断ち切れないもの
「血」をテーマに書きました。今回はいちおうハッピーエンドのはず。
会社にはクビにされた。
恋人には浮気された果てに別れた。
友人には貸した金を持ち逃げされた。
「はは・・・どうしようもねぇな・・・」
乾いた笑いが出てくる。もう誰も信じられない。自分が信じていた繋がりは全部裏切られた。もう誰を信じろというのだろう。現実なんてやっぱりクソなのだ。
スマホを見るとYouTubeでは動画配信者が馬鹿みたいなことをしている。Twitterでは自分こそはと不幸自慢をしたり特定の政権を叩いたりと大忙しだ。インスタグラムなら幸せそうなやつらが楽しそうな音とともに動いている。
あぁきっと自分は彼らとは違う生き物なのだろうと感じた。きっと彼らは誰かに見てもらえて誰かに心配してもらえる生き物なのだ。
僕は違う。誰からも無視されて誰からも心配どころか認識すらもされないような生き物なのだ。
誰も僕のことに認識してはくれない。まるで世界には僕がいないようだ。いやもしかすると本当に僕はこの世界にはいないのかもしれない。この世界は誰かに見てもらえて心配してもらえるような人たちの世界で最初から僕はこの世界には存在してはいけないのかもしれない。
そうだ、きっとそうなのだ。最初から僕はこの世界には存在してはいけないから誰からも認識されないんだ。
そうと分かったのなら簡単だ。間違っているのは僕なのだ。この世界において間違っているのは僕なのだから僕は早くこの世界から出ていかなくてはならない。
そこからの行動は早かった。紐を用意した。紐の片方に輪っかを作る。その紐を丈夫な柱と結ぶ。
よし準備は出来た。これで後は僕がこの輪っかに首を入れれば僕というこの世界の異物はこの世界から消えてなくなる。
紐の輪っかに首を入れる。あとは足場から足を離してしまえば僕はこの世界からいなくなる。
ごめんなさい、この世界に存在してしまって。この世界に存在してはけない僕はそのことに気づいたのですぐに出て行きます。
その瞬間スマホに一通の着信が入る。
着信には『母親』と表示されている。電話に出ると何度も聞いたことのある声が聞こえる。
「あんた元気にしてる?ちょっと気になったから連絡してみたけど」
まず嗚咽がもれた。そしてうまく言葉が出なかった。涙で視界が歪んでいた。
「ちょ、どうしたの、何かあったの!?」
心から言葉に出来ない感情があふれ出してくる。涙が止まらない。それでもスマホから聞こえてくる母親の声に安心していた。
「何かあったの?泣いてるみたいだけど。何か悩んでることあるなら話してみなさいよ」
あぁそうだ。僕にも繋がりはまだあったのだ。どれだけ細くなっても、断ち切れそうになっても絶対に切れない繋がりが。
「あのね・・・母さん・・・」
ありがとう、当たり前だった繋がりがこんなにも暖かいなんて知らなかったよ。
「血」をテーマに書きました。現実には虐待だったりがあって家族という関係性があまりいいものだけではないと思うのですがそれでも家族にぬくもりを求めたいですね。