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第155話 フランシス・レンテリアの憂鬱

前回までのあらすじ


低身長童顔ロリ細身巨乳金髪縦ロールロリババア

属性てんこ盛り過ぎて、もはやチート。


 レンテリア伯爵家次男子息、フランシス・レンテリアの悩みは深い。


 現在9歳のフランシスは、ここレンテリア家の首都屋敷で生まれ育った。

 だから4歳まで田舎の寒村で極貧生活に喘いでいた姉のリタに対して、その生まれは生粋の貴族子息と言っていい。

 そんなフランシスではあるが、最近実の姉であるリタに対して色々と思うところがあるらしかった。


 六歳年上の姉は、実の弟の自分から見てもとても美しい女性だ。

 確かに他家の令嬢に比べると背は低いし小柄だが、ゴージャスな縦ロールの髪も、気が強そうにキュッと吊り上がった眉も、透き通るような灰色の瞳も、小さな鼻も薄い唇も、その全てが魅力に溢れる。


 毎日顔を付け合わせている自分ですらそう思うのだから、たまに屋敷にやって来る他家の貴族が、その美貌に目を奪われてしまうのも無理はない。

 そしてそんな男たちを見ていると、妙な優越感とともに胸の中に何かモヤモヤとしたものを感じるのだ。


 自分から見ても絶世の美少女にしか見えない姉だが、幼少の頃から自分をとても可愛がってくれた。

 まるで母親のように世話を焼き、乳母の代わりに抱きしめて、夜はメイドの代わりに寝かしつけてくれた。


 幼少の時分の記憶にはやはり一番に母親の顔を思い出すが、その次が姉だった。

 日中仕事が忙しい母親に代わって、常に彼女は傍にいてくれた。

 そしていつも一緒に遊んでくれたのだ。


 そのように心の底から自分を可愛がってくれた姉には、もちろん感謝している。

 しかし最近色々と考えてしまうのだ。



 とても美しくて外面(そとづら)も完璧な姉だが、屋敷内での姿は結構がっかり女子だったりする。

 小腹が空いたからと言って厨房に顔を出しては、淑女らしからぬ姿で干し肉を齧ったり、時間を見つけては趣味の畑作りに精を出したりもする。

 自分で作った野菜を収穫してはその出来栄えにご満悦だったり、春と秋には人が変わったように山菜採りに夢中になる。


 話によれば、姉は四歳まで両親とともに田舎の村で暮らしていたらしいので、その趣味はその頃の名残なのかもしれない。

 しかし、いずれにしてもその趣味は、凡そ伯爵家の令嬢としては人に見せられないのは確かだ。


 自室内では、本当に15歳の乙女なのかと思うほどに明け透けだ。

 まるで恥ずかしがる様子も見せずに、あの大きな胸が透けるネグリジェで情け容赦なく抱きしめてくる。


 最近ではその姿を見る度にドキドキしてしまい、どうしても姉を直視できない。

 実の姉のあられもない姿に興奮する自分もどうかと思うが、いい加減あのような真似はやめて頂きたいと思うのだ。



 屋敷から一歩出れば完璧な伯爵家令嬢を演じている姉だが、外と内では言葉遣いからして違っている。

 それでも祖父母や両親、使用人たちの前ではある程度猫を被っているのだろう。

 しかし自分と二人きりの時などには、まるで様子が違うのだ。


 例えるなら、孫を愛でる祖母のような姿とでも言うのだろうか。

 上手く言えないが、きっとあれが素の姉なのだろう。

 しかしそんな姉の姿を知っているのが自分だけなのだと思うと、何気に気分が良かったりもする。


 既に他家でも噂になるほどの完璧な貴族令嬢として有名な姉だが、実は意外とポンコツで、まるで年寄りのような感性をしている。

 そしてその姿を知っているのは、自分と――専属メイドのフィリーネだけだ。


 しかしそんな敬愛する姉も、あと数年で他家に嫁いでしまう。

 それを思うと今から寂しさが募ってしまうが、嫁ぎ先が名門中の名門であるムルシア家であるうえに、その相手も優しく理知的なフレデリク様なのだから、相手に不足はない。


 それでもあの優しく美しい姉がいなくなってしまうのを想像するだけで、頭がおかしくなりそうだ。

 出来うることならずっと一緒にいたいところだが、そればかりはさすがに叶わない。

 



