事故も大型化し、犠牲者も大量に出るようになる。時代の流れだな」

「わちが危惧しておるのもそこなのじゃ。だから救助隊を作ることにしたのじゃ」


「先見性があるよルミテス。でも事故っていうのは、大失敗のせいっていうのは案外少ない。小さなミスの積み重ねが放置され、問題を見逃し、対応を怠ったことが最終的に大事故になる。このタイタニックの事故を取り上げるのは、これが俺のいた世界で一番有名な海難事故であり、その原因も、その後の改善も一番よく研究された事例でもあるからだ。ジョン! 寝てないでちゃんと聞け!」

「ワン!」


「さて、この新しく建造されたタイタニック号。全長は270メートル……。変身したグリンさんのグリーンホエールは70メートルあるけど、その四倍近い大きさがあるってことだ。総重量は四万六千トン。当時世界最大の豪華客船だった」

「ほえー」

「ホエールにかけてんのグリンさん? この事故が起こったのはこのタイタニックが建造されて初めての船旅、処女航海ってやつで起こったんだ。乗員の誰もが、なにもかも経験不足であらゆることが後手に回ったり、手に負えなかったりしたことも悪かったことの一つと言えるだろうな。第一のミス『経験不足』だ。俺たち救助隊なら『訓練不足』ってことになる。これはあとでたくさんの不手際となる」


「処女航海に処女作、処女地にヴァージンロードにヴァージンオイル! なんにでも処女ってつけるのはやめてほしいですわ!」

「そこ怒るのマリー……。まあ、わからんでもないけど今更そこ怒らないで。タイタニックはこう……黒板に描くと、船底が二重になっており、十六の防水区画に分けられ、どこから浸水しても水を食い止めることができる最新の設計だった。俺がいた現代から見てもきわめて安全性の高い船で、船会社は絶対安全な『不沈船』だと宣伝していた。これが慢心になって、『タイタニックが沈むわけない』という乗務員、乗客の思い込みが、後に対応を遅らせることになる。第二のミス、『過信』だな」


「設計企画段階でもうそんなミスがあったのじゃのう」

「そう。ルミテス、お前いきなり俺たちに新装備渡して使わせようとするけど、あれだって本当ならちゃんと訓練して、問題点を洗い出して、改善して、現場で使うのはそれからにしてもらいたいからな? 頼むよ?」

「そこは演出と言うやつがあってのう……」

「そんな演出とかいらんから! メタな話やめてよホント。まあそんな船の初出航だからいろいろ問題もある。乗員の予定が急に変わって入れ替えになることもある。さてこの乗組員の一人が急に配置換えになったせいで、前方を監視するのに使う双眼鏡……。望遠鏡の一種だな。それがどこにあるのかわからなくなった。仕事の引継ぎが不十分だったってことだ。これが第三のミス。『準備不足』だ」


「装備を忘れることで大事故になるんですな?」

「そうだ。ハッコツ、俺は出動前にチェックリストを読みあげて、忘れ物が無いか確認するようにしたいんだ。ルミテス、出動ケースに分けて装備品の部屋を分割し、そこにあるもの全部装備していけば大丈夫なようにもしたい。出動する時に何を持っていくか悩む時間を最小限にするんだ。不備が無いように万全の装備で挑む。これが大事な?」

「それはよいのう」

「まあこれは出動時に二号がコンテナを選ぶようなもんで、俺のアイデアってわけじゃないけど」

「二号ってなんじゃ」

「そこは流して」

 災害の種類に応じてコンテナを分別しておく。あのアイデアは大したものだったと太助は思う。


「さて、そのおかげで監視員は裸眼で前方を監視する羽目になっちまった。事故があった時の監視員は二人。艦橋の上にある高いマストの上で二人、船員が監視していた。いいか、この二人ってのは重要だ。一人じゃどうしても見逃しもあればサボりもあるし、居眠りだってするかもしれん。消防士はチームの仕事。一人で単独行動ってのは全員を危険にさらすこともある。ま、これは俺が一番気をつけなきゃいけないことだと常日頃思ってるよ……」


「太助殿、自覚あったんですな……」

「……すまんハッコツ。いつもお前が割を食ってるのは悪いと思ってるって……。とにかく、双眼鏡が無くて監視員は裸眼で監視しなきゃならんかった。そのせいで氷山の発見が遅れて、避けられずにぶつかることになる。残念だが」


