第89話 ゴールデンウィーク一日目⑤
「お昼にしましょうか」
凛が提案すると、ベンチでしっかり休憩を取って元気を取り戻した。
「凛先輩はここで待っていて下さい。私が何か食べ物を調達してきますよ」
時雨がベンチから立ち上がると、凛も時雨の腕を掴んで立ち上がった。
「もう大丈夫だから、私も行くわよ」
「……分かりました。では、見て回りましょうか」
時雨は観念するように凛と並んで歩き出すと、フードコート内を一巡する。
昼時とあって、どこの店も行列が出来上がっている。
「あそこの中華は美味しそうね。点心セットがオススメって看板もあるし、中華にしない?」
「いいですね。それではオススメの点心セットにしますよ」
凛が立ち止まったのはチェーン展開している中華飯店であった。
点心セットは園内限定のメニューで、ここでしか食べられないと謳い文句のある看板が興味をそそる。
二人は注文を済ませると、空席のテーブルを見つけて向かい合って座る。
「そういえば、この世界で時雨と初めてご飯を食べたのはファミレスだったわね」
「ええ、あの時は大声を出したりしてすみませんでした」
時雨の他にシェラート姫も桐山凛に転生していた事に驚いて、最初の内は信じられなかった。
女子生徒達の模範となる優等生と顔を並べて、時雨をからかっているのではと疑ったりもした。
姿形はすっかり変化してしまったが、時雨の知っている姫様を垣間見た時は懐かしさと嬉しさが込み上がった。
「食事と言えば、時雨には前世に年齢の離れた弟君がいたわね。昼の酒場を三人で囲んで軽食を摘みながら楽しい時間を過ごしたのを思い出しわ」
凛が昔を思い出すと、時雨には十歳離れた弟が存在した。
名前はシャイン。
引っ込み思案なところがあり、大人しい性格の持ち主だった。
いつも人懐っこく時雨の背中を追い掛けて「お兄ちゃん」と笑顔を振舞って慕ってくれた。
「前世の家族と最後に会ったのは、事故の前日でした。母は流行り病で倒れて、弟のシャインが看病をしていました。心残りがあるとすれば、前世の家族がどうなったか……」
転生後も前世の家族について安否が気になっていた。
給金は定期的に渡してあるので、時雨が亡くなってから一か月間は暮らせるだけの余裕はあった。
残念ながら確かめる術がないので、前世の家族がその後どうなったか定かではない。
「……ごめんなさい。私のせいで時雨の家族を不幸にさせてしまった」
「姫様の責任ではありません! 騎士として任務に就いた時から、こうなる事は覚悟をしていました」
凛が目を伏せて謝罪すると、時雨は顔を上げるように呼び掛ける。
前世の家族には、騎士の役目を理解してもらっていたので、凛を責めたりはしない。
時雨は語気を強めて促すと、時雨のすぐ近くのテーブル席にマスクとサングラスを掛けて座っていた二人組の一人が時雨に詰め寄った。
「時雨ちゃんがどうして私の前世の名前を……」
聞き覚えのある声がすると、マスクとサングラスを外して顔を覗かせたのは困惑した香だった。




