第85話 ゴールデンウィーク一日目
ゴールデンウィークの一日目。
幸いにも天気予報で今日一日は雨の心配もなく晴天が続くようだ。
時雨はヘッドフォンを首にかけて、Tシャツとパーカーを着こなしてスキニーパンツで待ち合わせの駅に向かった。
近所を出歩く時は大抵、制服姿かラフな格好のTシャツにゆったりしたズボンを穿いて出歩く事が多い。
女の子なんだから服装はきちんと整えた方がいいと思うが、毎回着替えに時間を取られるのは面倒だし、こういうところは前世の男だった部分が色濃く表れているだろう。
近所で幼馴染の香も、そんな時雨を見慣れている。
最初は野暮ったい服装に幻滅するのではないかと思ったが、「そんな時雨ちゃんも素敵」と特に気にする様子はなかった。
改札口を通って駅構内で電車を待っていると、ヘッドフォンを耳にして最近お気に入りのボカロ曲を聞きながら暇潰しをする。
前世では騎士に必要な体力と剣術を向上させるために普段から鍛え上げないといけなかった。
その関係で、どうしても休日はアウトドアな行動に移さないといけなかったが、今は自分の好きな趣味に時間を割く事ができる。
騎士の生活を否定する訳ではないが、心に余裕ができたのは間違いない。
電車を乗り継いで、遊園地のある最寄り駅に到着すると、約束の時間よりだいぶ早く到着してしまった。
(駅の改札口前で待つか)
ゴールデンウィークの一日目というだけあって、電車から降りる客は家族連れやカップルの姿が目立って人混みになっている。
少々遅れて改札口を出ると、白のワンピースに可愛らしい小さなポシェットを下げている凛の姿があった。
凛は時雨を見つけると、軽く手を振って呼び掛ける。
「時雨、こっちだよ」
清楚な凛にピッタリな感じで、すれ違う者は一瞬凛に目を奪われる。
対して、時雨は清楚と言うよりはカジュアルな雰囲気で並んで歩くと不釣り合いなのではと気負いしてしまう。
「お待たせしました。凛先輩、到着が早いですね」
「ふふっ、時雨とデートできると思ったら夜もロクに眠れず、昨日からここでずっと待ってたんだよ」
「えっ!?」
時雨は驚いた声を上げると、デートと言う単語より待ち合わせ場所に昨日からいた事に信じられなかった。
朝は弱い人だから、もしかしたら本当に待っていたのかと頭を過ぎる。
「冗談よ。時雨は相変わらず真に受けて可愛いわ。それじゃあ、遊園地にデートへ行きましょうか」
「なんだ、冗談だったのですか」
時雨は胸をなでおろすと、とりあえず一安心する。
(ん? でも、デートは冗談じゃないのか)
複雑な表情を浮かべる時雨は自分より大きな身体の凛が腕を掴んで歩き出すと、微笑みながら時雨をリードする。




