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義妹へ会いに行こう! その2

9月5日(月)に第二巻が発売になります。ぜひお手に取っていただけますと幸いです。

初回の著者校正もやっと終わり、合間を縫ってなんとかウェブを更新できました。


前回までのあらすじ


なんだかんだ、幸せそうなリタとフレデリク。良かったのぉ……


 月明りさえ差し込まぬ、暗闇に満たされた小さな部屋。

 たった一つの燭台に照らされた二つの影のうち、一つは大きく一つは小さい。ともすれば親子のようにその距離が近いのは、互いの声が聞き取り難いためか、それとも誰にも聞かれたくないためか。

 理由は定かでないが、いずれにしろ長く伸びた影を壁に溶け込ませながらその会話は続いていた。


「ルースよ。あの屈辱を忘れたわけではあるまいな。東部貴族の要として長年尽くしながら、理不尽にもその座を追われた日のことを」


「はい、もちろんです。家柄、財力、能力と、全てにおいて優れていながら、アンペールの近縁という理由だけで家を潰されたのです。我々がいなければ、東部貴族はとっくの昔に瓦解していたというのに……」


「なのに、なぜラングロワなのだ? 当主のバティストは確かに東部軍の副将軍ではあったが、それはあくまで軍事の話。貴族連中を束ねるのとはわけが違うのだ。アンペール亡き後、そこまでの人望があったかと問われれば、決して是とは申せなかったであろう」


「仰る通りかと。確かに貴家も我が(いえ)も故アンペールの近縁ではありましたが、連座で取り潰されるほどではなかったはず。にもかかわらず、このような措置は到底納得できるものではありません」


「うむ。なればルースよ、お前も十分わかっているであろう。半月後に開かれる総会議。そこで(はか)られる我が(いえ)の復権審議にて、必ずやラングロワ家の賛同を得なければならぬことを」


「もちろんです。『レオジーニ家』の復権なくして、我が『マシア家』の再興もあり得ません。どのような手を使ってでもラングロワには首を縦に振ってもらわなければならないのです」


「ふむ……では再び問うが、覚悟はできているのであろうな? 此度(こたび)の審議はどちらへ転ぶかわからぬのだ。それを確実なものとするには、多少の荒事は避けられぬ。――今さら後へは引けぬぞ、よいな?」


「わかっております。()の御仁には、審議が終わるまで大人しくしていただきましょう。幼子から母を引き離すのはいささか心が痛みますが、大義のためであるならばと己を納得させる所存です」


「ならばよし。では計画通り事を進めよ。よいな?」


「はい、承知しております。我にお任せあれ」



 ――――



 ハサール王国西部一帯を領地に持つムルシア侯爵家。この王国最古の貴族家が、今や国内一強である事実は誰もが認めるところだ。

 その紋章を付けた豪奢な馬車が、五日間の旅程の末に首都アルガニルへ入る。向かう先は王国屈指の財閥系貴族家であるレンテリア伯爵家。


 言わずと知れたレンテリア家は、主要な公爵家をも凌ぐ財力を誇る。爵位で言えば中位の伯爵家でしかないものの、その権力の及ぶ範囲は計り知れない。

 それだけでも大きく他家を凌いでいるのだが、武家貴族筆頭のムルシア侯爵家に孫娘が嫁いだことから、その地位をさらに盤石なものとした。


 今やレンテリア家は西部貴族が作る最大派閥のナンバー2であり、派閥筆頭のムルシア家とともに、もはや国内に敵はいないと言われる。

 唯一対抗できるのは、東部貴族筆頭にして東部辺境候でもあるラングロワ侯爵家しかないのだが、次期当主である嫡男がムルシア家の長女を妻に娶ったことにより、ここにも親戚関係が生まれたのだ。


 国防の要である東西辺境候ならびに国内随一の財閥貴族家。この三家が揃って親戚になったことから、もはや国内に対抗できる家はなくなった。ムルシア、ラングロワ両侯爵家だけでも王国軍の五割を保有しており、その動向には国王すら気を遣わざざるを得ないほどだ。

 

 そんなムルシア家の馬車がレンテリア邸の前に停まる。するとその中から、一人の小柄な女性が姿を現した。陽の光を浴びて一瞬眩しそうな顔をしたものの、外に居並ぶ面々を見て、その顔に満面の笑みを浮かべた。


「お父様、お母様、お爺様、お婆様。そしてフラン。ご無沙汰しておりました、リタにございます。ただいま戻りました」


 輝くような笑みとともに馬車から降りてきたのは、今やすっかり侯爵家の若奥方が板に付いたリタだった。

 大いなる夢と希望、そして(いささ)かの不安と別離の寂しさとともに他家へ嫁いだ彼女は、約四ヵ月ぶりに実家へ帰って来たのだ。


 とは言え、それは離縁したとか、嫁ぎ先を追い出されたわけではない。

 王国の西部と東部にそれぞれ居を構えるムルシア家とラングロワ家。この両家が互いの屋敷に赴くには片道十日はかかる。

 そのちょうど中間点に首都アルガニルがあるために、今夜リタたちはそれぞれ――ムルシアとレンテリアの首都屋敷に別れて泊まることにしたのだ。


 なぜこのようなことになったかと言えば、それはオスカルとシャルロッテが気を遣ったからだ。

 実家から遠く離れたムルシア領の領都カラモルテ。そこにあるムルシア家の本家屋敷へ単身嫁いだリタは、慣れぬ環境と生活習慣の違いに気苦労の連続だった。


 妖精のような可憐な見た目に反して、頑固で気が強く、負けず嫌いなリタは、決して人前で弱音を吐くことはない。人に弱みを見せるくらいなら死んだほうがマシ、などと豪語するところは、「ムルシアの女狐」とまであだ名されるシャルロッテにして頼もしいと言わしめるほどだった。


