第94話 お化け屋敷②
時雨達はスタッフからお化け屋敷の攻略について簡単な概要を聞かされると、普通のお化け屋敷とは一味違っていた。
二人一組のペアを作って、用意された四つのステージを全てクリアできれば脱出成功となる。
ただし、クリア条件として一人でも脱落者が出れば即終了となり、二人揃ってのクリアが必須。武器として、弾薬が十二発装填されている模擬銃を渡されると、プレイヤーに襲い掛かる敵は模擬銃で応戦が可能となっている。
(そういえば、映画でも武器を使っていたな)
ホラー映画のコラボとあって、外観もこだわって作り込まれている。
模擬銃も実際に映画で使用された物に限りなく近いモデルだとSNS等でも評判は上々だ。
「二人一組なら、公平にグーとパーで分かれましょうか」
凛がペア作りについて提案すると、特に異論はなく賛成する。
凛の合図で四人はそれぞれ手を出し合うと、一発でペアが完成した。
パーは時雨と加奈、グーは凛と香だった。
「よろしく、香ちゃん」
「お姫様とご一緒できるなんて光栄です」
「ふふっ、凛でいいわよ。頑張ってクリアしましょうね」
優等生の凛が前世のお姫様だったと判明して、香は遠慮がちになって無礼がないように振る舞う。それでなくても、時雨の護衛対象であった彼女は城を抜け出してプライベートで何度か顔を合わせた機会があった。
時雨以外に前世の自分をよく知る人物と二人っきりになると、今の姿は小恥ずかしい感じがするのかもしれない。
「さあ、行きましょう」
凛は香の手を握ると、香は小さく頷いてみせた。
スタッフに入口まで案内されると、大丈夫だろうかと時雨は老婆心ながら心配してしまう。
二人の様子は入口のモニター越しで観戦もできるようになっている。
「珍しい組み合わせね。清楚な女子高生とギャルの女子高生はなかなか見れないわよ」
加奈はモニターを見ながら二人の様子を観察する。
たしかに前世の繋がりがなければ、並んで歩く事すらなかっただろう。
「ところで、変装までして私と凛先輩を尾行してどうするつもりだったの?」
時雨が何となく気になっていた質問をすると、加奈はあっけらかんと答える。
「大人の仲間入りを果たすかもと思って、香も気に病んでいたから一緒に追跡しただけだよ」
「大人って……一応、前世から年齢を加算すると私達は十分に大人だよ」
「私からすれば、時雨も含めて皆子供っぽいけどね。真の大人なら、香や凛先輩と一発済ませてもいいじゃない」
何をと言おうとしたが、時雨はすぐに口を噤んでしまった。
想像しただけで時雨は赤面すると、加奈は意地悪そうに続けて言葉にする。
「なーに赤くなってんのよ。私はきちんと好きだと告白を済ませたかって言いたいの。まさか、時雨さんは私の言葉を誤解してエロい妄想を膨らませていたとか?」
「ち……違うよ!」
「ムキになる辺りが分かり易い性格だなぁ。時雨のそう言う素直なところは嫌いじゃないけどね」
加奈に心を見透かされると、時雨はたじたじとなってしまう。
これも柚子が隠し持っていた同人誌の影響だろうか。
「あっ、どうやらゲームオーバーのようね」
モニターから割れんばかりの悲鳴が轟くと、丁度香が弾を全部撃ち尽くしてしまったようでやられてしまい、呆然と蹲っている凛の姿があった。




