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12.毒草を焼却せよ!


「おいおい、俺は消防士だよ。火をつける側じゃない。火を消すほうなんだよ」

「悪いがこの火炎放射器、『放火魔くん』も使えるようになってもらうのじゃ。火をつけるのと火を消すのは表裏一体。両方できるようになるのは無駄ではない。ではさっそく実験じゃ」


 庭園に丸太を組まされて焚火の台を作る。

「よいかな、バルブを開くと燃料タンクに加圧される。燃料は可燃ガス発生型の魔石を内蔵しており、空気と混ざることで猛烈に可燃性ガスが発生する仕組みじゃ。着火はこのレバー、バルブを開くと炎が噴き出る。やってみよ」

 気が乗らないが、太助は言われたとおりにやってみる。まあバーベキューでガスバーナーを使ったり草焼きで灯油バーナーを使うのと要領は同じだ。

 ぼうっと火が噴き出し、バルブを調整することで炎がどこまでも伸びてゆく。なるほど火炎放射器だ。

「これで火をつけりゃあいいんだな!」

「そうじゃ!」


 そのまま組んだ木に向けて着火させる。

「そうそう、なかなかうまいぞ。使ったことがあるのかの?」

「まあ庭掃除で枯葉を集めてバーナーで燃やしたりもしたことあるんで」


 たちまち木組みが燃え上がる。大した高火力だ。

「ハッコツ! 早速だがこれを消してみよ!」

「はいっ女神さま!」

 ハッコツは最初、ワイバーンにもこの空中を飛ぶパレスにも、一見少女に見えるこのパレスの主人にも、その表情のないガイコツ顔では驚いた様子は見せなかったが、この少女がこの世界を管理している女神だと知るとさすがに口をぽかーんと開けて驚いたものだった。


 ノズルから噴き出す水をそのまま丸太組みに向けると、その水圧に負けて組んだ丸太が燃えながら吹き飛んで転がった。

「……ハッコツ、水圧と水量を考えろ。燃えてるものを壊してどうする。被害が大きくなるぞ? 建物を壊さないように放水してくれ」

「了解です……」

「なんでも強力に水を吹き付ければいいというもんじゃない。上から振りかける、中に注入する、水を満たす、柔らかく水を振りまく。直接火にぶつけてごり押しで消し止める。水をその時その時で使い分けるんだ。ま、そこは経験と慣れが必要だとは思うが」

「わかりました」

「俺も自慢できるほどベテランじゃないけどな……。じゃ、それ消しといてくれ」

 ハッコツはノズルを調整してうまく水を振りかけるようにして、転がった丸太の消火を始めた。なかなか上手になってきた。



「さて、やってもらいたいのはこれじゃ」

 昼飯を食ってから指令室のパネルで見せられたのはとある街道に発生したキノコの大群。

「このキノコがの、毒ガスを出して通行人がやられるので、現在街道は通行止めになっておる。今日の午後はこれを焼却して、消火するのじゃ」

「……なるほど、それで火炎放射器が必要と」

 燃やすのも消すのも両方やらないといけないわけだ。確かにこれを一人でやるのは手間だ。今、ようやく二人になった救助隊チームにはちょうどいい仕事だろう。


「毒ガスって、それキノコなんだから毒の胞子をばらまいてるってことじゃないの?」

「どっちも大して変わらんわ。じゃ、いけ! 消火はハッコツがやるのじゃぞ!」

「了解です!」

 ハッコツ、ぶかぶかのオレンジのつなぎを着て遺骨の顔で胸に手を当ててお辞儀する。前職は何か知らないが、なかなか育ちがよさそうな素性が見て取れる。


「あと、このスライムを見つけたら連れてくるのじゃ」

「す、スライム?」

 ルミテスが指令室のパネルに出す。蛍光っぽいオレンジ色の、真ん丸なスライム……、ゲームでよく出てくるスライム。実在するんだ! と太助は驚く。

「たまたま生息地が近いのでの、いろんな色のやつがおるが、欲しいのはこのオレンジ色のやつじゃ」

「スライムなんて危ないんじゃないの……? 酸を吹きかけられたり、飲み込まれて消化されたり……」

 ルミテスはあきれる。

「なんじゃそのスライム知識……。どこのアホに教えられた? スライムなんてただの森の掃除屋じゃ。人間襲ったりせんし、攻撃性はないから子猫を拾うより簡単じゃ。よいか? オレンジじゃぞ? 間違えないようにせい」

