4.オーガに出くわした
青スライムの魔石をポケットにしまい、今度こそ奥に行ってみた。そしたらある大きな木の上に三匹の緑スライムを発見した。スライムって、木を登る生き物だったっけ……?
ま、それよりさっさと実力テストを終わらせよう。さて、一気にやろうっと。
えいっ!
ジャンプして、鞘から刀を抜いて一回振るった。そしたら三匹のスライムが緑色の魔石に変わって地面に落ちた。スライムってやっぱ弱すぎね?
ところでスライムのいたこの木は2、3メートルぐらいある。そんな高い木の梢をどうして私はジャンプだけで届けたのかというと、ここはファンタジーの世界だからである。前世と変わらない普通に筋トレしていたら、ありえない程の身体能力を手に入った。異世界人って皆ポテンシャル高いのかな。
「これでミッションコンプリートですね…………あれ?」
「……跳ぶだけで梢まで……ありえない……それに何なんだいあの動きは……」
青い魔石を拾い上げてシンシアさんに見せようとしたら、シンシアさんはなぜか何かをブツブツ言っていた。
「えっと、シンシアさん?」
「……え、あ、いや…こ、こほん!ご、合格よ。あんたは冒険者になるのに十分な実力があると判定した」
「ありがとうございます。では…」
「しっ、何かが来る」
戻りましょうと言おうとした途端、草原の隣にある森から何かの音がした。
「ゲァァァァーーーッ!」
「なっ!?なぜこの森にオーガが…?!」
へー、これがオーガか。想像より大きくないしあまり強そうにも見えないな。倒してみようかなー。ちょうどこの鉄刀を試してみたいと思うところだし。さっきのスライムはぷにぷにで切れ味をわかんなかったから。
「マ、マル!あんた早く逃げるんだ!オーガはBランクの魔物だ!Cのあたしにゃ倒せない!」
シンシアさんはまた何かを叫んだが、集中した私はよく聞き取れなかった。
よし、切れ味に賭けてみよう。よければ一回で頭を切り落とせるはず。悪ければ2、3回ぐらいか。さて、今だ!
はっ!はっ!
ふぅ、殺すのちょっとだけ抵抗があった。前世RPGゲームでよくやっていたんだけれど、生でヤるのはちょっとえぐいな。
……でもそうね、鉄刀の切れ味はまあまあだな。頭を切り落とすのに刀を二回振るうことが必要だった。……あ、オーガが拳二つぐらいの大きさの魔石に変わった。小指ぐらいのスライムの魔石と比べたら結構大きいな。
あれ、魔石の隣にオーガの角があった。使えそうな素材は消えない的なシステムかな?それにオーガが消えた弾みに、刀についた血も消えた。本当に便利で、鉄刀が錆びる心配もなくなってよかった。
さて、依頼されてない魔物を倒したらどうすればいいか、シンシアさんに聞いてみよう。
「シンシアさん…」
「あんたの逃げる時間だけでも稼ぐから早く逃…げ…………は?」
……あ、あれ?シンシアさんは顎外れるんじゃないかと思うくらい口を大きく開けたわ。えっと、逃げる?なんで?何から?
「……いや、は?……オーガが倒れた……いや倒された…?……あたしが倒せないだろうあのオーガが…?……幻覚かしら…?」
「…あのー、どうかされましたか?」
シンシアさんは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして、また何かをブツブツ言い始めた。一体どうしたのかな。
「…マル」
「はい」
「……今の、あんたが倒した、のかい?」
「はい、そうですよ?」
「……ありえない……ありえないわ……」
え、えええ……?
「もう自分の目も疑うよ!!踏んだだけでスライムの中で一番強いはずの青スライムを殺したりBランク指定の魔物を一撃で倒したり!!あんた一体何者なんだい!!」
おや、スライムを踏み殺しちゃったことを信じてくれるらしい。あ、でもオーガを倒すのに一撃ではなく二撃もかけたよ。……でも何者って聞かれても……。
「…冒険者になりたい子供…?」
「…そ…」
「そ?」
「そ、そんな訳あるかいーー!!」
いや、そんなこと言われても……。
「本当ですよ。嘘をついても何のメリットもないですし。それより早くギルドに戻りませんか?」
明るいうちに依頼を受けてみたいと思うからね。今は午後三時。日が落ちるまで孤児院に帰って夕ご飯の手伝いをしなきゃいけないから、残りの時間は3時間ぐらい。
「……はぁ、誰でも人に言えない事情が一つや二つあるし……わかったわ、ギルドに帰るよ」
信じてくれないらしい。解せぬ。