 このように色々と思うところがあるとは言え、その(じつ)、姉のことが大好きなフランシスではあるが、その裏では一生姉には敵わないと思っているらしい。


 ご存じのように姉のリタは、「魔力持ち」の中でもエリート中のエリートである魔術師だ。

 それも史上最年少の13歳で二級魔術師の免状を貰うなど、その実績は輝かしいものであるうえに、すでに一人前と認められた彼女は、弱冠15歳にして現役の魔術師として絶賛活躍中だ。


 そんな彼女の家庭教師――師匠を務めていたのが、「隻腕の無詠唱魔術師」として有名なあの(・・)ロレンツォ・フィオレッティ一級魔術師。

 噂によれば10年前、リタの才能を見抜いたロレンツォが彼女の家庭教師になるために己を売り込んできたという。


 その事実はそれだけリタの魔術師としての才能が突出していたことを意味しており、ロレンツォはその将来性を見逃さなかったということだ。

 さらにリタに魔法の指導を行いながらも、自身も無詠唱魔術師としての才能を開花させたと言われている。


 それは隠された師匠の能力をも引き出すほどにリタの才能もまた優れていた証拠だった。

 そしてそれと同じことがフランシスにもできるかと問われれば、残念ながらそれは否というしかない。



 代々「魔力持ち」を輩出してきたレンテリア家の生まれとして、当然フランシスもその能力は認められた。

 未だ満足に話せもしない二歳の時に「魔力持ち」としての能力を開花させた彼だが、残念ながらそれはそれほど強い力ではなかった。


 鑑定によれば、頑張れば基本的な数種類の魔法は使えるようになるだろうとのことだったが、それを以て将来の仕事に生かせるほどのものにはならないだろうとも言われてしまう。


 だからフランシスは、祖父セレスティノのような研究者への道を目指し始めた。

 幸運にも持って生まれた魔力を最大限まで高めつつ、将来の研究職への道に生かせるように鍛え上げる。

 いまの彼にはそれが目標だ。


 本来であれば姉の家庭教師を務めていたロレンツォ・フィオレッティにその教えを乞いたかったところだが、王国魔術師協会の副会長を務める現在、彼にはそんな時間は全くなかった。



 そこでロレンツォの推薦で代わりにやって来たのが、二級魔術師のブリジット・フレモンだ。

 現在32歳の彼女の本職は王立魔術研究所の主任研究員なのだが、二級魔術師の免状も併せ持つ彼女は、魔術師としても優秀だった。

 その優秀さ故に、10年前の「第八次ハサール・カルデイア戦役」ではロレンツォとともに人質救出部隊に選抜されたほどだった。


 そんな優秀な人間が家庭教師であるのは、願ってもないことだ。

 しかしどうやらその目論みは少々甘すぎたようだ。


 何故なら――





「フランシスさまー!! さぁ、今日もしっかりお勉強を頑張りましょうねぇ!!」


 むぎゅー!!


 勉強室に入るなり、ブリジットはフランシスを抱きしめた。

 そして相変わらず豊満すぎる胸を、情け容赦なく押し付けてくる。

 そんな師匠に向かって、息も絶え絶えにフランシスは口を開いた。


「せ、先生……く、苦しい……む、胸で窒息しちゃいますってば、もう!! 親愛の情とやらはもういいですから、毎回毎回抱きしめるのはやめてください」


「えぇぇぇぇぇぇ!! そんなぁぁぁぁぁぁ!! 先生はね……先生はね、フランシス様を抱きしめるのだけが生きがいなんですよ。それなのに、それなのに……うぅぅぅ、酷すぎる……」


「先生……」

 

「うぅ……先生はね、32年間生きて来て、一度も男性に抱きしめられたことなんてないの。だからせめて、私の方から抱きしめるくらい――」


 顔を俯かせたままさめざめと涙を流す(ふりをする)ブリジット。

 その姿に憐みを感じたフランシスは、諦めたように小さな溜息を吐いた。


「わかりましたよ……いいですよ、抱きしめても。だけど、胸を押し付けるのはやめてくださいね。苦しいし、恥ずかしいから」



 諦めの表情を顔に浮かべて、泣く(ふりをする)ブリジット。

 そしてその姿を哀れんだ目で見つめるフランシス。

 そんな9歳児に慰められた32歳のアラサー女子は、表情を見られないように顔を俯かせたまま、改めてフランシスを抱きしめた。


 がばっ!!