「はいはい」


 二人、庭園に出るとちょうどドラちゃんが降下して着地するところであった。

 今日から二人乗りの鞍に乗せ換える。フロントにスクリーンが付いていて、風よけになっている点が新しい。

「よろしくお願いいたしますぞ! ドラ殿!」

 ハッコツ、ワイバーンにも礼儀正しい。今日はちゃんとオレンジの作業服を着たハッコツに、ドラちゃんは先日ほど嫌な顔もせず小さくうなずいた。ドラちゃんはこれでなかなかツンデレなところがあるなあと少しかわいく思う太助である。

 相変わらず時速300キロを超えそうな急降下は容赦がないが……。



 降り立った街道は森の中。焼却作業なので森への延焼が懸念される難しい仕事のようだ。

「防護服装着!」

 二人で全身をすっぽり覆う伝染病避けのような白い防護服を着る。

「面体装着!」

 太助はそう指示して、自分も呼吸器を顔に当てるが、「私は息をしませんから必要ないですな」とハッコツはけろりとしている。

「くそっコノヤロー!」となんだかうらやましいんだかそれは嫌だとかいろんなことを思う。

「胞子が顔に着くだろ。一応かぶっとけ」

「はいな」

「そこは『了解』」

「了解」


 街道は通行止めになっているから誰も通らず人っ子一人いない。街道はなかなか広く馬車の車輪の跡も多くよく整備されている。これが通行止めになったら確かに多くの人や流通に大打撃だろう。誰に見られることもないし、さっさとやってしまおう。


 太助は放火魔くん装備、ハッコツは放水くん装備で太助の後に続く。

 森をしばらく進むと、風景が黄色がかってきた。見ると街道の道路横にそって大量に焼けたパンみたいな形をしたキノコが列をなしてブシュー、ブシューと黄色いガスを吐いている。直径50センチぐらいの大きなキノコだった。

「こいつだな」

「そのようで」

「よしっ俺が火をつけて回るから、燃えきったら消火してくれ。森に延焼しないようにあらかじめ周りに水を撒いたほうがよさそうだ。先にやってくれ」

「了解しました!」


 最初の計画とは逆になるが、ハッコツが先導してまずキノコより奥の森の木立、雑草に、キノコをよけて水をかける。消火の放水と違って、ホースの水まきのような水量で。こいつ、なかなか器用だなとその様子を見て太助は嬉しくなる。


 水撒きが終わったところから、太助は噴き出すガスをよけながら巨大キノコに「放火魔くん」の火炎放射でごうっ、ごうっと火をつけていく。

 戦争で使うような本物の火炎放射器は、燃料が液体ゲル状のナパームを使うが、ルミテスが用意したものはガストーチ式で、2メートルぐらいの炎がまっすぐに伸びて狙いもつけやすく使いやすい。さすがだと思う。


「うわっ!」

 火をつけだしてしばらくすると、キノコたちが太助に向ってガスを吹き付けた!

「抵抗するぞこいつら!」

「かわりましょうか?」

 ガスを怖がらないハッコツが水をまきながらケタケタ笑う。

「いや、いい……。チックショー!」

 意地になってガンガン火をかける太助。後で体がかゆくなりそうだ。




13.スライムを確保せよ!

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― 新着の感想 ―
[一言] うんうん、生物化学戦には白い防護服 完璧ですね(°∀°)b
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