 そんなリタではあるが、やはり両親や実家を恋しく思う時もあるらしい。ふと見れば、人知れず遠い目をする時があったのだ。

 嫁いで未だ四ヶ月にもかかわらず、すでにムルシア家へ多大なる貢献を果たすリタ。その彼女に報いるために、オスカルとシャルロッテは一夜だけ実家で羽根を伸ばすことを許したのだった。

 

「ならばリタよ。明日の朝には迎えに来るゆえ、今夜は親子水入らずの時間を過ごすのだぞ。積もる話もあるだろうしな」


「侯爵様、奥様。お心遣い感謝いたします。今やムルシア家の一員でありながら、実家に顔を出す機会を与えてくださいましたこと、このリタ、感謝の念に堪えません」


「ふふふ。今夜は存分に羽根を伸ばしなさい。また明日から、ムルシア家の若奥方として働いていただくのですから」


「はい、奥様。お任せあれ」


 義母に向けて満面の笑みを返すリタと、目を細めて嫁を眺めるシャルロッテ。

 嫁と言いながら、シャルロッテは己の娘のようにリタを可愛がっていた。もっともそれは無理もない。幼少の頃から見知っており、その成長を見守って来たシャルロッテにとってリタは娘同然だったからだ。

 そのうえ、実の娘――エミリエンヌと同い年とくれば、そこに情が湧かないはずもない。


 娘が嫁いでからというもの、目に見えてシャルロッテは寂しそうにするようになった。口ではなにも言わないが、明らかに意気消沈していたのだ。

 そこへリタが嫁いできた。長男の嫁として、将来の侯爵夫人としてやってきたリタを、シャルロッテは嬉々として迎え入れた。そして再び生き生きとした様子を取り戻したのだった。


 リタを降ろし、再び緩々(ゆるゆる)と動き始めたムルシア家の馬車。

 一家総出で見送ったレンテリア家の面々は、従前を思い出させる仲睦まじい様子とともに屋敷の中へと入っていったのだった。



「さぁ、今夜のメインはお前の好物――小鹿のソテーを用意したよ。お腹いっぱい召し上がれ」


 一頻り再会の喜びを分かち合った後、一家は食堂へ移動した。そこで久しぶりの夕食が始まったのだが、それはちょっとした宴のような趣だった。

 祖父母も両親も揃ってリタの一時帰宅をもてなしたかったらしく、一週間も前から豪勢な料理を準備していたらしい。それも全てリタの好物ばかりという徹底ぶりだ。

 その料理と変わらぬ家族の愛情に、リタは幸せな一時を過ごしたのだった。


「ときにリタ。伺いますが……もうそろそろですか?」


「えっ? なにが?」


 食事も終わり、一家がリビングで寛いでいると、突如イサベルが質問を投げかけてきた。

 咄嗟に意味がわからずに小首を傾げるリタ。彼女がそんな顔をしていると、生来の童顔も相まって未だ成人前の生娘のように見える。その彼女になおも祖母が尋ねた。


「なにがって……もちろん稚児(ややこ)のことです。嫁いで四ヵ月。もうそろそろ、そのような話も聞こえてくる頃合いかと期待しているのですが」 


「えぇと……」


 愛する孫娘を見つめながら、慈愛に満ちた笑みを浮かべるイサベル。様子を見る限り、その言葉に他意はないのだろう。

 夫婦間、特に夜のことなどは非常にデリケートな部分ではあるのだが、彼女の年代の者たちは嫁としてそれすらも(つまび)らかにすべきだと思っているようだ。当然のように訊いてくる。


 結婚したとは言え、未だうら若き女性であるリタは頬を真っ赤に染めてしまう。なにを思い出したのか、目を泳がせながら祖母の質問に答えた。


「そ、そうですわね。ま、まぁ、こればかりは授かりものですから」


「そうですか。それで婿殿はお強いのですか? 存分に可愛がってくれていますか?」


「あ、いえ、その……」


 恥ずかしさのあまり『ご心配なさらず。毎晩可愛がられてます』などと口が裂けても言えず、思わずリタは言い淀んでしまう。するとなにを勘違いしたのか、妙に納得した顔でイサベルが告げた。


「そうですか。まぁ、あのフレデリク殿であれば()もありなん。婿殿が淡泊であるのなら、リタ、あなたから誘っても構いませんのよ。稚児(ややこ)を授かるのも立派な嫁の務め。そこには恥も外聞もありませぬ。もちろん遠慮も」


「えぇ!?」


「責められるべきは婿殿の方。殿方など、ひとたび硬くしてしまえば自ずとその気になるものです。一族の繁栄を(おもんぱか)れば、そこは恥ずかしいなどと言ってはおられませぬ。手でも口でも、時には胸すらも駆使して無理にでもその気にさせるのです。――よろしいですね?」


「えぇぇ!?」


「今でこそ明かしますが、我が夫もそれはもう淡泊で……黙っていればいつまでも触れようとしてこないものですから、いつもわたくしのほうから襲い掛かったものですのよ。おかげで色々と捗りましたわ」


「えぇぇぇ!?」


「ふふふ……なんでしたら、お教えしましょうか? 殿方を肉欲に溺れさせる手練手管を……」


「えぇぇぇぇ!?」


 歳をとって丸くなったとは言え、未だ厳格で生真面目な祖母イサベル。その彼女の意外な素顔を知ったリタは、思わずたじろいでしまう。

 けれどその反面、彼女が隠し持つ「手練手管」とやらに興味津々のリタだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] お祖母様すげー。。。実践証明済みの技術。。。年の功 3倍以上生きてるはずのババ様は、えーっしか言えない言ってない。
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