「避けられなかったのかの?」

「そう。これぐらいデカい船になるとなかなか止まれないし、なかなか曲がらない。スクリューを全力で逆転させてブレーキをかけても、停船するまで数キロも流れちまう。悪いことにこのときタイタニックは最大船速近い二十ノットで航海していたんだ」

「そもそもなんで氷山があったんですの?」


「いいところに気が付いたなマリー。このリウルス儀(この世界の地球儀)を見てくれ。たとえばこのイグルス……、そこから目的地のアメリゴをこうして糸を当ててみるとわかるが、最短距離は北極海に近い北洋を通ることになる。毎日ルーミスの軌道を見て監視しているマリーにはわかると思うが」

「確かにそうなりますわ」


「当時船会社は、この世界で言うイグルス、アメリゴの二大国の間のスピードを競っていた。わが社の船が一番速いですよって、宣伝してたんだ。だからタイタニックも、この処女航海でその速さを立証してやろうと、全速航行していた。処女航海だからこそ、テストを兼ねて慎重に進んで、問題点が無いか、不具合が無いか、十分な慎重さが必要だったはずなのにそれを怠った」


「宣伝のために無茶をしたということになるのかの?」

「ついでにこの『目標値が高すぎる』ってやつも事故原因に入れていいかもしれん。経営者、上部からの圧力だ。命令で部下に無茶をさせて事故になる。この点はルミテスにも学んでおいてほしいと思うけどな」

「わちはどの救助でもちゃんと作戦を立てて万全を図っておるがの!」


「俺が出動のたびに毎回ツッコんでるのちゃんと聞いてね? さて氷山の話だが、そのため、この航路を取る船同士では、氷山を発見すると無線で連絡を取り合って情報を共有していた。タイタニックにもその連絡は届いていたはずなんだが、そのことが乗員には伝わらなかった。第四のミス、『連絡の不備』だ」

「……それは確かに大問題じゃの」


「この日、無線係は忙しかった。タイタニックは豪華客船が売りだった。豪華な内装、高級なレストランの食事、スポーツクラブにバーに、なんでもあった。客は金持ちや名士が多く、みんな船旅を楽しみ、そのことを電報で知人や友人に伝えたがった。無線技士はこの電報サービスに忙殺されていたらしい。誰のせいなのかはわからんが、とにかく船の乗組員はそれぞれの業務に必死で、氷山の情報は結局船長にまでは上がらなかった。タイタニックはどこに氷山があるかもわからないのに、全速で北洋の海を航海していたことになる」

「無茶なことをなさいますな」


「幸い俺たちはルミテスの無線パッチのおかげで情報交換はできている。ルミテスもパレスでそれを聞いている。みんなも救出作戦中はどんなことでもいい、危険な兆候があったら必ず全員にわかるように報告してくれ。報告を怠らず、全員で情報を共有する。なにより大切なことだ」

「やってますがな」

「私語が多いぞ、ハッコツ」

「……申し訳ござりませぬ。でもそれは太助殿も同じですがな」

「あとルミテス、文句が多い」

「……すまんのう」

「救助の現場でも、そこにいた人に状況をよく聞き、理解しておくのもできるだけ最初にやっておきたいことだ。ジョン、お前いつも返事もないことがあるけど、たまには喋れよ! 全員まだ生きてますよーって連絡無いと俺ら全滅することもあるんだからな!」

「わん……」


「処女航海と言う『経験不足』、タイタニックは絶対に沈まないという『過信』、双眼鏡を忘れて監視が不十分な『準備不足』、氷山があるという連絡が届かなかった『連絡の不備』。これが重なって、ついにタイタニックは氷山に衝突する。その日北洋の海は霧が出て、見通しが悪かった。見張りが氷山を前方に発見した時は氷山はもう500メートルにまで接近していた。夜だったので船長は就寝していて、代理の航海士が航海を指揮していたが、氷山発見の連絡を受けて全力で回避、減速をしても間に合わず、タイタニックは氷山に横っ腹をガリガリと衝突させた」

