第82話 姉妹②
正座をしながら、柚子が戻って来るのをじっと待っていると、時雨の視線は本棚に向けられていた。
相変わらず、よくこんなに収集したものだと感心してしまう。
男ならいざ知らず、大学では男女問わず愛の告白をされる柚子には不要な代物ではないかと思える。
視線をずらすと、柚子の机に飾られている写真立てが目に入った。
時雨が小学生の入学式に柚子と並んで撮った写真だ。
(懐かしいな)
身体も今より小さく、この頃は前世の記憶が邪魔して子供らしい振る舞いをするのは苦痛だった。
両親が仕事で家にいない時は面倒見のいい柚子と一緒に家で過ごす事が多かった。
子供ながらに時雨の世話を精一杯努めてくれた柚子には感謝している。
当時から活発で明るい性格の柚子は男女問わず人気者で、自慢の姉であった。
中学生になったら心と身体の成長に伴って、少しはおしとやかな性格になるのではないかと思っていたが、身体は女性らしく成長を遂げて精神面は特に変化がなかった。
高校生にもなると、街中で雑誌のスカウトを受けて、一時期はモデルの活躍をしていた。
この頃から、外面を良く見せようと対人関係には気を配り始めて、今思えば内面を抑え込んで無理をしていたように思える。
ある日、雑誌の撮影に臨んで滞りなく仕事をこなすと、マネージャーを通して事務所の社長から応接室に呼び出された。
応接室には社長以外に誰もいない様子で、応接室の扉が閉められると柚子の腰に手を当てて今後の仕事について話し合われたらしい。
仕事とは名ばかりで、俺の女になれと強要されて断れないように事務所で交わした契約書をチラつかせて退路を断つと、柚子は「ふざけるな!」と激昂する。
不可抗力で社長の頬にビンタをしてしまった柚子だが、傷害罪で訴えると強気に出られてしまう。訴えられたくなければ、分かっているだろうなと語気を強めて柚子に迫られると、柚子は無言で頷いて応接室を後にする。
数日後、応接室のやり取りを録音したテープがマスコミ各社に渡ると、事務所は対応に追われた。
結局、柚子と社長の間で示談が成立すると、それ以降はモデルの仕事をきっぱり辞めて現在は女子大生として生活を営んでいる。
後に柚子から聞いた話だが、当時柚子のマネージャーだった女性が社長の黒い噂を心配して録音機を用意していたらしい。
スキャンダルが発覚して以来、命の恩人であるマネージャーとはしばらく音信不通になってしまったらしいが、女子大生になってから最近になって再会を果たしたようだ。
「お待たせ」
風呂上がりの柚子が部屋に戻って来ると、可愛らしいパジャマ姿で現れた。
「今日は時雨と仲良く寝ちゃうぞぉ。あわよくば、姉妹丼を実現させちゃうよ」
「またそんな馬鹿な事を言って……お姉ちゃんには元マネージャーさんの彼女がいるんだから」
「それはそれ、これはこれ。身内はセーフだからOK」
相変わらずの屁理屈をこねると、時雨は呆れてしまった。
でも、今の明るく戻った姉が大好きだ。
柚子はベッドに時雨を手招きすると、電気を消して二人は一緒のベッドに潜った。