「フランシスさま――でゅふふふふ……ww あぁ、尊い……」

 

「せ、先生!?」



 仕切り直して再び己を抱きしめたブリジットから、不気味な声とともにじゅるりと涎を啜るような音が聞こえてくる。

 その様子に怯んだフランシスは、思わず身を(よじ)ってしまう。 

 するとその様子にハッと我に返ったブリジットは、名残惜しそうに身体を離すとゴホンと一つ咳払いをした。


「えぇと、それでは今日のお勉強は昨日の続きです。魔力の練り方とその取り出し方について――」


「……」


 急に真面目な顔をしたブリジットだったが、その唇の端に光る涎の跡をフランシスは見逃さなかった。



 

 ブリジット・フレモンは、今年32歳になった。

 現在も変わらずに王立魔術研究所の研究員を務めているが、現在はその肩書に「主任」が付いた。

 10年前と彼女が変わったのはその年齢と肩書だけであり、他は何も変わっていない。

 決して不美人ではないが化粧気のない地味な顔も、大きな黒縁の眼鏡も、切りっぱなしのざっくりとした髪型も、もちろんその(こぼ)れるように大きな胸も、何一つ変わっていなかった。

 

 ブリジットは約一年前からフランシスの家庭教師を務めるようになった。

 それは彼女の友人であり、初恋の男性でもあったロレンツォ・フィオレッティの紹介だ。


 当初はフランシスの強い要望で、姉と同じ家庭教師――ロレンツォを希望したのだが、当時、王国魔術師協会の副会長に就任したばかりの彼に時間が取れないことを理由に断られた。

 そしてその代わりに派遣してきたのが、ブリジットだったのだ。



 ロレンツォの全く(あずか)り知らぬところで勝手に失恋していたブリジットではあるが、その打診に快く頷いた。

 なぜなら彼女は、ずっとリタ――アニエスに近づく機会を伺ってたからだ。

 

 転生したためにその能力が制限されているとは言え、アニエスの凄まじいまでの魔法の能力はブリジットとて知っている。

 そして常々リタから魔法の手ほどきを受けてみたいと思っていたのだ。

 ロレンツォのように。



 しかし残念ながら、ブリジットには無詠唱魔法を発動できる能力がないことがわかった。

 それだけでも彼女には意味のあることではあったが、その代わりにリタから召喚魔法の手ほどきを受けた。

 そしてその契約先の第一号が、あの(・・)ユニコーンの「ユニ夫」だったのだ。


 ユニ夫とブリジットはすぐに仲良しになった。

 アニエス同様に些か気難しいユニ夫ではあるが、どうやら彼はブリジットにアニエスと同じ匂いを感じ取ったらしい。

 その(こじ)らせぶりも、漂う「腐」の匂いも、その全てが懐かしかったのだ。


 残念ながら(?)婚約者を得て幸せに暮らす現在のリタからは、それらの「腐」の匂いは希薄になっていたらしい。


 清らかな心を持つ純潔の乙女を好むはずのユニコーンのくせに、「腐」の匂いを好むユニ夫は、些かユニコーン界でも異端児だと言えよう。

 だからこそアニエスやブリジットと仲良しなのかもしれなかったのだが。



 そんな「(こじ)らせユニコーン」のユニ夫ではあるが、今や貴族令嬢となったリタにはあまり呼び出されなくなっていた。

 しかしその分、ブリジットには頻繁に呼ばれるようになった。

 彼女の休日には二人で仲良く遠駆けをしたり、草原に寝転がって昼寝をしたり、沈む夕陽を湖畔で眺めたりと、すっかりブリジットの恋人のようになっていたのだ。


 しかし32歳にもなって平気でユニコーンと仲良くできるあたり、ブリジットのリアル恋愛事情はお察しだった。

 そして潤いのない寂しい私生活もだ。



 そのように最近少々哀愁が漂い始めたブリジットに、リタは憐みの目を向けるしかなかった。

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― 新着の感想 ―
ブリジットさん…「でゅふふふふ」て…外見と合いすぎでしょwww 彼女は少年を愛でつつ清きご腐人として日々を謳歌するのが合っているのかもしれませんね。今はフランシス君に隙をみて抱きつくという、ノータッチ…
[一言] >えぇと、アンケートです。 >32歳の腐女子の恋愛とか見てみたいですか? すごく見たいですが、2コマ漫画並みにチョロそうなので 低身長童顔ロリ細身長乳金髪縦ロールロリババア優先で大丈夫です…
[一言] 何ということだブリジット…。 おまえは(大きな胸的に)選ばれし者だった!拗らせた腐の仲間ではなく (サブキャラの)ヒロインにだってなれたはずなのに!! まあ、そうなる気はしてました。はい。…
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