第96話 帰りの電車
園内のアトラクションを堪能した四人はすっかり日も暮れて帰路の電車に揺られていた。
「だいぶ、お疲れのようね」
凛は吊り革に掴まりながら、歩き疲れた香が時雨の肩に寄り掛かって眠っている様子を微笑ましく覗き込んでいた。
二人分の座席が空いていたので、最初は凛とウトウトしていた香に席を譲ろうとしたが、前世の兄弟に巡り会えたのだからと凛は気を遣って時雨に席を譲ってくれた。
「すみません、やっぱり立ちます」
「いいのよ。私はもうすぐ下車するから、そのままでいてあげなさい」
時雨は申し訳なさそうにして立ち上がろうとすると、凛はそれを制止した。
「そう硬くならずに凛先輩のご厚意に甘えなさいよ。停車駅に着くまでごゆっくり」
凛の横に並んで立っていた加奈は手を振ると、自宅がある最寄り駅に着いて時雨達と別れた。
凛も次の駅で下車する事になっているので、今日の遊園地についてお互いに感想を述べた。
「賑やかで楽しかったわよ。それに時雨があのお化け屋敷をクリアしちゃうなんて思わなかったし、大切な人と再会できるきっかけとなってよかったわ」
「……ありがとうございます。今日は忘れられない思い出の一日になると思います」
時雨は穏やかな表情で肩に寄り掛かっている香の頭を軽く撫でる。
「これからも普段通りに学校で会えたりするんだから、失った時間をゆっくり取り戻していけるといいわね」
「ええ、昔はあまり構ってあげられませんでしたが、今はお互いに同い年の女子高生。少し違和感はありますが、根っこの部分は変わっていませんよ」
十歳以上も年齢が離れていた弟が幼馴染の同級生であっても、時雨にとってかけがえのない存在である。
「ふふっ、そうね。ロイドの真面目さとシャイン君の人懐っこい性格は健在ね」
凛が二人の前世と今を比べると、妙に納得してしまう。
電車が次の駅に到着すると、凛は吊り革から手を離して別れの挨拶をしながら電車を降りようとする。
「じゃあ、私はここで降りるわ。また機会があれば、遊びに行きましょう」
「はい、道中お気をつけてお帰り下さい」
時雨は座席に着いたまま別れの挨拶を済ませると、開閉扉は閉まって電車が走り出す。
電車に揺られながら、香は気持ちよさそうな顔で時雨の肩に寄り掛かっている。
ほのかな柑橘類の香水と女子の匂いが交互に時雨の鼻孔を突くと、甘えん坊の女子高生だなとしみじみ思う。
「お兄ちゃん……時雨ちゃん……大好きだよ」
香は寝言を呟くと、時雨も軽く香に寄り添って小さく呟いた。
「私も大好きだよ」
誤字・脱字の修正をしました。
前回に引き続き、ご報告ありがとうございますm(_ _)m