「……」


「一区画や二区画の浸水なら、防水隔壁は食い止められる。氷山に衝突しても大丈夫なぐらい頑丈な船だと信頼されていた。これも『過信』かもしれん。この時正面から船首がぶつかっていればタイタニックは沈まなかったはずだとする説も多い。だが船首から四区画までが同時に浸水するのは想定外。唯一幸いと言えたのは、この船にはタイタニックの設計技師が同乗していたことだ。設計技師は、船首四区画が浸水したら、船は前に傾いて、船首は水没し、浸水した海水が次々に後ろの隔壁にあふれ出して最終的に船は沈没すると早い段階で断定した。不沈船と信じられていたタイタニックが沈没するという現実は、すぐに船長たち首脳部に共有されたんだ」

「だったら、船が沈む前に逃げ出すことができたであろうの?」


「だがそれを知っても、犠牲者を減らすことはできなかった。致命的だったのは、その船には、救命ボートが乗客全員を避難させるだけの数が積まれていなかったんだ。最悪の『準備不足』だな」

「なんてことですかな!」

「ありえませんわ!」

「バカすぎるわの!」

「……なんで?」


「みんなが驚くのも仕方ないな。理由は当時の法律がそれでOKだったからとか、不沈船を(うた)う安全な船がそんなに救命ボートを並べておくのはカッコ悪いとか、もともとそうした小舟は他の救助船との行き来に使う物、という考えだったとか、言い訳はいろいろある。それに救命ボートを降ろすという乗員の訓練もろくにやっていなかったせいで脱出は遅れに遅れた。連絡も不行き届きで、一等客室のVIP客ばかりが避難に優先され、二等三等船客は後回し。満員にならないまま降ろされた救命ボートも多かった。多数の犠牲者を出した一番の原因、これも『過信』と『準備不足』、『経験不足』、『連絡の不備』と言えるだろうな……」


「ひどい……」

「マリー、悪いことばかりじゃない。全員大したパニックにもならず、『女、子供が先』という指示が守られ、大多数の男性客は船に残った。ま、この時点ではまだ『タイタニックが沈むわけがない』と楽観していた乗客が多かったこともあるかもしれんが、もしマリーが乗っていたら、たぶん助かっていたと思うぞ?」

「ぐっすん……」


「俺がこの事故をすごいと思うところはそこだ。氷山に衝突して、沈没すると判断し全員脱出の決定をして、救助要請の無線を出すまで二十五分。金がかかった最新の世界最大の船がよくこの決断をできたと思う。そして、たったそれだけの時間で男たちはみんな覚悟を決めた。救助されたのは各ボートに一人の乗員と、女、子供ばかり。男の救助者はほとんどいなかった。現実の船の沈没事故で、女子供が先なんて話は現場では誰も言わない。われ先に逃げ出すケースが圧倒的に多いんだ。実は男性より女性や子供の生存率のほうが高かったっていうのは、海難事故の歴史上このタイタニックぐらいしか例が無いんだよ」


「その時点で、男どもは全員、死を覚悟したってことですかな」

「……すごい。わたくしの国では考えられないことですわ」

「船員は乗客に知らせもしないで真っ先に逃げられたでしょうにねえ」

「ベル。実際、船長や乗員が客を放っておいて真っ先に逃げ出したって例はあるよ、どこの国とは言わんが」

「それもひどいですねー! 職務放棄じゃないですか!」


「……ちょっとあんまり言いたくない話をすると、こうした事故や火災で女性の死亡率が高いのは訳がある。女性ってのはとにかく避難が遅いんだ。時間がかかるんだよ。差別じゃねえぞ!? ヘイトでもないからフェミさんは怒らないで。そういうものだってことを現場では理解しとけって話だからな。家族全員でお出かけするとき、父親や兄弟が全員もう外で待ってるのに、母親やばあさんがなかなか家から出てこないとか、経験あるだろ」

「女性はいろいろ準備があるのですから、仕方ありませんわ!」

「認めてくれてありがとうマリー。『まだ慌てる時間じゃない』とか災害現場では通用しない。着の身着のまま手ぶらですぐに避難。女性はこれができないと思ってくれ。女子供の逃げ遅れはどの現場でも絶対に発生する。そのことを忘れるなよ。わかったなハッコツ、ジョン!」

「了解しました!」

「了解」

「えーえーえーえー……」

 マリー、ベル、ルミテスの機嫌が最悪である。

「女性差別とか女性蔑視じゃないんだよ。これは事実なんだからそこ頭に入れて救助をやれって話なの。逃げろって言われてすぐに逃げてくれる女性はあんまりいないって話なだけ。頼むから機嫌なおしてよ。そのために乗員だけじゃなく、乗客にも避難訓練ってやつは必要なの。学校、会社、事業所、工場。あらゆる現場で、年に一回ぐらいは避難訓練ってやつを義務付けたいと俺は思うし、実際俺のいた世界じゃやってたよ」

