第97話 帰路
自宅がある最寄り駅に到着すると、香を起こして一緒に帰宅する。
眠そうな眼を擦って欠伸をする香の手を繋いで歩いていると、二人は同時にお腹が鳴ってしまった。
「少しお腹が空いちゃったね」
「家までもう少しだけど、私の家で何か食べようか」
ファミレスやコンビニ等は駅前まで戻らないと何もないので、引き返すより目と鼻の先にある自宅に戻った方が効率はいいだろう。
冷蔵庫には余った食材があった筈なので、簡単な物なら作れるだろう。
「お兄ちゃんの手料理楽しみだなぁ。僕も手伝うよ」
「ありがとう。シャイン、内の家族がいる前ではお互いに今の名前で呼び合うんだよ」
「うん、大丈夫! 二人以外の時はいつものようにするからね」
香は元気よく答えると、時雨に抱きついてみせた。
お互いに正体が判明してから、幼馴染と言う立場から距離も縮まって、より親密な関係になった。
時雨は香の手を繋ぐと、料理のリクエストを訪ねる。
「シャインは何が食べたい?」
「お兄ちゃんの作る料理なら何でもいいよ」
「じゃあ、トマトやピーマンをごっそり使った野菜炒めでも作ろうかなぁ」
「むぅ……私の嫌いな野菜ばっかり。加奈みたいな意地悪するお兄ちゃんは嫌い」
「ははっ、冗談だよ」
香が頬を膨らませて機嫌を損ねると、時雨は笑いながら香の頭を軽く撫でた。
香は次第に膨れた顔も笑顔を取り戻して、幸せな時間がしばし流れた。
自宅前まで着くと、反対側の道から柚子の姿が見えた。
何か小さなビニール袋を下げて、二人に気付いた柚子は駆け足で傍に寄って来た。
「おかえり。今日は遊園地に行くって言ってたけど、香ちゃんとだったんだ。てっきり、この前家に来た銀髪の子かと思ったけどね」
「それについては色々あってね。それより、お姉ちゃんはどこに行ってたの?」
「町内会の回覧板を戻しに行ってたのよ。お礼にお菓子をもらったけど、私は小さな子供じゃないんだけどね」
苦笑いを浮かべる柚子はビニール袋から饅頭の入った包み紙を二人に差し出した。
「二人にあげる。後でゆっくり食べるといいよ」
「あ……ありがとうございます」
香は柚子に礼を言うと、柚子はニタニタした顔で言葉にする。
「私はそのお饅頭より、二人の甘い関係をじっくり観察している方が栄養価は高そうだし、お腹いっぱいになりそうよ」
「……はぁ。お姉ちゃんの言葉が一気に脱力感として重く圧し掛かってくるよ」
「華のある女子高生が、なーにババ臭い事を言ってんのよ」
時雨が肩を落とすと、柚子は大袈裟に時雨の背中を叩いてみせた。
それ以上、突っ込む気も失せて疲れが一気に滲み出た。




