3.ブリュー・マシュ・ティー
まどろみを抜けると、ラベンダー色の空が見えた。明け方なのか夕方なのか、判別しづらい色合いの空だ。
目をこすり、首を回し、大きく伸びをする。のろのろとベッドから降りると、いつの間にか夜着になっていることに気がつく。くるぶしまで隠れる丈の白いワンピースのようで、肩の部分がふわっと広がったデザインは、私の年齢には合わないように思えて、思わず自分を抱きしめるようにして隠した。
「おはようございます」
ふいに聞こえた声にびくりと身構えると、噴水から出るのを手伝ってくれた女性だった。栗色の髪の毛は複雑に編み込まれ、後ろですっきりとまとめられている。人好きのする笑顔を浮かべる彼女に、ややぎこちないながらも、私も笑みを返した。
「お加減はいかがでしょうか。――驚かれたことと思います。昨夜、お休みになった後、侍医に診てもらっていて、問題ないとのことでしたが……。何かありましたら、おっしゃってくださいね。
さあ、目覚めのハーブティーを淹れて参りましたので、こちらへどうぞ」
そう言うと、女性は私をテーブルのほうへ誘導した。窓際のカーテンのそばに、アンティークな風合いのテーブルセットがあった。
彼女は、テーブルの上にてきぱきと茶道具を並べていく。透明なポットには、紫とピンクの花が入っており、彼女がそこに湯気を立てるお湯を注ぐと、華やかな香りが立ち上り、ポットの中身はアメジストのような色に変化した。
「ブリュー・マシュのお茶です。蜂蜜もご用意しているので、どうぞ。朝食は後ほどお持ちしますね」
そう言うと彼女はにっこりと笑う。
「――あの」
私は思い切って、声を出してみた。
「あなたのお名前は?」
彼女は、一瞬驚いたように目を瞠り、それから花がほころぶような笑顔を浮かべた。
ウーテは、丁寧な礼をして部屋を出ていった。
私はというと、いまだに頭の中が混乱して動けずにいた。
窓の向こうには、朝の空が広がっている。山際のほうは淡いミントグリーンで、天頂に向かうにつれてすみれ色へとグラデーションを描く空だ。そして、輝く月のような天体が三つ、浮いているのだった。