「覚えとくのじゃ」

「まあ北洋での海難事故だ。全員に救命胴衣をつけさせ、防寒のコートも着用で甲板に来てもらうのは時間がかかっても仕方がない。ご婦人の準備はこの時乗員が手伝ったよ」

「その乗員も、溺れ死ぬことを覚悟しておったのかのう……」


「船が沈みだすことですでに多くの犠牲者が出はじめていた。溺れたものもいるし、船が沈み始めていることを知らされずに海水に閉じ込められた二等、三等の平民客も多かった。そちらは残念ながら女子供の区別なく犠牲になった人たちだ。ボートも最後のほうではパニックになった男どもが群がって、ひっくり返った救命ボートもある。客を落ち着かせるために、船が沈む直前まで演奏を続けた楽団員たち。甲板で神の言葉を伝え続けた神父。新婚の妻に別れを告げてボートに乗せて送り出した夫。奥さんが夫と離れることを拒んで、共に船に残った老夫婦、脱出しようともせずエンジンを動かし続けた船底の作業員たち、誰も知らない数々のドラマがそこにあった。この事故が物語になり、後々まで伝えられ、多くの人が知ることになった理由だな……」


「そうでしたか……」

「人間は愚かであり、愚かさの中に人間らしい素晴らしさも、あったのだのう」

「それで太助殿はそんなことに詳しかったわけですな」


「まあ俺たちの世界じゃ、世界一有名な沈没事故だよ。助かったのはわずか七百名だけ。海に投げ出された客も、マイナス2度の北洋じゃ助かるはずもなく、すぐに凍死して救命胴衣を着た死体がぷかぷか浮かぶことになった。救命ボートに乗っていた人でさえ何人かは凍死したぐらいだ」

「残念じゃのう……」


「結果、これほど徹底的に原因が調査された海難事故もそうないだろう。もちろんこのことは多くの教訓を残した。船同士の連絡ネットワークは確立され、過剰なスピード競争は沈静化し、乗務員の非常訓練は徹底されるようになり、救命ボートは必ず乗員全員分を確保する数を積載するよう義務付けられた。救助信号があればどの船も業務を投げ出して最優先で駆けつけるという意識もやっと共有された。航海の安全はずっと向上したのは間違いない」


「やはりわたくしたちは、失敗からしか、学べないのですね」

「人間誰でもそうだよマリー。だから俺たちは、あらゆる事態に備えて、これからもずっと『これで十分』だとは思わずに前進し続けなきゃならんだ」

「わかりました」


「では反省会。何年先になるかわからんが、もしこんな大型船が沈没しそうになったら、どうやって救助するか、アイデアを出してみて!」

「えーえーえー、こりゃまた難題ですなあ!」


「グリンさんで持ち上げる」

「ジョン、四万六千トンはさすがに無理でしょ。なんでもグリンさんで解決ってのはやめてあげて」

「ポンプで水を汲みだすのはどうですかな?」

「タイタニックでも隔壁ごとに排水ポンプがあったけど、時間稼ぎにもならんかったよ」

「穴をふさぐのはいかがでしょうか」

「海難の第一優先はなにより救助だマリー、沈没を阻止できた成功例はまずないね」

「スラちゃんをあと百匹捕まえて中で膨らませるのじゃ」

「『レイズ・ザ・タイタニック』かよルミテス! あれ映画としては大失敗の赤字映画だったけど、それ沈んだ後の話。乗員乗客がまだいるってこと忘れないで。膨らんで押しつぶされる人続出だよ」

「じゃあスラちゃんをゴムボートにすればよい」

「そんなたくさんのスラちゃん誰が世話すんの? ルミテスやってくれんの? スラちゃんに二千二百人乗れんの?」

「船を氷山で作ればいいんじゃないんですか?」

「ベル、それ、とっくにやろうとしたバカがいるからね。一番やったらダメなやつだよ……」


 地球の現代でも、別の船で現場に駆け付け、甲板の客や乗員を助ける以上のことができていないのがこの海難事故。せいぜいヘリコプターで駆けつけるぐらいなのだが、様々なアイデアが出されては没にされ、パレスの夜は更けてゆく……のであった。




次回「39.橋の崩落を止めろ!」

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