プロローグ
新しい連載です!どうぞよろしくお願い致します!
※少し残酷な描写ありです。ご注意ください。
「はっ!はっ!はっ!」
長くて黒い髪を綺麗に後ろに束ねて、剣術の練習場で模擬刀の素振りをしている帯刀茉流は、昨晩ようやく全てのエンドをクリアできたゲームを思い出した。
『君に捧げる守護』。これがその恋愛とRPG両方を含めたゲームのタイトル。先日帯刀道場の門生の女の子に勧められたから、やったことのない乙女ゲームをやってみたのだ。
しかし茉流はそのゲームの恋愛部分に少し…いや、かなり失望したのです。ヒロイン自身もチートなのに、その力を活用せずに攻略対象に守られるばっかりどころか、時々足手まといにすらなっちゃってるし、と。
(でもま、あれは恋愛部分はヌルゲーだったけど、RPGの部分は結構よかったんだよね)
そう。茉流が全てのエンドもクリアしたのは、RPG目当てでした。元からRPGゲームの大ファンだった茉流は、その『君に捧げる守護』のRPGの部分がとても気に入ったのです。
(そもそもあのヒロインは辺境伯家の養女になるから、恋するには身分的にもぬるかったし…)
「コルァァ、茉流!お前何気ぃ散らしてんだ!先月の全国大会で優勝したからって気ぃ抜くんじゃねぇぞ!真面目にやれ!」
(げっ、父さんに気づかれたか)
茉流は素振りを止め、代わりに刀で袈裟斬りをし始めた。
「今日はここまで!ご苦労!」
『お疲れ様でした!ありがとうございました!』
十分後、本日の稽古が終わった。
(現実でもゲームの中のような動きができればいいのになぁ)
そう思いながら道場を後にした茉流は、目撃してしまった。自分の弟が、トラックにぶつけられそうになった場面を。
「危ないっ!!」
(何やってんだあいつ!…チッ、間に合わない…!)
茉流は全力疾走して、弟の背中を強く押して道路から離れさせた。直後、彼女は激しい衝撃を受けた。
「カハッ」
これはやばいやつだ、と茉流は直感した。
(……わたし……十八歳で……死んじゃう…んだな……)
視界がぼやけ、意識がどんどん遠くなってきた茉流には知らない。周りの人がきゃああっ!!と叫んだり、早く救急車呼べ!!と騒めいていることを。
「おい!姉さん!しっかりしろ!おいっ!!バカ姉っ!!!」
唯一ちゃんと聞き取れたのは自分の弟…翔流の叫び声だった。よかった、無事だったな、と茉流は安心した。
(……こいつ……最後まで……バカ呼び……しやがって……)
顔を引き攣って苦笑をもらした途端、茉流は意識を失った。